TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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13,悲しき過去

 

 

屍山の最後の決戦、禁断の全能力を解放した変異怪物と、ブライアント部隊、鬼龍、尊鷹の人類連合による星と星を超えた異種族抗争が遂に始まる。

 

変異怪物がその進化した肉体に加えて既存のブレードとプラズマ・キャノンも駆使すべく展開する。ブライアント部隊は銃火器の数々を武器とし、鬼龍と尊鷹は灘神影流の技を武器とする。

 

 

【お前達全員の脊髄を抉り取ってやる】

 

「クソエイリアンをブッ殺せっ」

 

「尊鷹、せいぜいはしゃぎ過ぎて油断するなよ」

 

「お前こそ傷は深い、エイリアンの装備を奪ったのならそれを使って援護に徹しろ」

 

「俺が援護だと?」

 

「断る」

 

 

その先陣を切ったのは鬼龍!尊鷹の指示であり忠告をまるで無視してニィーと笑い突っ込んだ、勿論左腕はまだ折れたままであり本来なら集中治療室レベルのダメージをつい先程まで負っていた。

 

しかしそんな事では鬼龍の闘志を陰らせることは出来ない、怪物の死体から確保したガントレットのブレードを展開させ突撃。

 

 

「鬼龍、待て!」

 

「ククク、危険で残虐な奴ほど俺好みだ」

 

 

左腕が骨折し左足に損傷を負っているとは思えない速さで攻撃、しかしどうしても万全の速度には程遠く、全能力を解放した怪物には容易く対応される。

 

 

【殺す…】

 

「ぬうっ」

 

 

甲高い金属同士が衝突する音、鬼龍のブレードによる死角に回り込んでからの斬撃を軽々と己のブレードで食い止める、悪魔を超えた悪魔の力を加えても1ミリたりともその刃は動かない。

 

変異怪物が軽く腕を振り払えば鬼龍は押し退けられ大きく体勢を崩す、そこに振り下ろされるブレード。

 

 

【ボウッ】

 

 

しかしこの場にいるのは鬼龍だけでは無い、ブライアント部隊の正確な狙撃が鬼龍の方を向いた怪物を背から撃ち抜く、黒ずんだ血が飛び散り動きが一瞬停止。

 

 

「怯んだッ」

 

「今だ、いけーっ、なんかよくわからないけど超強いオッサン達!」

 

「灘神影流 “鎌鷹脚”」

 

 

その隙に尊鷹が動き出す、鳳腿による超人的跳躍からの変則的回し蹴り、尊鷹の代名詞とも言える蹴り技、鷹脚脚は日本刀の如き斬れ味を持つと言われている。

 

比喩ではなく、人間の頭部と同強度とされている大玉のスイカを鮮やかに両断する、その恐ろしい蹴りが変異怪物の後頭部に命中した。

 

 

【ウッ】

 

「鬼龍」

 

「言われなくとも分かっているわっ」

 

 

最後に鬼龍!助けられた事実にその顔を歪ませながらも、滲む怒りは一撃に込める。尊鷹の鎌鷹脚で更に怯んだ変異怪物の腹部を鬼龍のブレードが切り裂いた。

 

 

【………】

 

【無駄だ】

 

 

確かに刻まれたダメージ、しかしそれも塞がっていく。すぐに乾くようにして流れでた血が固まりその下の傷も癒えていく、消耗したスタミナさえも短時間で元通りになってしまう。

 

 

「なんだあ、効いていないのかあっ」

 

「傷が再生してるんだっ」

 

「チィーッ、何なんだあのクソ能力はっ、報告の何処にもあんな力の事は無かったぞ」

 

「見た目も今までのと比べて大きな差異がある…恐らく何かしらの進化や変異を遂げた個体と考えられる」

 

「あの再生能力を突破するには一撃で全身を粉砕するか、或いは内奥から生命力を奪うのが効果的だろう」

 

「鬼龍…連携で攻めるぞ」

 

 

尊鷹の鋭い目が鬼龍の不遜な眼光と交差する、たったの一言と目配せで相手の真意を察する、紆余曲折、愛憎の果てを得ても尚、鬼龍と尊鷹は歴戦錬磨の武人であり兄弟だった。

 

 

「“塊蒐拳”か」

 

「不完全とは言えお前も塊蒐拳を習得しているはず」

 

「不完全だと、相変わらず癪に障る、ならば…」

 

「どっちの一撃が強烈かコイツに聞いてみるかっ!」

 

 

鬼龍と尊鷹が同時に怪物目掛けて駆け出した、鬼龍と尊鷹でそれぞれ前後の両側から挟み撃つ形、変異怪物もすぐさま対応しようとするがブライアント達の援護がその動きを止める。

 

 

【何をしようと…】

 

「あのクソ野郎共を援護しろっ」

 

 

銃弾がまたその身体を削り取る、それにより尊鷹と鬼龍が間合いへと侵入、前後から両者同時にその魔拳を繰り出した、怪物の胸を鬼龍と尊鷹の両拳が穿つ。

 

 

「「灘神影流 “塊蒐拳” 」」

 

 

禁断を超えた禁断の技、単体でも一撃で戦闘不能かつ5年殺しの烙印を与える塊蒐拳を両側から“二度打ち”。

 

 

【はうっ】

 

 

尊鷹と鬼龍、二人の両拳から侵食する内臓を蝕む邪気、臓物を食らう鬼に例えられるその技が一つの臓器を両側から炙り焼く様に染み込んでいく。

 

その箇所は肺と心臓、肉体を動かす酸素と血液を送り込む超重要部位を二体の鬼が食らう。

 

変異怪物の動きがコンセントをいきなり引き抜いた電化製品の様にピタリと停止、傍から見る隊員達の目にも鬼龍と尊鷹が打ち込んだ何がしかの技に効果があったことは明白だった。

 

 

「おおっ、何かの技がヒットしたんだ」

 

「怪物が動きを止めたぞっ」

 

 

【…効いていない】

 

 

しかしそれも一瞬の事、すぐに動きを再開させる。ただひたすらに力任せの両腕を使った薙ぎ払い、単純そのものな動作がやはり凄まじい速度で迫る。

 

 

「はうっ」

 

「なにっ」

 

 

鬼龍と尊鷹が横に弾き飛ばされる、手負いの鬼龍は受け身が間に合わず木々に叩きつけられ、防御と受け身は間に合った尊鷹もそのダメージに慄いた。

 

ガードした尊鷹の左腕は硬いブーツで枯れ枝を踏み抜いたように簡単にへし折られている。

 

 

「や、やはり尋常ではないな…」

 

 

【さぁ脊椎を引き抜いてやる】

 

 

変異怪物がゆっくりと尊鷹に歩いていく、もう勝利は決定したと言わんばかりの堂々とした歩み。

 

勿論、残るブライアント達は手持ちの銃火器で弾倉内全ての銃弾を浴びせ掛ける。

 

 

「殺せーっ」

 

「おおおっ、腐れエイリアン、ぶち殺してやる!」

 

「ダメだ、止まらないぞっ」

 

 

無数の銃弾が変異怪物の身体を撃ち抜き、そのたびに変色した血が飛び散るがまるで意に介さず尊鷹へと接近。

 

そしてついに到達、跪く様な姿勢の尊鷹の頭を片腕で掴んだ、見る者達に戦慄が走る。

 

 

「やべえっ、脳みそ破壊されるぞ!」

 

「その技は止めろーっ」

 

【ククク…】

 

 

片腕のみで簡単に成人男性1人を持ち上げる、そしてその腕に力がこもり、ミシリという音が鳴る、その先の背筋の凍るイメージの映像が脳裏に流れる。

 

しかしその瞬間を尊鷹は狙い、待っていた。

 

 

「灘神影流 “兜震掌”」

 

【ゥ】

 

 

トドメを刺すその瞬間こそがもっとも油断しやすいと尊鷹は知っている、頭蓋を通り抜けて大脳を破壊する内部破壊の掌が変異怪物の額を打つ。

 

どれだけ屈強な肉体を持っていても脳に直接与えられたダメージは意思の介在する余地なく肉体の制御を放棄させる。

 

 

「“塊蒐拳”」

 

 

尊鷹を掴んでいた腕が離される、その隙を突いて三度、内奥から肉体を蝕む禁断の魔拳が怪物の胸に突き刺ささった。尊鷹は塊蒐拳を最も得意とし、両手や踏み込みを介さずとも技として成立させられる。

 

 

【……!】

 

 

再び怪物の動きがピタリと停止、一撃でも施術がなければ死が確定する禁断の技を三度打ち、それでも動き出した。

 

 

【ふん】

 

 

なんてことないように行動再開、視界に映らぬ速さのローキックが尊鷹の鳳腿に命中、簡単に肉の下の骨を破壊した。

 

 

「ぐあああっ」

 

 

高潔なる鷹と呼ばれた男の絶叫が響く、体勢を崩した身体が再び地に背を投げ出す様にして倒れる、直ぐ様そこに突き出される怪物のブレードの突き刺し。

 

被弾からの追撃、しかしその危機さえも好機へと変える、身体を横に引き突き刺しを回避する、地面に深々と突き刺さるブレードが引き抜かれるよりも早く反撃する。

 

 

「“仰臥・塊蒐拳”」

 

 

握り拳ではなく開いた掌による派生系の塊蒐拳が炸裂、鬼龍との連携、兜震掌からの追撃を含めて四度目の塊蒐拳。

 

 

【………】

 

【はうっ】

 

 

また動きが停止し沈黙、しかし四撃目のそれは長かった。数秒の沈黙のあと怪物の身体が僅かに震え、そして吐血と共に地へと膝をついた。

 

 

「お、お前は肉体のみならず内臓まで強靭なのだろう…しかし塊蒐拳は病の様に内臓を蝕む」

 

「それを4度も打ち込まれれば凄まじい再生能力とて陰りを見せる…お前の心肺は既に再生が遅れ始めている」

 

 

怪物の視界が揺らぎ胸の内部から火で炙られる様な痛みが滲んでくる、心臓と肺がペースを乱して暴れ出し、それは疲弊しきった時の激しい息切れに似る。

 

何かが起きている、先程受けた技のせいでこの最強の肉体に異変が起きている事を理解した。

 

 

【し、心臓が…】

 

「凄まじい身体能力に驕り回避を怠った己の油断と慢心を呪え、もうその心臓と肺はその肉体を動かすには力不足なんだ」

 

 

胸の中心を押さえて後退る、尊鷹らの攻撃が身体を内部から破壊する類の技だということには気付いていた、だが再生能力を阻害するこの焼き付ける痛みの正体が分からなかった。

 

 

【舐めるなっ、この程度ダメージの内にも入らんッ】

 

 

怪物が強引にその肉体を躍動させる、身体を内側から隆起させ操作する、心臓と肺をより強くより激しく躍動させ身体能力を増加させる。

 

それにより塊蒐拳の鬼の気に蝕まれた心臓と肺の機能を強引に取り戻す、再生能力によらずとも肉体を動かすことができる。

 

 

「愚かな…」

 

【ぼうっ!?】

 

 

肉体の力を取り戻した、そう思われた瞬間、怪物の口や目や耳と言った箇所から血が噴き出す、手足がガクガクと痙攣を起こし始める。

 

 

「塊蒐拳の邪気に侵された心臓を強引に動かしたか、それはつまり同じく邪気に侵された血液を急速に行き渡らせるということ」

 

「ただでさえ蝕まれた心臓を動かす負担も大きい、お前はもう全身に塊蒐拳の鬼の気が回ったに等しい」

 

 

血は尚もボタボタと零れ落ちて血を濡らす、耐え切れず力尽きて怪物が地に伏せる、そう思われた怪物の全身に再び力が張り巡らされる。

 

 

【…いいや…効いてない】

 

「なにっ」

 

 

怪物は全身に鬼の気の毒が回りながらも立っていた、元から人間よりも遥かに優れた肉体が混ざり合う遺伝子により強化されたその境地は、人類ならば余命幾ばくかの末期癌に相当する様な重篤なダメージにも耐えられる。

 

 

【確かに厄介ではある…だがそれだけだっ】

 

 

怪物のサッカーボール・キックが跪く尊鷹の顔面に鋭く命中、パァンという音を響かせて一瞬にして高潔なる鷹の意識を闇の最中へと突き落とす。

 

 

【ハァ…ハァ…】

 

「殺せーっ」

 

【!!】

 

 

そして残すはブライアントのチーム、尊鷹がダウンしたのを確認すると残りの銃弾の全てを怪物へと浴びせ掛ける、アサルト・ライフルの銃声とフラッシュが幾つも巻き起こる。

 

怪物も防御の姿勢をとる、もう無防備に受けて平然としていられる状態でない事は分かっている、出血と銃創は先程までのようにすぐには再生しない。

 

 

「クソプラズマ・キャノンだあっ」

 

「ウアアアーッ 助ケテクレーッ」

 

 

それでも耐えていた、反撃のプラズマ・キャノンの光弾が瞬き、ブライアントチーム目掛けて発射され炸裂。大爆発で隊員達を吹き飛ばし、一部は粉々にし一部は気絶させた。

 

 

【ハウッ…ウゥ】

 

【最も強き者なのは…俺なんだ!】

 

 

幾度も銃撃の嵐を受け、内部破壊の気の攻撃により臓器を損傷、それらを修復する再生能力も全身に回った塊蒐拳の邪気で阻害され、それでも生きていた。

 

歪曲する視界、鈍っていく感覚の中で勝利の咆哮を上げる、しかしそれに待ったを掛けるようにその広場へと新たなる挑戦者が降り立つ。

 

 

【いいや、どれだけ強くても名誉なき者に強さを語る資格は無いという事になっている】

 

 

星々の彼方からやって来た狩人はまだもう一体居た、尊鷹らと戦う前に争っていた怪物、変わらず武装のない無手の状態で再び立ち向かう。

 

 

【お前か…】

 

【お前の氏族の者に代わり、悪しき血の粛清を行う】

 

【笑わせるな】

 

 

両者の戦いが再開されるその時、三人目の闘士も眠りから覚めてその広場へと現れる。

 

 

「アカンやん、ワシ抜きで最終決戦みたいな雰囲気だしとったら、拗ねてまうで」

 

 

変異怪物の攻撃で意識を失っていた宮沢熹一だ。

 

 

【お前は…】

 

【なにっ、お前は生きていたのかっ】

 

「ワシは一発エエのもらわんとエンジンかからんのや、おかげでますます気合入ったで」

 

「…にしても、また派手に暴れたようやのォ」

 

 

あたりを見渡してその惨状に眉を顰める、傷付き地に伏せて失神した叔父であり先達の者達、蹴散らされたブライアントのチーム、そして二体の怪物を見る。

 

 

「どうやらおたくら二人、お友達って感じじゃない様やな、せやったらその喧嘩にワシも混ぜてもらうか、あーん?」

 

 

二体の怪物対決に熹一も参戦、人類陣営対最強の怪物の戦いは終わり、間髪入れずに始まるのは三者三様の三つ巴による正真正銘の最終決戦。

 

 

【良いだろう…纏めて殺してやる】

 

【何にせよやる事は変わらない】

 

「いっちょ始めようやないケェッ」

 

「【【しゃあっ】】」

 

 

三者が同時に駆け出した、最後の激突が始まった。

 

疾風と化した三つの影が重なったと思った瞬間に鳴り響く打突音の連打、三人が向かい合い、それぞれに目掛けて殴打と蹴撃のコンビネーションを浴びせ、防ぎ捌いていく。

 

 

【ぬうっ】

 

【はーっ、悪しき血よ、死ね!】

 

「とにかくブチのめしたるわっ」

 

【舐めるなあっ】

 

 

一歩も後退せずに連打を打ち合う、特に変異怪物に対してもう一体の怪物は苛烈な攻撃を仕掛ける、変異怪物はブレードを展開させた薙ぎ払いで強引に怪物と熹一を引き剥がした。

 

 

【クソッ】

 

「おっ」

 

 

両者を後退させるのと同時に自らも背後へと飛び引く、そしてプラズマ・キャノンにエネルギーが迸る。

 

両者の立つ地面が青白い光弾で吹き飛ばされて激しい爆風と土煙を巻き起こす、何方かを狙えば何方に攻撃を受ける、まずは牽制の為の行動。

 

 

【先ずは片方を殺してやる】

 

 

距離さえ取ればプラズマ・キャノンの破壊力と射程を十全に活かせる、素早く後退しようとしたがその時、土煙に浮かんだシルエットを見る。 

 

 

【むっ】

 

 

それが不自然に残像を残して空へと消えていく、体格差とその覚えのある現象がシルエットの主が何方なのかを告げている。

 

 

「幽玄真影流 “朦朧拳”」

 

【チィーッ、またその動きかあっ】

 

 

土煙を掻き分け疾風と化した熹一が突貫、ただの高速突撃ではない、朦朧拳による残像を生み出した突撃。

 

残像により防御はすり抜け、回避すれば惑わされ、カウンターを浴びせるにも見えているそれは残像、見えぬ物を見せる、見えている物を見えなくさせる、幽玄の本領とも言える魔技。

 

事実、駆け寄ってくる熹一目掛けて放たれたプラズマ・キャノンの光弾は残像により悉く外れ、熹一の既に駆け抜けた背後の地面を吹き飛ばすのみ。

 

 

【ならばこの手で殺してくれる】

 

 

光弾を潜り抜けて肉弾戦の間合いへと侵入、変異怪物も両手を振り上げて応じるように近接戦へと移行。

 

 

【プラズマ・キャノンは残像を残す回避で躱され、ブレードはあの全身を使った受け流しで無効化される】

 

【ならば受け流しも出来ぬようこの手で引き裂いてくれるわっ、爪を食い込ませ肉を千切り抉ってやるっ】

 

 

鋭利な爪を剥き出しにした握力攻撃の掴み掛かり、変異した怪物の身体能力を持ってすれば人間の骨肉など粘土のように千切り取れる。

 

しかし咄嗟に選んだその攻撃は熹一に対しては悪手だった、組み付きによる攻防は正しく宮沢熹一という男の本領。

 

 

「そんなもん通じるかあ、このババタレがーっ」

 

【なにっ】

 

 

振り下ろす様に掴みかかった両腕は簡単にいなされる、両腕の内側に熹一の腕が滑り込み軌道を逸らす、それどころかブレードの無い左腕への飛びつき腕ひしぎ十字がため。

 

一瞬の間に恐ろしい音を立てて左腕をへし折った。

 

 

【うがあっ、また関節破壊かっ】

 

 

痛みよりも怒りの勝った短い咆哮を上げて強引に振りほどこうとする、それに合わせて熹一も素早くロックを解除し、振り払われる勢いを利用して宙を背後に一回転して着地、体勢を立て直す。

 

 

【なら先ずは機動力から潰してやるよっ、ゴアッ】

 

 

掛け声と共にロー・キックを放つ、人間対人間ならば余程の達人でもなければ連打を得てようやく効果が現れ始める類の攻撃も、変異した怪物にかかれば人類は勿論、同族であったとしても一撃で粉砕する破壊力を有する。

 

しかしそれも本来であれば、変異怪物のロー・キックは確かに熹一の右足に命中した、だが骨肉を粉砕する音も感触もまるで無い。

 

 

【なにっ】

 

「もう効かない…痛いだけや」

 

「気付いているかどうか知らんが…お前、さっきまでと比べようもなく動きが鈍っとるで」

 

「速さも力もまるで半分以下や、尊鷹らによっぽど酷くブチのめされたみたいやな、その胸のアザ」

 

【ば、馬鹿なっ】

 

「ガタが来たんならもう大人しく眠っとけやっ」

 

 

熹一の世界最高峰の性能を誇る豪脚による跳躍からの上段蹴り、三メートルにもなる怪物のこめかみを鮮やかに鋭く強く打ち付ける、体勢を崩された変異怪物は蹌踉めきながら背後を振り向く様にして後退しながら片膝をついた。

 

 

【うぐぐっ、こ、この蛆虫が…】

 

 

すぐさま立ち上がろうとするその動作もまた蹌踉めいていた、明らかに肉体は限界と崩壊が近づいている、しかしそれを認める事はプライドが許さなかった。

 

立ち上がろうと顔を上げた変異怪物にフッと影が降りた、そこに見下ろす形でもう一体の怪物が立っている、静かに変異怪物を見下ろしている。

 

 

【お前はっ】

 

【もう終わりにしよう】

 

【お前は無様な者は許せないと言ったが…今のお前は戦士としてただ敗れ生き残るよりもずっと無様を晒しているんだ】

 

【名誉ある戦士でなければ生きている価値も意味も無い、もう終わりにしよう…互いに】

 

【巫山戯るなあっ】

 

 

怒りにより最後の瞬発力を発揮して飛び掛かる、もはや技巧も作戦も何も無い衝動的な攻撃、その言葉だけは絶対に許せないものだった。

 

 

【(俺が無様だと…)】

 

【(そんな筈は無い!俺は生まれ変わった、進化して誰も及ばぬ様な存在へと変わった!)】

 

【(無様なわけがあるかあっ、あの時の様な…あの時の様な屈辱はもう断じて味わうことは無いっ)】

 

【(あの寒い辺境の地の惑星の夜の様な…)】

 

 

変異怪物の脳裏に過去の記憶が浮かぶ、片時も忘れ去られることが無く、薄まる事さえなかった記憶。

 

複合遺伝子という禁忌に触れた理由、無様を晒す者に対して激しい嫌悪と憎悪を抱くようになった理由。

 

それは拭い去れぬ屈辱の記憶、悲しき過去─。

 

 

 

 

(遥か過去、あの頃の俺は氏族の戦士として狩りの栄光と闘争における名誉や誇りを信じていた)

 

(戦えぬ弱き者は殺さない、他者の狩りに手出しは不要、敗北し生きのびる事は恥、自らの血を穢す行いは決して許されない、そんな掟を信奉し遵守していた)

 

(しかし、あの日に全てが変わった)

 

(成人の儀式において用いられる怪物…悍ましく忌まわしいあの黒き獣を輸送していた宇宙船コロニー内で事故が発生)

 

(脱走した怪物が宇宙船を掌握、俺は同氏族の戦士達と共に怪物の掃討、生存者の救出の任に当たった)

 

(無論容易くはない、だが決して不可能な任務ではなかった、怪物の戦闘能力は知れ渡っている)

 

(任務に当たったのは俺を含めて成人の儀式で怪物を狩り、その後にも怪物との交戦経験がある戦士のみが選ばれた)

 

(輸送されていた怪物の数を鑑みれば犠牲も十分に予想された、だが間違いなく俺達が勝てる戦いだった)

 

(“アレ”の存在さえ事前に知っていれば…)

 

(俺も他の連中も狩りの興奮と名誉に満ちていた、例え今日死ぬのが自分だったとしても何一つとして後悔や恐怖はない、その筈だった)

 

(全員分合わせて狩った怪物の数が十を超えるかという時、“ソレ”は前触れも音も無く現れた)

 

(先ず奇襲により二人が一度の攻撃で殺された、尾による薙ぎ払いだと黒い残像と零れ落ちる仲間の頭部を見てようやく認識できた)

 

(飛び交い接近する“ソレ”の速さは凄まじく、プラズマ・キャノンはまるで当たらなかった、ブレードによる応戦も殆ど意味を成さず、更に二人が死んだ)

 

(そして最も経験を積んだ戦士長が“ソレ”の相手を務め…何もできずに殺された)

 

(“ソレ”はあの忌まわしい怪物が我ら同族の遺伝子を取り込ませて孵化させた混血種だった)

 

(我ら同族の遺伝子を取り込んで生まれた怪物、それは想像を超える戦闘能力を持っていた、当然の様に私もまるで抵抗できず加虐され死に瀕した)

 

(そしてその時、もう一体の怪物が現れた)

 

(クリーナー、そう呼ばれる掃討者を見たのはその時が初めてだった、隠滅処理に使わされる達人)

 

(例外的に掟を遵守せずとも許される者共、強かった、寒気がするほどクリーナーは強かった)

 

(俺達を何もさせず徹底的に痛め付け恐怖を刷り込んだ混血怪物は、今度は自らがクリーナーの手によって一方的に狩られた)

 

(その後、クリーナーは更に通常種を十二体、混血種を三体、宇宙船内を完全に掃討して最後に爆破処理で隠滅した)

 

(俺は生き延びた、しかし喜びなどある訳がない、クリーナーは救出の任で来てはいない)

 

(クリーナーは爆破される宇宙船から脱出する俺を殺さなかった、怪物の幼体が植え付けられてはいないと知っていたのだろうが…)

 

(アレは気まぐれや情けと言った同族意識ではないことを俺は知っていた、ひたすらな無関心だった)

 

(あの時の…俺を見下ろすクリーナーの目、何の感情もなかった、光も闇も、熱も冷たさも、嫌悪も嘲りと言った悪意さえもない、ひたすらにそこにただ無価値に存在する物体を見る目)

 

(許せなかった…!鍛え抜いた技が遺伝子の複合によりただ屈強に生まれただけの怪物にまるで通じなかった事、クリーナーの見下ろすあの目、掟に背き死を拒み、宇宙船からむざむざと逃げ延びた愚かで弱く無様な己)

 

(何もかもが許せなかった、逃げ延びたことで悪しき血の烙印を受け辺境の惑星へと長い年月流刑に処され、その怒りはより強まった)

 

 

 

 

【(俺はあの時の様な無様な存在ではない!誰よりも強い生命体と化した俺は今やあの時の怪物にもクリーナーにも打ち勝てる!)】

 

【(無様ではない、俺は断じてもう無様ではない!)】

 

【おおおおっっ】

 

 

咆哮と共に腕を振り上げる変異怪物、それとは対照的に向かい合う怪物は無言で迎え撃つ、突き出された拳を紙一重で見切り躱し、カウンターの拳が変異怪物の胸に突き刺さる。

 

 

「おおっ、心臓を狙った、アイツの心臓が限界を迎えていると気付いていたんかっ」

 

 

変異怪物の動きの鈍りや荒い呼吸からその心肺に異常が生じているのは怪物も察知していた、渾身の心臓破りの一撃が炸裂。

 

 

【はうっ】

 

【ぶ、無様は…】

 

【おおっ、お、俺は…】

 

【ぶ、無様…】

 

 

変異怪物の心臓の動きがだんだんと消えて行く、技を放った怪物はその感触を拳から感じ取っていた、そしてゆっくりと変異怪物の巨体が地へと吸い込まれる様に倒れていく。

 

ズゥン、と重たい振動が地に伝わり草花を揺らす、それが死闘決着を示すゴングの代わりとなった。

 

 

【これで…あと一人…】

 

 

そしてその場に残ったのは、その怪物と熹一。

 

再び両者が向かい合う、互いに何も言わず、何も動かず、ただ静かに相手の両目を見据えていた。

 

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