TOUGH ハンティング・ファイト   作:ポジョンボ

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7,第二の出現

 

 

「大変だあっ、怪物が復活して逃げ出したあっ」

 

 

飛び込んできた隊員が叫ぶ、その言葉に誰よりも速く反応したのは隊を率いるブライアント捜査官。

 

 

「なんだとっ」

 

「死亡は確認したんだろうがっ、どうなってる!?」

 

「はいっ、心肺、脳波共に停止していました、しかし…気付いた時には乗せた車両から逃走していたんです!」

 

「負傷者二名、見張りをしていた者が背後から昏倒させられていました、内一人は重傷です!」

 

「…ッ クソがあっ」

 

 

ブライアントがすぐさまテントから飛び出していった、明らかな緊急事態、憙一達の事などもはや認識の外、その場の四人は取り残される。

 

 

「アイツが…蘇った?」

 

「そんなバカな、ライフルで胸を撃ち抜かれていただろう、幾ら本物の怪物と言えど…」

 

「いいや、道元、アイツならおかしくないで」

 

「ううっ、戦ったキー坊が言うなら真実かもしれんが…兎も角それなら私はもう帰らせてもらうぞ、大損した上にこれ以上関わると更に悪い状況になりそうだ」

 

「いやちょっと待ってよ、話が本当ならあの怪物が山の中に潜んでるってことでしょ?下手に動くのは危ないんじゃ」

 

「あっ、た、確かにそうだ…」

 

「ん?おい鬼龍、何処に行くんや」

 

 

鬼龍が無言のままブライアントの後を追う、疑問に思った憙一に鬼龍は当たり前の事だといった様子で平然と答えた。

 

 

「奴がまだ生きているなら当然追い掛ける」

 

「国家のエイリアン狩りに首を突っ込むつもりか?相変わらず問題ごとを起こすのも関わるのも大好きなようやな」

 

「そう言うお前はどうするのだ憙一、奴は生きている、戦いはまだ終わっていない、だと言うのに大人しく寂れた道場に帰るのか?」

 

「……ふん、確かに不完全燃焼だったところや」

 

 

そう言うと憙一も立ち上がり、ブライアントと鬼龍の後に続こうとし、和香と道元は動揺する。

 

 

「えっ、キー坊も行くの?」

 

「これも何かの縁…と言うにはちと状況が異常やが…ここまで関わってハイ終わりも変やろ」

 

「し、しかしだな、キー坊…」

 

「安心せぇ、事の成り行きを見届けるだけや」

 

「…まぁしょうがないか、ここまで知った以上もう何を見ても大差ないよね、分かったよ、キー坊、私達はここで待ってるよ」

 

「えっ、お、おい待て、キー坊、私を警護してくれっ、金なら幾らでも払うから…」

 

「おうっ、それじゃあちょっと行ってくるわ」

 

 

道元の言葉をまるでないものとして無視し憙一もブライアントと鬼龍に続いてテントの外へ、和香はその場で待機、別れて行動を開始した。

 

 

 

 

そしてテントの外、怪物の遺体を運び込んだ車両の前。ブライアントと部下の隊員が集まっている、ブライアントの額は怒りでミミズ腫れの様に血管を浮かび上がらせる。

 

 

「クソが、マジで逃げ出してやがる…!」

 

 

万が一の事態に備えた防弾仕様の装甲車、運転席と助手席以外の後方は捉えた、或いは殺害した怪物を運び込むためにスペースが作られている。

 

そこにいるはずの怪物がいない、死体を包み込むチャック付きの袋はファスナーごと引き裂かれ、鍵のかかった後部のドアは内側から力づくで破壊されている。

 

怪物に襲われた見張りがブライアントの横を担架に乗せられて救急設備の用意された車両に運び込まれる。

 

 

「見事にしてやられたな、ブライアント」

 

「クソ鬼龍…てめぇまだ居たのか」

 

「ふむ…それにしても一時的な心肺停止から救命処置も無しに活動を再開するとは大した生命力だ」

 

「恐らく撃たれる直前で重要な臓器を逸したか」

 

「なにをクソ冷静に分析してんだっ、クソ部外者が任務に首を突っ込むんじゃねぇよっ」

 

「首を突っ込む?帰れと言われたから帰るだけだ、“少し辺りを散歩”してからな」

 

「勿論、お前たちの事情など知る由もないが…散歩の途中で妙な輩に出くわせば反撃ぐらいはするだろうな」

 

「何処までもムカつくクソ野郎が…てめぇなんぞ頭蓋骨引っこ抜かれてくたばっちまえ」

 

「鬼龍!どんな状況や」

 

「憙一か、見ての通り、もう立ち去った後だ」

 

 

ニィと不遜な笑みを浮かべて堂々と嘘を吐く鬼龍と駆け寄ってきた憙一、部外者二人に怒りを強めながらブライアントは舌打ちをする、そこにまた別の部下から報告が入る。

 

 

「ブライアント捜査官、回収したターゲットの装備を確認しましたが持ち去られた物はありません、恐らく息を吹きかえした後、逃走したのみかと」

 

「そうか、不幸中の幸いだな」

 

「幾らクソ頑丈な化け物でも胸を撃ち抜かれて傷を負った身体では装備を回収する余裕はねぇか」

 

「山の奥へと続くターゲットの血痕を発見しております、既に部隊の準備も完了です」

 

「よし探し出せ!奴は文字通り丸裸だ、透明化もブレードもプラズマ・キャノンも自爆の心配もない、今度こそぶっ殺してやるぜ」

 

「「はっ」」

 

 

ブライアントの号令で隊員達が動き出す、それぞれ少数で隊を組み、それぞれ屍山の散策を開始した。

 

そして鬼龍と憙一はその会話を盗み聞きしていた。

 

 

「聞いたか憙一、透明化は装備の力だそうだ」

 

「おぉ、なんや自爆するとかも言ってたな」

 

 

本来知り得てはならないのだと釘を差したにも関わらず堂々と盗み聞く二人にブライアントの怒りが遂に沸点に到達、こめかみの血管がビキィと音を立てる。

 

 

「てめぇ等は…本当にぶっ殺してやろうかあっ」

 

「ククク、落ち着けブライアントよ、言い触らすなんて無粋な真似はしない、任務の邪魔もな」

 

「当たり前だクソ野郎が!」

 

 

ブライアントはそのまま部下たちと一緒に怪物を捜索しに山の中へと戻っていってしまう。

 

 

「さてと…これでアイツも一巻の終わりやな」

 

「そう思うか、ブライアントが奴を仕留めると」

 

「あぁ、アイツの残した残気がある」

 

 

憙一と鬼龍の目には常人には見えないものが見えていた、それは武術に置けるいわゆる気の概念。足跡、臭跡と言った五感で認識できる形跡以外のもの。

 

そこにいた人間の残した気を探り、そこで何が行われていたかを朧げながら知る術を二人は知っていた。

 

 

「ふむ…確かに弱りながらも逃げているな」

 

 

その目には半透明なオーラがあの怪物の姿を持って浮かび上がる、ドアをこじ開け、見張りを一撃で失神させる、胸元を手で庇いながら山奥へと逃げていく。

 

 

「気が薄い、戦り合ってた時とは見る影もないわ」

 

「見つかるのも時間の問題」

 

 

残気で浮かんだ風景を辿り、怪物の真緑色の血痕を発見する憙一、蛍光塗料の様なそれは草木の上でも目立っている。

 

 

「確かにアイツなら装備が無くともこの山の環境を利用して武装した特殊部隊にも勝てるかもしれん、しゃあけどそれは万全の状態ならの話」

 

「今ブライアントの部隊に見つかったら恐らく勝ち目は無い、殺されるか、連れてかれて実験三昧や」

 

「ほう、戦った相手に対してお前にしては冷静な判断だな、予想には概ね同意だが良いのか?」

 

「アイツを放っておいて、か?」

 

「正直どうしてええかワシにも分からん、このまま死にかけのアイツに何もしないのは見殺しにするみたいで確かに嫌ではある」

 

「しゃあけどアイツは弱ってる所を狙われて殺されても文句の言えん様な惨い真似をしてきた、だが同時にアイツに悪意は無い事も戦って分かった」

 

「ブライアントの言った事が事実なら、戦いの果てに相手を殺して死体を解体するところまでアイツの流儀であり敬意って事なんやろが…それでも殺人は殺人」

 

「ワシらの持つ道徳とか倫理とか善心とかとは全く別の場所にアイツの考えはあって、正直どんなふうにアイツを推し量って良いのか分からんわ」

 

「可哀想な被害者とは全然思わんが、このまま獣の様に無情に狩られるのも何処か納得が出来んのや」

 

 

憙一が複雑な心中を語る、強き者への尊敬の念を一度は覚えたほどの相手、このまま見殺しにして良いのか、かと言って助けてどうなるのか、それが正しい事なのか。

 

鬼龍はそれをニヒルに口元を歪ませ一笑に付す。

 

 

「偽善者は考える事が多くて苦労するな」

 

「けっ、別にお前に共感して欲しいとは思っとらんわ、それにアイツが死にかけなら戦いたかったお前の望みも叶わんやろ」

 

「そうだな、死にかけか死体か、どちらにせよもう俺の相手になる事はないだろう」

 

「“あの個体”は、な」

 

「…?どういう意味や、鬼龍」

 

 

鬼龍の不穏な薄笑いと含みを持たせた意味深な発言、憙一はこれに覚えがあった。鬼龍が憙一やその父であり鬼龍の兄弟である静虎といった灘神影流の一門を厄介事に巻き込む時、この様な顔を見せる。

 

 

「もしかすればこの一件…ブライアントが奴を仕留めて終わり、とはならないかもしれんぞ」

 

「何言ってるか分からんわ」

 

「ウム…ブライアントの手下が奴から回収した装備は確かあの車両にあったな」

 

 

怪訝な顔をする憙一、そして鬼龍が何を思ったか押収された怪物の装備がある特殊部隊の車両に近付いた、するとすぐさま見張りの為に残されていた二名の隊員が反応する。

 

 

「貴様ーっ、何を近付くかあっ」

 

「犬は黙って寝ていろ」

 

 

自動小銃を向け警告するが鬼龍はまるで止まらず接近、その引き金に力がこもった瞬間、空気を震わせる空砲のような音が響いた。

 

ブライアントの部下が銃を撃つより先に宙を舞う、鬼龍の高速不可視の打撃によりわけも分からず一撃で失神。

 

鬼龍の最も得意とする打撃の技、“霞打ち”。超鞭打ちを独自に改良発展して生み出された鬼龍の霞打ちは音速さえも時に超える。

 

 

「ボケーッ、何をしとるんじゃあっ」

 

 

正気を疑う鬼龍の突然の蛮行、憙一も鬼龍とはまるで予測のつかない人間だと理解はしていたがこの行動には流石に驚愕する。

 

 

「少し眠ってもらっただけだ」

 

「ブライアントの奴、後でホンマにワシらのこと殺そうとするんちゃうか…」

 

「さて…これが奴の装備か」

 

 

誰もいなくなった軍の車両を不遜に物色、押収された装備を見つけ出した。それを前に鬼龍は無言で何かを確認する様に一つ一つ手に取り見ていく。

 

 

「これで全てか」

 

「結局何が言いたんや鬼龍」

 

「見ろ、ブーツに腰巻き、それと仮面、このガントレットがブレードに透明化や自爆といった機能を備えていると考えられる」

 

「しかし最も強力な武装であるはずのプラズマ・キャノンがここにはない」

 

「プラズマ・キャノン?そう言えばブライアントもそんな事を言ってたな、なんやそれは」

 

「過去に連中から生き残った者のレポートには肩に装着した砲身から未知のエネルギーの様なものを発射して爆撃を行う武装について記されていた」

 

「そんなもん、アイツは使ってなかったで」

 

「そうだ、それが気になったのだ」

 

「思い出してみろ、ブライアントがこの大会に目をつけた理由、猟奇殺人事件の話を」

 

「殺されたヤクザや半グレ共の中にはそのプラズマ・キャノンで殺害されたであろう死体があった、と」

 

「まさか…鬼龍、お前が考えていることとは」

 

「あぁ、あくまでも可能性だが…」

 

 

鬼龍が思い至ったその考えは杞憂でないとしたら果たしてどの様な事態を招くのだろうか、屍山の森の木々や草木は不穏な風にざわめき不気味に揺れていた。

 

 

 

 

屍山、大会の為に用意されたエリアのさらに奥深く。

 

古代から現代まで殆ど手つかずのまま残った自然の只中、そこに血を流した怪物はいた。

 

 

 【運が良かった】

 

 【アレは恐らく貫通力を重視した火器だったのだろうが…爆発やより広範囲の損傷を伴う類の攻撃だったら確実に死んでいた】

 

 

胸から真緑の鮮血を流す怪物、戦いの最中に突然の銃撃。その瞬間に怪物は鬼龍の予想通り、生命活動に不可欠な臓器を破壊されぬよう身を逸らしていた。

 

だが胸を撃ち抜かれたのに変わりはない、心臓などが無事だからといってそれで死なないわけではない、実際に怪物の心肺も脳波も一度は停止した。

 

 

 【死もまた狩りの名誉とは言うが、死んでないのなら狩りはまだ終わっていない、どうやらまだ戦うのを許されているようだ】

 

 【あの集団は恐らく我らで言う所のクリーナーと似たような役割の存在だと考えられる】

 

 【目的は間違いなく私の抹殺、すぐにでも血痕を辿りここまで辿り着くだろう】

 

 【武装は無し、仮死状態の際に全て押収された、あの場にあった移動用の乗物に運び込まれていたな】

 

【この状態ではあの場で回収するのは不可能だった、見張りが二名、他にも近くに控えていた】

 

 【だが今は此方の索敵に戦力の殆どを割いていると考えられる、優先すべきは武装の奪還、或いは破壊】

 

 【この場を切り抜け再びあの場にたどり着く、武装を取り戻して奴らを狩るのが不可能であれば…】

 

【ガントレットの自爆装置を作動させ装備がこの種族の手に渡る前に隠滅する】

 

 

怪物は冷静に思考する、ガントレットの自爆装置を起動させるということは近くで操作している自身の死亡は避けられない、それでも躊躇うことはない。

 

ガントレットの自爆装置とは、敗れた際に他種族がその星を訪れたという証拠を隠滅し、同時に生き恥を晒す事無く散る名誉を守る様な意味もある。

 

怪物はこの手傷であの部隊を切り抜けるのは不可能だと、半ば考えていた。たとえ切り抜け装備を取り返したとしても反撃し勝利する余力はないだろうということも分かっていた。

 

その場合は自爆装置を起動させる、つまりどう転んでも生存の余地のない状況。

 

 

 【最後に今一度戦えるなど何たる幸運か】

 

 【装備も無く、弱り切った非力な身体、武器も数も敵の方が上回るこの状況…弱者としての戦い】

 

 【初めての体験だ、望む戦いに出会えただけでなく、生の最期に新たな闘争に身を置けるとはこれ以上ない幸運、これ以上ない名誉】

 

 

その絶望的な状況もこの怪物にとっては絶望にはならない。戦いの中に置いて死とは恐怖ではなく、屈辱ではなく、拒むべきものではない。

 

むしろ怪物にとって狩りを果たせず敗れたならば生き残る事こそが恥であり醜態、名誉を損なう最も避けるべき事態なのだ。

 

 

 【素手か、その場で調達した武器で戦う】

 

 【ここで行われていた儀式もその様なものだったな】

 

 【ならばこの星の戦士達の流儀に習い、何処までやれるか最期に試させてもらおう】

 

 

疲弊し、血を流し、四肢からは力が抜け始め、それでも生きている限りは戦いへと赴く、怪物が動き出す。

 

 

 【罠を張るだけの時間もないだろう】

 

 

近くの水溜りから掬い上げた泥水で傷をすすぎ、傷口に落ち葉を当てた上から泥を塗って止血する、人間なら命に関わる感染症に陥る所だが怪物の免疫機能の前では問題ない。

 

 

 【取るべき手段は奇襲、だが光学迷彩は使えない】

 

 【しかしより原始的な方法が残されている】

 

 

怪物は尚も周りから泥を掬い上げ、体に塗りつける。その上から落ち葉を付着させ周囲の景色と一体となる風体へと変化していく。

 

 

 【…近くにこの星の野生獣の足跡】

 

 【失った血を少しは補充できるか】

 

 

音も無く動き出す怪物、木々の上を素早く渡り、高所から標的を発見。二本の角を頭部から生やした四足歩行の獣、まだ怪物に気付いていない一頭の雄鹿。

 

最も近い木に飛び移る、タイミングを見計らい飛び降りると同時に真下の鹿に一撃を加える。

 

弱り切っているとは言え、高所からの落下を加えた首への一撃は呆気なく頚椎を破壊しその命を絶つ。

 

 

 【どの星でも変わらない事がある】

 

 【生き物の新鮮な血液は体を癒す万能食材だ】

 

 

鋭い爪で鹿の首を引き裂く、そして溢れ出た鮮血を口にする。一滴でも溢さぬばかりに飲み干す、少しでも失った血を体内で生成するための栄養を補給する。

 

 

 【……いや、必ずしもそうではないな】

 

 【自らの生き血で相手を殺す怪物もいる、あの忌まわしい黒き者の様に…】

 

 【アレは仕留めた後、頭骨を抜き取るのでさえ注意がいる…頭骨、そうか、コレは使えるかもしれん】

 

 

一つの思い付きと共に血を飲むのは止めず、爪を使って仕留めた獲物の皮を剥いでいく、その過程で角もへし折り、素早く解体していく。

 

 

 【そろそろ来る頃だろう、しかしこれなら出来うる限りの準備は間に合いそうだ】

 

 

皮を剥がし終えると赤い新鮮な生の肉が見えてくる、これも出来うる限りの栄養とするべく口に運ぶ。そして同時に解体も進める、解体が骨まで達するとそれを取り外していく。

 

肋骨、角、へし折った足の大腿骨など、鋭さを持つ武器になりそうな形の骨を採取していく、その場にあった手頃な石も拾って集める。

 

 

 【流石に石を研磨する時間は無い】

 

 

植物の蔓を束ね紐やベルトの代わりに腰や肩に巻く、そこに尖った角や骨を装着。剥いだ毛皮を腰巻きに、余った骨で作った腕当てと脛当てを履く。

 

そして最後に鹿の頭骨を仮面の様にして顔に被る、最初に纏った装備に寄せた見た目は戦術的な意味こそ無いが、最初の鉄で出来た無機質で不気味な雰囲気に対して、生物の素材で作られたその装いはより荒々しく野性的な雰囲気を放つ。

 

最後にそれらの装備も自らの体と同じように泥と落ち葉による迷彩仕様を施していく。

 

 

 【最後の狩りを始めよう】

 

 

怪物とそれを追う部隊の戦いは近付いていた。

 

 

 

 

「気を抜くんじゃねぇぞ、何かあればすぐにでも撃てるように準備しておけ」

 

 

そしてブライアント率いる合衆国の特殊部隊、代表的なSWATから引き抜かれたメンバーも存在する極秘チーム、怪物という種族、つまり対外星人対策部隊が屍山の中を進む。

 

かつてブライアントが鬼龍を利用して裏社会の帝王だった麻薬王とそのカルテルを逮捕する任務に当たった部隊、ブライアントが注意深く部下に警戒を促す。

 

 

「あのクソ怪物は手負いだが、それでも野生の大型肉食獣よりもずっと危険な存在だぜ」

 

「南米のジャングルに現れた時、ミニガンをありたっけぶっ放したにもかかわらず殺せなかったらしい」

 

「傾向から見て逃げるより姿を隠して奇襲してくる可能性が高い、生きたまま捕獲が理想だが殺してもなんら構わねぇ」

 

「姿が見えたら撃て、ただし闇雲には撃つな」

 

「はっ」

 

 

ブライアント率いるチームは屍山の大会主催者達が定めていた戦闘エリアのその先へと足を踏み入れる、木々が生い茂る自然そのものの場所。

 

 

「光学迷彩は使えねぇ、来るとしたら上か下か」

 

「木々の上から飛びかかってくるか、それとも草藪から突っ込んでくるか、投石なんて手もあるかもな」

 

「とにかく全方位を注意しろっ」

 

「「はっ」」

 

 

自動小銃を目線の位置で構えながら前進、動くものあればすぐにでも全員が反応するであろう警戒状態。

 

どれだけその緊張が続いたか、それは不意に破られた、ソレにはやはりブライアントを含めた全員が同時に反応した。

 

 

  あががっ

 

 

「!!」

 

「ブライアント捜査官」

 

「あぁ、聞こえてる」

 

 

ブライアントが止まれとハンドサインを行う、人間の声がした、男の声だ。屍山には自分達と怪物しかもういないはずだがハッキリと木々の奥から聞こえた。

 

近くにいた隊員が小声で話しかけ、ブライアントも声の方向を探りながら同じく声を潜めて答える。

 

 

「大会参加者の生き残りでしょうか」

 

「……いや」

 

「ここは既にあのクソ共が用意したエリアの外だ」

 

 

 

    やめてくれ やめろ  ぼうっ

 

 

「「!!」」

 

「…………」

 

 

    あががっ  ひいーっ殺さんでくれえっ 

 

 

   はようっ はよう来てくれてっ

 

 

      助けてくれえっ

 

 

 

尚も声は聞こえてくる、やはり男の声、恐怖に駆られ慈悲を懇願する様な言葉や、それに続く呆気ない断末魔らしき声、それが静寂の森の中に不気味に響く。

 

 

「コレは…」

 

「あぁ、全員早まるんじゃねぇぞ、アイツだ」

 

 

隊員達の銃を握る手に力が入る、誰かのツバを飲む音が聞こえる、ブライアントはターゲットが近くにいることを確信し、同時に内心で激しく動揺していた。

 

 

(…クソが、どうなってる)

 

(これは報告にあった録音した犠牲者の声を利用した誘き寄せに違いねぇ、だがそれはあのマスクに備わった機能だろうが)

 

(取り返された装備はねぇ筈だろ、山の何処かに予備でも隠してたか?クソ怪物が…)

 

 

(……いやちょっと待てよ)

 

 

心臓の鼓動が僅かに早まり始め、額から汗が滲む。その時、ブライアントは何か閃きの様な感覚を脳裏に覚える、それは気付くことが出来た幸運の様で、その実は絶望へと誘う不幸であるかの様な閃き。

 

 

(装備の予備を山に隠していた…痕跡を消す為に自爆さえしやがるコイツらがそんなマネするか?)

 

(そもそも何かがおかしい、あの怪物について何かを見落としてる感覚がある)

 

(…プラズマ・キャノンが無かった、そうだ、クソ鬼龍のクソ野郎が来やがったんで気を取られてつい見落としていた)

 

(あのターゲットの装備にプラズマ・キャノンは無かった、だがここに来る前にクソヤクザ共を確かにプラズマ・キャノンでぶっ殺してる)

 

(なんで今回は使わねぇ、心情の変化か、或いは……いや、心情の変化…心情の…違い?)

 

(…ま…まさか…奴が再装備したのではなく…)

 

 

 

  ボケーッ はよワシを助けんかあっ

  

     組長が 組長が死んだあっ

 

    あへあへあへ   はうっ

 

 

 

(まさか…)

 

(もう一体…別の…)

 

 

 

    ………………

   

 

   ちいーっ 見破られたかあっ

 

 

 

「「!!」」

 

 

その時、木々の奥から光を反射する何かが高速で飛来した。その場の誰にも反応は出来なかった、ただ何かが光を反射し、音を立て、風を巻き立てたという事だけが集中状態の中で辛うじて認識できた。

 

そして当然それでは対処のしようもなかった。

 

 

「あっ」

 

「えっ」

 

「う…」

 

 

「 う が あ あ あ あ あ あ ! ! 」

 

 

鮮血が飛散した、隊員の一人の銃を構えていた右腕が、構えていた銃ごと、悍ましいほど綺麗な断面を見せて切断された。

 

絶叫と流血、誰にも何が起きたか分からない。まさか高速で飛来した恐ろしく鋭利な円盤状の刃物が腕を切断したなどと、そんな答えに行き着ける者などいるはずが無かった。

 

 

「な、なんだあっ」

 

「クソッ まさか本当に…!」

 

「クソ怪物だ!報告に遭った装備を持っているぞ!」

 

 

ブライアントの怒号を超えた声が響く、その発言を優秀な隊員は理解する、理解したからこそより動揺は深まった。

 

 

「そ、捜査官…」

 

「!」

 

 

一人の隊員がブライアントに呆然とした様子で話しかける、この状況ではあり得ない事だが、その放心の理由は絶望から、その理由はその男の胸元にあった。

 

 

「コ、コレって…」

 

 

黒いアーマー付きのジャケット、その上に赤い光の斑点が浮かび上がっていた、三つの小さく赤い点が、三角形を象ってその男の胸に浮かび上がっていた。

 

 

「クソがあっ!」

 

 

次の瞬間、ブライアントが何か指示を出すより速く、男が最後の言葉を話すより速く、屍山の地と空を震わせる大爆発が、男の立っていた場所から起こる。

 

 

屍山の森林、その虚空に二つの光が浮かび上がった。

 

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