アリアという訪問客でドタバタした次の日の朝、校門でやつれた顔をしたキンジをみた。あの日俺は面倒ごとになると考えて友達の家に避難したが奴はそうも行かなかったらしい。
「アリアにはボコボコにされるわベッドは占領するわ…さらにはお前のせいで家の片付けもあって面倒が増えたんだぞ…どうしてくれるんだ…」
「悪い悪い…で、アリアをどうするんだ?このままだとベッドどころか家も占領されちまうぜ?」
キンジは苦虫を潰した顔で
「わかってるが…アリアは今の俺どころか平一でも勝てないんだぞ…お前確か柔道空手黒帯だろ?」
「昨日やりあったのを見てないのか。あれは格闘技を嗜んでるというレベルじゃない。俺が今まで組み合ってきた中で1番だよ。俺が敵う相手じゃない。ヒステリアモードのキンジなら勝ってたが…まぁそんな都合よくなれる代物ではないか…」
打つ手なしか…キンジが話す通りアリアは強い。昨日の俺の技を軽くいなされた。低身長を活かした身のこなしと格闘技のあの腕前は世界探してもいない。
しかし手がないことはない。喧嘩は腕だけではない。
「敵を知り、己を知れば百戦危うしからず…キンジ、情報収集と行こうぜ」
「なるほどな…だけどそれは出来そうにはない」
「どうしてだ?」
「アリアの狙いは俺だ…昨日俺の部屋に行けたのもおそらく尾けられてたんだ。今も尾行されてる可能性がある」
俺は辺りを見渡してみる。あのピンク髪なら目立つはずだがそんな人物は見当たらない。
「平一、相手はあれだけの凄腕の武偵だ。わからないように尾行するなんか朝飯前だ。もしかしたら今俺達の会話すらも聞かれてる可能性が高い」
キンジに言われるともうまさに手の打ちようがない。しかし相手は一人、こちらは二人と数では勝るのだ。いい方法を思いついた。
「キンジ、ならば二手に分かれよう。お前はアリアの相手をしてくれ」
あれから1日経った放課後。俺は女子寮前にある温室に来た。二手に分かれると提案したあの日からキンジは猫探しをアリアとしてる。アリアがキンジに注目が向いている間に手薄になった隙に理子にアリアの情報収集をするように依頼し、それを受け取るのだ。
「いっくーん!」
幼さの残る声に反応した。声の主を見たら理子だった。
「よぉ。さぁて約束のブツだ」
持ってきた紙袋を理子に渡す。中身はギャルゲーとかだ。理子はこの手のゲームが好きなんだが幼い見た目なせいで年齢を間違われて買えないのだ。
理子は嬉しそうにゲームパッケージを見て、このゲームは最後が泣けるだのシナリオがいいだの言うが俺はあまり興味がないから愛想で返事をする。かなり感情が昂ってるのか理子はぴょんぴょん跳ねる。そのせいで理子の巨乳がよく揺れるので俺はそれしか見てない。
「…いっくん、申し訳ないんだけど理子はこれ好きじゃないんだぁ」
そう言って見せてきたのはよくわからないタイトル名に3とか4とかタイトルついているギャルゲーだった。
「これシリーズものなんだよねぇ。それに3とか4、数字だけでタイトルを表すの理子嫌い。作品に対する侮辱だよ」
よくわからんこだわりだな。
「ごめん。俺はギャルゲーとかわからんからさ…まぁともかくそちらもモノを出してくれないか?」
「しょうがないにゃあ…」
理子が懐から出したのは封筒に入った書類だった。書類を取り出して見てみるとアリアの顔写真と共にさまざまな情報が書かれていた。
「なるほどねぇ。ロンドンでSランク武偵だったのねぇ…あんな可愛らしい見た目で99回連続1回で犯人を検挙するとは…」
理子からもらった資料を流し見しているが輝かしい経歴が眩い感じで見えてくる。
「それだけじゃないよ?アリアは本国では貴族なんだよ?イギリス王室からデイムの称号を貰ってる。代々優秀な武偵であり由緒正しい貴族なの」
「貴族ねぇ……ファミリーネームが日本人名なら日本人のハーフ。貴族は家を継がなきゃならん家柄となりゃつまり父親はイギリス人、母親は日本人。籍は父親のところか?」
理子は正解を表す丸を両手で表してくれた。なるほどかなりの名門一家ってところか。
「あと格闘技もかなり上手いみたい、確かバーリ、バーリツ…」
「バーリ・トゥードか…総合格闘技でなんでもありのやつだ。さらに空手や柔道、サンボなど全ての武術を取り入れてるから技もレパートリーと組み合わせてくる。だから柔道みたいな動きに空手の技を入れてたのか…」
最初手合わせした際に背負い投げ、さらには懐に入り込んでの攻撃は柔道、柔術が得意とする分野だ。これらをうまく組み合わせた技をバーリ・トゥードではやってるのか…バリツだと最初に言ってたが恐らく習ってる武術の一つだろうな。
さらに実戦レベルで通用出来る実力、これはかなりの鍛錬を積んだ達人の域でもある。
しかし疑問符がつく。これだけの人間がなぜキンジを求めるのか。キンジは確かにヒステリアモードになりゃ超一流の武偵だ。だがアリアも同じく超一流、なぜアリアはキンジを求めてるんだ?
「なんだか悩んでるみたいだねぇ?」
「そりゃそうだ。何せこんだけの腕前の武偵なんだ。キンジ抜きでも充分なはずだ。なのになぜキンジを必要とする?」
「アリアの二つ名を知ってる?」
「二つ名?わからんが…」
「
「独唱曲でアリア……オペラ用語かい?しかしそれがなんの関係がある?」
「……アリアの一族は代々武偵、この一族のものは自分たちの力を引き出すためのパートナーが必要なんだ。アリアは並外れた能力だと誰もパートナーにならないしあのわがままな性格だからパートナーは作れない。だから
だからパートナーとしてキンジを選んだ。確かにヒステリアモードのキンジならアリアと同等、いやそれ以上だから相応しいってわけか。しかしパートナーがいないとダメというのは銭形一家とは違うな。うちはそんなしきたりはないからな。気が楽ではある。
「となるとアリアはキンジがドレイ…いやパートナーにならない限りは付き纏うわけかよ。アリアの情報から何か解決の手がかりになりゃいいと思ったがこりゃ解決の糸口にはならなそうだ」
「実は情報収集はまた足りなんだよねぇ」
「何?」
「アリアはパートナーを求めてる理由はここからわかるけどね、じゃあ今までなんで一人で事件解決してたのに急にパートナーなんかを求めるの?って話になるんだ」
俺はハッとした。確かに99回連続で犯人を検挙する人間がパートナーなんかを求めるんだというのは盲点だった。
「理子はどう思う?」
「うーん…残念ながら理子はここまでしかわからないっぴ!」
「おいおい頼りねぇなぁ…」
「でもねいっくん、こう考えれない?今アリアがパートナーを欲しがっているのはもしかしたら何かかなり大きな事件に巻き込まれているんじゃないかって。それもアリア一人じゃ追えないような」
なるほどねぇ。つまりアリアはキンジ、いやヒステリアモードのキンジじゃないと解決できない事件に巻き込まれているってわけか。
「じゃあそれを探ってくれないか?」
「ここから先は理子だけじゃ難しいかなぁ?」
「どういうこと?」
「こうってこと!」
理子は俺の腕に抱きついてきた。豊満な胸が俺の右腕に挟まれる形となり驚いた。困惑してるのか興奮してるかわからないがドキがムネムネしてまう。
「ねぇいっくぅん?ここからは理子と手を組まない?アリアの追ってる事件は理子も気になるんだぁ?だ・か・ら・いっくんとパートナーになっていっくんはアリアやキーくんの情報を理子に流して欲しいんだぁ。もちろん見返りに情報はいっくんに渡すってこと。いい?」
普段ならノーが言えるだろうが……上目遣いで俺を見つめる理子、そして右腕に感じる柔らかな感覚には逆らえん。
「は、はいぃ…や、やりましょう…」
理子と一時的にパートナーとなった俺は自分の部屋に入った。いやぁ理子の胸は柔らかいもの、否女の子があんなに柔らかいものだと知るとは思わんかった。思い出すだけでニヤケが止まらない。上機嫌な感じでリビングに入ると
「わかった。一回だけだ。一回事件を解決するまではパートナーとしていてやる。それでいいな」
キンジの声にハッとした。見るとキンジはアリアと話していた。
「ならパートナー成立ね。約束よ。じゃああたしは自分の部屋に帰るわね!」
アリアはトランクを持って意気揚々とリビングを出て玄関へ向かう。
「あら、平一いたの?」
「あ、あぁまぁ帰ってきたばっかだ。それより…」
「さっき話を聞いてたならそのままの意味よ。キンジはあたしのドレイになったってわけ。じゃああたしは帰るわ」
アリアは靴を履いて扉を閉めた。てか俺がいたの気づいてたのか…俺は部屋に入りキンジを見た。
「おいキンジ…さっき…」
「俺はアリアとパートナーになる。一回きりだけどな」
「まぁそりゃさっき聞いたが…しかしお前武偵辞めるしヒステリアモードのキンジじゃないとかなり難しいんじゃないか?相手はSランクの武偵だぜ?」
「そんなの承知の上だ。普段の全力の俺でパートナーを組むんだ。そうすれば愛想がついて離れてくれるはずだ」
「なるほどねぇ。まぁキンジがいいならいいんでない?」
俺はソファに座り買ってきたコーヒーを飲む。
「ところで平一」
「なんだ?」
「横目で見てたんだが……なんでお前入ってきた時あんなにニヤけてたんだ?」
俺は盛大にコーヒーを吹き散らかした。