TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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4,優れた戦士

 

 

時間は少し遡り、大会中止のアナウンスが放送された直後、屍山麓に待機した憙一達。

 

 

「……ワシちょっと行ってくるわ」

 

「キー坊!?」

 

 

モニターを眺めていた憙一が立ち上がる、その発言が指す場所とは今起きている異常事態の中心地である謎の乱入者が現れた5番エリアだと和香にも道元にも言うまでもなく解った。

 

 

「何をするつもりだ?キー坊」

 

「あのよく分からん奴を止めに行くんや」

 

「止めろと言われて止める様な大人しい奴なら端からこんな真似はしない、彼処にいる連中が危ない」

 

「助けに行くってこと…?だけどキー坊、コイツ…もの凄く危険な感じがする」

 

「あぁ、山に入ってから本能というか予感というか…武者震い見たいな感覚がずっとしとった」

 

「知らず知らずの内にその気になっていたのかと思ったが…原因はコイツや、ワシが止めに行く」

 

「大丈夫なのか、キー坊」

 

「ほう、お前に心配されるとはのォ、道元」

 

「安心せぇや、コッチも危険で強い奴との戦いは望む所、何より目の届く範囲でこんな無茶苦茶な真似されて無視する訳にもいかんやろ」

 

「何者か知らんが…この乱入者にはワシがいっちょガツンとお灸を添えたるわ」

 

「確かにキー坊の実力は折り紙付きではあるが…」

 

「それに勝ち残ったコイツら六人はワシと戦う為にこの大会にやって来たんやったな」

 

「ならアカンやん、獲物の横取りやで、そないに暴れたいならこのチャンピオンが相手になったる」

 

 

モニターの向こうに佇むその不気味な出で立ちの乱入者を睨み、憙一は屍山5番エリアへと向かって行った。

 

 

 

 

 

そして現在、憙一が5番エリアへと到達、件の乱入者と対面し、そこで起きた惨劇を目の当たりにする。

 

 

「…惨い真似をしおって」

 

 

「…カロ…ウロロロ…」

 

 

憙一が到着した頃には既に生存者は誰一人としていなかった、首を折られ、頭部を両断され、内臓を潰され、顔面を砕かれ、そして吐き気さえする様な残忍なやり方で殺されていた。

 

その手から血と、無残極まる亡骸を握りながら謎の乱入者は鉄仮面の奥で憙一を見る。

 

その生体反応、そして経験と本能の両方から、今目の前に現れた憙一という男が先の6人とは比べ物にならない戦闘能力を持つ個体であると確信する。

 

 

「凶器の持ち込みだとか、そもそもの目的だとか…取り敢えずそんな事は今はいい」

 

「お前に今ワシが聞きたいのは…そこまでする必要があったんかって事や」

 

 

「………」

 

 

憙一の静かな怒りを投げ付けられても乱入者は無言、しかしその闘志に混じる感情を的確に察知していた。

 

 

「コイツらも自ら望んで戦いに来た、他人を散々傷つけてきたんや、自分がやり返されてそうなっても文句は言えんし、コイツらもそれは覚悟の上だった筈や」

 

「けどな…わざわざ命まで奪う必要があるんかい」

 

 

「………」

 

 

「戦う以上は互いに命を奪う結果になる事もある、だがお前のそれは明らかな故意や」

 

「お前の方が遥かに強かった、それは解ってた筈や、殺さずに無力化するのだって簡単だった筈」

 

「それでも殺されなきゃならん理由がコイツらにあったのか?頭を真っ二つにされ頭蓋を引きずり出されなきゃならない様な理由が」

 

 

「…………」

 

 

「なんとか言わんかいコラ」

 

 

「………」

 

「 全ての 目的は 」

 

「!」

 

 

謎の乱入者から意味のある声が聞こえた、しかしその声の違和感に憙一は気付く。この者本人の声ではない、どこか機械的で無機質な響きだった。

 

 

「 最強の男 」

 

「 戦うのは 俺なんだ 」

 

 

「…会話をするのが苦手なタイプみたいやのぉ」

 

 

その会話になっていないやり取りを最後に乱入者が動き出す、抉り出した葡甚の頭骨と脊椎を腰のベルトに繋ぎ止める。

 

そしてまたあの鋭利な音を鳴らして腕のガントレットから鈍色の刃が飛び出した、顫動音を鳴らしながら身を低くする戦闘態勢に入る、それは正しく獲物に飛びかかる寸前の肉食獣。

 

 

「カロロロ……」

 

 

「腕当てに仕込んだ刃か…あの透明になる方法といい何処までもルール無用な奴やな」

 

 

そして戦闘の始まりを感じ取った憙一もまた身構える、顎を引き両腕を上げるファイティングポーズ、その全身に過剰な力は込めず、何が起きてもすぐ動き出せる体勢。

 

 

「来るなら来いや、その代わり痛い目を見てもらうで」

 

 

「オオオッ」

 

 

憙一の言葉に応えたかの如く、謎の乱入者が獣じみた姿勢から獣を超えた瞬発力で駆け出した。

 

その瞬間をモニター越しに麓の和香達も見ている。

 

 

「始まった!」

 

「油断するなよ、キー坊…!」

 

 

もはや地を蹴り走っているというよりも地面そのものに反発されて吹き飛んでいるのではないかと思える様な爆発的速度のそれでいて無音の急加速。

 

数メートルの距離を一瞬にして詰め間合いへと侵入、腕の刃を突き上げるように振り抜いた、正確無比かつ最速最短のその狙いは首、頸動脈。

 

 

「いきなり急所狙いかっ」

 

 

その刃渡りを見切り、身を横に反らして寸前で躱す。風を鋭く引き裂く音が憙一の首元がさっきまであった場所を通過、ゾッとする冷たい悪寒が背筋を走る。

 

 

「どうあっても殺さなきゃ気がすまないんかい!」

 

 

そして追撃、上へと振り抜いた腕を素早く戻す。刃の切っ先を水平にする構え、憙一の胸部、心臓のある位置への突き、躊躇いなく放つ。

 

 

「舐めんなごらあっ」

 

「!」

 

 

回避の難しい胴体中央への点の攻撃、しかし憙一は素早く半身の姿勢になることでその刺突を見切りまたしてもすんでで躱す、そして相手が腕を引き戻すより速く憙一の反撃が始まる。

 

 

「殺気が強すぎて動く前に分かるんじゃあ!」

 

 

突き出されたその右腕に掴みかかる、片腕で相手の手首を押さえ込み、もう片腕でも相手の腕をホールド。そしてその姿勢から一気に逆方向へ圧力をかける。

 

身を捩り、肘関節の可動域の真反対へ全身の力を込めて引く。一直線に腕が伸び、ミシミシと骨が軋む音が鳴る、一息で関節を破壊する極め技。

 

 

「……!」

 

「あんな真似しくさってまだ刃物なんぞ振り回しとるんや、腕の一本や二本覚悟してもらうで」

 

「過剰な破壊は相手を恐れる弱さと言うが…お前みたいな危険人物にはこの程度の罰ちょうどええわっ」

 

 

その動きに乱入者もすぐに対応する、圧力をかけられた方向へとすぐさま身体の向きを変えて腕を圧し折られる事を防ぐ、しかしそれよりも憙一の方が速い。

 

 

「もう遅い、往生せい!」

 

「しゃあっ」

 

 

そしてバキンと骨が圧し折られる音が鳴る、凶器を伴った腕が反対方向に曲がり破壊される、そう思われたがその光景は訪れなかった。

 

 

「な、なにっ」

 

「………」

 

人体の構造を知り尽くした破壊技はどれだけ鍛え上げても人間の肉体である限り、決まれば破壊は免れない。しかし乱入者の腕は肘関節に逆から凄まじい負荷が一瞬で加えられたというのに折れ曲がる事はない。

 

逆方向へと引かれる腕の動きがピタリと止まる、ミシミシという骨の軋む音も止んだ。

 

 

「ま、まさか…筋力だけで阻止してるのか…」

 

 

その技をかけられた腕に信じ難い力が張っていた、一見抵抗をやめて立ち尽くす乱入者だが、その腕の拳はこれ以上無く握り締められ、そこから肩まで至る腕の全てが岩石の如き隆起を見せる。

 

ただ込められた筋力とそれによる張り、ただそれだけで加わる圧力を跳ね除けて無効化していた。

 

 

「!! どわあっ」

 

 

その力で満ちた右腕で今度は乱入者が反撃する、そのまま腕を勢いよく右斜め下に振り下ろせば掴んでいた憙一は抗えず引っ張られて体勢を崩す。

 

前のめりに倒れかける憙一とその背後を見下ろす乱入者、空いた左腕で狙う。鋭い爪の貫手が迫るのは憙一の背、脊椎の走る首筋だ。

 

 

「そんな簡単に殺らせるかい!」

 

「灘神影流 “地雷殺” 」

 

 

「!!」

 

 

乱入者の鉄仮面に覆われた顔面を下から憙一の鍛え抜かれた剛脚が打ち鳴らす、それは灘神影流の技の一つ、通常ではありえない体勢からの蹴撃。

 

本来は逆立ちの要領で放つ、両手の中高一本拳で相手の足の甲を楔を打つかの如く留めた状態で高速の上下反転、そして超変則的な蹴り上げを見舞う技。

 

腕に引っ張られ前のめりに体勢を崩す中、憙一はこの技の応用で掴んだ腕を地面として足を畳んだ姿勢で上下反転、乱入者の顎にあたる位置を一気に蹴り上げて迎撃した。

 

予想外の一撃に怯んだ隙に離脱、乱入者の方もダメージは負ってない様にすぐ体勢を戻した、また両者睨み合う形になる。

 

 

「ふーっ…危ない危ない」

 

「馬鹿げた筋力もそうだが、その爪も十分過ぎるくらい凶器になりそうやのぉ、ゲンの奴を思い出すわ」

 

「………」

 

「それにしても…」

 

 

改めて憙一は相手の事を注意深く観察する、そうすればするほど先程の攻防と合わせて目の前の敵対者が不可解で異質な存在だと強く実感してくる。

 

人間離れした怪力に巨躯、猛禽類かの如き鋭い手足の爪、不気味な顫動音、その肌に触れた感触は毛皮とも鱗とも違う未知の感触。

 

それでいて表皮は作り物かのような色に質感、だが触れたから解る、作り物や特殊なスーツではない生身の肉体、ただそれが人間のソレとは懸け離れている。

 

ガントレット、レッグアーマー、ベルト付きの腰巻にコードの様な物が幾つも伸びる鉄仮面、余りにも異質な装い。

 

 

(本当に人間なのか)

 

 

ほんの僅かな時間でもそう思わせるには十分だった、今まで人間離れした技を持つ達人と幾度となく死闘を演じてきた憙一だったが、本当に人間かと疑いたくなる様な相手でも間違いなく憙一の相手は人間だった。

 

人間とは思えない、比喩表現的に思う事はあっても、目の前の敵が本当に人間とは別種類の生命体だと本気で思ったことは今までなかった。

 

しかしこの敵対者は何かが違う、内奥から発する気は人間というよりも野生の獣に近く、それでいてその中には人でも獣のものでも無い、未知の概念の様な物が潜んでいる、そんな不吉な感覚があった。

 

 

「どっかの怪しい研究所から脱走したミュータントか?それとも皮膚の下は機械のサイボーグか?」

 

「まぁなんでもええわ、相手にとって不足は無いようやしのぉ、そろそろ暖まってきた頃やし…」

 

「カロ…ロロロ…」

 

 

「本格的にブチのめしたる」

 

「オ゙オ゙ッッ」

 

 

今度は憙一の方から突撃して仕掛ける、乱入者もガントレットのブレードを構えて迎え撃った。

 

 

「刃物の使い手とは前もこの場所で戦り合ってるんじゃあっ、とびきり危険な奴となぁ!」

 

 

飛び込んでくる憙一の動きに合わせた迎撃、首元目掛けてブレードを一閃、それを首を反らし、身を僅かに屈めて回避する憙一。

 

 

「しゃあっ、ノックダウン確定のボディ・ブローっ」

 

 

そしてすぐさま反撃、乱入者の脇腹に憙一の強烈無比なボディブロー。並の武術家ならばそれだけで決着だが、拳から伝わるのは、なめし革を被せた岩を殴った様なまるで手応えのない硬い感触。

 

返す刀で素早く刃を翻してもう一度、回避した体勢の憙一目掛けて再度切り裂く、それもさらに深く屈んで回避、そしてまたもすぐさま反撃。

 

 

「一撃で肉離れを起こすロー・キックじゃあっ」

 

 

剥き出しの表皮の腿を憙一の剛脚が打つ、憙一の足は先天的に発達した特異な物、積み重ねた鍛錬によりそれは丸太だろうが岩だろうが蹴り砕く破壊力を持つ。

 

 

「………」

 

 

それでも乱入者はノーリアクション、痛みを堪えているのではない、まるでダメージがないから反応する必要もない、平然と立っている。

 

 

「あ、あはっ、めちゃくちゃタフなんやね…」

 

 

乱入者がまたブレードを振り回す、その一撃一撃が急所を狙った、食らえば即致命傷の一撃。それを躱す内にまた、憙一が深く屈み込む姿勢になった。

 

 

「ガアッ」

 

 

その動きを待っていたのか、屈んだ憙一に合わせて乱入者が右足の前蹴りを放った。あの足伏の腹筋を一撃で貫き内臓破裂で死に至らしめた怪物的な前蹴り。

 

 

「確かに速い、しゃあけど残念ながら読みが甘いわ!」

 

「!」

 

 

それすらも憙一は読んでいた、顔面に迫る蹴りの軌道からスライディングの様に背を地に付けて回避、伸ばされたその足を両手足全てを使ってホールドした。

 

両手を踵で組んでクラッチ、両足を腿に絡ませ拘束、そして相手の体勢を崩すと同時に締め上げる関節破壊の極め技。

 

 

「しゃあっ、ヒール・ホールド!」

 

 

「……!」

 

 

このままでは体勢が完全に崩される、膂力体格で遥かに勝る自分に的確な攻撃を仕掛ける憙一の技量、それに乱入者は驚愕していた、非力な無手で獲物の肉体を破壊しようとするその未知の技に。

 

右腕のブレードですぐさま阻止に掛かる、地に仰向けになるような体勢で自らの片足を拘束する憙一を目掛けて突き刺した。

 

 

「もう遅い!」

 

 

しかし拘束に力を注いでいる筈の憙一には当たらない、その瞬間に憙一がヒール・ホールドの姿勢から急速に身を捩り転がり回った、突き出したブレードは地面に突き刺さるのみ。

 

 

「……!!」

 

 

メキメキと神経が伸びる音、そして言葉さえ失う激痛。獲物に食らいついたワニがそのまま回転して引き千切る様に、極めた状態で回転を加えさらなる負荷を相手の膝関節に掛けていく。

 

 

「オオ…ッ」

 

 

反射的に肉体を動かす、憙一が回転したのと同じ方向へ自らも地を転げり回転、関節を破壊されることを防ぐ、そしてブレードを振るい憙一を引き剥がした。

 

 

「おっと」

 

「……」

 

「今度は完全に破壊したと思ったが…頑丈なだけでなくカンもいいヤンケ、それになんやかんや言っても刃物は厄介や」

 

 

振るわれたブレードを極め技を中断しすぐさま回避した憙一、だが完全には避けきれずその右の二の腕には浅いながらも血を滲ませる細い裂傷が刻まれる。

 

そして立ち上がる乱入者、技をかけられた右脚が火傷に似た痛みが走っている、だが戦闘続行に問題はまるで無いと判断した。

 

戦いが始まってから両者共に初めての痛み、初めてのダメージ、また一つ攻防を終えた二人が睨み合い、冷静に、しかし戦いの熱はその温度を更に増していく。

 

 

「………」

 

 

無言のまま乱入者が仕掛ける、ブレードが風を巻き立て憙一に迫る。連続してそれを躱す憙一、しかし先程とは違う事に気が付く、乱入者の攻撃の意図を理解する。

 

 

「!」

 

 

連続して振るわれるブレードは、先程とは違い急所を最短で狙う様な動きではない。浅くとも速く、時には手首のスナップを利用して変則的に、連続した斬撃を繰り出す。

 

躱しきれず憙一の肉体に浅いが確かに血を流す赤の線がまた幾つか浮かび上がった、憙一は大きく飛び引いて仕切り直しを図る。

 

 

「ほぉ、攻め方を変えたわけか」

 

「……」

 

「一撃で急所なんて狙わず細かく浅くとも裂傷で血を流させ消耗させようって腹か」

 

「しかも大胆に動かなければコッチは反撃が怖くて手を出すチャンスも掴み辛い、素手と刃物の殺傷能力の違いを活かしとるのぉ」

 

「戦いと言うよりもまるで狩りやな、お前の戦り方は」

 

「……」

 

「……ここに来る前に見た“アレ”も…獲物の皮を剥いで吊るし上げる解体のつもりか?その引き抜いた頭蓋はトロフィーにでもすんのかい」

 

「………」

 

「人間を玩具にすんのも大概にせぇよ」

 

「お前の薄気味悪いマスクの下にあるその顔面に一発叩き込んだるわっ!」

 

「……!」

 

 

憙一と乱入者、今度は両者が同時に駆け出した。僅か一秒あるかないかで間合いへと互いに侵入、そしてそこから0.5秒、スローモーションの世界でその信じ難い攻防は行われた。

 

 

「!!」

 

 

その瞬間、憙一の行動は乱入者を驚愕させた。振るわれるブレードは憙一の推察どおり、致命傷よりも出血による消耗を狙って速く浅く振るわれる。

 

そこに喜一は自分から強く踏み出してブレードの斬撃に自らその身を晒したのだ。速度を重視した斬撃とは言えその鋭利なブレードは当たれば簡単に肉を裂き骨を断つ。

 

自殺行為としか思えない行動、その刃が憙一のこめかみに吸い込まれる様に到達、そして鋭利な刃が肌に食い込み切り裂いていく、その始まりの一瞬を超えた一瞬の間に、それは起きた。

 

 

「灘神影流 “弾丸滑り” 」

 

 

ブレードが憙一の肌を切り、肉を裂き、血が吹き上がると思われたその時、憙一の顔面に到達したブレードから不可解な感触が伝わる。まるで一瞬、触れたブレードが液状にでもなった様に変形した錯覚を見る。

 

逸らされた、斬撃の物質を切断するエネルギーの全てを逸らされて無効化された。もはや超常現象の領域であるそれこそ、灘神影流に伝わる極限究極のスリッピング・アウェー。

 

名前の通り音速の銃弾さえも人間離れした肉体操作で無効化する、灘神影流、弾丸滑り。

 

 

「これがワシの一撃やっ」

 

「灘神影流 “塊貫拳” 」

 

 

憙一の拳が乱入者の腹部を打つ、貫手の構えから握り拳へと移行して命中するその拳打。弾丸滑りで受け流した動きからそのまま繋ぎ目無しに派生した一撃。

 

勿論、その一撃もただのパンチの一撃ではない。

 

 

「………!!?」

 

 

乱入者の声無き叫びが上がった、何かが身体の中を駆け巡る感覚、激しい衝撃の様な物が打たれた腹部から体内を移動し、駆け登る感覚。

 

その感覚はギュンという音がハッキリ聞こえるほど駆け巡り、乱入者の頭の中、脳髄の中まで到達するとパァンと炸裂した。

 

 

「これがいわゆる浸透系の打撃」

 

「体内を駆け巡る気はどこを打っても内臓に到達して致命傷、頭に受ければどんだけタフでも立ってられんわっ」

 

「…!?……!」

 

「そして隙の無い攻撃を繰り出すならばこちらから踏み込んでチャンスを作り出す、灘神影流、弾丸滑り、回避か防御だけが対処の仕方やない」

 

 

「………!!」

 

 

憙一のボディブローとローキックを受けて無傷、関節技からも逃れまるで問題の無いダメージしか負わなかった乱入者が未知の攻撃を前に昏倒する。

 

強いダメージと困惑からマスクで覆われた頭部を無意識に片手で押さえ、その足は数歩ふらつく。

 

やがて体勢を立て直すもダメージがあるのは明らかに見て取れた、無意識な鉄のマスクから強い二つの眼光が揺らめいた。

 

 

「塊貫拳が脳内で炸裂して膝すらつかんとは…」

 

「お前めっちゃ強いやん、人間とは思えないタフさや」

 

 

「………」

 

 

乱入者の沈黙、しかしそれは今までの不気味で不吉な予感を与える様なものでは無い、放たれるその殺気、その性質が変わっていく。

 

 

「ん?」

 

 

残忍で狂気的な冷たい殺意、それが熱を帯びていく。乱入者の中で今いる相手との殺し合い、その意味が変化する、獲物ではなく敵として、狩りではなく闘いとして、強者への敬意と相見える喜びとして。

 

 

「……」

 

「蠑キ縺肴姶螢ォ繧…」

 

「あん?何言ってるか分からんわっ」

 

 

機械的な音声ではない、より肉声に近い低く重い声。しかしそれが何かしらの言語だということは解ったが、まるで聞いたことのない言語だった。

 

ブレードがガントレットに仕舞われる、その右腕をそっと頭部全体を覆った鉄のヘルムへと伸ばす。

 

 

「! そ、その顔は…?」

 

 

そして乱入者は頭部からそのヘルムを脱ぎ去った。

 

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