「オーナー!勝ち残った参加者が5番エリアに集結しています、今にも戦いが始まりそうです!」
「なにっ」
道元の無線から別のオペレーターの声が聞こえた、すぐさま道元はモニターの映像を7番エリアから5番エリアの監視カメラ映像に変えた。
「遂に始まるぞ、一番観客が見たいシーンだ、しっかり中継するんだっ」
「道元、7番エリアのカメラの話はどないするんや」
「ん?あぁ、そうだったね…」
一瞬忘れていた事を誤魔化すように咳払いを一つして無線の先に指示を出す。それでいいだろうともう興味を失くした道元に対し、憙一の顔はまだ険しかった。
「誰か様子を見に行かせろ、違反行為やカメラを破壊した犯人らしき者がいればすぐに報告だ」
「それよりも…さぁメイン・イベントの始まりだ、残った反応は…これは前評判通りの結果だ、見ろキー坊」
切り替わった画面の向こう、屍山の中で森を抜けた先の開けた草原に数人の男達が、それぞれ立ち塞がる他の者を打ちのめして自然とその場所に引き寄せられたかのように集まった。
「この人達はさっき紹介してた…」
「ククク、やはり勝ち残るのはコイツらの誰かだね」
その者達は先程、道元が紹介していた顔触れ。
「番号19番 足伏玲」
「番号36番 馬寧耗無」
「番号62番 アンレド・マゴット」
「番号91番 葡甚佐摩」
無表情の偉丈夫、足伏。猿に酷使した荒く短い息遣いと共に唸る馬寧。焦点の合わない目で笑うアンレド。丸太を片手で担いだ大男の葡甚。
三者三様の四人が野原に集い互いの姿を認識した。
「殺す…」
「ホッ ホッ ホッ ホアアアッ」
「アハッ 弱い奴はすぐムキムキムキムキ…」
「は?なんだコイツら、全員頭おかしいのか?」
四方から集結した猛者たちが殺気を放ち睨み合う、合図となるものがあればすぐにでも各々飛び掛かって開戦するだろうと予感させる剣呑な気が満ちる。
そしてその鬼気迫る場所に新たに踏み入る影が二つ。
「待てよ、俺たちもいるんだぜ」
「ダメだろクズ共、主役抜きで最終決戦だなんて」
その二人の登場はモニター越しの憙一達も見ている。
「更に二人出て来た!」
「何者や、アイツらは」
「あれは…番号108番、109番」
「双子・変態 池瑠品(いけるしな)ブラザーズ!」
現れたのは双子のファイター、似通った顔を不遜に歪ませて堂々と殺気立つ四人の元へ歩み寄る。
「生きの良いオスブタばかりでおいしいのォ」
「思う存分にヤッてから殺ってやるよ、ククク」
新たなる闘士が加わり六人の闘争本能は限界まで上昇、そして遂にそれが堰を切ったように爆発した、六人全員が同時に動き出した。
「 死 ね 」
「ふざけんな!クソ人間共があ!」
「ホギャギャアアアアアアッッ」
「蛆虫だよ!蛆虫になるんだぞうっ」
「強き者ほどイケるしなあっ」
「ヌウーッッ」
それぞれがそれぞれに向けて駆け出し突貫を決行、目は血走り、歯を剥き出しにして、殺意のまま遂にぶつかり合って最後の闘争が始まろうとした、その時。
六人が全速力で駆け寄る野原の中央、その場所で何かが地を強く踏み鳴らした。
「あん?」
「おっ」
「なにっ」
振動する地面、なびく雑草、何か重量のある物が落下して地を揺らすその音を全員がハッキリと聞いた。
アクセルを全開にして走る六人が急停止、足を止めた理由は本人達にも分からない、戦いに身を置く者としての本能が思考よりも先に肉体を支配した。
「……?」
そして沈黙、先程までの闘志がまるで嘘のよう、空間そのものと共に凍り付いたように停止した。
その不思議な行動をモニター越しに憙一達も見る。
「止まった…?」
「なにっ、何をしている?なぜ止まる?」
「一体どうしたと言うんだ、戦うんだ!まさかここで全員が怖気づいたわけじゃあるまい、メインイベントを前にして何をやっている?」
「コイツら…何を見とるんや?」
憙一は気付いた、急停止した6人は全員が一つの方向を見ている。ただ何故自分は足を止めてその方法を眺めているのか、何故この身体に寒気の様な感覚が走っているのか、彼等にも解っていなかった。
辺りに冷たく不気味な気配が漂い始めている。
────────────────────────
……………
林の奥、開けた野原に強い闘争本能の高まりを察知してそれは降り立った。青く染まった視界の中で、生命を示す赤色の影が六つ、その中へ。
ソレは姿も音も気配すら無く動く、だが姿は消したまま、敢えて音と気配を発してその六体の獲物の前に降り立った。
ソレはわざと己という危機が迫っていると気付かせることでその反応から相手の力量を推し量れるということを知っていた。
「な、なんじゃあ…?」
「ホッ、ホアッ」
「…おっ?…反応?」
全員が理由も分からず、しかし確かに危険な何かがあると本能的に理解している。誰一人動こうとしない、その瞬間に恐ろしい何かが始まると予感している。
ソレは理解していた、この場所で行われている事が闘争による優劣を競う儀式だと、そしてここに残った六体がその中で勝ち残った強者だと。
この六体は優れた戦士、“この種族の中では”。ソレはそう判断を下す、そして行動に移った。
最も強き者から狩る
六体を見渡す、その戦闘能力に大差は無いだろう。しかし武装の有無、肉体の強度、僅かな佇まいから推察できる経験や技量の差。
それらを加味して六体の間で優劣を判断する。
前頭姿勢の獣に似た構えの一体…違う。
似通った生体反応を持つ、恐らくは同じ家系の親族か兄弟同士の二体…違う
最も大柄で丸太を担ぐ一体…。
コイツだ
ソレがやはり音も無く、動き出した。
────────────────────────
「!!」
沈黙が終わりを告げる、六人をその場に留めていた正体不明の気配が動き出した。
それに気が付いたのは葡甚佐摩ただ一人、何故ならその朧げに感じ取っていた気配がその濃度を突然増大させ自らのすぐ近くから発せられたのだ。
そしてハッキリと見た、身長2メートルを超える自分の目線、それよりも上の位置にそれは灯った。
横に並んだ二つの橙色の光、そこから強く向けられる視線、正体はすぐに分かった。
透明な何かの目だけが光り、葡甚を見下ろしていた。
「うがああああ!!」
ほぼ絶叫に近い雄叫びを上げ丸太を振り抜く、全身から一気に冷や汗が吹き出し、心は急速に焦燥と恐怖で染め上げられる、その何かの実在を確認するよりも先に、それを排除しなくてはならないと肉体が動く。
しかしそれでも、振り抜いた丸太は空を切る感覚だけをその手に伝える、二つの光は消えていた。
「があああ!があああ!」
半狂乱となりながら見えない何か相手に丸太を振り回す、しかしそのどれもが命中する事はない。
明らかな異常、攻撃を加えられる隙にもなり得る葡甚の行動を前にして他の五人は下手に動かなかった。
何かが起きている、何が始まっている、それはもう全員が理解できていた事だった。
「なんだあ、パントマイムかあ?」
「発狂だろ」
「ふざけんな!テメェ出てこい!殺す!」
尚も剛腕をもって丸太を振り回す、その最中、またあの光が灯った。まるで居場所を自ら教える様に、葡甚の丸太の間合いにおいて最大限の破壊力を発揮できる位置にソレはいる。
「うおおお!!」
そう確信したのと同時に、葡甚は渾身の膂力を込めて丸太を振り降ろした。人間はおろか野生の大型肉食獣でさえも食らえばただではおけぬ一撃。
ドォン、という重たい打突音が鳴り響いた。
「ホアッ」
「おっ?」
「……」
「なんだあっ 今何を殴ったんだあ?」
「やはりパントマイムだと思われるが…」
他の五人も葡甚が突然だが何かに目掛けて攻撃を始めたという事には気付いていた、しかしどう見てもそこには何も、誰もいない。
それは振り下ろされた丸太が虚空で停止し衝突音が響いた今でさえ、そこに何かが実在しているとは誰も思っていない。
驚愕に慄く葡甚を除いて全員がそうだった。
「そんな…そん…」
目に見えずとも、葡甚にはもう完全に見えていた。
振り降ろした丸太、そのエネルギーが衝突と同時に完全にかき消され、それ以降丸太はその位置からピクリとも動かせない。
受け止められた、丸太の停止した位置、伝わってくる手応え、丸太を掴むその力の、信じられない圧。
「あああ…!」
その瞬間、空間が歪んだ様に不気味な光が揺らめいだ。葡甚の前にいるその存在の輪郭が、光となって一瞬だけ浮かび上がる、それは葡甚の脳内の映像と完全に合致している。
葡甚よりも巨大な、人型の何かが、振り下ろされた丸太を片腕で軽々と受け止めて立っている。
「ば、化け物…」
「うああっ」
浮かび上がった人型が丸太を掴むその手を乱雑に振り払う、たったそれだけで葡甚は丸太ごと突き飛ばされた様に大きく体勢を崩した。
そしてそこからは正しく一瞬だった、丸太を杖代わりにして辛うじて転倒を防いだ葡甚、その背後にもうソレは回り込んでいた。
「いぎゃああああ!!」
葡甚の叫びが屍山の野原に響く、それを目にしたその場の誰もが理解不能の困惑と驚愕に襲われた。
「な…」
「なんだあっ」
葡甚の身体が浮かび上がった、背をのけぞらせ浮遊。まるで上から糸で吊るされているかの様に、或いは下から何かに持ち上げられているかの様に。
何よりもその胸元、そこから夥しい出血が吹き上がった。血が葡甚の体をつたり血を濡らす。
そして、ソレの姿を赤い鮮血が映し出していく。
「見ろっ、な、何かいるぞおっ」
鮮血に濡れてその輪郭が視覚化される、葡甚の背丈を超す巨躯の人型。一対の手足に直立歩行、その頭部にあたる箇所から二つの光、文字通りの眼光だ。
「ホッ…!」
「なにアレ、ねぇーっ、なんなのアレ!」
血で浮かび上がったその人型の何かは葡甚を背後から攻撃していた、その片腕のみで葡甚の足を地から離させ、その腕から伸びる鋭利な煌めきが血に濡れて葡甚の胸を貫いていた。
「 刃物だあっ 刃物を持ってるぞうっ 」
ソレが腕を振り払うと血を流す葡甚も小さいうめき声を上げて地に投げ出される、起き上がらない葡甚を踏み越えてソレが一歩、残る五人に向けて歩き出す。
そして時を同じくして屍山麓の管理者エリア、モニターの前の憙一達三人もその異常事態を超えた異常事態を認識していた。
「な、なんだコレは…」
「突然一人が錯乱したと思ったら…血を流して浮かび上がった!?し、死んでしまったの…?」
「道元、これも大会を盛り上げる仕掛けか?」
「違う!こんな事私は指示してないぞ、何が起きてるのか私にも分からない…!」
「それなら道元、今すぐ大会を中止させろ」
「何が起きとるのかワシにも分からんがとにかく緊急事態や、興行なんてしとる場合やない」
「だ、だがしかし」
「あの場所に何かが居るんや…!」
そしてモニターの向こう、突然現れた目に見えぬ乱入者によって5番エリアの状況は加速していく。
「ホア゙ア゙ア゙ア゙ッッ」
虚空に浮かび上がった鮮血に濡れる姿、視覚化された途端に今まで隠されていた殺気が解放される。
そして真っ先に動いたのは馬寧、猿叫を上げて四足の高速移動。血に濡れて浮かび上がった何者かの背後に素早く回り込み、そして攻撃に移る。
猿の瞬発力を発揮した地に伏せる姿勢から一気に頭上まで上昇、超変則的機動からの回し蹴り。
「ホギャギャッ」
透明な何かの後頭部の箇所を狙った馬寧の蹴りは風を巻き立てて空を切る、透明な何かが素早く躱した。
その動きに合わせて2度、3度と馬寧が追撃する。着地と同時に足払いを仕掛け、続いてその勢いのまま下方から蹴り上げる、そして拳打による連携。
しかしそのどれもが当たらない、透明な何かが紙一重で全て回避していく、七度目の攻撃でようやく馬寧の拳に相手を打つ感触が訪れる。
「ボウッ」
しかしそれは事態を好転させるものでは決してなかった、打ち抜いた右腕の拳が止められる、ミシミシと骨が砕ける様な圧力が拳にかかる。
掴まれている、恐らくは反対の左腕の掌で握り止められている、また虚空に橙色の光が二つ灯った。
「ビャンッッ」
そしてそれが馬寧が認識した最後の世界だった。
馬寧の頭部が弾け飛んだ様に後方へと強く仰け反った、そして血を流しながらゆっくりと仰向けに倒れる、そしてもう起き上がることはなかった。
「うげっ」
「…ふぅん……」
そして馬寧は絶命した、その顔面が完全に修復不可能なほど陥没している。透明な何かが、一撃で馬寧を殴り殺したのだと全員が理解した。
そして本当の恐怖が遂に真の姿を現す時が来た。
蒼白い電流が虚空に迸ったかと思えば、同じ様に蒼白い光が波打ち、現れた何かを隠していた透明のベールが解除されていく。
「見ろ、く、空間が歪んでる!」
「な、何だあ…アレは…」
「何か…何か出て来たぞおおおっ」
「…………」
それは異質な風体だった、発達した巨躯は2メートル半を超え、その肌は褐色とも黄色とも似つかない乾いた土の様な色、しかし表皮は人間の物とは思えぬ爬虫類の鱗にも似た質感を持つ。
何よりもその頭部、鉄製のヘルメット、或いは顔全体を覆う仮面、その無機質な鈍色で包まれていた。
頭頂に当たる箇所からはドレッドヘアーの様な物が、しかしよく見ればそれは毛髪ではない、黒いコードの様な物が幾本も垂れ下がりそう見えている。
胴は剥き出し、ベルトが付いた腰巻と両腕の鋼鉄ガントレット 脚の脛当てにも見えるブーツ以外には何も身に付けていない。
人間、一目見てそう断言することは誰にも出来なかった。他にどんな可能性があろうと、異様な装備に身を包んだ人間であると認識するには、ソレの纏う圧倒的な気配は異質過ぎた。
現れたその姿に画面の向こうの憙一達も驚愕する。
「や、やっぱり!何かがいたんだ!」
「どうやって隠れていた…?ま、まさかアレは…光学迷彩だとでも言うのか?」
「何でも良いわっ、コイツ明らかに普通じゃないで、これ以上は危険や、大会を止めるぞ!」
「あ、あぁ!」
道元がすぐに通信で指示を出す、管理室がそれを受けてすぐさま屍山に備え付けられたスピーカーから通知を発する。
「ご通告だあっ、想定外の事態によりプレデターズ・ファイトを中止する!繰り返す、想定外の事態により大会は中止だあっ」
「まだ脱落していない参加者は速やかに戦闘行為を止めて下山するように、繰り返す…」
その放送は山全体に響き、騒動の中心である5番エリアにもしっかりと届いていた。しかし現れたソレはそんな放送なんて意に返さず、次の標的を定めていた。
「ご中止だあっ」
「待てよ、コイツはどうすんだよ、えーっ!?」
「殺す…」
「しゃあけど戦闘行為は」
「あはっ たははっ」
「…カロ…カロロロ……」
姿を現した異形は無言、だが空気を鳴らす不気味な顫動音をしきりに鳴らしている、その音域とリズムは人間に備わった器官では再現不可能なものである。
文字通りの鉄仮面、その下の顔面も表情もまるで不明。ただ一つ分かっているのは戦いを中止するつもりなど微塵も無く、残る四人に躙り寄る。
「あわわっ、来るぞっ」
そして異形の乱入者が四人に向けて駆け出した。
葡甚を超える巨体が嘘のように俊敏、音も無く風も無く高速で駆け息を呑む間に間合いへと侵入してくる。
「 悪魔 みっーけ 」
まず飛び出したのはアンレド、その顔に恐怖は無い。恐怖を感じるだけの正気が無いが故に大胆にも大きく踏み込み、高速で迫る未知の敵相手にも遺憾無くその技を発揮できる。
乱入者が振るう横振りの拳を屈んで回避、そしてその恐怖の幻覚を与える魔の手が乱入者の剥き出しの腹筋を打つ。
「あはっ 蛆虫決定ェ 」
アンレドの恐怖の幻覚拳、脳内に刷り込ませる幻覚は頭頂でなくとも一時的とは言え幻覚を植え付ける。
無数の蛆虫が皮膚の下を這いずり回る、正常な精神では到底耐えられず破壊される圧倒的な不快感と悍ましい苦痛、それを受けて平然としていた者はいない。
「…………」
それも今日この時までは。腹筋を打たれた乱入者が鉄仮面に覆われた顔を向ける、特徴的な顫動音以外には何一つリアクションらしい反応は示さなかった。
「 おっ 」
反応の代わりに返ってきた動きは乱雑にして純粋な暴力、ただ腕力のみに任せて片腕の握り拳を眼下のアンレドの打ち抜いた右腕目掛けて振り下ろす。
ベキッ、という音。鍛え抜かれた筋肉を簡単に通過して恐ろしく呆気なくその拳はアンレドの腕を粉砕する、へし折られた骨が肉より突き出す。
「オォオッ」
「!」
短い唸り声、そしてまた右の振り抜き、アンレドはそれに対応する。既に幻覚により正気とマトモな感覚を失ったアンレドは痛みにも恐怖にも怯まない。
紙一重の回避で拳を躱し、今度はより深くその幻覚を叩き込む、その様な勝利への道筋を理性無くして組み立てる。
しかし、アンレドは重要な事を忘れてしまっていた。
乱入者の拳がアンレドの顔面に迫る、その軌道はアンレドの顔面の数cm手前をスレスレで通過して回避に成功する、そう思われたその時。
乱入者の拳、その腕にはめたガントレットから素早く飛び出したのは、光を鋭利に反射させる刃の煌めき。
「 あ゙っ 」
葡甚を背後から刺し貫いた刃、それは腕のガントレットに収納された仕込まれた凶器だった、それにより拳のリーチと殺傷能力は一瞬にして跳ね上がる。
屍山の野原にまた鮮血が舞った、乱入者の拳が通過した後、少し遅れてアンレドが崩れ落ちる。
その頭部が、ちょうど横半分の位置で両断されてゴロリと転げ落ちた、その肉体もゆっくりと地に伏せる。
「は、はひーっ」
「そ、凶器はダメだろっ」
息を吸うように人間を惨殺、鋭利過ぎる刃は振り抜かれると同時に付着した血液が飛散し元の光沢を取り戻す、そしてまた一瞬で乱入者のガントレットに収納される。
「ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…ぶっ殺す…」
足伏が呪詛を唱える様に同じ言葉を繰り返していく、元から死人さながらの顔はより冷たく、その目はより濁っていく、そして全身の筋肉が隆起を始めた。
「おおっ、アレは!」
「多符・碁禄流の呪詛祈祷だあっ、呪詛による自己催眠によってゾーンの世界に入る妙技っ」
「…はーっ…殺すだけでは済まさない…」
そして完全に技による自己催眠が完了した足伏が突撃開始、それに勝機を見出した池溜品兄弟も足伏の動きに合わせて攻撃を繰り出す。
「よしっ、ワシらも行くぞ!」
「はーっ、見せてやるよ、精巣捻転掌をなあっ」
足伏が前から、池溜品兄弟がそれぞれ左右から。三方向からの連携攻撃を繰り出した。
「………」
乱入者は一切構えずただそこに立っているだけ、そして一瞬の内に肉を打突する鈍い殴打の音が複数、連続して鳴った、三人の攻撃が乱入者を打つ。
「ばうっ」
「え?」
しかし次の瞬間には足伏が血を吐いて吹き飛ばされていた、乱入者の前蹴りが足伏の腹に命中。
たった一撃で内臓破裂、乱雑な前蹴り一発が屈強な足伏の腹筋を貫いて戦闘不能に追い込んだ。
それでいて三人の攻撃はまるで通じていなかった、確かにその土色の肌を強かに打った筈の打撃は純粋な肉体強度のみで完全に無効化されている。
「蠑ア縺崎???ヲ…」
乱入者の鉄仮面の奥から声が聞こえた、くぐもった低い声。それは聞いたことのない言語だったが、確かに意味を内包した言葉だった。
「は、はーっ…はうっ」
「あーっ!?弟者あっ」
乱入者の追撃、もはや拳を握りさえせず平手打ちの様に顎を真横から薙ぐ。それだけで脳震盪を通り越して頸椎が捻り、首が180°回転、当然ながら即死。
「あ、あわわっ、ねーっ、ちょっと待って」
「降参するから、降参するから待って!」
「………」
無言のまま乱入者は躙り寄る、その冷たい鉄のマスクの様に、その凍え切った殺気も命乞いを受けようと微塵も衰えない、最後の獲物を始末しようとした、その時、ヌッとその背後で蠢いた影があった。
「!」
「このクソ怪物があああっ」
乱入者がその気配に気づいて振り返るよりも先に、葡甚の巨大な丸太が乱入者の後頭部を殴打した。
「カッ」
胸を貫かれ大量出血、それでも葡甚は生きていた。火事場の馬鹿力さながらに湧き上がった最後の力で忍び寄った背後から一撃を叩き込んだ。
乱入者の体幹が揺らいだ、数歩たたら踏んで怯む、それは確実なダメージを与えていた。
「葡甚様は無敵なんだよ!怪物相手でも負けねぇよ!」
「化け物がああ!この化け物がああ!」
怯んだ乱入者に何度も丸太を振るう、その度に激しい衝突音を鳴らして怯ませる、初めて優勢と呼べる状況が訪れる。
だがそれもすぐに終わりを迎える、乱入者がもう一度振るわれた丸太を片腕で止める、そしてもう片方の握り拳で丸太を半ばから叩き砕いてへし折った。
「あぁっ」
「………」
「隕倶コ九d縺ェ窶ヲ…」
沈黙、そしてまた不明な言語を発する、そして今度は本当に葡甚の命を奪い去る攻撃が始まる。
鋭い音を鳴らしてまた腕のガントレットから刃が飛び出す、それを葡甚が認識した頃には既に乱入者の動きは完了していた。
「ひいぃ」
横一閃に葡甚の腹を切り裂いた、すぐに鮮血が吹き出し内臓が溢れだす、完全な致命傷。しかし乱入者の攻撃は終わらない、なんとその状態の相手にさらに斬撃を繰り出した。
片足目掛けて掬い上げる様に一撃、腿の辺りから引き裂かれ、葡甚は体重を支えられずうつ伏せに倒れる。
そして常軌を逸した恐怖の行動は行われた。
「オオォ」
うつ伏せに倒れもう命の火が消える寸前の葡甚、その背、脊椎が走る箇所目掛けて貫手の様に鋭い爪を用いて乱入者が右手で突き刺した。
吹き出す血液、体を痙攣させる葡甚にはもう声も出せない。そしてメキメキという嫌な音、更に溢れる血。
そして乱入者は一気に突き刺した手を抜き放った。
「は、…はうっ…ううっ…」
「う…」
「 う あ あ あ あ あ あ ! ! 」
残る一人が遂に恐怖に我を忘れて絶叫、乱入者の抜いたその手に握られているモノ、真っ赤に染まったモノの正体は、殺された葡甚の頭蓋骨とそれに繋がった脊椎だった。
背の首元から強引に手を捻り込み、力付くでその下の骨格を掴み取って摘出したのだ。
「オオオオォォッッ」
乱入者は咆哮を上げる、人間のものとは到底思えない、重く低く、本能的に恐怖を与える悍ましい響き。
ライオンの咆哮を思わせる、しかしそれよりも声量と迫力のある咆哮が屍山に響き、その瞬間に辺りから野鳥の飛び立つ音が聞こえてくる。
「た、助けて…止めて…」
もはや頬と股間を濡らして立ち竦んで懇願するだけの最後の一人、そして乱入者の行動はやはり何処までも冷酷にして冷徹。
歩み寄り、片腕で首を掴んだと思えば一息で捻り上げる、バキンという音を鳴らして呆気なく最後の命を奪い去った。
死屍累々、乱入者が現れたから数分にも満たない間にその場の屈強な戦闘強者達は残らず屍と化した。
「カロ…コロロロ…」
特徴的な顫動音を鳴らしながら辺りを見渡し、もうその場に狩りの対象がいないことを確かめると、謎の乱入者は次の標的を求めて悠々と一歩を踏み出した。
「アカンやん、催し物やからってそない好き勝手したら、主催者様から怒られるで」
その足がピタリと止まる、屍山5番エリアにまた一人、足を踏み入れた闘士の姿を確認した。
入山した宮沢憙一が謎の乱入者の前に立ち塞がった。
「大会のルールも守れん狂人には…」
「ワシの拳のペナルティや」
既に憙一の顔は怒りが浮かび、その闘志も静かに、しかし激しく燃え盛っていた。その熱をサーモグラフィーの視界ではなく本能で感じだった乱入者もまた、冷徹な殺意の奥でその闘志を燃やす。
血に塗れた戦場で二体の狩人が遂に遭遇した。