とある学Pの一方通行 作:大内
そんな感じでひとしきり気合いを入れた後、花海 咲季が何かを思い出したかのようにあっ、と口を開いた。
「で、プロデューサー。ユニット名はもう考えてるの?」
「...それより先に決めるべきことがあンだろ」
この三人でユニットを結成する。そう決めた時から、言われるまでもなくユニット名については考えを巡らせていた_________いたのだが、いまいち捗らない。アイドルのユニット名を決めるなんぞ、一方通行には似合わなさすぎるし、実際向いていないだろう。
しかしこれもプロデューサーの仕事である。向いていないとしてもやらなければならない。だから、できるだけイメージを掴むために、先に決めておきたいことがあった。
「センターでしょ」
一方通行が続きを述べるまでもなく、月村 手毬が答え合わせをする。中等部からアイドルをやってきただけあって、いろいろと慣れている様子だ。
「そォいうことだ。オマエらで話し合って決めろ」
アイドルユニットにおけるセンターが誰になるのか、それによってそのユニットの色は大きく変わる。先にセンター、もといユニットの色を決めておいた方がユニット名も決めやすいというのが一方通行の考えだ。
「わかったわ。そういうことなら_______」
「「「わたし(あたし)(私)がセンター!!」」」
「...そォなると思ったぜ」
あまりにも予想通りすぎる展開に一方通行は辟易する。我の強い三人を集めてユニットを作ればこうなるのは目に見えていた。
「年功序列! わたしが一番誕生日が早いんだからわたしがセンターよ!」
「何その理屈...。そもそも年功序列なら藤田がセンターじゃないの?」
「なんで!? あたしお前らと同級生なんだケド!!」
「花海が先輩呼びしてたし。留年してるんでしょ? 劣等生だから」
ギャーギャー騒ぎ出す三人。こうなることは目に見えていたといえ、こうも高頻度で衝突を起こしていては先が思いやられる。前の自分はよくこの三人でユニットを組ませようなどと考えたものだ。
「プロデューサーもなんとか言ってくださいよ! 担当アイドルの喧嘩を止めもしないで!!」
「な・ン・と・か」
「そーいうことじゃねー!」
藤田 ことねのツッコミを受け、一方通行はようやくまともに口を開いた。
「予想通りの光景すぎて呆れて言葉も出ねェってことだ。俺は話し合ってセンターを決めろっつったよな? 知ってっか? 意見の押し付け合いは話し合いとは呼ばねェンだよ」
「「「う......」」」
割とガチめの苦言を受けてバツが悪そうにする三人。確かに問題児ではあるのだが、基本的に素直なのが救いだ。
「つーワケで、相互理解を深めるためにもオマエらにはしばらく一緒に暮らしてもらう。全員が納得する形でセンター、そして_________これは言ってなかったが_________リーダーを決めろ。早々にな」
「そんなこと言っても________って、は? 今なんて?」
「三人同室。少なくとも、ユニット名が決まるまでは」
言葉の意味を理解できず、目を白黒させていた三人だったが、一方通行のダメ押しの一言でようやく事態を飲み込めたようだ。
やはり相性がいいのか、図らずも、驚愕の声は三人同時に_________。
「「「えぇぇえぇぇぇ〜〜〜〜ッ!?」」」
面白いほどに新鮮なリアクションを取る三人に対し、一方通行はしかめ面で耳を塞ぎつつ、しかし胸中でほくそ笑む。
ようやくここまでたどり着いた。もちろん本番はここから________ここからなのだが、それでも第一関門を突破したと言っていい。
三人を同居させる。それはこのユニットをプロデュースしていくうえで必要不可欠な行程。
「プロデューサーさぁ、あたしたちが驚くの面白がってるよね」
「きっとそういう趣味なんだ。変態。性格悪い」
仕事は早いくせに言うのは遅い、と月村 手毬が矢継ぎ早に悪態をつく。
「まぁまぁ。確かに急な話だったけれど、ユニットメンバー同士で暮らして、お互いを知れってことでしょ? いい考えだと思うわ」
花海 咲季はそう二人を宥めながら、先ほどの
「悪ィがオマエに頼みがある。藤田 ことねと月村 手毬の面倒を見てやってくれ。どっちもかなりの問題児でな、オマエにしか頼めねェ」
「言われなくてもそのつもりだったけれど...。ふ〜ん。そう、『わたしに』しか頼めないことなのね。わかったわ、お姉ちゃんに任せなさい!! プロデューサー、あなたもわたしのことお姉ちゃんって呼んでもいいわよ!」
「それは呼ばねェ」
(ことねがアルバイトのしすぎによる過労、手毬が無理な食事制限による体調不良と体重増加、だったかしら。何か対策を考えないといけないわね...)
どこまでも面倒見のいい彼女はそう思案しつつ、
「これから一年間、わたしたちは運命共同体なんだし」
と宣言した。
そんな花海 咲季のもっともな意見を受け、文句を言っていた藤田 ことねと月村 手毬が押し黙る。
「まぁ、ひとり部屋よりも寮費安くなるっていうし、あたし的にもありがたい話ではあるのかナ〜」
「引越しなんて面倒。 レッスンの時間減るし」
「みんなでやればすぐよ。 さくっと終わらせちゃいましょ!」
各々が各々の感情を抱きながら、三人は寮の中へと入っていく。
アイドルとしての相性は良くても人間としての相性は微妙な三人。そんな三人が共同生活を送るということがどういうことなのか、彼女らはこれから思い知ることになる。
時刻は夕暮れ時。担当アイドルたちが引越し作業を進めているその時、プロデューサーである一方通行はというと...。
夕食は基本的にコンビニ飯か外食で済ます一方通行なのだが、何の気まぐれか、彼は初星学園の食堂へと訪れていた。
朝食を缶コーヒーで済ますのは当たり前、昼食夕食ともに外で済ますことがほとんどの一方通行。そんな彼を見かねた花海 咲季に「せめて食堂を使いなさい」と苦言を呈されたことを気にしているわけではない。あくまでもただの気まぐれである。
そういうわけで、一方通行は食券を購入するために列に並んでいたのだが、
(前のヤツ遅ェな...。何やってンだ?)
疑問に思い、覗き込んだのが運の尽きだった。
「ハーフカツ丼か、豆腐ハンバーグ定食か...」
そうブツブツ言いながら券売機と格闘していたのは、一方通行が今最も会いたくない人物の一人でお馴染みの葛城Pだった。というか今の今までその二つで迷っていたのか。何ともはた迷惑な話である。
今思えば特徴的なツンツン頭が視界に入った時点で警戒しておくべきだった、と後悔しつつ退散をはかった一方通行だったが、無情にも葛城Pはこちらを振り返る。
「おお、一方通行じゃねーか。奇遇だな」
「...チッ」
「会うなり舌打ちってお前な...」
そう言って苦笑する葛城Pを見て、一方通行は「おかしなヤツだ」という認識をさらに強める。一方通行が冷たい対応をしているのにも関わらず、どうしてコイツは自分に話しかけるのだろう。
とはいえやはり、人との関わりを拒絶するのは選択肢を狭めるのと同等の愚行だ。(相手が苦手な葛城Pであるということも相まって)先ほどは思わず退散しようとしたが、少しくらい会話をするのもいいだろう、と一方通行は思い直す。
「俺と話してる暇あンならさっさと決めやがれ、後ろが詰まってる」
「見てくれ。ハーフカツ丼と豆腐ハンバーグ定食で100円も値段が違う。そりゃ俺だってカツ丼が食いたいけど、100円の差は大きいぞ...」
「会話、噛み合ってねェンだが...」
普通のカツ丼ではなくハーフカツ丼にグレードダウンしたくせに、それでもまだ迷っているというのか。しかも100円の差で。学生の月村 手毬ですら値段ではなくカロリーで迷うところであると思われるのに、一体コイツはどれだけ金欠なのか、と一方通行は呆れる。
実は、一般的に大学生というのは_________それこそ100円の差を気にするほどに_________往々にして金欠である存在なのだが、記憶を失った(そのうえ口座に百万円の預金がある)一方通行が知るところではない。
ともかく、このままでは埒が明かないと判断した一方通行はしぶしぶ葛城Pに提案する。
「...奢ってやる。好きに頼めよ」
「マジで!? いいの!? 俺にとっての神サマは一方通行だ...!」
「貸しだ」
(引くほど)大袈裟に一方通行への感謝を述べる葛城P。
まぁ、ここでコイツに貸しを作っておくのも悪くないだろう、と一方通行は自分に言い聞かせた。腐ってもプロデューサー科の人間、葛城Pも優秀であることに違いはないのだ。多分。きっと。
結局、葛城Pは普通のカツ丼を頼んでいた。先ほどハーフカツ丼か豆腐ハンバーグ定食かで迷っていた彼だが、やはり食べ盛りの大学生にハーフカツ丼は少なすぎるのだろう。
「んじゃ、先に席取っとくからな。後で来いよ」
「...あァ」
この際仕方ねェか、と半ば諦め気味に食券を購入し、一方通行も葛城Pが向かった方向へと続く。あちこち見渡すまでもなく、中央のテーブルに葛城Pの姿を捉えた。
「わざわざこンなど真ン中で食わなくてもイイだろォが」
「何でだ? 見つけやすかっただろ?」
依然として微妙に会話の噛み合わない葛城Pに舌打ちを返し、一方通行も渋々テーブルに着く。
「んで、調子はどうよ」
「悪くはねェな。オマエは?」
「正直わからん。アイツ...篠澤Pとか、あさり先生にもアドバイス貰いながらなんとかやってるって感じだ」
でも、と葛城Pは続けて、
「どんなに時間がかかっても、俺は葛城をトップアイドルにしてみせる」
「...へェ」
「なんだよ、その顔は」
「何でもねェ。つーかどォでもイイが、前までさん付けして呼んでなかったか? 『葛城さん』って風によォ」
本当にどうでもいいことだったが妙に引っかかったので尋ねると、葛城Pは照れたように頬をぽりぽりと掻いた。
「俺はもともと目上の人以外の名前は呼び捨てにするタイプでな。でもプロデューサーだし敬語使った方がいいんじゃねぇかと思って、今まで葛城には敬語で接してた」
葛城Pはそこで呆れたように天を仰いだ。
「でもまぁ、慣れないことをするもんじゃねぇ。ちょっと前にボロが出たんだ。で、なぜか葛城にその話し方のが好きだって言われたっつーワケだ」
「へェ。俺は最初からアイツらには敬語なンて使わなかったがな。ガキに対して敬意なンか必要ねェだろ」
「ひでぇ言い草だな...。つーかまずアンタが敬語を使う姿自体想像できねぇよ。誰になら敬意を払うんだ?」
一方通行がその問いに答える前に、葛城Pは自ら話題を変えた。
「なんか今日ご機嫌だな、一方通行」
「あァ?」
「良いことでもあったのか?」
「...まァ、あったっちゃあったか」
そんな一方通行の返事に葛城Pが目を丸くする。どうも彼にとってそれは意外な返答だったらしい。
構わず、一方通行は続ける。
「アイツらの同居が今日決まったンだよ」
「ついにユニット結成か。そりゃあめでたい」
「これで俺もよォやく楽ができる」
その言葉に葛城Pが怪訝な顔をする。
「...楽っつーのは?」
「俺の担当が三人とも問題児なのはオマエも知ってンだろ。いちいち面倒見てちゃキリねェからな。
藤田 ことねのバイト事情、月村 手毬の食生活、その他エトセトラ。それらすべてを一方通行が管理するのは正直面倒臭い。ならばいっそのこと、ユニットメンバー同士で諸々を管理させ合えばいいのではないか。そういった目論見もあって、一方通行は(今のところ一番厄介ごとの少なそうな)花海 咲季に他二人の面倒を見るよう頼んだのである。
すべては一方通行の負担を可能な限り減らすため、あえて言葉を選ばずに言うのであれば、極限まで楽に三人のプロデュースを行うため。言ってしまえばユニット結成は手段に過ぎない。記憶を失う前の一方通行が初めからユニットを結成させるつもりで三人をスカウトしたのかどうか、それは今となってはわからないが。
「ま、三人を担当してるってだけでもすげー大変そうだしな。いいアイデアなんじゃねぇの? ...つーか三人同居ってもしかして寮で?」
「それ以外ねェだろ」
「そりゃそうか。...いや、葛城も寮暮らしだからさ、ってアンタはもう知ってるよな」
「...?」
何が言いたいのか、と一方通行は眉を顰める。
「とにかく、助け合っていけたらいいよなって思っただけだ。俺たちも、俺たちの担当アイドルも」
「...『葛城をトップアイドルにしてみせる』、だったか? 同じ頂を目指す以上、俺たちは敵同士だ。オマエもそれがわからないほど馬鹿じゃねェだろ」
言うまでもなく初星学園で『一番星』として輝けるのは一人だけ。メリットのある関係性を築くならともかく、甘ったれた仲良しこよしをやっている暇などない、と一方通行は葛城Pを一蹴する。
が、彼が一方通行から視線を逸らすことはなかった。
「俺は葛城を『一番星』にする」
「......」
「けど、敵同士だからって別にいがみ合う必要ないだろ。助け合えるんならそれが一番いいに決まってる」
俺はアンタが困っていたら迷わず助けるぞ、とどこまで本気なのかわからない台詞を吐く葛城P。
そんな彼の言葉に一方通行も思わず毒気を抜かれてしまう。
「お人好しもここまでくると狂気だな」
脳裏に花海 咲季の姿がぼんやりと浮かぶ。彼女はユニットメンバーどころか、敵である花海 佑芽の世話すら甲斐甲斐しく焼いているのだ。その姿が目の前の男と重なり、一方通行はため息をついた。
そんなアイドルをこれからプロデュースしていかなければならないのだ、彼女のプロデューサーとして。
「オマエの方が相性良いンじゃねェか?」
「何の話?」
「...何でもねェよ」
一度プロデュースを申し入れたからには最後まで自分がプロデュースする責任がある。思わず漏れた心の声は誰の耳にも入らなかったが、それでよかった。
ふと、スーツのポケットが震える。
「...チッ」
連絡をすぐに確認する癖もすっかり染み付いてしまった。自分のプロデューサーぶりが板についてきたこと自体に対して小さく舌打ちをする。
「担当からか?」
「この携帯に連絡が来たら送り主は担当か先生、その二択だ」
「そうか...悪い」
微妙に生温かい目を向けてくる葛城Pを無視し、一方通行はスマートフォンを操作する。メッセージの送り主は月村 手毬。内容は_________。
(ご愁傷様)
カロリー調整のため毎食送るように彼女に命じていた食事の写真。それが今日も送られてきたわけである。
問題は今回の食事のシェフだ。もう見た目でわかる。一方通行も以前口にしたことのある流動性の物体X。そんな花海 咲季特製ペースト飯を、ついに月村 手毬も(ついでにおそらく藤田 ことねも)経験してしまったというわけである。
『味は意外と悪くないです』
写真に添えられたその一言がまた同情を誘う。確かに味は悪くない。そして健康的なのもまた間違いないだろう。が、花海 咲季と同居生活を続ける限り(そして彼女に食事係を任せる限り)、おそらく毎食がこのペースト飯になる。『食べること』を趣味としている月村 手毬が果たしてその生活に耐えられるのか。
(まァ、何にせよこれで俺もコイツのカロリー管理をしなくて済むか)
つまり既に彼女が食事の写真を送る必要はなくなったのだが、それをメッセージで指摘すると『は?』とだけ返ってきたのでもう好きにさせることにした。
「で、なんだって?」
「メシの写真だ」
「...なかなか凄いものを作るな、花海姉は」
一方通行の手元を覗き込み、顔を引き攣らせる葛城P。
「にしてもあの月村 手毬をよく手懐けてんな」
「素行は悪ィが、意外と素直な女だ」
扱いやすくて助かる、という言葉はなんとか飲み込んだ。多少オーバーワーク気味なところがあったり、返信が遅いと機嫌が悪くなったりはするがまぁ許容範囲の面倒臭さだ。
「おっと、そうだ」
葛城Pは何かを思い出したかのように自身のスマートフォンを取り出すと、一方通行の方へと向けた。
「連絡先交換しようぜ」
「...あァ?」
「ほら、友達がいなくてかわいそう_________じゃなかった。今日アンタに借りを作っちゃったしさ、いざ返そうって思った時に連絡が取れないのも困るだろ?」
お前はその気になればいつものように直接話しかけにくるだろ、という文句はさておき。
(目の前の男が一瞬哀れみの目をこちらに向けたこと以外は)特に断る理由も見当たらなかったので、一方通行はしぶしぶ葛城Pの連絡先を自身のスマートフォンに登録した。
「んじゃ、また連絡するわ。無視すんなよ」
「時と場合による」
その夜、『連絡先を教えてもらいました』という文面とともに見知らぬアカウントからメッセージが届いた。
よりによって一番面倒な人間_________篠澤Pに連絡先を教えるなんて、と一方通行は葛城Pと連絡先を交換したことを今更後悔するのだった。