とある学Pの一方通行 作:大内
時系列的には咲季とことねがダンス対決をする前日。
「お」
「おや」
「...なンでだよ」
それは一方通行が初星学園から帰宅する途中のことであった。
一方通行が普段暮らしている寮にたどり着くためには、主に初星学園アイドル科の生徒が利用する女子寮の前を通っていくのが手っ取り早い。
無論、今日の一方通行もそのルートを通っていたのだが、今日ばかりはその選択をしたことを非常に後悔していた。と、いうのも________。
「よう、一方通行。今帰りか?」
「奇遇ですね。調子はどうですか?」
「......」
そう、なぜか女子寮の前に葛城Pと篠澤Pの姿があったのである。
時刻は夕暮れ時。辺りも薄暗く、女子寮の正門に近づくまで二人の存在に気付かなかったのは一方通行の痛恨のミスだ。というか、この時間に女子寮の前で突っ立っている男二人とか完全に不審者だろう。
「何してンだ、不審者ども」
「いや、例の話。葛城さんのプロデュース方針の件で相談にのってもらってたんだけど...」
「俺は俺で篠澤さんを寮まで送る必要があったので。話をしながら三人で女子寮まで歩いてきたんですよ」
「篠澤 広の姿は見えねェが」
「篠澤さん、レッスン後はとにかくすぐに部屋で休ませないと翌日に響くので...。先に帰しました」
「なンだそりゃ」
篠澤 広の送迎が済んだのならさっさと場所を移すか帰るかすればいいのに。なぜまだ二人はここに残っているのだろう。
「葛城さんと連絡が取れないんだよ。さっきから電話してるが繋がらん」
「まだレッスンしてンじゃねェのか」
「今日は休養日だって伝えてる。この時間から寝てるとも考えにくいし、連絡が取れないのが心配で________」
なるほど、要は葛城 リーリヤの居所が不明、ということか。
プロデューサーといえど、もちろん女子寮に入るためには許可が必要である。そして、その許可は簡単に取れるものではない。やむを得ない事情がある場合に限り認められ、そのうえで面倒な手続きをする必要がある。
「そんな面倒な手続きをするより、寮の人間に聞いた方が早い。今、有村さんに葛城さんの部屋を見に行ってもらってます」
「まァ...。十中八九部屋にはいねェだろォな」
一方通行のその言葉はすぐに証明されることとなった。
「リーリヤ、部屋にはいないみたいです」
寮長である有村 麻央の報告に、葛城Pの表情が曇る。放っておけば今すぐにでも駆け出していきそうな、そんな必死さが滲み出ている。
「いったん落ち着きましょう。部屋にいないとなると_______そうですね、やはりまだ学園にいるのかもしれません。手分けして探しましょう」
「...すまねぇ、恩に着る!」
「ボクも手伝います!」
篠澤P、葛城P、有村 麻央はどうやら初星学園の方へと探しに行くつもりらしい。むろん、一方通行はそこまでお人好しではない。彼らとは反対方向に歩き出そうとした時、ポケットの中のスマートフォンが震えた。
緩慢とした動作で通知を確認すると、そこには一件のメッセージが。
「どォやら...探す必要はなくなったらしい」
一方通行のその言葉に三人の動きが止まる。どういうことか、とこちらに顔を向けて説明を求める三人に、一方通行は無言でスマートフォンの画面を突きつけた。
画面には一件のメッセージ、その内容が表示されている。差出人の欄にある名前は_________月村 手毬。
『初めまして、葛城 リーリヤです。センパイ________わたしのプロデューサーが月村さんのプロデューサーのことをよく話していたのを思い出して、今は月村さんの携帯をお借りしてこのメッセージを打っています。もしご迷惑でなければ、『携帯の充電が切れて連絡ができない』とわたしのプロデューサーに伝えてほしいです。お手数おかけしますがよろしくお願いします』
『追伸: 葛城のことは私がしっかり寮に送り届けるから心配しなくていいよ』
「休むなと言われて休む人はいても、休めと言われて休まない人は初めて見ました」
「ごめんなさい...」
一方通行のスマートフォンに例のメッセージが届いてから数分後。女子寮の門の前には葛城Pに説教されてしゅん、と縮こまっている葛城 リーリヤの姿があった。そして篠澤P、有村 麻央、一方通行、そして葛城リーリヤを女子寮まで送り届けた月村 手毬がその周りを囲んでいる。
「オーバーワークは身を壊す。それはあなたもよくわかっているはずです」
何となくこの男が言うと説得力のないセリフだが、正論ではある。葛城 リーリヤがさらに縮こまってきたところで、篠澤Pの助けが入った。
「まぁまぁ、そのくらいでいいのでは。葛城さんも悪気があったわけではないでしょう」
休めと言われた日にレッスンを行うのは悪気があったからではなくやる気があったから、という冗談はさておき。
葛城Pの説教が終わらない限り解散の流れにならないことは一方通行にも何となくわかったので、ここは雑に篠澤Pに同調しておく。
「無事で何よりじゃねェか」
「...ま、それもそうか。では葛城さん、俺からのお説教はこれで終わりですが。最後に皆さんに一言謝罪の旨を伝えるように」
皆さんあなたの安否を心配して探しに行こうとしてくれたんですよ、と葛城Pは付け加えた。正確に言えば一方通行は無視して帰ろうとしたのだが、わざわざそれを指摘する必要もないだろう。
「有村先輩、月村さんのプロデューサーさん、篠澤さんのプロデューサーさん、心配かけてごめんなさい...」
「すまなかった。...月村さんも、うちの葛城さんを寮まで送ってくれてありがとうございます。またいつかお礼をさせてください」
葛城Pの謝罪を受けた月村 手毬は多少気まずそうにしながらも、当然のことをやったまで、と言わんばかりに胸を張った。
「大袈裟です。今度から気を付けなよ、りーぴゃん」
(((りーぴゃん...?)))
一同が彼女の発言に首を傾げる中、当の葛城 リーリヤは僅かに頬を染め、慌てて訂正しようとする。
「りーぴゃんじゃなくて、リーリヤって呼んでほしい、です。わたしも月村さんのこと、これから手毬ちゃんって呼ぶから」
「...好きにしたら?」
ぶっきらぼう、としか言い表しようのない月村 手毬のセリフ。しかし、それに反して彼女の表情は柔らかい。本人は必死に否定するだろうが、彼女はまさしく『照れている』のだった。
「相変わらず素直じゃねェヤツ」
篠澤Pと葛城Pが『誰かさんにそっくり』というセリフを必死に堪えていることに一方通行は気付かない。
「まァ、謝罪が大袈裟っつーのはコイツの言う通りかもな。コイツもコイツで夜道を一緒に帰る相手が欲しかったンじゃねェか?」
どォせ前日にホラー特番でも見たンだろ、と言いながら一方通行は月村 手毬の頭の上にポン、と手を置く。
当然、彼女は(怒りで?)真っ赤になって反発した。
「そそそそんな訳ないでしょ!? プロデューサーは私が百パーセント善意でリーリヤを寮に送ったとは一ミリも思わないんですか!?」
「ンな殊勝な女じゃねェだろ、オマエは」
「ひど!? ...もうプロデューサーなんて知りません! 行くよ、リーリヤ」
「え? え!? ちょっと待ってよ手毬ちゃん!!」
「あ、こら! 寮内は走っちゃダメだよ!」
月村 手毬は頭の上に置かれた一方通行の手を(なぜか少し名残惜しそうに)払いのけ、悪態をつきながら女子寮の中へと消えていった。葛城 リーリヤがこちらに頭を下げながらその後に続き、最後に有村 麻央も呆れた表情で敷地内へと戻っていく。
「有村さん! 葛城さんの捜索を手伝ってくれてありがとう!!」
葛城Pがその背中に声をかけると、彼女はこのくらいお安い御用、とでも言うかのように手を振った。さすがは初星学園のリトルプリンス、と言ったところか。
「それにしても驚いた。プロデューサーとは担当アイドルに似るものなのでしょうか」
「そいつは因果関係が逆じゃねーか?」
もともと似た者同士だから担当になるんだろ、と嘯く葛城P。
「...何を見てそォ思ったのかは知らねェが」
二人の会話を受け、一方通行は不機嫌そうに口を開いた。
「確かにオマエらは、それぞれ葛城 リーリヤ、篠澤 広とよく似てンなァ」
休養日を潰してまでレッスンを行う葛城 リーリヤの猪突猛進具合。
自分に一番向いていないことをしに初星学園に来た篠澤 広の変人具合。
それぞれ彼女らのプロデューサーとよく似ているように思える。似てきたのか、あるいは元から似ていたのか。それは彼らと知り合って日の浅い一方通行にはわからないが。
そんな一方通行を見て二人は顔を見合わせ、揃って怪訝な表情を浮かべる。そして示し合わしていたかのように同時に言い放った。
「あんたに言われたくはないな」
「あなたに言われたくはありません」
「...あァ?」
今度は一方通行が怪訝な表情を浮かべる。本気で何を言っているのかわからないとでも言いたげなその顔は、葛城Pと篠澤Pを苦笑させるには十分だった。
何にせよ、初星学園のプロデューサーというのは担当アイドルに似るものらしい。プロデューサーがアイドルに影響されるのか。アイドルがプロデューサーに影響されるのか。はたまた、最初から似た者同士なのかは永遠の謎である。