とある学Pの一方通行 作:大内
「あの〜、プロデューサー?」
「...なンだ」
現在、一方通行たちは花海 咲季の姿を探して廊下を渡り歩いていた。
道中黙ったままの一方通行に藤田 ことねが不安げに声をかける。
「どうやって説得するか、考えてます?」
一応あたしにも説明しといてほしいナ〜、と彼女は呟いた。
「花海 咲季に関してはなンとでもなる」
「えっ、そうなんです?」
あっさりと言い放つ一方通行に藤田 ことねは意外そうだ。とはいえ気持ちはわかる。一度決めたことを簡単には曲げなそうな花海 咲季の説得は一見とても難しそうに思える。
「アイツはユニットを組みたくない理由を明言してただろ」
「あ〜、何でしたっけ? 確か、『足手まとい』がどうちゃら...」
そう、彼女がユニットを組みたがらない理由はただ一つ。
花海 咲季は自身の実力に絶対の信頼を置いているが故に、月村 手毬と藤田 ことねを『足手まといになる存在』だと現時点で認識してしまっているのである。
「なら、それを解消してやればイイ」
「ん〜、簡単に言いますけど...。 花海ちゃん、入学試験主席なんですよね?」
「
「プロデューサー、口悪ぅ_________って今なんかとんでもないコト言いませんでした!?」
呆気に取られる藤田 ことねを無視して一方通行は廊下を歩き続ける。
かなり隅々まで探しているのだがなかなか花海 咲季の姿は見つからない。もしかするともう帰ってしまったのではないか、と捜索を諦めようとしたその時だった。
「あら? 先輩じゃない」
「......」
廊下の曲がり角からブロンド色の髪を靡かせた十王 星南が姿を現した。思わず顔を顰める一方通行だったが、彼女はそれを気に留める様子もなく一方通行の後ろ________すなわち藤田 ことねに視線を移す。
「...ことね」
「か、会長!?」
予想外の人物の登場に藤田 ことねは驚愕する。
十王 星南はそんな彼女に歩み寄り、
「初めまして。初星学園生徒会長の十王 星南よ」
「ふ、藤田 ことねです...」
「...オマエら初対面なのか?」
「そりゃそうですよ! 初星学園トップアイドルの会長と落ちこぼれのあたしに接点があると思います!?」
「...対面する前から
「余計なこと言わないでくださる、先輩?」
一方通行の言葉に被せるように十王 星南が口を開く。
彼女の威圧的な視線を感じ、一方通行は肩をすくめた。
「コホン。とにかく、私が言いたいのは『貴方には個人的に期待している』ということよ。引き続き励みなさい」
「は、はい! ありがとうございます!!」
唐突な展開に困惑気味の藤田 ことねだったが、その表情からは少なくない喜の感情が読み取れる。自分を卑下しがちな彼女にとって、絶対的な実力者からの称賛の言葉は新鮮なものだったのかもしれない。
「...どうだったかしら、先輩?」
「何が」
十王 星南が小声で話しかけてくる。
「貴方に言われて、プロデュースの仕方、反省したのよ」
「オマエ、まさかまだ諦めてねェのか?」
「諦めてないのか、ですって? ふふ...。諦めていないどころか、ことねを横取りした貴方のことは未だに許していないわよ、先輩」
「......」
「もう、冗談よ。そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃない」
オマエが言うと冗談に聞こえねェよ、という心の声は流石に外に出さずに留めておく。これ以上面倒ごとを増やしたくはない。
「あの〜、会長?」
と、しばらく二人のやり取りを傍観していた藤田 ことねが、我慢の限界と言った感じで割り込んできた。
「なんか、プロデューサーとの距離感近くないです?」
知り合いなんですか、と彼女は若干頬を膨らませつつジト目でこちらに説明を求めてくる。
「よく聞いてくれたわ、ことね! 彼こそ私が先日見つけたアイドルの逸材! そう、ちょうど貴方と同じくらいの才能を持つ_______」
「ふざけたこと抜かしてンじゃねェ」
興奮気味にペラペラと喋ろうとする十王 星南の口を封じるために一方通行は一旦話を逸らすことにした。
「それより
「花海 咲季さん...?」
「『それより』で済ませられない衝撃発言が会長の口から出かけてた気がするんですけど、あたしの気のせいです?」
唐突な一方通行の言葉に十王 星南は訝しげだ。
「プロデューサー志望のオマエのことだ。優秀そうな生徒はあらかた調べ上げてンじゃねェのか?」
「...えぇ、まぁ。初星学園の生徒の情報はすべて頭の中に入っているわ。と言ってもそれは貴方も同じなんでしょうけど」
「歯切れが悪ィな。花海 咲季に関して思うとこでもあンのかよ」
そんな一方通行の問いに対し、十王 星南は一瞬切なげな表情を浮かべた後、すぐに不敵に口角を上げて答えた。
「...奇遇ね、花海 咲季さんとはついさっき話してきたのよ。生意気な子だったわ。大した才能もないくせに」
そんな強い言葉とは裏腹に、彼女の表情は嬉々としている。
「...でも。あの子には、ことねとはまた違う意味で期待しているの」
十王 星南はそこで一旦言葉を切ると、まるで宣戦布告とでも言うかのように改めて一方通行に凛とした視線を向けた。
「そう、私の敵としてね」
「...チッ。気付いていやがったか」
「当たり前じゃない。私を誰だと思っているの、先輩________いえ、花海 咲季さんのプロデューサー?」
バチバチと、間に立った人間を圧で殺してしまうのではないかと思うほど威圧的な視線を交差させる一方通行と十王 星南。
実際にその二人の間に立っている藤田 ことねはただアワアワとすることしかできなかった。
そんな彼女の姿を見て、十王 星南は一転、ふっと顔を綻ばせる。
「宣戦布告はこのくらいにしておきましょう。花海 咲季さんならさっき屋上で姿を見かけたわ。私と話した時から移動していなければまだそこにいるでしょうね」
「...その情報に関しては素直に礼を言っておくぜ」
「どういたしまして。プロデューサーなのだから、担当アイドルが今何処にいるのかくらいは把握しておいた方がいいわよ、先輩」
そんな芸当ができるのはストーカー気質のオマエくらいだ、というセリフは心の奥底に無理やり押し込んだ。
「この件に関しては貸し一つね。...それじゃあ、私はもう行くわ。また会いましょう、ことね、先輩」
最後に藤田 ことねの方に向かってウインクし、十王 星南は廊下の奥へと消えていった。
(今更なンだが、十王 星南に借りを作るのは愚策だったか...?)
一方通行はため息を吐いて花海 咲季がいるらしい屋上へと足を踏み出す。
しばらく放心状態となっていた藤田 ことねも、歩き出した一方通行に気付いてすぐさま駆け足で後を追う。
「プロデューサーぁ。何で会長とあんなに親しげなんですか?」
「...親しげ? アレが?」
冗談ではない。百歩譲って(トップアイドルの逸材だとかいう訳のわからない理由で)向こうから気に入られていたとしてもこちらが十王 星南を親しく思う理由など一つもない。初対面で『私のモノになりなさい』とか抜かしてくる不審者のどこに親しみを覚えるというのだろうか。
「すっごい嫌そうな顔しますね...」
「...何か言いたそォだな」
藤田 ことねが複雑そうな顔をしていることに気付き、一方通行は足を止めた。プロデューサーという役割が染み付いてきてしまった、と内心で自己嫌悪に駆られながら、彼女の返答を待つ。
「我ながら、烏滸がましいとは思うんですケド」
藤田 ことねは言いづらそうにゴニョゴニョと口を動かす。
「会長、花海ちゃんのことを敵って言ってましたよね。じゃあ、あたしのことはまだ敵とすら見てくれていないのかなって」
期待してるって言ってましたけど、と彼女は前置きし、
「あたしは、何を期待されてるのかな...」
「......」
十王 星南は、花海 咲季を自身と重ねて見ている節がある。
花海 咲季の悩みは伸び代がないこと。どの分野においても早熟な彼女は、アイドルとしてのステータスが頭打ちとなっている。十王 星南も先ほど花海 咲季のことを『大した才能はない』と評していた。だからこそ、彼女は圧倒的な才能と伸び代を持つ花海 佑芽に負けることを恐れているのだ。
対して、初星学園トップアイドルとなる過程でステータスを伸ばし切った十王 星南にも伸び代は殆ど存在しない_______と少なくとも一方通行はそう見ている。もしアイドルの才能を数値として見ることができるという馬鹿げた特技が本当にあるのなら、彼女は鏡を見るたびに絶望しているに違いない。
言ってしまえば同族嫌悪。それと、『もしかしたら壁を壊してくれるかもしれない』というほんの少しの期待。十王 星南が花海 咲季を敵として認識したのは、この二つの感情によるところが大きい。
一方で、十王 星南が藤田 ことねに対して抱いている感情は憧憬。偶像として見ている、と言っても過言ではない。それこそ、ファンがアイドルに対して抱く感情と同じだろう。コミュニケーション方法がストーカーっぽいのもそれが原因、というのは流石に飛躍しすぎか。
「納得いかないみてェだな」
「あはは...流石に烏滸がましかったですかね...」
十王 星南が藤田 ことねを評価していることは火を見るより明らかだ。
ただし、彼女が藤田 ことねに向ける視線は花海 咲季へのそれとは真反対の意味を持っている。後継者、という言葉が最も適切だろうか。十王 星南は、自分では絶対に到達できなかった領域に、藤田 ことねが足を踏み入れてくれることを強く期待しているのだ。
見ての通り、藤田 ことね自身はまるで納得していないようだが。
「簡単なことじゃねェか」
「...へ?」
「オマエが十王 星南に匹敵する実力を身につければいいだけだ。そンでさっさと振り向かせろ。誰がオマエの後継者なンかになるかってなァ」
別に十王 星南のことを侮っているわけではない。彼女には積み上げてきた実力と経験が確かにある。だが、何せ藤田 ことねはそれを補って余りあるほどの圧倒的な才能の持ち主だ。それこそ、
「か、簡単に言ってくれますけどねぇ...」
「簡単だろォが。オマエにはあの十王 星南も認める才能があるンだからよ。それこそ、花海 咲季と月村 手毬を説得するより遥かに簡単だぜ」
一方通行の言葉を受け、藤田 ことねはしばらくの間呆気に取られていた。暫しの沈黙の後、彼女は意を決したように拳を握りしめる。
「プロデューサーといい、会長といい...。どうしてあたしをそんなに評価してくれるのかは、正直未だによく分からないですケド」
そのまま拳を胸に押し当て、藤田 ことねは宣言した。
「そんなに期待されたらやるしかないじゃないですか!! だから見ていてください、プロデューサー。 あたしは絶対会長を超えてみせます! 会長に、あたしを『ライバル』として認めさせてみせます!!」
その顔にいつもの自信なさげな表情は見当たらなかった。
いつになるかは分からない。だが、そう遠くないうちに藤田 ことねは十王 星南の背中を捉え、追いついてみせるに違いない。
「あァ...楽しみにしてるぜ」
そんな未来の彼女の姿を想像し、一方通行は柄でもなくそう呟いたのだった。