とある学Pの一方通行   作:大内

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筆は遅いと宣言しておきます。


第1章『はじめまして初星学園』
プロローグ


「『アイドル』。それはわたし達の永遠の憧れ」

 

意識が覚醒して、最初に聞こえてきたのはそんな言葉だった。

 

アイドル...偶像(アイドル)

 

意識が鮮明になるにつれ、むしろその言葉の意味が理解できなくなっていく。何故なら、『 』はそのような言葉とは無縁で_______。

 

「...あァ?」

 

どうも、記憶がはっきりしない。手がかりを求め改めて周囲を見渡すと、前方に椅子に座っている大勢の人間の姿が目に入る。

 

その後方にも椅子が並べられており、これまた『 』含めた大勢の人間がそこに腰掛けている。前方と後方でなぜ別れているのかは定かではないが、前方の人間はそれぞれ制服を、後方の人間はそれぞれスーツを着用しているのがわかった。

 

「夜空に輝く星のように。大地に咲く花のように。みんなの心を熱く震わせて、かなしさを優しく包み込んで、いつも笑顔にしてくれる。そんな素敵な人になりたくて、わたしは『初星学園』の門をくぐりました」

 

先ほどから辺りに響いているこの声の主は、壇上に立っている女子生徒らしい。周囲は薄暗く、壇上でスポットライトを浴びているその女子生徒の姿は後方からでもよく見えた。

 

(初星学園...知らねェな)

 

だが、先ほどの言葉でここが初星学園という何らかの教育施設であり、今はその入学式の最中であろうことがわかった。

 

(...記憶に無いのは『初星学園』とやらに限ったことじゃねェ。なンで俺はここにいる? というよりそもそも()()()()()?)

 

思い出せないものは仕方ない。それより今はむしろ覚えていることを把握する方が重要だと『 』は考えた。

 

そしてしばらく思案し、自分の記憶の中に残っていたとあるワードに辿り着く。

 

花海 咲季(はなみ さき)』。『藤田(ふじた) ことね』。『月村 手毬(つきむら てまり)』。そして、『一方通行(アクセラレータ)』。

 

恐らくは人名。そして、中でも『一方通行(アクセラレータ)』は自分の呼び名である、と直感的に理解した。

 

そこまで思考し、ふと無意識に首に手をやる。そこに『何か』がないことに不思議な違和感を覚えたが、その答えはどれだけ思案しようと見つけることができなかった。

 

やはり思い出せないものは仕方がない。『 』______否、一方通行(アクセラレータ)は、記憶に残っていた『花海 咲季(はなみ さき)

藤田(ふじた ) ことね』『月村 手毬(つきむら てまり)』の各々と接触し、手がかりを得ようと考える。無論、顔と名前が一致しない人物を探すのは面倒だが________。

 

「新入生代表、花海 咲季」

 

...どうやら、一人目星はついたようだ。

 

一方通行は改めて壇上で挨拶をしていた女子生徒に視線を向ける。身長は低いが、自信たっぷりの表情とハキハキとした台詞が彼女を見た目より大きな存在であると錯覚させるような、そんな人物。

 

(アレが、花海 咲季)

 

新入生代表の挨拶が終わり、入学式も終わりを迎える。

 

周囲が一斉に立ち上がるのを見て一方通行も気だるげに立ち上がった。そのまま入学式の会場を後にして外に出ると、真上近くに昇った太陽が照りつけてきて思わず顔をしかめる。

 

(面倒なことになりやがった)

 

現時点でわかっていることと言えば、ここ『初星学園』が何らかの_____花海 咲季の言葉から推測するに恐らくアイドルの______教育施設であること。自分、一方通行は『初星学園』に何らかの形で在籍していること。そして、『花海 咲季(はなみ さき)』『藤田(ふじた) ことね』

月村 手毬(つきむら てまり)』と何らかの関わりがあること。それだけだ。

 

(アイドル? 冗談じゃねェな)

 

心の中で毒づく。記憶を失う前の自分が何をやっていたかなど知ったことではない。いっそのこと退学してやろうかと半ば本気で考えていると、

 

「す、すいませ〜〜〜〜〜ん!!」

 

文字通り銃声のような騒音が一方通行の耳を貫いた。

 

思わず顔をしかめ、文句を言ってやろうと声のした方向へ振り返ると、

 

「入学式って、もう始まっちゃってますか!?」

 

制服を着た女子生徒が駆け寄ってくる姿が視界に入る。初星学園の生徒のようだが、一方通行はその顔に何となく既視感を覚えた。

 

そして、仕方なく彼女の言葉に応答する。

 

「...もっと静かに喋れねェのか?」

 

「あっ、うるさかったですか!? ごめんなさい!!」

 

一方通行の言葉を受け、彼女は申し訳なさそうに頭を下げるが、何故か声のボリュームはそのままだ。思わず頭痛がしてきた一方通行は、不本意ながら声の大きさについては諦めて話を進めることにする。

 

「入学式なら終わったぜ」

 

「うひゃ〜、入学式当日から大遅刻! 失敗したぁ!!」

 

「オマエは大声でしか話せないタイプの生き物みてェだな」

 

一方通行の皮肉は頭を抱えている女子生徒には届いていないようで、

 

「あっ、申し遅れました! あたし、アイドル科の新入生で花海 佑芽(はなみ うめ)って言います!」

 

などと呑気に自己紹介をしてくる。

 

しかし、『花海 佑芽』という名を聞いて合点がいった。彼女の顔に既視感を覚えたときから何となくは予想していたが、やはり花海 咲季と血縁関係の人間だろう。

 

現在の一方通行の目的は自分の記憶に関する手がかりを手に入れること。彼女との会話に応じたのも、それを期待したからだ。そうでなければこんな騒音マシーンとの会話なぞとっくに打ち切っている。

 

「えっと、もしかしてプロデューサー科の方ですか?」

 

一方通行が自己紹介をしないことに不安を覚えたのか、花海 佑芽が先んじて尋ねてくる。

 

(なるほどなァ、プロデューサーときたか)

 

期待通り、手がかりが集まっていく。

 

要するに、ここ初星学園はアイドルとプロデューサー、その両方を教育する機関なのだろう。入学式で制服の人間とスーツの人間がいたが、前者がアイドル科、後者がプロデューサー科というわけだ。

 

(となると、面倒なことに俺もプロデューサー科ってワケだ)

 

身に覚えのないスーツとネクタイを身に纏った自身の身体に目をやりつつ、一方通行は思案し、

 

「プロデューサー科の一方通行だ」

 

黙っていても話が進まないので仕方なく名乗る。

 

「あ、あくせられーた、さん?」

 

「面倒くせェな、この際プロデューサーでいい」

 

言いにくそうにしている花海 佑芽を見て、『一方通行』というのは本当に自分の名前なのかと疑いたくなるが、記憶が残ってない以上それは疑っても仕方のないことだ。

 

そんな一方通行の心情など気にする様子もなく、花海 佑芽は、

 

「じゃあ、プロデューサーさん! もしよろしければ、私をプロデュースしてくれませんか?」

 

などとのたまった。

 

「はァ?」

 

唐突に紡がれたその言葉に一方通行は耳を疑う。

 

いや、花海 佑芽がアイドル科であり、一方通行がプロデューサー科であるのなら何ら不思議ではない言葉ではあるのだが。

 

とはいえ、初対面でプロデュースを頼んでくる人間がいるのか?

 

「あたし、アイドル初心者なので! プロデューサーさんがいてくれたら心強いなって! それと、直感ですけど...あなたなら、あたしの力になってくれそうだなって!」

 

本気で言っているのだとすればとんだ節穴であると言わざるを得ない。先ほどまで面倒だから退学しようか、などと考えていたのが一方通行だ。

 

それが、『力になってくれそう』だと?

 

冗談じゃない。そう拒否しようとした一方通行だったが、花海 佑芽は負けじと言葉を続けてくる。

 

「あたし、実は補欠合格なんです。つまり、現時点でこの学園の誰よりも実力がないんですよ」

 

「...話にならねェな」

 

「ちょ、ちょっと待った!! でもでも、試験では測れないすっごい実力の持ち主かもしれないじゃないですか!!」

 

押しが強い、というよりしつこい。諦めが悪い。現時点で一方通行が花海 佑芽に対して抱いている感想はそんなところだ。

 

「あたし、勝ちたい人がいるんです」

 

「......」

 

このタイプの人間は、恐らく話終わるまで満足しない。一方通行はうんざりしつつも続きを促した。それに、もしかしたら自分の記憶に関して、さらなる手がかりが得られるかもしれない。

 

「生まれたときからそばにいて、いろんな競技で勝負してきて、でも一度だって勝てたことはなくて。本当に凄い人で...尊敬してて。だけど、だから、今度こそは絶対に勝ちたいんです」

 

花海 咲季のことだ。

 

話ぶりから察するに、花海 佑芽は花海 咲季の妹なのだろう。

 

「あたしは、自信があるのは運動くらいで。才能だってそんなにないのかもしれません」

 

でも、と花海 佑芽は真っ直ぐに一方通行の目を見て、

 

「勝ちたい気持ちだけは、誰にも負けません。きっと、誰にもです。絶対に勝ちます。そして、学園で一番のアイドルになります!」

 

その言葉を聞いて、一方通行は妙な違和感を覚えた。

 

面倒臭い。そう感じているのは確かなのに、それと相反した気持ちが同時に芽生えたかのような違和感。

 

この感情は、恐らく記憶を失う前の自分に起因していると一方通行は直感的に理解した。すなわち、トップアイドルを育て上げるために初星学園に入学したであろう以前の自分に。

 

「とまぁ、自分で言うのもなんですけど、いい物件ですよっ!」

 

黙ってしまった一方通行を見て好機だと思ったのか、花海 佑芽は最後の言葉を畳み掛ける。

 

「いかがでしょーか!」

 

「断る」

 

「早っ!!! 即答すぎませんか!?」

 

オーケーしてくれる感じすら微塵も感じさせずに断られた、と嘆く花海 佑芽だったが、そんなことは一方通行が知ったことではない。

 

今の一方通行は自身に対して苛立ちに似た感情を抱いていた。自身の感情と矛盾した感情が心中に存在すること。自分ではない自分が存在しているような不快感が一方通行を苛立たせていた。

 

「あの、何で断ったのか、その理由だけ教えてもらってもいいですか!」

 

そんな一方通行の心中などお構いなしに、花海 佑芽は納得いかないといった様子でプロデュースを断った理由を尋ねてくる。

 

「それは______」

 

この際、正直に『面倒だから』だと言ってしまおうか。そう考え、その言葉が喉元まで出かけたときだった。

 

「その人は、わたしのプロデューサーだからよ」

 

聞き覚えのある声が一方通行の耳に入る。

 

振り返ると、そこには______。

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「えぇ、お姉ちゃんよ!」

 

新入生代表にして、自分が初星学園のプロデューサー科に在籍していることさえ忘れていた一方通行の記憶に残っていた数少ない人物のうちの一人、花海 咲季その人が立っていた。

 

「花海 咲季...そォか、そォいうことかよ」

 

アイドル科。そしてプロデューサー科の話を聞いた時から、漠然とした予感はあったのだ。それがとてつもなく面倒なものであったから、意図的に考えないようにしていたのだが。

 

なぜ『花海 咲季(はなみ さき)』『藤田(ふじた) ことね』『月村 手毬(つきむら てまり)』という名前が一方通行の記憶に残っていたのか。その答えはそこにあった。

 

すなわち。

 

「この人はわたしのプロデューサーだから、佑芽にはあげないわ!」

 

一方通行は、『花海 咲季(はなみ さき)』『藤田(ふじた) ことね』

月村 手毬(つきむら てまり)』、その三人のプロデューサーを担当している。

 

それが、初星学園プロデューサー科所属、一方通行の出した最終的な結論だった。

 

 

 

 

 

 




以下補足

・『一方通行』が能力名であり本名ではないというのは重々承知しておりますが、ここでは『一方通行』が本名であるという形をとらせていただきます。

・学マス世界においてベクトル操作の能力が必要になることはないので多分ベクトル操作うんぬんの描写は出てこないと思います。

・一方通行の服装は統括理事長の時の服装をイメージしてます。

・本編は学マス世界で育った一方通行が何らかの理由で入学式の途中で記憶をなくすところからスタートしています。『禁書目録の世界線の一方通行』の記憶も残滓的な感じでわずかに残っているものとする。

・『とある偶像の一方通行さま』要素はありません。多分。
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