TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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2, 怪物登場

 

 

 

「プレデターズ・ファイト?」

 

 

道元がこれから始めようとしているサバイバル・トーナメント、捕食者の名を冠するそれはまさに野生の中で獣と化した人間たちの血みどろの争い。

 

 

「ククク、あの時の予選と同じよ、生命のリングのシステムを流用し参加者の位置と状態を把握、そして最後の一人になるまで戦い合う、そして残った一人はキー坊との決戦というメインイベントに進むの」

 

「誰しもが獲物であり狩人となる、まさしく捕食者同士の野生の戦いよ、ね?面白いでしょ」

 

 

道元がニカッと金歯で埋め尽くされた笑みを見せる、しかしキー坊の目は冷ややかで、まるで興味が無いとその表情がこれでもかと語っている。

 

 

「馬鹿なことを…面白いどころか聞いて損した気分や」

 

「要はワシに客寄せのパンダになれってことやないかい、そんなもんに乗せられるか」

 

「確かにキー坊の名を利用するのは確かね、ただ金には興味がなくてもチャレンジャーの方にならどうかな」

 

「あん?」

 

「いくらなんでものその若さで残りの人生全てを後継を育てる事に費やすだなんて考えてるわけじゃないでしょ?」

 

「強き者との戦いを望む武術家の本能はまだキー坊の中で燃え盛ってる筈よ、強者の血肉を求める捕食者の本能がね」

 

「言うてくれるヤンケ、薄汚い守銭奴がワシの何を知っとるっちゃうんじゃ、しゃあけど…」

 

「確かに否定できんわ、そう言う心があるのはな」

 

 

憙一は自らの過酷な闘争に満ちた人生を思い返す、並み居る強敵との度重なる死闘。その中には成り行きだけでない、自ら望んで挑んだ戦いも数多くあった。

 

強くなりたい、強くなって同じくらい強い相手とぶつかり合いたい。相手が今まで築き上げてきた心血の全てをその肌で感じたい、そんな思いは今も尚、憙一の中に確かに存在した。

 

 

「しかし今のワシは灘・真・神影流の当主でこの道場の館長や、自分の考えだけで好き勝手にここを開ける訳にはいかんわ」

 

「まぁそう固く考えないでほしいね、むしろこの話はこの道場にとってもチャンスだと思うけどね」

 

「どういう意味やそれは」

 

「武術家キー坊の強さを今一度知らしめる事になれば、それを聞き付けてやって来る門下生も増えるかもでしょ」

 

「幾ら山奥の道場で武芸を極めようとも結局のところ道場経営には金がいる、門下生からどれくらい入会費を貰ってるのか知らないけど…」

 

「ウチはそう言うんじゃないわっ、金儲けやのうて真剣に武術を学ぶ為にあるんや」

 

「なら尚の事良いチャンスじゃない、山奥だろうと、何をどうしようと金はいる」

 

「俗世から離れて心身を鍛えようってのに正しく俗世そのものの金が原因で道場畳む、なんて事になったらそれこそキー坊にとって最大の不本意のはず」

 

「チャンピオンを引き受けてくれたら当然報酬はお支払いしますよ、それにコレは決して闇試合なんかじゃない、極めてクリーンな申し出よ」

 

「へっ、自信満々で来るだけあって口が回るやん」

 

「まぁね、それにキー坊、君も親父さんの治療費の為とは言え一度は裏の世界に足を踏み入れた身」

 

「私を嫌うのは勝手だけどね、今更真っ当な武術家を気取って自分の首を絞めるような真似することないんじゃないの」

 

「おーっ守銭奴のくせに痛いところを突くやんケ、確かにそれも事実やな」

 

「キー坊…どうするの?」

 

 

少し不安そうな顔をして横にいた和香が聞く、何やら道元の言葉に憙一が乗せられ始めた様に聞こえたからだ、憙一は表情を変えずに答えた。

 

 

「ええわ、名前を貸すだけなら貸したるわ、もし勝ち残ってそれでもまだ暴れ足りん言う奴がおるんならワシが相手したる」

 

「ただ別に今更金なんてもんいらんわっ、道場がどうなろうと責任はワシが持つ、余計なお世話や、その代わりに…」

 

「ん?」

 

「道元、お前大損こかされた腹いせに力ちゃんに何やちょっかい掛けとるらしいやないけ、そのプレデターズ・ファイトで好きなだけ儲けたら、もう力ちゃんに構うのは止めろや」

 

「それがワシがチャンピオンを引き受ける条件や」

 

 

憙一はプレデターズ・ファイトへの参加を引き受けた、しかしそれは報酬や道元の言葉に納得したからではなく、厄介なしがらみに悩まされていると聞いた友の為。

 

和香は安堵の表情を浮かべ、道元は予想はしていたが憙一が金になびかなかった事に苦い顔を浮かべる。

 

 

「キー坊…!」

 

「ふぅん、友の為に…ね、まぁ良いでしょう、プレデターズ・ファイトが終われば力丸に奪われた金の件は忘れると約束しましょう」

 

「おう、それなら引き受けるで」

 

「…金になびかない奴は信用できない、とは言え、キー坊がそういう人種だって事は承知している」

 

「分かったよ、契約成立だ」

 

 

そう言うと道元は出されたお茶には手を付けず、用事は済んだと立ち上がって道元から退出していく、扉を開く前に振り返ってまたニィーという笑みを見せた。

 

 

「大会は2週間後だ、前日には使いの者を送る、キー坊、待ってるよ…あぁ、そうだ、よければ宮下さんもどうぞ、観客でも選手でもどちらでも歓迎しますよ」

 

 

そして退出、ヘリの起動するプロペラの音が外から響き、やがて道元は朧山から飛び去っていく。道場に残った憙一と和香。

 

 

「って理由で一暴れする事になりそうや、和香ちゃん」

 

「力丸さんの為にでしょ、キー坊らしいね」

 

「大会は2週間後って言ってたね、予定開けとくよ、久々にキー坊の戦いを見てみたいからね」

 

「ほぉ、せやったら本腰入れて仕上げとかなアカン、和香ちゃんの前で半端な試合は見せられんわ」

 

 

微笑む様にして笑い合う二人、だがキー坊の両目には新たな闘争を予感して闘志の炎が静かに灯り、その熱を上昇させ始めていた。

 

 

 

 

そして2週間後、その日はやって来た。

 

憙一は手筈通り、前日に道場を訪れた使いの者に案内されて大会場所、かつて自分が死闘をくぐり抜けた霊峰屍山へと再び足を踏み入れていた。

 

 

「待ってたよ、キー坊」

 

 

プレデターズ・ファイト、開催当日。屍山の麓に設置された監視室、すぐ横には負傷者を運び込む治療室がある。幾つかの大型テントをテープが囲いとなって仕切り、近くには機材を積んだ車や救急搬送用の車両が待機する。

 

その中の一つである大型高級車の中に道元はいた。運転席と仕切られリムジンバスさながらの広さと一流ホテルのスイートルームを思わせる内装、香水の様なアロマの香りがした。

 

 

「こんな山奥まで高級車引っぱってきとんのかい」

 

「ククク、快適さは保証するよ、広いでしょ」

 

「おや、宮下さんも、どうぞどうぞ遠慮せずに」

 

「ど、どうも…」

 

 

その中に大会のチャンピオンを引き受けた憙一と、初めて目にする本物の高級車を前におずおずと言った様子で和香が乗り込んだ、道元が車内に取り付けられたモニターをつける。

 

 

「既に参加者は集結済み、その数…なんと120人」

 

 

映し出されたのは多くの参加者とその全てのデータ、そして現在地の反応を示す赤い丸が屍山の各所に浮かび上がっていた。

 

 

「1時間前に全員が入山して散開、開始の合図まで手出し不要、今か今かとその時を待ってるよ」

 

「数はハイパー・バトルの予選よりも少ないけどね!集められたメンバーの質は引けを取らないよ」

 

「山中に仕掛けられたカメラが何処だろうとその戦いをしっかり映し出すの、さぁもうすぐ始まりだ」

 

 

時刻は朝5時、昇り始めた日の出が屍山を鮮やかな朱色に染め上げる、そして聞こえたのは山全体に響き渡る開始を告げるアナウンス。

 

 

「人も飢えれば獣となる 強者も傷付き弱れば餌となる 霊峰屍山に集った獲物であり狩人の強き者よ!」

 

「極上のスルリか?血を流させる興奮か?はたまた最強の称号か?それぞれの獲物をその目に映した捕食者たちの祭典が今幕を開ける!」

 

「プレデターズ・ファイト、まもなく御開戦だあっ」

 

 

大太鼓の音が山を震わせ始める、そのアナウンスは一時間前に山中に散開したすべての参加者の耳に届いている。

 

 

「ククク…」

 

「あーっはよう」

 

「やらせろ はやくやらせろ」

 

 

高まる熱気が静かに、しかし確実に霊峰屍山から立ち昇ってくる、それぞれが放つ抑えられない殺気によりまるで山全体が戦慄いている雰囲気を放つ。

 

 

「………………」

 

 

そしてその圧は、参加者の誰よりも早く、誰よりも最初に入山していた、“ソレ”も当然の如く感知していた。

 

“ソレ”には今日この場所でどの様な事が行われるのか解っていた、だからやって来た、だから始まりのその時まで沈黙していた、誰よりもこの時を待っていた。

 

 

「ルールは一切不要!入山の際に取り付けた腕輪のICチップにより参加者の居場所と状態は把握済みです!」

 

「目突き金的を始めとした格闘試合の禁じ手は勿論、奇襲に罠に騙し討ち、入山してから調達したものなら武器の使用も可!」

 

「最低限の保証として完全に戦闘不能と化した相手への追撃は禁止だが…戦いの過程で起きた如何なる結果に置いては自己責任!勿論、最新鋭の治療設備は控えているから安心しろいっ」

 

「全員が獣!全員が捕食者!滾る血潮を撒き散らし、屍山を真っ赤に染めろっ、究極のサバイバル・トーナメントは三度目の大太鼓と共に始まる!」

 

 

カウントダウンが始まった。1度目の大太鼓、山全体の木々がざわめく、ライブ会場でスター登場を前にした観客が息を呑むのに似た期待と興奮が満ちる。

 

2度目の大太鼓で山全体のその圧は極限まで高まる。

 

 

そして3度目の大太鼓が鳴り響き、アナウンスが遂に開始を告げる、山全体から声無き歓声が響き渡った。

 

 

「プレデターズ・ファイト、ここに開幕だあっ!」

 

 

散開しそれぞれの武器を調達し終えた参加者達が一斉に動き始めた。平凡、安全、良識などまるで持ち合わせていない獰猛にして残忍冷酷な捕食者の群れ。

 

そして他の参加者と同様、全身を期待と歓喜に打ち震わせながら、“ソレ”もゆっくりと動き始めた。

 

 

「始まったようやのぉ」

 

「混ざり合った途轍もない殺気が山を震わせてここからでも感じ取れるわ」

 

「ククク、さぁここからは見どころの参加者について解説してあげよう、特に凶暴で強い獣をね」

 

 

道元がモニターを操作する、その先では既に戦闘が開始されていた。道元の言う見どころの参加者とは、集まった強者の中でも勝ち残りを予想されているさらなる強き者たちのこと。

 

 

「番号19番 足臥 玲(たふす れい) 碁禄流空手の中でも残酷にして下劣とされ廃された多符・碁禄流を修めた最後の使い手」

 

 

まず映し出された映像の中では、禿げ上がった頭の筋骨隆々の大男が他の参加者を圧倒している映像が流れた、その男の顔はまるで死人かマネキンの様に生気のない無表情。

 

 

「うーっ うーっ うーっ 」

 

「許せなかった…許せなかった…許せなかった…」

 

 

足伏玲の周りには既に二人、血を流して倒れ伏す者が。そして今もなお一人に馬乗りとなりその顔面に拳をひたすらに打ち付けている、その間もやはりまるで無表情、興奮も快楽もまるでない。

 

 

「な、何この人、無表情のまま戦って…強いけど、何だか不気味だ、ずっとブツブツ言ってるし」

 

「ワシ聞いたことがあるんや、多符・碁禄流、肉体や技術よりも精神の領域の鍛錬を旨とする流派」

 

「より戦闘に適したメンタルを育てるために心を凍て付かせるらしい、会話の全てを定型の様な決まった言葉だけで行い、虚無的な交流を繰り返して感情を殺していく」

 

「見てみぃ、あの死んだような目を、武術家にとって最も必要なのは心や、武を振るう意味の何たるかを考えない奴に武術を修める資格は無い」

 

「気に入らん奴や、確かに気味が悪いわ」

 

「ククク、多符・碁禄流が他の流派や武芸者から忌み嫌われ排斥された理由がそれだ、さて…」

 

「足伏玲の他にもまだまだ強き者はいる」

 

 

道元がまたモニターの画面を切り替える、そこにはやはり、鍛え抜かれているはずの参加者を有象無象とでもいうかの如く蹴散らす強者の姿。

 

 

「番号36番 馬寧 耗無(まねい もうぶ)」

 

「通称、N・H・M(ノー・ヘアー・モンキー)」

 

 

「ホギャギャギアアッッ」

 

 

毛髪の無い大男が猿叫を上げ獣じみた俊敏さと動きで他の参加者を叩きのめして行く、両手を広げて咆哮するその姿は人と言うよりも興奮した類人猿。

 

キー坊はこの馬寧耗無の姿に既視感があった。

 

 

「ん?コイツ…」

 

「気付いたね、キー坊」

 

「そっくりでしょ?君がハイパー・バトル本戦で戦ったあの“闇猿”にね」

 

 

ハイパー・バトル本線の最中、暗躍を始めた裏社会の帝王から刺客としてキー坊に差し向けられたのは、幼児の頃よりジャングルで猿に育てられた闇猿(ダーク・モンキー)と呼ばれる怪人だった。

 

武術の概念を無視するような超変則的な戦闘スタイルは確かな強敵としてキー坊を大いに追い詰めた。

 

 

「まぁ似てると言っても、闇猿が天然とするならば馬寧は養殖といったところだけどね」

 

「養殖…?中国伝統の形意拳みたいな感じかな?」

 

「それか王獅冥の様な禁忌の技か…ともかく猿の力を手にする為にこうなった訳か」

 

「あぁ、それも自分の意志でね」

 

「分からんのぉ、人から猿に退化したがる気持ちは」

 

「でも強さは本物だ、さぁ次」

 

 

次に映し出されたのは今までの二人とは違い、その顔に人間的な表情を浮かべる男、ただし、これ以上は無いだろうと言えるほどに下卑きった醜悪な笑みを浮かべている。

 

 

「番号62番 アンレド・マゴット」

 

「足伏玲と同じ多符・碁禄流をかつて収めていたが…禁じられた多符・碁禄流からも破門された男だ」

 

 

「たはっ たはは」

 

 

やはりアンレドの足元にも彼に倒された参加者が転がる、しかし違うのはまだ意識を失っておらず、恐怖の絶叫を上げながらのたうち回っている。

 

 

「あの人達は何をされたの…?外傷に比べて苦しみ方がちょっと異常だよ…!」

 

「あれはアンレドの恐るべき技、そしてそれには多符・碁禄流の制裁が深く関係している」

 

「制裁やと?」

 

「多符・碁禄流は掟を破った者にそれはそれは惨たらしい罰を与えたんだ、信じ難いが…拳一つで相手の脳を狂わせ、癒えぬ幻覚症状を植え付けるという」

 

「……!! それは、ま、まさか…」

 

「その顔、さては灘神影流にも似たような技がある様だな、しかしアンレドの受けた幻覚は恐らくもっと残酷で悍ましい」

 

「い、一体どんな…?」

 

「蛆虫だそうだ」

 

「えっ」

 

「アンレドは常に全身の内側を大量の蛆虫が這い回る感覚を植え付けられているんだよ」

 

 

道元の言葉に場が凍り付いたように停止する、憙一と和香のみならず、説明をしている道元さえも頬から汗をつたらせる。

 

 

「そ、そんな事が…そんな事が許されていいの!?」

 

「真に恐ろしいのはこれからだ、アンレドはそれにより正気を失い、しかし同時に新たな力も手に入れてしまった、恐るべき力をね」

 

「ま、まさか…」

 

「そうだ、自らを蝕む幻覚を他人にも感染させる技だ、アンレドの拳が眉間を突けば奴の仲間入りだよ」

 

「想像しただけで背筋を掻きむしりたくなる気分やのぉ、道元、お前とんでもない奴を連れてきよったな」

 

「とんでもない奴はまだいるさ」

 

 

次もまた驚愕に値する後継だった、やはり筋骨隆々の大男、そしてその手には木材加工所で見るような丸太が、常人では腕力で持ち上げるなど出来るはずがないそれを振り回して次々と敵を蹴散らしていく。

 

 

「ハ、何たる雑魚どもだよ」

 

「怖いか弱き者よ!己の非力を嘆くが良い!」

 

 

遂には徒党を組んで戦っていた者達は我先にとその大男から逃げ出してしまう。

 

 

「凄っ…丸太を軽々と振り回してる…」

 

「とんでもない怪力やな、ホンマに人間か?」

 

「番号91番 葡甚 佐摩(ぶじん さま)」

 

「元、陸軍所属で孤島のジャングルに身一つで放り出された危機を丸太一本で切り抜けた男」

 

「嘘か真か、人間の3倍の筋力を持ち、鉈で頭をかち割られても生存したらしい」

 

「さて…」

 

恐怖の超人紹介の説明をそこで中断して道元がニィーという笑顔でキー坊に言った。

 

 

「今紹介した連中にはある共通点がある」

 

「それが何か分かるか、キー坊、それはね…全員がキー坊と戦うという目的の為にこのプレデターズ・ファイトに参加したということだよ」

 

「そりゃ嬉しいのォ、ワシって結構人気者やん」

 

「涼しい顔だね、流石この程度じゃ恐れはしないか…しかし…ん?」

 

 

その時、主催者である道元の無線機に異常を知らせる通信が入った。選手の位置情報を管理する者が焦りを含んだ声で報告する。

 

 

「オーナー、七番エリアの監視カメラが映りません!全てです、何か異常があったと思われますが…」

 

「なんだと?」

 

 

すぐに道元がモニター画面を切り替える、すると報告のとおり。どの場所で戦闘が起きても撮り逃さぬようあらゆる角度を網羅していた監視カメラの映像はすべて途絶えていた。

 

ただ何も映さぬ黒一色の無機質な画面だけが並ぶ。

 

 

「なんや早速問題が発生したようやのお」

 

「チィーッ、なぜ監視カメラが」

 

「選手の誰かが壊したんとちゃうんか」

 

「そんな馬鹿な、事前の取り決めで興行を損なうような行いは禁止だと契約した筈だっ」

 

「そんな理屈の通じんイカれた奴ばかり集めたんやろ、おかしな真似しでかす奴がいても不思議やない」

 

「しかし…仮にそうだったとしてもどうやったのだ、監視カメラの設置場所などいちいち選手にまで教えてはいない、発覚するまでの僅かな時間で全て見つけ出して破壊したというのか…?」

 

「…方法もそうだけどさ、もし監視カメラを選手が破壊したんならその目的は何なのかな」

 

「目的だと?」

 

「うん、こんな事して何の理があるのか分からない、監視カメラを壊したって有利になる訳でもないし」

 

「…いや、ちょっと待てよ」

 

「監視の目を欺いてのルール違反…まさかそれが目的か?何か自分が有利になる様な…例えば武器の持ち込みとか、それならば理由にはなる」

 

「そんな可愛げのあるものやったらエエけどのお」

 

 

黒一色に染まったモニター画面を見つめる憙一の顔は、先程よりも真剣な面持ちになる。まるで戦闘の最中の様に目は細められ険しく眉間に皺がよる。

 

 

「どういう意味だ、キー坊?」

 

「…主催者権限で介入するつもりなら早くしたほうが良いかもしれんで、道元」

 

「なんかめちゃくちゃ嫌な予感がしてきおったわ」

 

 

屍山の木々が不気味にざわめき、揺れ動いていた。

 

 

 

 

屍山、7番エリア。

 

 

「俺…すげぇ、感動するくらい強いし」

 

 

そこでもまた、一人の抜き出た強者が他の者を一方的に打ちのめしていた、自尊の言葉と共にさらなる獲物を求めて森の奥深くへと歩を進める。

 

 

「よしっ、このまま他のクズ共を全員ブチのめしてさっくり勝ち残ってやるぜ、こんなもん通過点なんだ、楽しいだろうが意味はないんだ」

 

「全ての目的は宮沢憙一、お前だっ」

 

「最強の男と戦うのは…俺なんだ!」

 

 

立ち並ぶ木々の間を進み、伸びた雑草をかき分けて、やがて少し開けた場所に出た、そしてそこで歩みは止まった。

 

 

「ん?」

 

 

何かが男の足を止めた、敵を発見したのではない。

 

ただその空間一帯に満ちた何かの臭いと気配が男の足を止めた、それは、濃密な血の匂いだった、辺りに満ちていたのは死の気配だった。

 

 

「あん?」

 

 

それに気がつく前に答えを突きつけるかの如く、男の肩に上から滴って染みとなったのは、血の水滴。

 

 

「な…」

 

 

釣られて上を見上げた男の視界に恐怖の後継が飛び込んでくる、上から滴る赤い水滴の発生源だ。

 

 

「な、なんだあっ」

 

 

それは人、かつて人であった物体だった。

 

百舌の早贄にも似て飾り付けられる様に、木々の枝に引っ掛け、もしくは蔦で縛り上げ、全身の皮を剥がされた見るからに絶命している人間の死体。

 

それらが森の木々を赤く染め、下の地面に血を滴らせ、怖気のする惨劇の気配を辺りに振りまいていた。

 

 

「 う あ あ あ あ あ ! ! 」

 

「なにコレ!ねぇーっ!なんなの、コレ!」

 

「 ねえっ 」

 

 

立ち昇る真新しい死臭に、しかし山の烏や野犬達は近づくことは無い、まだ近づいてはいけないと知っている、まだ“ソレ”が近くにいると分かっているから。

 

  

「  全ての 目的は 」

 

 

「 ! あううっ」

 

 

声が聞こえた、何処からかは分からない。しかし確かに聞こえたのは男の声、どこか聞き覚えのある声。

 

 

「 宮沢 憙一 」

 

 

近くにいる、この吐き気のする様な狂気と残忍さに満ちた光景を作り出した何かが近くにいる。

 

そう確信して恐怖する、自分の強さへの自負などこの光景の前には軽く吹き飛んだ。

 

その男の声が、自分の先程までの発言をなぞっている事に、自分自身の声と全く同じ声と言う事に気が付く程の余裕も無い。

 

 

「 最強の 男 」

 

「あわ…あわわっ」

 

「 戦う 戦う 戦うのは… 」

 

「ヒエエエ!!」

 

 

余りの恐怖に男は逃げ出す、冷や汗、涙、涎、そして小便。様々な体液を噴出させて逃走、しかしそれと同時に声の主も動き出す、逃がす気はなかった。

 

ドスン、と重量のある何かが走り出した男の前に落下した。何かは分からない、見えなかった、しかし確かにそこにある、そこにいる。

 

 

「 宮沢憙一 」

 

 

ブォン、という機械の起動音の様な音が微かになったかと思うと、何かが落下してきた虚空に光が浮かび上がった、哀れにも男はその正体に一目で気がついてしまった。

 

横に並んだ橙色の二つの光、“目だけが光っていた”。

 

 

「 戦うのは…俺なんだ! 」

 

 

 

  う

 

 あ

   あ

 

 あ 

 

   あ

 

  あ

 

 

 

霊峰屍山に絶叫が響く、また一つ、恐怖と絶望と共にその命が刈り取られる、集められた猛者の中に、本物の捕食者が紛れ込んだ事にまだ気付いた者はいない。

 

 

あの“怪物”が動き出す。

 

 

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