TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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6,急転

 

 

 

「ウアアア!鬼龍だーっ、助けてくれーっ」

 

 

車内に道元の悲鳴の様な声が響く、突然現れたのは憙一と同じ灘神影流を修めながらも悪逆無道の武術家として恐れられる悪魔を超えた悪魔、宮沢鬼龍。

 

 

「な、何、この人…鬼龍って…」

 

「確かキー坊が言っていたお父さんの双子の兄弟…?」

 

 

鍛え上げた武術家にして道場の館長である和香の目には、数々の恐ろしい逸話を聞くまでもなく、鬼龍の持つ隔絶された戦闘能力を理解できる。

 

その佇まい、息遣い、それだけで目の前の男が人間を超えた怪物の様な存在だと感じ取る。

 

 

「守銭奴のブタがすることに何の興味もないが…ずっと探していた“コイツ”をまさかこんなところで見つけられると思ってもいなかった」

 

「全くの偶然とは言え大会を開いたお前を褒めてやってもいい、道元、お前が憙一を連れてこなければ俺もここには来なかった」

 

 

余りにも傲岸に言い放つ、それは無条件で自分が相手よりも絶対的に上の立ち位置に居ると確信している、正しく傲岸な王の立ち振舞いだった。

 

 

「き、鬼龍よ…お前はキー坊の試合を見に来たのか」

 

「俺が甥っ子の応援に来た気のいい叔父さんに見えるか、灘・真・神影流の当主としてぬかりが無いか確認しに来ただけだ、無様を晒すようなら嘲笑ってやろう、そう思っていたがな」

 

「あ、あの…さっきコイツって言ったけど…」

 

 

和香が鬼龍の存在感に気圧され言い淀みながらも尋ねる、鬼龍はそれに反応して目線を向ける、質問の意はもう理解しているが相手の言葉を待つ、鬼龍にしては珍しかった。

 

 

「キー坊と戦ってるアイツの事…何か知ってるの?」

 

「あぁ、少なくともお前達よりかはな」

 

 

なんてことないかの様に鬼龍は答えた、そして聞かれるよりも前に自分から答えを話し始める、これも鬼龍にしては珍しいこと。

 

 

「見たとおり、人間じゃない怪物だ」

 

 

言い放つその言葉には冗談やからかう様な響きは含まれていない、周知の事実を口にするかのような堂々たる表情と声のニュアンス。

 

 

「えっ、ま、まさか本当に…?」

 

「怪物…だと?いや、そんなまさか…」

 

「事実だ、アレは着ぐるみや特殊メイクではない」

 

「姿を消し、野山に潜み、忍び寄って人間を狩猟する化け物、どこの国でも公表されてないだけでその存在を認識している政府もいる」

 

 

道元と和香の二人は鬼龍の巌の様な顔の表情から真偽を読み取ろうとするが如何せん無表情、やがて鬼龍の言葉が真実なのではないかと思えてくる。

 

 

「本当なの…?」

 

「確かにこの男はくだらない嘘は好まぬ性質だが…」

 

「ふん、生身で戦い合っているだけあって憙一の奴も気付いてはいるな、その事実だけで腰を抜かしてはいない様で安心したぞ」

 

「き、鬼龍、だとすれば奴は何なんだ」

 

 

「宇宙人だよ」

 

 

やはり信じ難い言葉を何処までも堂々と鬼龍は言う。

 

 

「米国政府の機密事項を盗み見た事がある、それによれば奴が初めて確認されたのは今から十数年前」

 

「南米のジャングルで任務に就いていた特殊部隊がアレの同一種族と遭遇し戦闘、生き残った隊員から奴の情報が国に持ち帰られた」

 

「ア…アメリカ政府の機密事項だと…?」

 

「なんか…とんでもないこと言ってない?」

 

「次に現れたのはロサンゼルス、ギャングの大量殺人事件の犯人だった」

 

「以降もたびたびその存在が確認されている、分かった事はアレは非常に高い知能と文明を持った人類とは全く別の知的生命体だと言うこと」

 

「凄まじい身体能力と戦闘能力を持ち、性格は極めて冷酷で残忍、人間を狩りの対象と捉え、殺害することそのものを目的として接触する」

 

「傾向としてより戦闘能力の高い個体、または集団を標的とする場合が多いと聞く」

 

「分かるか、つまりヒューマン・ハントが趣味のイカれたエイリアンだ、太古の昔から地球にやって来ては狩りに興じているらしい」

 

 

鬼龍の口から語られた驚くべき話、車内が静まり返る。鬼龍の様な人間が揺るぎない事実として語ればこの様な内容にも説得力が生まれてくる。

 

だから道元も和香も否定する言葉は言わなかった、だがその代わりになんと言っていいのかも分からない。

 

 

「そ、そんな奴がなんでこの大会に…」

 

「言っただろう、戦闘能力に優れた個体や集団を選別して標的にする事もあると、隠れ潜む場所の多い山奥で強い者を選び抜いて戦い合わせるこの状況、成る程奴からすればうってつけの狩場だ」

 

「道元、お前の金稼ぎの大会はめでたくコイツの目に止まり、見事選ばれたということだ、良かったな」

 

「ば、馬鹿な、そんな事が…!」

 

 

鬼龍はずっとモニターの画面を見ている、その先では丁度、怪物がわざと憙一に技をかけさせて捨て身の攻撃を決行した瞬間だった。

 

互いに未だ健在、しかし鬼龍には疑問があった。

 

 

「妙だな、生き残りの話によればコイツらは人類を上回る文明の武器を使用する筈」

 

「光学迷彩や鋼鉄を切り裂くブレードを何故使わない、何故あえて不利な無手の格闘戦にこだわる」

 

「透明になる迷彩と腕から飛び出す刃物なら最初現れた時は使っていたんだ」

 

「ほう、肩に装着しているという未知の重火器は?」

 

「うぅん、そんな物は付けてなかったと思う…」

 

「そうか、ブレードを使わないのは何故だ」

 

「分からない、戦いの途中でキー坊の攻撃がヒットして、恐らくダメージを与えた筈、その時から奴も素手で戦い始めたんだ」

 

「まるでキー坊に合わせるみたいに…」

 

「成る程…合わせる、か、興味深いが残念だ」

 

「え?」

 

「時間切れだ、横槍が入る」

 

「…?どういう意味だ、鬼龍?」

 

 

その答えは鬼龍の口からではなく、車内の外からやって来た。突然、3人の乗る車のドアが開け放たれ、怒号の様な言葉が投げかけられる。

 

 

「車内にいる全員、大人しく出ろいっ」

 

 

黒ずくめの人影が外から言い放つ、動きを阻害しづらい、それでいて刃物や銃弾からできうる限り身を守れる、軍用のアーマーを全身にまとった男、その手には物々しい自動小銃があった。

 

 

「なにっ」

 

「なんだあっ」

 

「ふん、随分と速い到着だな」

 

 

道元と和香が半ば無理やり車から引きずり出される、そこには同じ様に自動小銃で武装した特殊部隊がずらりと並び和香達を拘束する、よく見れば大会を管理していた者達も同じ様に拘束されている。

 

 

「な、何なんだ…」

 

「何者!?」

 

「おいっ、お前!お前も言う通りにせんかあっ」

 

 

一人の隊員が自動小銃を向け、未だ堂々と、脅威など何処にもないと言わんばかりに葉巻をくゆらせ車内でくつろぐ鬼龍に警告する、それでも鬼龍は不遜に冷笑するだけで立ち上がりはしない。

 

 

「犬に指図されて言う通りにする人間はいない」

 

「貴様…っ」

 

「クソみたいな目に遭いたくなきゃ止めておけ」

 

 

その隊員を制止する声、武装した面々の後ろから一人の男が現れる。短く狩り揃えた髪、無精髭を生やした目つきの悪い男、怒りを覚えていた隊員はすぐに姿勢を正して横にそれる、上官に対する動作。

 

 

「上官!」

 

「このクソ野郎は今からぶっ殺すクソ怪物に負けず劣らずの怪物クソ野郎だ」

 

「ククク、わざわざ合衆国から日本まで出張か、ブライアント捜査官、再会のハグはないのか」

 

「クソ鬼龍が…お前のクソみてぇな面をもう一度見る羽目になるなんてな、クソとしか言いようがねぇよ」

 

 

現れた男、ブライアントが鬼龍と睨み合う。鬼龍もまた挑発的な発言を投げかける、互いに旧知であるが二人に友愛の感情は一切存在しない。

 

 

「本当に何が起きてるの…?」

 

「とにかく大人しく様子を見たほうがいいな…」

 

 

鬼龍の出現、謎の戦闘部隊による拘束、その指揮を取っているらしい男と鬼龍は知り合い。連続する状況の変化に道元も和香もついていくことができない。

 

そんな二人にはお構い無しに屍山の状況はさらに変化を続けていく。

 

 

 

 

屍山、5番エリア

 

 

麓で起きた出来事を知る由もない憙一と怪物、その戦いは佳境に入り、終結へと向かい始めている。

 

 

「そろそろ決着といくか」

 

「………」

 

「どうやらただ殺したいだけのババタレではないようやな、しゃあけど危険な輩にはお灸が必要や」

 

「さぁ来い、ワシのとっておきを食らわせたる」

 

 

憙一が宣言と共に構えを解いた、腕を下ろし、顎を引き、片足を半歩前に出す。そうして立つその姿は一見すると無防備、だがその目は真っ直ぐに相手を見据えている。

 

怪物はそれが決して無防備な隙では無いことを気付いている、間合いに踏み込めば今までのどれをも超える最大の攻撃が放たれると直感する。

 

それを理解した上で、猛々しい雄叫びと共に怪物は全速力で憙一に向かって駆け出した。

 

 

「オオオッッ」

 

 

疾風の速度で加速、そして飛び掛かる様に力強く跳躍した。一瞬にして憙一を遥かに見下ろす位置へと到達、そして右足は既に構えられている。

 

そして怪物は憙一の頭のある位置から蹴撃を繰り出した、一撃必殺の威力のある、回避困難な超高度の変則的回し蹴り。

 

憙一が見せた灘神影流“鷹鎌脚”、その再現だ。

 

反撃が来るのが分かっているからこその対応し辛い高度からの、拳よりもリーチに勝る攻撃、怪物が一目見ただけで再現した鷹鎌脚は、恐ろしい事に憙一のそれと比べても技として成立している完成度。

 

 

「見た技をすぐに取り込むチャレンジ精神…嫌いやないで、だから最後にもう一つ見せたる」

 

「極限究極、入神の打撃をなあっ」

 

 

怪物の鷹鎌脚が迫り、遂に憙一の間合いに侵入するかというその瞬間、憙一の右足が強い震脚で地面を震わせた、激しいエネルギーが地面を波打つ。

 

 

「!!」

 

 

そして怪物は感じ取った、その瞬間起きたことは、目には見えなかった。速すぎたのか、それとも見える形が存在しなかったのか。

 

ともかく怪物は感じ取った、余りにも強いエネルギー、巨大な握り拳の形をしたそれが憙一の震脚からの突き出した右腕から放たれたのを。

 

 

「これが“幻突”じゃあっ」

 

 

気付けば怪物は吹き飛ばされていた、回避も防御も間に合わない。何が起きたのかさえ理解不能、憙一の突き出した右腕はどう考えても飛翔する怪物を迎撃するにはリーチがまるで足りないはずだった。

 

 

「……ゥ…!」

 

 

だと言うのに攻撃を受けている、それもただの殴打ではない。背後から丸太で激しく殴打された時よりも遥かに強烈な衝撃が肌と筋肉を貫いて響く。

 

攻撃に意識が集中したその瞬間、肉体から完全に防御の意が消える一瞬を超えた一瞬、その間に打ち込まれた攻撃は決して躱すことも防ぐことも出来ないのだと怪物はその時理解した。

 

 

「どうや、丁度いいお灸になったやろ」

 

 

幻突、極限究極にして入神の打撃と呼ばれる秘技。灘神影流、幽玄真影流の双方に伝わる秘奥義、長い歴史の中で修めた者はごくごく僅か、その理由は習得には先天的に発達した極めて稀な剛脚が必須という事。

 

強い震脚から派生する幻突、突き出された拳は腕そのもののリーチを超え、理屈を超え、法則を超えて力の奔流となって敵を討つ。

 

長射程かつ不可視の一撃必殺、死闘の際にて数多の強敵を打ち倒した憙一の最終奥義。

 

 

「ゥ…バウッ…」

 

 

吹き飛ばされて仰向けに倒れた怪物、口からゴフッと肺の中の空気と共に真緑色の吐血が噴き出す。どんな打撃もまるで意に返さなかった怪物の甲殻表皮の上から内臓にまでダメージを届かせる。

 

すぐには起き上がれなかった、まさか真正面からも肉体を破壊されるとは思ってもみなかった。

 

 

「悪いのぉ、アンタめっちゃタフやし」

 

「殺すつもりで打ち込ませてもらったで、案の定まだ生きとる、失神さえせんのは予想外やがな」

 

「にしても…緑の血か、どうやらホンマにお前は人間やない怪物みたいやのお、宇宙人か何かか…」

 

 

「………」

 

 

憙一が怪物に数歩歩み寄る、少し俯いたその顔の表情は人外を前にした嫌悪や忌避感に歪んだものなのか、上げられた顔はそうじゃなかった。

 

 

「まっ、そんなんどうでもええんやけどな」

 

「!」

 

 

その顔に嫌悪も侮蔑も存在しなかった、ただそこにあるがままを見て受け入れ認める様な目。

 

 

「人間だろうとそうじゃなかろうとどっちでもええやん、強き者か?弱き者か?戦いの場ではそれだけや」

 

「お前が戦いにプライド持って挑んどる事は伝わって来た、真剣に、対等に命を掛けて戦り合おうとしとる事はワシにも分かった」

 

「ただ命を奪う以上の意味を戦いに求めとる」

 

「………」

 

「しゃあけどあんな酷いやり方で殺しまくるのはアカンわ!そもそも道元が知らんってことは大会への参加資格ないヤンケ」

 

「って…人間じゃない奴にワシらの道徳やルールを説いても御門違いかもしれんのお…しゃあけど…」

 

「おっ?」

 

「……!」

 

 

怪物が蹌踉めきながらも立ち上がった、ガクガクと揺れる膝を手で押さえつけ、杖をつくようにしてやがて立ち上がる。

 

口元の血を拭い、再び闘志の燃える目で憙一を睨む。

 

 

「…本当にめちゃくちゃタフやな」

 

「まだまだやれるっちゃうんかい、よぉし!そんなら気の済むまでやったろうやないけ」

 

「来いやあっ、お前の気合いと根性見せてみいっ」

 

 

「オオオオッッ」

 

 

怪物が腕を広げて天に向かって咆哮する、求めていた闘争と好敵手に出会った喜びと無限に高まる闘争本能がダメージを掻き消していく。

 

バッと顔を憙一に向き直す、両者は再び胸躍る純粋な闘争を繰り広げる、そう思われた。

 

 

屍山に、パァンという鋭い銃声が鳴り響いた。

 

 

「なにっ」

 

「………ッ」

 

 

怪物が、胸から真緑の血を流してゆっくりと倒れた。

 

 

「死亡確認しろっ」

 

「はっ」

 

 

すると怪物がうつ伏せに倒れた瞬間、近くの木々や草むらに隠れ潜んでいた全身アーマーの特殊部隊が飛び出した。

 

自動小銃を片手に上官の命令で倒れた怪物を取り囲む、そして慎重に銃口を向けながら躙り寄る。

 

 

「なんじゃあ、おどれらは!」

 

「動くな」

 

 

突然の乱入に当然のこと反応した憙一にも数名がその銃口を向ける、そしてその後ろから先程命令を下した上官であろう男が話しかける。

 

 

「下手な真似するなよ、宮沢憙一」

 

「お前は…」

 

「クソみてぇな仕事をややこしくしたくねぇからな」

 

「確か鬼龍とつるんで麻薬王だかを追っていたアメリカの…ブライアント捜査官!」

 

「クソ鬼龍の名前なんて出すんじゃねぇよ、と言いたい所だが…残念ながらそのクソ野郎も来ている」

 

「え?」

 

「久しいな、憙一」

 

 

そしてそこにコートを風になびかせて鬼龍も現れる、ここで出会うとは思ってもみなかったかつての宿敵を前に憙一は驚愕する。

 

 

「お前は…鬼龍!」

 

「道場経営にかまけて腕が衰えているわけではないようだな、ひとまず安心したと言っておこう」

 

「そうか…鬼龍、お前がここで出てくるって事はさては全部お前の仕込みかい」

 

「この大会もこの化け物も、道元にええように命令してワシを連れてこさせまたちょっかい代わりに戦い合うよう仕組んだとかそのあたりやろ」

 

「ククク、そう思うか?憙一よ」

 

「哀しいな、俺が他ならぬお前にそんな真似をすると考えているのか」

 

「ボケーッ、自分のしてきたことを思い出してみぃっ、ニヤケ面で何をぬけぬけと言うとるんじゃあっ!」

 

「では憙一よ、もし俺が仕組んでいたとしたらお前は一体どうする?俺とやり合うか?」

 

 

鬼龍が剣呑な気配を放つ、それは憙一を試しているようにもからかい嘲笑っているようにも見えた、そして苛立ちを隠さないブライアントが割って入る。

 

 

「このクソ鬼龍が、喧嘩するのは勝手だがこれ以上話をややこしくするんじゃねえよ、お前だってこのクソ怪物を長年追いかけてきたんだろうが」

 

「えっ」

 

「ネタバラシが早いぞ、ブライアント、だがまぁ良いだろう、そろそろ説明があってもな」

 

 

「! キー坊!」

 

 

その時、特殊部隊に連れられて道元と和香もその場に姿を現す。憙一の無事な姿を見ると和香は安堵の声を上げて近付いていく。

 

 

「和香ちゃん!あと道元…はどうでもええが」

 

「おいっ、キー坊!それはないだろうっ」

 

「それよりコレは一体何事や、なして米国の特殊部隊が日本の山奥なんぞにゾロゾロと」

 

「それが突然鬼龍が現れたと思ったら続いて連中も現れたんだ、ま、まさか…私の違法ビジネスが…」

 

「はんっ、調子に乗るなよ、クソ金貸しが」

 

 

態度も口も悪いブライアントが悪い目つきで言う。

 

 

「お前みたいな金があるだけのクソブタを合衆国がわざわざ追うわけねぇだろ」

 

「ほんなら…やっぱり目当てはアイツかい」

 

 

憙一が倒れ伏して動かなくなった、先程まで自分が戦ってた怪物を目線で指し示す。ブライアントは答えの代わりに舌打ちをして顔を歪める。

 

 

「全部説明してやれ、ブライアント」

 

「心配するな、憙一もアレが人間じゃない怪物だと言うことは気付いている、他の二人にも俺が説明してやった、親切にもな」

 

「クソ鬼龍が…!我が国の機密事項を盗み見るどころか無関係の人間にべらべら話すなんて何処までクソ野郎なんだてめぇは」

 

「ブライアント捜査官、死亡確認しました」

 

「ターゲットの心肺、生体反応は完全に停止、死亡しています、予定通り運びますか?」

 

 

怒りに目を血走らせるブライアントに駆け寄った部下の隊員が告げる、ブライアントは深いため息とその後に大きな舌打ちをして、嫌々仕方なくといった様子全開で憙一らに説明することにした。

 

 

「あぁ、コイツの装備を回収するのも忘れるな」

 

「ついてこいクソ共、望み通り説明してやる」

 

「最初に言っておくが、これから聞いたことをべらべら喋りやがったらぶっ殺すからな」

 

 

そうして憙一達は特殊部隊に囲まれながらブライアントの後に付いていくこととなった、憙一はその間、数人の隊員に運ばれる息絶えた対戦相手の姿を見つめていた。

 

 

 

 

「さて、何処から話してやろうか」

 

「全部や、何から何まで教えんかい」

 

 

屍山麓、大会運営チームのテントがあった場所に移動して憙一、和香、道元、鬼龍ら四人はブライアントから説明を聞く。

 

 

「あの怪物の正体、お前らがそれを追う理由、なんでこの場に現れたと分かったのか」

 

「たっく…一度に何度も質問するんじゃねぇよクソが、まぁ良い、クソほど丁寧に教えてやるよ」

 

「お前のおかげで奴を損害無く始末できたからな」

 

「けっ、人の戦いに茶々入れていけしゃあしゃあと…」

 

「まぁそこの二人は既にクソ鬼龍から大体聞いてるんだろう、迷惑な事によ」

 

「あ~、その、まぁ…」

 

「は、話すだけ話してズドンッなんてしないよね?」

 

「黙って聞きやがんねぇならそうしてやる、さて…説明すると言ったがお前の想像と恐らくそう変わらねぇ、宮沢憙一」

 

「奴は殺人と戦いが大好物のクソエイリアンだ、一個体の趣向じゃなく種族全体の性質として他の星の生き物、つまり俺たち人間への狩りを好むクソ生物」

 

「クソほど文明は発達してるってのに中身は残忍クソ野郎、そんな奴に突然襲われて生き残れる奴なんて殆どいない」

 

「奴らの存在をアメリカが初めて認識した時、犠牲になった特殊部隊は正しく映画に出てくるような選りすぐりのスーパー・チームだった」

 

「その次のロサンゼルでの出現の際もそうだが…最終的に遭遇した個体は始末できたがそれで奴らの脅威が去った訳じゃねぇ」

 

「情報が必要なんだよ、奴らの装備、検体は生きていても死んでいても構わない、だから決して公開はせず、しかし次に地球の何処かで連中が現れたらすぐさま対処できる様に常にアンテナは貼られていた」

 

「それにこの大会が引っ掛かったってわけか、しゃあけど不思議やな、途中で打ち切られた中継を見てすっ飛んできた、にしては来るのが速すぎるやろ」

 

「奴の姿が中継されて数時間も経ってない、まるで最初から奴が現れるのが分かっていたみたいやナイケ」

 

「予測はついていた、そうなんだろ?ブライアント」

 

「…まぁな」

 

 

ブライアントがこれも渋々と部下に目配せをし、何枚かの資料を手に取る、それを簡易的なパイプ椅子に座る憙一達の目の前のテーブルに投げ渡した。

 

 

「コレは…何かの事件の資料か?」

 

「今から一週間前、ここ日本で起きた事件だ」

 

「クソみてぇな大量猟奇殺人事件、本当なら一面を飾り連日報道されるだろうが圧力を掛けてそれは封じた、公表はされてない」

 

「見てもいいが吐いたりクソを漏らしたりすんなよ」

 

 

ゆっくりと憙一がページを捲る、ゴクリとツバを飲む音、そして顕になった資料の写真は正しく凄惨極まる悍ましいものだった。

 

 

「ううっ…!」

 

「こ、コレは…」

 

「……!」

 

「お前も既にその目で見たんだろ、宮沢憙一」

 

「連中のやり方だ」

 

 

そこには無残に殺害された人間の写真が大量に貼られていた、全身の皮を剥がされ、内臓を抜き取られ、仕留めた動物をジビエに加工する際の解体さながら。

 

そんな惨い残死体が何処か建物の中、鎖や紐、中には解体されたその者の内臓で縛られ吊るされている。

 

 

「志摩金一家、それなりの規模を持つジャパニーズ・マフィアの事務所が襲撃された」

 

「何でも近々対立した半グレ組織と一発抗争を起こそうとしてたらしい、クソほど武器を用意して準備してた矢先…」

 

「奴が現れた、と?」

 

「そうだ、武器を運び込み、殺気立ったクソ野郎共…連中はそう言った抵抗する力と気概のある獲物を何より好むそうだ」

 

「見事に皆殺しだ、真っ二つになった奴や身体の半分を消し飛ばされた奴、原型が殆ど残ってねぇ肉片もあった、報告に遭ったプラズマ・キャノンだ」

 

「奴らは気に入った獲物によって殺し方を変えるらしいな、自分を楽しませた獲物は皮を剥いで吊るす、より強いと認めた獲物は…」

 

「え、獲物は…?」

 

「脊椎ごと頭蓋骨を引っこ抜いて持ち去る、ハンティング・トロフィーって事だよ、全くクソ悍ましいクソ野郎だぜ」

 

「……成る程、そういう事かい」

 

「ちなみにだが殺された連中と対立していた半グレ共だが…そいつらも同じ様に殺されてたよ」

 

「似ているな、ロサンゼルスの時と」

 

「つまりブライアント、お前達はこの事件を知りすぐさま奴らが現れたと確信した、報道規制を命じ部隊を派遣、次に奴が現れそうな場所を徹底的に予測」

 

「その結果、候補に挙がったのがこの大会というわけか、確かに状況的には最初に確認された南米のジャングルと少し似ているしな」

 

「相変わらずクソムカつくが察しはいいな、そうだ鬼龍、最もお前とその一族が関わってたなんて予想外だがな、全く良かったよなあ、お前もずっと興味を持っていたんだろうが」

 

「まぁな、どれほど恐ろしい怪物なのか、一度試してやりたかったが、少し遅かったようだ」

 

「へっ、甥にチャンスを奪われたな、お前なんか奴と相討ちにでもなってくたばってくれりゃあ最高なんだがな」

 

 

「…さてと、話は終わりだクソ野郎共、俺は今からあの忌々しいクソ怪物の死体を届ける仕事がある」

 

 

ブライアントがふてぶてしく椅子から立ち上がり、部下たちに目配せで命じ辺りの資料や自分達がいた痕跡を片付けていく。

 

 

「これにて解散だ、もう一度言うぞ」

 

「成り行きで話してやったがもしここで聞いた事を誰かに話しやがったらお前らも聞いた奴も始末する」

 

「それじゃあな、もう会うことはない、特に鬼龍、お前の面は二度と見たくねぇぜ」 

 

 

ブライアントが立ち去ろうとする、突然の展開に次ぐ展開、憙一達は何を言ったら良いのかまだ分からずにいた。

 

 

「…なんや釈然としない終わり方やのお、結局解決したとも言い切れんし、ええところやったのに横槍入れられて終わりや」

 

「ウム…私の興行もこれでは大失敗だ」

 

「まぁ…命があっただけ良かったんじゃない?もしかしたらあの場で消されてたかも」

 

「…………」

 

「ん?どうしたんや、鬼龍、黙りこくって」

 

「……いや、何でもない」

 

 

不満げな憙一、失意の道元、安堵する和香、そして鬼龍は何やら無表情で考え事をしているのか、静かに虚空を睨むように押し黙っていた。

 

ともかく一連の騒動はこれで終わりなのか、ブライアントがテントを後にしようとしたその時、慌ただしく飛び込んできた一人の隊員が大声で叫んだ。

 

 

「大変だあっ、か、怪物が…」

 

「怪物が蘇って逃走したあっ!!」

 

 

硬直する面々、停止する空気。一連の出来事にはまだ続きがあると、その時その場の者は理解した。

 

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