とある学Pの一方通行   作:大内

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以前、この物語は初星コミュを軸に進むという話をしたと思います。それが大嘘になってしまうかもしれないということを、ここでお詫びしておきます。


第20話『動き始めたライバルたち』

「かっ怠ィ...」

 

担当アイドルたちにそれぞれ新曲を手渡した次の日の朝。

 

プロデューサーとしての仕事が早くも(非常に不本意ながら)板についてきた一方通行だったが、朝早く起きることだけは相変わらず苦痛だ。

 

気怠げに初星学園へ歩みを進めていると、目の前に見知った姿を捉えた。

 

「...花海 佑芽」

 

花海 咲季の妹であり、なおかつ生涯のライバルとなるであろう花海 佑芽。彼女は横断歩道の手前で律儀に信号待ちをしていたが、一方通行の呟きを耳ざとく聞きつけたようでこちらへと振り返る。

 

「あ、プロデューサーさん。...その、おはようございます」

 

と、ここで一方通行は彼女に対してある違和感を覚えた。

 

そう、いつもなら彼女は大声で挨拶をしてくるはずだ。そのせいでこれまで一方通行は彼女に会うたびに耳を塞ぐことになっていた。

 

それが今はどうした。花海 佑芽は何処となく落ち着かない様子で、もじもじしながら一方通行の様子を窺っている。気のせいだろうか、その頬は僅かに赤く染まっているように見える。

 

一方通行の沈黙、そしてこちらを探るような目線についに耐えられなくなったのだろうか。しばらくの後、花海 佑芽は恐る恐る話を切り出した。

 

「プロデューサーちゃん__________星南会長に昨日の話は聞きました」

 

コイツは十王 星南を『プロデューサーちゃん』と呼んでいるのかというツッコミはともかく、その言葉を聞いた時点ですでに一方通行は嫌な予感を抱いていた。何かとてつもない冤罪をふっかけられるような、そんな嫌な予感を。

 

そして、彼の嫌な予感はよく当たる。

 

「プロデューサーさんが、あたしのコト、イイ身体してるねって褒めてたって。...プロデューサーさんのえっち」

 

「...はァ?」

 

一方通行の視線から身を守るかのように自身の身体に両腕を回し、ジト目でこちらを見上げる花海 佑芽に対し、一方通行は(彼にしては珍しいことに)素っ頓狂な声を上げた。

 

それほど彼女の言葉は一方通行にとって予想外のものだったのである。

 

「...あのなァ。俺は『アイドルとして最高の肉体をもっている』とオマエを評しただけだぜ。もちろんその高い身体能力に関してだ。それがどォしてそンなセクハラめいた発言に変わる?」

 

アホらしい、と感じながらも一方通行は冷静に弁解する。花海 佑芽は最初訝しげにその弁解を聞いていたが、最後まで聞き終わるとその両頬をみるみるうちに真っ赤に紅潮させて、

 

「そそそそうですよね!! お姉ちゃんのプロデューサーさんがあたしをそんな目で見るはずないかぁ〜!! 変なコト言ってごめんなさい!」

 

「にしても勘違いの仕方が馬鹿すぎンだろ。オマエもオマエのプロデューサーも頭ン中が真っピンクになってンじゃねェのか?」

 

「くっ、言ったなぁ! こうなったら、『初』でお姉ちゃんもプロデューサーさんもまとめてボコボコにしてやりますからね!!」

 

覚えてろ〜、と月並みな捨て台詞を残して、花海 佑芽は信号が青に変わった横断歩道を全速力で駆け抜けていった。

 

「チッ、あの女。姉に告げ口してねェだろォな」

 

今の話がそのまま花海 咲季に伝わっていたらさらに面倒なことになると一方通行は考えたが、かといって全速力で駆ける花海 佑芽を今更追いかける気も起きない。

 

彼は小さくため息をつき、再び気怠げに歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、一方通行」

 

「おはようございます」

 

初星学園に到着したら到着したで面倒な連中と邂逅するということに関しては、既に一方通行も諦観の念を抱いていた。あさり先生の講義を受けている限りこの連中との邂逅は避けられないのである。

 

そんな彼の心中に気付いているのかいないのか、(面倒な連中の筆頭である)葛城Pと篠澤Pはいつもと変わらぬ様子で話しかけてきた。

 

「チッ...どンだけ暇なンだてめェらは」

 

「いやいや、俺ら友達だろ」

 

「友人との会話は暇じゃなくともするものでしょう」

 

友人。その関係性をいちいち否定するのも疲れてきた。勝手に言わせておこう、と一方通行が半ば諦めの感情を抱いたところで、葛城Pが続けて言葉を紡ぐ。

 

「あ、そうそう。前相談した葛城のプロデュース方針についてなんだけど」

 

彼はそこで一旦間を置いた。そして一世一代の決断をしたかのように大袈裟に語り始める。

 

「とりあえず定期試験の『初』で上位をとることを当分の目標にした。葛城は言っちまえばアイドル初心者だからな。まずは実践経験を積むことが大事_________」

 

「おや、奇遇ですね。俺も四月の『初』に篠澤さんを出場させようと考えています」

 

「軽ッ!? 重大なことのように語ってたのが馬鹿みたいじゃん俺!」

 

「いや、俺にとっても十分重大ですよこの決断は。何せうちの篠澤さんはまだ一曲通して歌い切ることができるかどうか怪しいですから」

 

「...それは果たして大丈夫なのか?」

 

まぁ本人の希望なので、とあくまで軽々と言い切る篠澤P。

 

「ほォ。葛城 リーリヤと篠澤 広が『初』にねェ」

 

良い選択だろう、と一方通行は素直にそう思った。葛城Pの言う通り実践を積むには適した場だろうし、何より順位が出るのが良い。三位なら次は二位に、二位なら次は一位に、と言った風に明確な目標を設定できる。

 

まぁ、それはそれとして上位を譲ってやる気などさらさらないのだが。

 

「いやぁ、なんかさ。一方通行は夏のHIFで担当アイドルたちを優勝させる気じゃん? 同期がこんな頑張ってんだから俺だって、って思ったんだ」

 

照れたように頬を掻きながらそう言う葛城P。篠澤Pもそれに同意するかのように頷いている。

 

「オマエらの担当はまだ一年だろォが。焦りは禁物じゃねェのか」

 

「貴方がそれを言いますか...」

 

俺の担当アイドルたちは現時点で十分な実力があるからなァ、と一方通行は嘯く。捉え方によっては失礼とみなされかねないその発言を受けても彼らが憤ることはない。彼ら、特に篠澤Pは自身の担当アイドルの未熟さを嫌というほどに理解している。

 

「...それでも」

 

しかし、アイドルとして未熟であるのはそれこそわかりきっていた前提である。そこで諦めるような人間であれば、そもそも彼は最初から篠澤 広をプロデュースしようなどとは考えなかったはずだ。

 

「冬のHIFには間に合わせてみせます。貴方のライバルとして。篠澤 広のプロデューサーとして」

 

「俺だってそうだ。二年、三年と開花の時を待っていられるほど俺も葛城も気が長くはねえ。一年生のうちに、俺は葛城を一番星にする」

 

「ほォ...面白ェ。全員まとめてブッ潰してやるからかかってこいよ」

 

三人の視線が交差しまさに一触即発。ピリピリ、と場の空気が振動する。

 

教室にいた他の生徒たちがその空気に耐えきれなくなったところで、(彼らにとっては比喩でも何でもなく)救世主が一方通行たちの間に割って入った。

 

「そろそろ始業時間なので喧嘩はやめてくださいね~」

 

呆れ気味にそう注意する女性_________あさり先生は、教卓の前に立って本日の講義で使用するであろうプリントを配り始める。その表情に動揺の色はなく、それは一方通行たちが起こすいざこざに『慣れっこ』であるということを物語っていた。

 

「勘違いしないでいただきたい。これは喧嘩ではなく決意表明_________」

 

「プロデューサーくんたちにはもっと他にやるべきことがあるでしょう?」

 

そう言うと彼女はジト目で一方通行たちを睨んだ。

 

「葛城さんのオーバーワークは治りましたか?」

 

「う...」

 

「篠澤さんの体調管理は?」

 

「さ、最善を尽くしています」

 

「最近、花海さんと月村さんが喧嘩したと先生は聞いたんですが...」

 

「...チッ」

 

それぞれの弱みを的確についてくるあさり先生に対し、流石の一方通行たちも返す言葉は少ない。まぁ裏を返せば彼女はそれほど細かく生徒たちを見ている、ということでもあるのだが。

 

その後、葛城Pと篠澤Pは(もともと彼らが一方通行の席の周りをたむろしていたため)すごすごと自分の席へ戻っていった。

 

他の生徒たちはようやくピリピリした空気が完全に霧散したことに安堵し、同時に彼ら問題児を大人しくさせる力をもつあさり先生に対して畏怖の念を抱いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼寝。

 

それは最近の一方通行のルーティンと言ってもいい。午前の講義が終わった後の昼休憩から担当アイドルたちのレッスンが始まる時間まで、彼は決まって睡眠を取るようになった。

 

そして、今日もいつも通り事務所のソファーで昼寝をしようと思っていた彼だったが____________。

 

『わたしの可愛い妹にセクハラを働いたそうね、プロデューサー。この後じっくりと話を聞かせてもらうわよ』

 

先ほど着信したメールの内容に目を通し、一方通行はここ最近で一番大きなため息をついた。

 

(あの女...。誤解くらい自分で解けねェのか)

 

心の中で花海 佑芽に対する呪詛を撒き散らし、彼は思考する。

 

事務所で昼寝をするとしても、もし途中で花海 咲季が襲来すれば一方通行の眠りは確実に妨げられるだろう。そして彼女の誤解が完全に解けるまで不毛な弁解をしなくてはならないのだ。

 

少なくともレッスンが始まる時間までは確実に睡眠を取りたい。となると、花海 咲季が訪れる恐れの少ない場所が望ましいのだが_________。

 

「こんにちは、まりちゃんのプロデューサー」

 

一方通行の思考がおっとりした声に遮られる。顔を上げると、目の前に秦谷 美鈴が立っていた。

 

「またオマエか...」

 

例の『膝枕』の一件から、彼女はたびたび一方通行に話しかけてくるようになった。月村 手毬を気にかけてのことだろうが、彼女らの仲をわざわざ取り持ってやるほど一方通行は優しくないので、いつも適当にあしらっている。

 

「よければ今日も一緒にお昼寝をしませんか?」

 

欠伸しながらアイドルにあるまじき誘いをしてくる秦谷 美鈴に、一方通行は『しねェよ』と言いかけ、そこで言葉を止めた。

 

サボって昼寝をしてばかりいるコイツなら、もしかして誰にも邪魔されない昼寝スポットを知っているのではないか?

 

「_________気が変わった。イイぜ。その代わり、誰にも邪魔されねェ場所に連れて行けよ。知ってンだろ?」

 

まさか一方通行が誘いに乗るとは思っていなかったのだろう。秦谷 美鈴はしばらく呆気に取られたようにポカンとしていたが、すぐに妖艶な笑みを浮かべて、

 

「まぁ、なんて大胆なお誘い。誰にも邪魔されない場所に連れ込まれて、わたし、一体何をされてしまうのでしょう」

 

「ふざけたこと言ってンじゃねェ、さっさと答えろ」

 

「ふふ、いいですよ。わたしのとっておきのお昼寝スポットを教えてあげます」

 

最近自分の発言がセクハラ扱いされることが多いな、と一方通行は首を傾げつつ、目的地へと歩き出した秦谷 美鈴の後を追う。

 

「オマエ、生徒会に入ったンだろ? 仕事はイイのかよ」

 

「わたしにはわたしのペースというものがありますから」

 

微妙に会話が噛み合っていない。相変わらずよくわからない女だ、と一方通行は思った。

 

そんな彼の心中に気付いているのかいないのか、秦谷 美鈴は話題をがらりと変える。

 

「まりちゃん、『初』に出るそうですね」

 

「耳が早ェことで」

 

「...あなたの差し金でしょう?」

 

スッ、と。秦谷 美鈴の瞳からハイライトが消える。どうやら彼女はこの話をしたくて一方通行を昼寝に誘ったらしい。何とも回りくどい、と一方通行は思った。

 

「何に対してキレてンだ? 俺は月村 手毬のプロデューサーだぜ」

 

差し金も何も当たり前のコトじゃねェか、と一方通行は嘯く。

 

月村 手毬が『初』に出るように仕向けたのは紛れもなく一方通行だ。しかし、それは『個の力』を上昇させるための手段。担当アイドルを一番星にするためにプロデューサーとして至極当然の仕事を遂行したまでであり、文句を言われる筋合いなどない。

 

「まりちゃんの、あの子の走るペースは速すぎるんです。もっとゆっくり。それこそ歩いて行くくらいがちょうどいいとわたしは思います」

 

「だから言う通りにしろと? ハッ、傲慢にもほどがある。オマエは何様のつもりなンだ?」

 

「えぇ、だから『初』でまりちゃんに勝って証明するんです。あなたの走るスピードより、わたしの歩くスピードの方が速いということを」

 

「.......」

 

その発言に、あまりの身勝手さに、一方通行は言葉を失った。

 

()() ()()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

本気で月村 手毬を気にかけていながら、同時に見下ろしている。自分の方が『上』だと思っているから、『初』で負けることなど考えもしない。

 

「気に食わねェな、オマエ」

 

思わず本音が口からこぼれる。件の秦谷 美鈴は、一方通行のその本音を受けても気を悪くした様子はない。普段と変わらず穏やかな微笑みを浮かべている。

 

「わたしは、あなたのことを好ましく思っていますよ」

 

まりちゃんを『初』に出場させることについては許していませんが、と彼女は言う。

 

「なンだそりゃ、皮肉か? 」

 

「違います」

 

そういや京都出身だったな、と思い返しながら呟く一方通行に、秦谷 美鈴は(そこで初めて)気分を悪くしたかのように頬を膨らませた。打って変わって年相応の仕草を見せる彼女に一方通行は面食らう。

 

というか、自分は初星学園において変人どもに気に入られ過ぎではないか。

 

うんざりする一方通行の心情を無視して秦谷 美鈴は続ける。

 

「あなたは()()()によく似ていますから。まりちゃんがなつくのも納得です」

 

以前、月村 手毬に自分と一方通行が似た者同士だと言われたことがある。だが、秦谷 美鈴の言い方から察するに彼女はそれについて言っているわけではないらしい。

 

「えぇ。まりちゃんは()()()に影響された結果、ああなったんです。今ももちろん可愛らしいですが、素のまりちゃんはもっと可愛らしいですよ」

 

なるほど、その()()()とやらが月村 手毬の素行を悪くした一因であり、よりにもよって一方通行は()()()とやらに似ていて、結果的に()()()とやらに影響された月村 手毬も一方通行と似ている、ということになるわけだ。まったく、一方通行からすればたまったものではない。

 

「オマエらみたいなのに気に入られて、『あの子』とやらに同情するぜ」

 

俺も月村 手毬には手を焼かされている、と彼女の素行を思い出しながら一方通行は嘯く。そのうえさらに素行の悪い秦谷 美鈴までついてくるわけで、考えただけで頭痛がしてきた。()()()()()()()()()S()y()n()g()U()p()!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

恐らく、というか十中八九『SyngUp!』のメンバー内で最も苦労していたであろう()()()とやらに一方通行は本心から同情する。

 

「まぁ。まるでわたしとまりちゃんが手のつけられない不良であるかのような言い草」

 

「よくわかってンじゃねェか、そう言ってンだよ」

 

「本当に、失礼なひと」

 

言葉とは裏腹に秦谷 美鈴の表情は柔らかい。それは彼女が自分を不良であると自覚しているからなのか、それとも一方通行に『誰か』を重ねて見ているからなのか、一方通行にはわからなかった。

 

「...着きましたよ。ここなら誰にも邪魔されずにお昼寝ができます」

 

とはいってもこの時間限定ですが、と言いながら秦谷 美鈴はとある部屋の扉の前で立ち止まった。上の看板には茶道室と書かれている。

 

「なるほどなァ。どォせ茶道部の連中くらいしか使ってねェこの部屋なら、少なくとも放課後になるまでは邪魔が入らねェってワケだ」

 

納得したように呟きながら一方通行は茶道部の扉に手をかけた。

 

中に入ると、まず目に入ったのは一面中の畳。他にも掛け軸やら生花やらが飾られており、いかにも和室テイストという感じだ。ここは茶道室なのだから当たり前と言われれば当たり前ではあるが。

 

「では、おやすみなさい」

 

ふと見れば、秦谷 美鈴は既に畳の上に寝転がって惰眠を貪ろうとしている。しかもご丁寧に毛布まで持参ときた。まさかいつも持ち歩いてるんじゃないだろうな、とどうでもいい疑念を抱いたところで一方通行はこの部屋に来た本来の目的を思い出し(前回の膝枕事件と同じ轍を踏まぬよう一応秦谷 美鈴とは十分な距離を取りつつ)自らも畳の上に仰向けになった。

 

両手を頭の下に置き、足を組み、目を閉じる。やはり朝早く起きるようになってから睡眠時間が不足していたのだろう。一方通行は程なくして意識を手放した。

 

......。

 

............。

 

....................。

 

「あっ、いたぁ!!!!!」

 

突如、爆音が一方通行の鼓膜をつんざいた。

 

「うるせェぞ、花海 佑芽」

 

「うるさいですよ、佑芽さん」

 

反射的に文句が口から出たところで、今更ながら一方通行はこの流れに既視感を覚える。確か、前にもこんなことがあったような___________。

 

「お姉ちゃんのプロデューサーさんと美鈴ちゃんが同衾してる!!!!」

 

「オイちょっと待てコラ」

 

とんでもない誤解をしながらスマートフォンのカメラをこちらに向けてくる花海 佑芽に一旦ストップをかける。同時に、よく同衾なんて言葉が(補欠合格の)コイツの頭から出てきたな、と一方通行は場違いな感想を抱いた。

 

このままでは(前の膝枕事件の時と同じように)誤解が解けないまま花海 咲季に一方通行の醜態が伝わってしまう。というかこの女は何でもかんでも姉に報告し過ぎだろう。

 

「まず携帯をしまえ。それからよく聞け。朝も似たよォなことを言ったが、プロデューサーの俺がアイドル相手に欲情するワケねェだろォが。なンでもかンでも色恋沙汰に繋げてンじゃねェよ、色ボケ女」

 

「よよよよよ欲情!?」

 

「思春期の男子高校生かオマエは」

 

ちょっとエッチなワードに反応して過剰に騒ぎ立てるという思春期特有の性質を有する花海 佑芽に、いい加減一方通行もうんざりしてきた。

 

「チッ、邪魔が入らねェって話はどうなってンだ」

 

「恐らく星南会長の仕業でしょう。佑芽さんにわたしを連れ戻してくるようお願いでもしたのだと思われます」

 

「ふふん、美鈴ちゃんの匂いは覚えたからね! どこに隠れてても見つけてあげられるよ!」

 

自信満々に胸を張る花海 佑芽とは対照的に、一方通行は訝しげに眉を動かした。すなわち。

 

コイツは犬か何かだったか、と。

 

匂いで人探しなど言うまでもなく人間業ではない。となると考えられる可能性は花海 佑芽がそもそも人間ではないか、もしくは__________。

 

そこまで考えて一方通行はチラリ、と横目で秦谷 美鈴を見やった。

 

「...何か言いたいことがおありですか?」

 

「別にィ」

 

口に出せばそれこそ何らかのハラスメントにあたるだろう。そう察した一方通行は大人しく身を引くことにした。十中八九この話題は藪蛇だ。

 

一方の秦谷 美鈴は尚も面倒そうにあくびをしている。それにしびれをきらしたのか、花海 佑芽がずかずかと茶道室に入ってきて彼女の手を取った。

 

「今日こそは美鈴ちゃんをレッスンに連れていってほしいって、プロデューサーちゃんにお願いされちゃったわけなんです!!」

 

「まぁ。なんて面倒な」

 

「そう言わずに一緒にレッスン行こうよ~」

 

「ふふ、そうですね」

 

秦谷 美鈴は微笑んだ後、花海 佑芽の手を掴んだまま腰を上げた。

 

「『初』でまりちゃんに勝つためにも、しばらくは真面目にレッスンすることにしましょう。今のあの子には手強いプロデューサーもついていることですし」

 

油断はできません、と秦谷 美鈴は言うが、それが本心なのかどうかは彼女にしかわからない。

 

「では行きましょうか佑芽さん。...また一緒にお昼寝しましょうね、まりちゃんのプロデューサー」

 

「えっ、やっぱりそういうことなの!?」

 

「しねェし違ェ」

 

赤面しながら秦谷 美鈴と一方通行を交互に見やる花海 佑芽に対し、一方通行は淡々と否定の言葉を述べる。が、当の花海 佑芽がそれを受け入れたかどうかは怪しいところだ。何せ彼女は何でも色恋沙汰に繋げてしまう思春期モンスターなのだから。

 

時間をかけて説教、もといちゃんと誤解を解くべきかとも考えたが、一方通行の柄ではないし、既に彼女達は茶道室を去って行ったし、何より非常に面倒だ。

 

こうなってしまえば一方通行にできるのは花海 佑芽の妄想が他の人間に伝わらないように祈ることだけである。

 

「...さて、俺も行くとするかァ」

 

そろそろ担当アイドルたちのレッスンが始まる時間だ。花海 佑芽の妄想が誰かの(特に花海 咲季の)耳に入らないことを祈りつつ、一方通行は茶道室を出てレッスン室へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロデューサぁ〜。前の膝枕の子と一緒に寝たらしいじゃないですか〜。詳しく聞かせてくださ〜い」

 

「すべて佑芽から話は聞かせてもらったわ! わたしの妹にセクハラをはたらいた件と併せて、すべて説明して貰うわよ!!」

 

「......」

 

一方通行の祈りはまるで届いていなかった。この後、彼は弁明にかなりの時間をかけることになるのだが、あまりにも非生産的な内容のため詳細は省かせていただく。

 

 




まぁ、一方さんは本編でも御坂妹に対してセクハラ発言らしきものをしてましたし(無印禁書三巻参照)。
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