ここまで書いておきながらアレですが、カズサは未所持です。
なのでキャラに違和感があると思われますが、よろしくお願いします。
この作品は、Pixiv様にも投稿させていただいています。
「ふーっ、ふーっ…」
杏山カズサは先生を押し倒している。カズサは息を荒げ、一方の先生は目を見開き、カズサの突然の行動に戸惑っているようだった。
「…私、言ったよね? その内襲われちゃうよ、って…。でも先生はへらへら笑って受け流して…だから、こんな事になっちゃうんだよ…?」
そう言いながらカズサは先生の服に手をかけようとして──。
「…それ、私を押し倒してくる子は皆言うんだけどさ…。毎度意味が分からないんだよね。よかったら教えてくれる?」
眉間に皺を寄せて呟いた先生のその言葉に、びしりと硬直した。当然である。自分の知らないところで先生が貞操の危機に遭い、そして下手すれば先を越されてしまった可能性が急浮上してきたからのだから。
瞬間的にその疑念にたどり着いて、カズサは。
「…は? え…は? …はぁ…?」
としか言う事が出来なかった。そんなカズサの対応に先生はというと未だに疑問そうに眉間に皺を寄せている。
いや、むしろその顔をしたいのはカズサのほうなのだが…。
「…カズサ? どうしたの?」
「せ…先生は、生徒の誰かと…こういうこと、したの?」
「こういうことって…。あー、その…所謂、子作り…?」
顔を微妙に赤く染めながら直接的な言葉を避けて逆にそう聞いてきた先生に、カズサもまた赤い顔でこくりとゆっくり頷く。
瞬間、先生は赤い顔のまま力なく首を横に振ってその疑惑をきっぱり否定した。
「してるわけないでしょ…。私は先生だよ? 仮に君達にそういう事したら倫理的に問題があるよ…」
「で、でも! えっと、その…生徒から無理やり…っていうこともあるかもでしょ!? そこはどうなの!」
自分の事を棚上げしてるなぁという自覚はあるものの、しかしカズサとしてはそれどころではない。先生の女性遍歴を聞き出すほうがよっぽど優先順位が高いのだ。
「無いよ。そういうことを誘ったことも迫ったこともないし、誘われても断ってるしそういうことを無理やりされかけても毎度きっちり逃げ出してるから無いよ」
「そう…なの…? じゃあ先生は、その…」
「生徒の皆とそういう関係にはなってないよ。さっきまで危うくそういう関係になりかけてたけどさ」
「うっ…それは、その…ごめん」
先生に痛いところを突かれ、全く反論できなくなっているカズサ。今もなお先生を押し倒した状態ではあるが、先程取り乱したのとそれが誤解だったという安堵という感情の波でそういう衝動もすっかり落ち着いてしまったので、自分のやらかしたことを恥ずかしがりながら先生に覆いかぶさるのを辞めた。
「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。あのままいってても多分そういう関係にはならなかったから」
「…そんなのわからないじゃん。私、さっきまで興奮が抑えられなかったんだし…」
「いや、大丈夫だよ。さっきも言ったけど、あぁいうのを何回もされてその度に無事に切り抜けてきたから。それに、カズサはまだ大人しいほうだったしね」
「…なんか子供扱いされてるみたいで、ちょっと頭に来るんだけど。じゃあ、他に誰がどんな風に先生に迫ってたの?」
若干拗ねたカズサが先生に問いかけると、「んー、そうだなぁ…」と呟いた先生は口元に手を当て、記憶を探り出した。
そして、彼は口を開くと。
「終わったかも…って思ったのは、ゲヘナのアカリ…」
「へぇ…その──」
「と、君と同じくトリニティに通ってるミカ。あの二人は他の子たちとは格別にやばかったかなぁ」
「…………」
ゲヘナのアカリについて聞こうと思ったその矢先、自分も知ってる名前が出てきてカズサは思わず『うわぁ…』と嫌そうな顔をしてしまった。
自分もそういうことを先ほどまでしていたからあまり人の事は言えないが、知ってる名前が出てくれば誰だって嫌な顔の一つくらいしたくはなるだろう。
「あの二人はなんというか…襲うっていうか、捕食しにきてるっていうか…。特にアカリはあれ以来私を見る目が物凄く怖いんだよねぇ…」
「えぇ…。それ、流石にちょっとまずいんじゃない? 私が言えたことじゃないだろうけど、ヴァルキューレとか連邦生徒会とかに言って身辺警護とかしてもらったほうがいいと思うよ…」
「うーん…それも考えたんだけどね…」
そう言いながら先生は眉を八の字にして露骨に困った表情を見せる。どうやそこにも何かトラブルがあるらしく、カズサは無言で眉間を揉んだ。
「…何があったの?」
「…憶測で物を語るのはよくないから、事実だけ言うね。…リンちゃんもカンナも、時々目が怖いんだ。あとキリノもなんか様子がおかしいし、それからアオイもなんか…機会を窺ってる感じがするんだよ」
「四面楚歌じゃんもう…。もう諦めて誰かのものになったほうがいいんじゃない? …例えばその…わ、私…とか、さ…」
「いや、ダメでしょ。何度も言うようだけど先生と生徒がそういう関係になるのは天が許しても私が許さないよ。それにカズサも仕方ないから付き合おう、とか嫌でしょ?」
「………………」
先生のその発言に少しショックを受けつつも同時にキレそうになりながら、カズサは辛うじて自分を抑えて次の質問に移行する。
「逆に、絶対にこの子はこういうことをしない! って信頼できる生徒っているの?」
「勿論いるよ?」
「いるんだ…。例えば?」
「カズサが知ってる子だと…レイサかな」
「あぁうん…凄く納得した。宇沢があぁいうことをするの想像すらできないし」
「トリニティだと他には…そうだな、正義実現委員会のツルギもだね。あとはシスターフッドのサクラコやヒナタ、マリーも絶対に安心できるかな」
「…そうなんだ」
自分から『絶対に安心できる生徒』枠を手放してしまった、と若干落ち込みながら更にカズサは質問を続ける。今度は自分の敵──というか、同類の名前を知っておくために。
「…ちなみにだけど、今まで誰に押し倒されたの?」
「あ、気になる?」
「そりゃあ、まぁね…」
「まずアカリとミカはもう言ったでしょ? トリニティだと後は…ハスミにイチカにセリナに、ゲヘナだと…アコとチナツ、それからイロハと、あとカヨコもそうか。ミレニアムだと…そういえばユウカとノアはセットで襲ってきたな…。他にはアスナやアカネ、あとトキにも襲われたし…それから、えーっと…」
この時点でカズサは多いな…と思い始めていたが、更に先生による同類の名前の羅列は続いていく。最初は警戒していた表情のカズサも、聞いていく内にだんだん元気がなくなっていって先生に同情の視線を送り始めた。一応断っておくが、カズサもこの枠に入る生徒に先程めでたく仲間入りしたところである。
「あれは多分おふざけだと思うけどニヤにも押し倒されたし、えー…レンゲとキキョウ…百鬼夜行だとそれだけかな。山海経だと…キサキとルミ。…あぁ、そういえばこの二人も色々と危なかったなぁ…」
「えぇ…そんなに?」
「うん。あの二人は色々と細工してから来たんだよ…まぁなんとか逃げおおせたんだけどね…」
「すごいね、先生…」
「あはは、そんなでもないよ。あ、そういえばノドカとシグレもセットで襲いにきてたな…。あとは誰かいたかな…あ、ミヤコにアツコにミサキに、あとワカモとアキラとついでにカイ。あとは…もう一人のシロコもそうか」
「…それで終わり?」
「そう、だね…? …うん、多分そうだ。実際に押し倒されたのはこれだけだね」
「そうなんだ、やっぱり先生は…え? 実際にはって言った?」
まさか警戒すべき対象の生徒がまだいるの? というニュアンスでカズサは質問してみたところ、先生は「うん、そうだよ?」とさも当然のように返答してきたため、カズサは頭を抱えた。
「どうしたの、体調でも悪くなった?」と先生は聞いてくるが、しかしそんなことはどうだっていい。
「教えて。先生が警戒してるの、他には誰?」
「いやさっきも言ったけど、憶測で物を語るのはよくないから──」
「いいから! なんか警戒する理由の行動とかあったんでしょ!? そういうのがあった生徒だけでいいから、教えてっ!」
「う、うん…えっと、視線が怖いのは…まずはアビドス、かな」
「…アビドスの誰?」
「いや、その…アビドスの生徒全員、かな」
「えぇ…」
一学園規模で狙われているという事実にカズサは更にげんなりとするが、しかし先生の口は止まらない。まだまだ狙われていることを赤裸々に彼は告白し続ける。
「それから、そうだな…。ゲヘナのハルナもそうだし、トリニティだと…あぁ、ハナコもだね…。でもハナコはちょっとわからないんだよね…」
「わからない…って?」
「いや、あれでハナコは人に踏み込まれるのも、人に踏み込むのも結構苦手な子なんだよ。だから、襲ってくるかはちょっと読めないな…」
あの露出狂にそんな一面があったとは。カズサはそう思いつつ、更に先生からの情報に耳を傾け続けて。
「それから、そうだね…。ミレニアムのミドリもかな。あとは…まだいたかな…」
取り敢えず一区切りのようなので、カズサはそこで一旦ストップをかけた。これ以上聞くと警戒対象があまりにも多すぎてトリニティ中はおろかキヴォトス全域を睨みつけながら歩むことになりかねないという危機感があったからだ。
それと同時に、この人はどれだけ生徒たちを勘違いさせて身を危険に晒しているのだろうかという呆れも込み上げる。
「ほんと、もう…。その内襲われるどころか刺されるか撃たれるんじゃないの?」
「もう撃たれたよ。ほら」
そう言って先生は銃痕がついたお腹をカズサに見せつける。本当にこういうところだぞと思い目を細めつつ。
「そういうことじゃないよ。あとお腹を思春期の女の子に気軽に見せないの。そういうところも勘違いを生み出すんだから」
「えっ、でも撃たれたのは事実だし…」
「それは敵対してた子から受けた傷でしょ? そうじゃなくて、痴情のもつれとかで撃たれるかもってこと」
「あぁそういう…。でも、流石に私にそこまで入れ込む子は…」
「入れ込みすぎて襲おうとした生徒が! 目の前にいるでしょうが! 私だって他の子に嫉妬とかするとどうするか自分でもわからないんだから! …言わせないでよこんなこと!」
「…なんかごめん…」
まったく、この人は…。カズサはそんな苛立ちを覚えつつ、やけくそ気味に更に質問を投げかける。それは今後の為にというわけでもなく、シンプルにカズサが気になっていることである。
「で? 先生はそういう危険からどうやって逃げてるの? 得意の口説き落とし?」
「得意のって…。いや、口八丁を使うときもあるけどさ」
「…女の敵」
「ちょっ…何か勘違いしてるみたいだけど、それだけじゃないからね!?」
「…じゃあどうやって逃げてるの?」
「例えば、そうだな…。こういうの?」
先生がそういった瞬間、すーっと存在感が消えていき、最終的にはまるで始めからそこにいなかったかのようにその姿を消した。先ほどまで確実に存在していたのに突如として霞の様に消えてしまった先生にカズサが驚いて腰を抜かすと、先生は一気に姿を現しその存在感を取り戻してカズサに駆け寄る。
「カズサ!? 大丈夫!?」
「は!? 何今の!? えっ…先生!? 実は幽霊とかじゃないよね!?」
「生きてるよ!?」
「じゃあ何今の!? なんで消えるの!? 意味わからないんだけど!?」
「ネタを割られると今度からこれ使えなくなっちゃうからネタは言わないけど、一応ネタはあるから! 大丈夫、私ここに居るから!」
先生はそう言ってカズサの指をとり、自分の左手の脈に当てさせた。温かいし、とくんとくんと鼓動が感じられる。どうやら先生は一応生者ではあるらしい。
「はぁ…心臓に悪いよ、今の…」
「ごめん…まさかそんなに驚くとは思わなくて…。他にも色々あるけど、やめておく?」
「…うん。やめとく」
そう言ってカズサはこれ以上の詮索はやめた。これ以上のびっくりどっきりテクニックを使われれば、今度こそ自分は死にかねないと判断したというのもあるし、なにより時間的にそろそろ戻らないと面倒なことになりそうだからだ。
「私、そろそろトリニティに戻るね…」
「そっか。驚かせてごめんね、今日はありがとう」
「本当にお礼を言われることはしてないんだけど…。それじゃあ、また…」
そう言って、杏山カズサはとてつもない疲労感とともに帰宅しいつもより速めに就寝した。
その翌日。カズサが登校すると、ミカとハスミ、イチカやセリナの視界に入る度に凄まじい敵愾心をもった瞳で睨みつけられた上、たまたますれ違ったハナコに「負けませんよ」と小さな声で、けれど確実に聞こえるような声量のささやきを受けることになり、実にやりづらい一日を過ごすことになった。
そして、その日は。
「ナギサ様が先生を押し倒したのにものの見事に逃げられた挙げ句泣きながら帰ってきたぁ!?」
そんなニュースで締めくくられたのであった。