とある学Pの一方通行 作:大内
「お〜い、ちょっと待ってくれ!」
担当アイドルの三人に事務所に集まるようメッセージを送り、一方通行自身もそこに向かおうとしていた途中だった。
聞き覚えのない声が後ろから一方通行を引き止めた。
「あァ?」
振り向くと、そこには見覚えのない男が立っていた。
何の変哲もない至って普通の男だ。中肉中背で、背は少し一方通行より高いか。一度会ったくらいでは記憶に残らないないような平凡な容姿をしている。唯一目立つところがあるとすれば、その黒髪の先が妙に尖っていることくらいか。
男は右手に何かを持って一方通行を追いかけてきたようだ。彼はそれを差し出す。
「忘れもんだよ。ほれ、先生のプリント。持ってってねーだろ?」
それはあさり先生が先ほど行っていた講義の資料だった。聞けばすべて記憶できる一方通行には必要なかったので意図的に持っていかなかったのだが、説明するのも面倒臭いので素直に受け取っておく。
「悪ィな」
「いいってことよ」
男はそう言ってそのまま去ろうとしたが、ふと何かを思い出したように立ち止まった。
「アンタ、さては現役合格者か?」
その言葉を聞いて一方通行は顔を顰めた。初めて篠澤Pと出会った時と同じ流れだ。どこまでこの情報は広がっているのだろう。
「今年二人出た現役合格者...その一人とこんな形で会えるとは」
そんな一方通行の様子を気にもとめず男はしみじみと呟く。
「すまん、自己紹介がまだだったな。俺は『』。
「...花海咲季、藤田ことね、月村手毬担当の一方通行だ」
聞いてもいないのに自己紹介を勝手に始められ、一方通行も仕方なく名乗る。
(葛城 リーリヤ...)
確か、スウェーデン出身のハーフの生徒だったか。一方通行の頭をスマートフォンのメモで見た情報がよぎる。
彼女の姿は、先日、藤田 ことねと月村 手毬を探して一年一組の教室を訪れた際に見かけた記憶がある。その時はあまりアイドルに向いているタイプには見えなかったが_______。
「んじゃ一方通行。せっかく同級生なんだ、これから助け合っていこうぜ」
「気が向いたらな」
「そう言うなよ。三人も担当してたら大変なんじゃねぇか?」
葛城Pのその言葉に一方通行はしばし沈黙した。
確かに協力し合った方が上手くいくのかもしれない。だが、一方通行という人間は今まで一人ですべてをやってきた_______やってこれたのだ。記憶がなくてもそのことだけは直感的に理解できる。
記憶を失ってからただでさえ過剰に人に頼っている自覚があるのに、これ以上他人との関わりを増やしていいのか。これ以上一方通行と関わる人間を増やせば、それこそ_______。
(それこそ...なンだ?)
無意識に意味不明な思考をしていた。これも記憶をなくした弊害か、と一方通行は気だるげに頭を振る。
「用は済ンだンだろ? 俺は行くぜ」
「おっと、引き止めて悪かったな。じゃあまた何処かで」
葛城Pは別れの言葉を告げると去っていった。
今度こそ一方通行は事務所へと向かう。アイドル科の午前の授業はまだ終わっていないはずだ。だから特に急ぐ必要もないのだが、いずれにせよ早く向かったところで損はないだろう。
(アイツの名前、『』とか言ったか______?)
目的地へと向かう途中、一方通行は先ほどの会話を思い出した。
それは特段なんの変哲もない普通の名前だったように思う。
しかしながら。そのなんの変哲もないはずの名前は、なぜか一方通行の心に小さなしこりを残していった。
「...デューサー! プロデューサーってば!!」
誰かに肩を揺さぶられている感覚がある。というか、デジャヴだ。また自分は眠りに落ちていたのだろうか。
部屋の照明に顔を顰めながらもゆっくり目を開くと、目の前に見覚えのある顔が三つ並んでいた。
「ようやく起きたわね、まったく...」
こちらを責めるような視線を送ってくるのは花海 咲季だ。彼女が一方通行の肩を揺さぶったのだろう。その少し後ろには非常に不機嫌そうな月村 手毬と困惑の表情を浮かべる藤田 ことねの姿も確認できた。
その三人を認識したことでようやく記憶がはっきりしてくる。
そうだ、自分はこの三人を事務所、つまりこの場所に呼び出していたのではなかったか。一方通行はひと足先に事務所に到着していたが、備え付けのソファに寝転んで待っているうちにいつのまにか意識を手放してしまったのである。
一方通行はゆっくりと上体を起こし、今まで横たわっていたソファに腰掛けて足を組んだ。
「遅かったじゃねェか」
「何回声をかけても起きなかったくせに偉そうに...ってそうじゃなくて!」
花海 咲季は大声で一方通行に詰め寄る。こういうところは姉妹そっくりだ。
「この子たち、誰よ!」
「はぁ〜? それはこっちのセリフなんですケド!?」
「プロデューサー、説明してください。あなたがプロデュースするのは私だけ...。そうじゃなかったんですか?」
花海 咲季に続いて藤田 ことね、月村 手毬からも文句が漏れる。
予想通り、というか当たり前ではあった。各々が『プロデューサーは自分だけを担当している』と思い込んでいたのだから。責任は説明をしていなかった一方通行にしかない________ないのだが。
(それなら今の俺にだって責任はねェだろ)
仲良く詰め寄ってくる三人を見て一方通行は内心ため息をついた。
説明をしたところで彼女たちは納得しないだろうが、説明しない限り先には進めない。一方通行はソファに腰掛けたまま彼女たちを見上げ、重い口を開いた。
「...夏のHIF。この三人でユニットを組んで優勝を目指す」
刹那、沈黙が辺りを支配した。それは余りにも彼女らにとって予想だにしない言葉だったらしい。三人は脳の回路がショートしたかのように一瞬フリーズし、(奇遇なことにほぼ同時に)驚きの声を上げた。
「「「えぇ〜〜〜〜〜〜!?!?!?」」」
「うるせェな...」
一方通行は耳を塞ぎつつ心の中で先ほどの台詞を反芻していた。
『Hatsuboshi IDOL FESTIVAL』、通称HIF。 初星学園のトップアイドルを決める祭典________らしい。十王 星南のように
そしてHIFはソロ部門とユニット部門の二つに分かれている。つまり、花海 咲季、藤田 ことね、月村 手毬の三人でユニットを組み、ユニット部門において優勝を目指すというのが一方通行の考えだった。
事実、この三人なら優勝も可能である、と以前の一方通行は判断したのであろう。記憶を失う前の自分への怒りは未だ消えないが、一方で自分ほど信用できる相手もいない。
「それ以上の説明は必要ねェだろ」
「必要に決まってるでしょ!?」
「プロデューサー...ふざけているんですか。この私が、ユニットなんて組むわけ無い!」
花海 咲季と月村 手毬からの反発は予想通り、と言ったところか。
特に月村 手毬に関しては過去の事情が事情だ。今すぐに了承しろというのも酷な話だろう。
「なンだ、納得いかねェか?」
「いかないわ!」
花海 咲季は胸に手を当て、
「わたしは勝つためにここに来たの。足手まといはいらないわ!」
などとのたまった。
自分の実力に絶対の自信を持つ、彼女らしい言葉だ。だからこそ、そんな彼女に弱音を吐かせる『花海 佑芽』の異質さが際立つのだが。
「とにかく! わたしは絶対嫌だから!! わたしをプロデュースしたいなら心を入れ替えて謝りに来なさい、プロデューサー!」
「...当然、貴方は私を選ぶでしょ? これ以上、期待を裏切らないで」
『ユニット結成は嫌』。要はそういうことだろう。花海 咲季と月村 手毬は最後にそう言い残すと事務所を出て行ってしまった。
残ったのは『ユニット結成』に関してそこまで否定的ではない藤田 ことね一人だけだ。その実力とは裏腹に極端に自己評価の低い彼女は、自分より実力がある(と彼女は思っている)花海 咲季、月村 手毬とのユニット結成を肯定的に捉えているのだ。
「相変わらず卑屈だな、オマエは」
「人の心を勝手に読まないでくださ〜い」
藤田 ことねは一方通行をジト目で睨みつつ、
「入学試験主席の花海と中等部トップアイドルだった月村。二人とも偉そうなヤツですケド、そんな二人とユニットが組めるなんてあたしとしては願っても無い話ですし。でもその肝心の二人が怒って出て行っちゃいましたよ?」
「説得するしかねェだろ。...柄でもねェが」
「あ、やっぱりそうなるんだ...というか『説得』が柄じゃないって意味不明なんですケド...」
藤田 ことねは一瞬顔を引き攣らせるがすぐに気を取り直し、
「も〜仕方ないですね。じゃあ二人で説得頑張りましょう!」
元気良く手を上げて決意表明をした。
(さて、どォするか...)
そんな藤田 ことねを横目に、一方通行は二人を説得する方法を思案する。花海 咲季はともかく、月村 手毬が難しい。彼女は『ユニット結成』という行為自体にトラウマを抱えている可能性がある。
予想通りなんとも手のかかる担当アイドルたちだ。
一方通行は内心でそう呟くと、ひとまず説得が比較的簡単そうな花海 咲季を探しに事務所の外へと足を踏み出した。
ドル道全部終わらせてPlv54。
60までの道のりが険し過ぎるよね。