24話 キンジの兄に気をつけろ!
あれから1週間後、無事に退院できた。我ながら傷の治りの早さは素晴らしい。
病院から出ると姉さんがいて、車で武偵高まで送るというので乗せていってもらう事にした。
「……平一は銭形家に伝わる話を聞いてる?」
車内で姉さんが聞いてきた。外の景色はレインボーブリッジに差し掛かる辺りだ。
「何の話?」
「銭形家はみんな体が強い、頑丈だって」
「なんだそれ?だから俺は毎回退院が早いのか?」
「まぁそうだね。普通の人なら全治半年とかの怪我でも銭形の血を引くものなら1週間足らずで治るんだよ。これは特異体質とも言えるね」
今までそんな話を聞いたことがなかった。我が家にもキンジのヒステリアモードみたいな特異体質があるのか。
確かに毎回毎回酷い怪我になるが痛みを我慢すれば立っていられてるし、だいたい1週間ぐらいで治る。痛みはあっても数日あれば治る。
ここ最近顕著にそう感じたがそういう事だったのかと合点が入った。
「そんな話を何故急に?」
「……ブラドの件だよ。奴、今とある場所に拘置してるんだけど平一達と戦った際に受けた銃傷が復活したみたいなんだ。幸い出れないようにしているから安心だけどね」
「な…アイツは弱点を撃てば死ぬんじゃないのか!?」
「確かにそうらしいね。ブラドについて気になったから最近イ・ウー元メンバーのジャンヌさんからそう聞いたよ。だけどアイツは生きている」
そんなバカな……確かに奴は弱点以外を撃っても効かなかったがあの時は倒せたはず…信じられない気持ちが身体に現れてるのか右手を口元に当ててたのに気づいた。
「平一が話したよね、ブラドは誰かから依頼されて平一を誘拐したって。ブラドの人間態である小夜鳴は遺伝子の研究をしてた……つまり誘拐した理由は平一の遺伝子を手に入れるために誘拐したと考えられるね」
「俺の遺伝子を?何のために?」
「理由は誰かから依頼されたから。依頼理由は不明、目的を達成したブラドはその遺伝子を自身の遺伝子に組み換えた事であの回復力を得たと推測できるね」
「でもいつ?俺は血を取られたりしなかったぞ。そんなチャンスはなかった」
「遺伝子…DNAは髪の毛1本からでも採取できる。平一はあの時ブラドに撃たれたんだよね?となるとその時床に出来た出血痕からDNAを採取したんじゃないかな」
そんな手軽に取れるならわざわざ誘拐する理由はないはずだと考えた。だが同時にある事を思い出した。
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「イ・ウーはこの世の天国だよ…だけどそこに入るためには並大抵の人間じゃなくて選ばれた優秀な人間のみが入れるんだ。いっくんは目をつけられたんだ…光栄なことなんだよ?」
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「だが…イ・ウーはそんな貴様も白雪同様欲しているのだ…どうだ?取引をしないか?ここでイ・ウーの軍門に降れば命は助けてやる。さらに白雪からも手を引こう。どうだ?悪くないだろう?」
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理子もジャンヌが言ってたのを思い出した。
そうか……ブラドと依頼主が欲したのは俺のDNAじゃない。俺自身だ。イ・ウーに入れるために。DNA採取はついでみたいなものかもしくは計画失敗した際に予定変更で得たものだ。
「狙いは俺だ…俺をイ・ウーに入れるために誘拐したんだ。ブラドはあの時誰かを呼んでいた。イ・ウーに連れて行くために迎えを寄越したんだろう。だが父さんが助けてくれた事で予定変更となってDNA採取に切り替えた……これなら辻褄が合う」
「だとすると……平一はまた狙われるんじゃないの…?」
「大丈夫さ。今の俺は一人じゃない。キンジにアリア、白雪がいる。何があっても俺一人でどうにかできるし仮にやられてもあいつらが助けてくれる」
姉さんは「だといいけど…」と投げ捨てて運転に集中し出した。その時の姉さんは何か不安を感じてたような気がした。顔からそう読み取れる。
そう思ってたら寮に着いた。車から降り、姉さんにお礼を言って別れ、部屋に向かうため階段を登り、部屋の前に着いた。
鍵を差し込むと空いている事に気づき、扉を開けた。玄関にはキンジの靴と見慣れないブーツが置かれてた。アリアや白雪のでもない。
客人かと思ったが話し声が聞こえないし部屋が静かすぎる。
さらに違和感を感じた。よく見るとブーツは女性用だ。キンジが女の子を部屋に呼ぶような人間じゃないのは知っている。
侵入にしても靴を玄関に揃えておくのもおかしい。土足のまま入ればいいからだ。
いつでも戦闘に入れるように左手を胸の内ポケットに入れ、ロープ手錠に手をかけ、リビングの扉を開けた。
リビングのソファにその答えがあった。ソファに綺麗な女性が座っていた。長い髪を1本の三つ編みで纏め、おだやかで優しそうな女性だった。
この女性を見たことがある。ブラドの屋敷に行く際に理子が変装してた女性そっくりだ。
「カナ…さん?」
「貴方は?キンジのお友達?」
「……そうです。銭形平一といいます」
内ポケットから左手を出して警戒を解いた。確かキンジは兄さんと言っていた気がする。キンジの身内なら安心だ。
まぁどこからどう見てもお姉さんになるはずだが…
「キンジから話は聞いてます。凄い武偵で尊敬してると……だけど貴方はシージャック事件に巻き込まれたと聞きましたが…?」
「キンジからそこまで聞いてるなんて貴方はとても信用されてるのね。えぇ、確かに半年前ぐらいにそうなったと
「なんか色々ありそうですね……あ、キンジを呼びましょうか?」
「いいの。あの子とはもう会ったから」
久しぶりに弟に会ったのになぜあっさりしてるし、てかキンジは部屋にいるのに何故出てこないのか?
色々疑問は残るが何らかな事情もあるのだろうと察して触れないようにした。
「せっかく来たならコーヒーでも…」
「いいのよ。私はもう出るから」
カナさんは立ち上がり、玄関の方へ歩いた。俺はその後を追った。
「キンジは…学校でうまくいってるようで安心したわ。あの子不器用だから」
「わかります。あいつシャイな部分がありますからね」
「昔から変わらないのに……あの子は変わったわ」
「変わったって何がですか?」
カナさんは俺に正対して
「アリアと出会ってから。あの子はアリアに出会って変わったわ」
俺にそう言い放った。確かにそうだと思った。
「キンジからアリアの話を聞いたんですね。あいつ好きですよ。アリアとは喧嘩したりしますがなんだかんだ仲良いし。そういやこないだ…」
「そう…あの子だから…」
カナさんは何かを言いかけた。だがそれを言わずに
「また会うかもしれない……その時はまた…」
そう言ってカナさんは俺達の部屋から去った。彼女の姿が見えなくなり部屋に戻る。部屋を見てもキンジはいない。寝室を開けるとそこには制服姿で寝ているキンジがいた。
お兄さんが来たのに寝てるとはな……風邪引くから毛布をかけようとした際、キンジのスマホに何か映っているのに気づいた。
何かの動画らしい。再生してみると
『キーくんは大変なものを盗んでいきました』
そう表示されてアニメーションで理子が走ったりしている。歌は何だか意味不明な歌だったが
『奴はとんでもないものを盗みました…』
俺が出てきた。背景には折れた風車がある。
『アリアの心です』
そう俺が言うと飛行機が映し出され、ここで動画は終わった。
動画で出た風車と飛行機、指してるのは明らかに空き地島にある俺達が着陸させたあの飛行機だ。
動画を作ったのは理子だろう。動画の中で空き地島の事を言うのは不自然だと感じた。
だが聞こうにもキンジは寝てるし理子に聞いてもはぐらかされそうな気がした。
スマホを置こうとした時だ。キンジが突然起き上がり
「兄さん!」
寝室を出てリビングをキョロキョロした。
「キンジ、カナさんなら帰ったよ」
「平一…」
「せっかくの再会なのに寝てたらダメだろう。だからカナさんは帰って」
俺が話し終わる途中、キンジは俺の両肩を掴み
「兄さんは…アリアを殺そうとしてる!」
「は…!?」キンジのその一言に俺は驚いた。アリアを殺す?カナさんが?
キンジはさらに続けた。実はキンジは理子の十字架騒動の際、理子からカナさんはイ・ウーにいると聞いたから報酬として彼女に会わせるように依頼したらしい。
そこで動画で示された待ち合わせ場所の空き地島に行くとカナさんがいた。
そこでアリアを殺すから協力しろと言われた。キンジは止めようと銃を構えたが敵わず海に落とされ、目が覚めて今に至ると言う事だ。
「じゃ、じゃあカナさんは本気でアリアを…?」
「あぁ。兄さんは本気だ!さらに兄さんの話し振りからイ・ウーに加入している!」
「アリアに電話しろ!カナさんさっき出て行ったからもしかしたらその足でアリアのところに行くはずだ!」
キンジはすぐにアリアに電話をかけた。2コールほどすると出た。
「アリア!今どこにいる!?………今はそんな事はいいんだ!今日はうちに泊まるか?……あぁ、なら来てくれ。……いいだろ、俺はお前のパートナーだからちょっとな…じゃあ俺が向かうから、また後でな」
携帯をしまい、キンジは玄関に早足で向かった。
「アリアは無事そうだな」俺もキンジの後を追ってそういうと
「カナさんのことを話すか?何にせよ緊急事態だ。アリアを殺すというのならしばらく護衛を…」
「いや、兄さんのことは話さなくていい。話がややこしくなる」
「だとしても…」
「いいと言ってるだろ!」
キンジの強い言葉に俺は驚き後退りをした。今まで俺に対してこんなに声を荒げた事はなかったから驚いた。それを見たキンジは罰が悪そうに頭を掻いた。
「すまない……ちょっと…」
「……とりあえずアリアには話さない方向だな。わかったよ」
俺達は部屋を出てアリアのところへ向かった。道中俺とキンジはさっきの件もあり、俺は何を話せばいいのかわからず、キンジは俺を見るたびに顔を逸らしたりするからお互い無言のまま歩く事になった。
この空気を打開できたのはアリアと合流してからだったがそれでも俺とキンジの間では会話は生まれなかった。