カスな人たち 作:かわいいはせいぎ
拙作ですので大目に見てもらえると助かります...
「さびゅい……ひゃやくいえにかえっちぇあっちゃまりたい……」
かんかん照りの夏から人の欲求が解放される秋を飛び越えて到来してしまった冬将軍さん。
押し入れに眠らせていたダウンコートにマフラーを解き放ち重装兵の如く格好で出撃したものの、流石は将軍という名を冠する者といったところか、あっけなく返り討ちに遭ってしまった。
『惨敗兵にやる暖などないわ!』とコートの中のあったか空気さんが強奪され、寒さに追いやれる私が何をしたのだと言うのだろうか。
まさかダウンコートとマフラー以外は軽兵装な夏の装備を身に纏ったのがいけなかったのかと思っていたら、乾ききった冷たい風が吹いてきて全身を身震いさせる。
「こんにゃんだったらはやくじゅんびずるんだった……」
ネットの天気予報で今日から一段と寒くなることを知っていたが、余裕ぶっこいて『冬なんて屁でもないわ!』と、冬支度をあまりせず中指をおっ立ててしまったからバチでも当たったのだろう。
はしたなく垂れ続ける鼻の水をすすりながら、なんだか毎年こんな思いをしていることに耽けつつ、目的地まで歩を進めていく。
日中であるのに太陽は雲に隠れて顔を出さず、冬の静かさを感じさせる風景を生み出している。
それに呼応して夏にはすれ違っていた人々も数を減らし、片手で数えられる程度の人としかすれ違わなかった。いや、単に人々の退勤ラッシュの時間から労働中の昼間に変わっただけである。
「やっちょみゅえてきた……」
悴んだ足で歩くこと約七分、見慣れたコンビニがようやく目前に現れる。
少し前に建ったためか、全体的にくすんだ感じの色を醸し出しており、駐車場のコンクリートには幾つかのヒビとその間からひょっこりと生えてきた雑草が放置されている。
周辺に競合店が立ち並んだせいもあってか店へと向かう客足は疎か店に止まっている車すら私を除いて存在していない。
そんな廃れてしまったお店に救世主は生まれたての小鹿の脚で入店する。
「さにゅさにゅ……オウフ♡」
するとどうだろうか、お店の自動ドアの開閉に合わせて冷え切った身体を溶かす温かな風が襲ってきたではないか。
これには幾千の戦場を駆け抜けてきた私ですら声を発してしまった。
「……あ、いらしゃいませ!」
絶対外で漏らしてはいけない声を出してフニャフニャの状態になっていると、この店には勿体ないぐらいの若々しく元気な女子の声が聞こえてくる。
名前も年齢も知らない子だが、来るたびに毎度顔を合わせるから、大学生なんだろうなと勝手に思っている。
おそらく向こうも『また来てんな』程度には認知されてるはず、いや認知しろ。
緩んでいる表情を引き締め、いつも買っている安酒をしこたま手に取って女子店員さんのいるレジへと向かう。
「商品お預かりします。あといつものでいいですか?」
「おねがいしまーす」
『分かりました!』と笑顔で返してこちらに背を向ける店員さん。
いつも思ってるんですけど、この女子めっちゃかわええんですよ。元気もあって容姿もいいのは反則なんですよ。もうね、このためにここへ通ってると言っても過言じゃねえんですよ。まあ噓なんですけども。
店員さんが『7』番のところから箱を大量に取り出し、それと安酒のバーコードを読み取っていく。そして値段が読み上げられお金を支払い、商品の入ったレジ袋を受け取る。
「ありがとうございます、またおこしくださいませ!」
絶対に元気な挨拶で返してくれる店員の声を背に退店し、とある場所で立ち止まる。
「さむさむ……家まで待ちきれないしここで吸っていきますか」
そこはコンビニに併設されてる簡易的な喫煙所で、冬の乾燥した冷たい風が吹く中、灰皿が日陰者のようにポツンと佇んでいる。
灰皿に寄り添うよう近付き、先ほど買ったタバコを一箱開けて口に加える。
「ライターライター……ってあれ?」
ライターをいつも仕舞っているショートパンツのお尻ポケットを探るも、そこに探し物はなく。
全身に付いてるポケットをくまなく探していると、店の中からこちらを見ている女子店員さんと目が合ってしまう。
数秒ぐらい見つめ合っていると、向こうが視線を少し下げると急に顔を真っ赤にしてそっぽを向く。それに釣られて自分も視線を下げてみると、コートの前が開いており中に仕舞っていたはずのビックサイズシャツから飛び出る我が半乳。
凍え死ぬとは思っていたけど、ライターを探すのに必死過ぎて盲目的になっていたらしい。
中身をコートで閉じて再度ライター探しに前屈みになるとお尻に違和感を覚える。
「この形状は……まさか!?」
毎日握りしめているからこそ分かる、これは正しくライターくんの形。
ポケットにあると思っていたから、ショートパンツとショーツの間に挟まっているとは思ってもいなかった。君を待ち焦がれていたんだよと頬擦りをしても誰も怒るまい。
この寒い中歩いた私へのご褒美、いざタバコへと着火。
「すぅーーー……ふぅ~~~……」
タバコから出てきた煙を口に、そして肺に溜めて吐き出す。
口から飛び出る煙は冬の温度も相まっていつもより白く感じる。
やはりタバコは最高である。
タバコからニコチンを摂取してドーパミンが放出され、無くなればまたタバコからニコチンを摂取してドーパミンを放出。これこそ幸せスパイラルというものである。
ヤニカスお姉さんにとってタバコを吸っている時が一番の至福なのだよ。
タバコ一本というのは意外にも短いもので、幸福に浸っているといつしか巻紙部分が無くなり、後に残ったのはフィルター部分だけとなってしまった。
「もう終わっちゃった……」
こんな極寒の中、外にいる意味を無くせば我々人類が考えることはただ一つ。
「おうちに戻ってコタツに帰るのみ……てかさみゅ!」
冬の寒い風に煽られながら、私は帰路につくのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m