とある学Pの一方通行   作:大内

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VS極月学園楽しみですね〜


第3話『アイドル科の生徒たち』

「君の住んでいた寮の部屋は私が調べておくので、また後で職員室に来てくださいね」

 

と、言われたはいいが。

 

「どォするか...」

 

一方通行は絶賛暇を持て余していた。

 

入学式が終わり、オリエンテーションが終わって、どうも本日の予定は打ち止めらしい。オリエンテーションでは各々明日からの本格的なプロデュースに向けて備えるように、とかなんとか言われたものの、改めてやっておくことなど一方通行にはない。

 

ちなみに篠澤Pとは先ほど別れた。昼食に誘われたが、それほど腹も空いていなかったし、何より篠澤Pという男とこれ以上行動を共にしたくなかったので断った。

 

もう会うこともないだろう______とは言い切れない。変な男だったし、これからも向こうから接触してくるかもしれない。まぁ、一方通行としても借りを作ったままにしておくのは本意ではないのだが...。

 

しばらく思案し、結局一方通行はアイドル科の棟に向かうことにした。

 

(藤田 ことね、月村 手毬。両者と話をする必要がある、か)

 

そう考え、一方通行はスマートフォンを取り出し、二人に『会って話がしたい』という旨のメッセージを送信した。とはいえこれは保険のようなもので、すぐに返事が来るとも思っていない。一方通行自身が出向いて教室に探しに行った方が早いだろう。

 

オリエンテーションで初星学園については大体把握できたとはいえ、自分の記憶に関する手がかりは依然としてない。花海 咲季と話した時のように、何か手がかりを得ることができればいいが______。

 

アイドル科のオリエンテーションも流石に終わっているはずだ。一方通行はアイドル科の棟へと歩みを進める。せめて、少しはまともな奴であれ。そんな希望的観測を胸中に抱えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無事アイドル科の棟へ到着した...のだが。

 

気だるげに歩く一方通行を、オリエンテーションを終えて廊下にたむろしている女子生徒たちが奇異の目で見つめてくる。まぁ、制服の女子高生に混じってスーツを見に纏った人物(しかも白髪、赤眼という珍しい容姿をした)が歩いていたら誰でも不思議に思うだろう。だが、それにしても予想以上の目立ち具合だ。一方通行はここへ来たことを後悔し始めていた。

 

(そもそも、プロデューサー科の人間とはいえ立ち入ってよかったのか?)

 

そんなことを考えつつ、とはいえここまで来て戻るのも面倒だ。一方通行は周囲の視線を無視して順番に教室を覗いていく。

 

前の自分が残したスマートフォンのメモに目を通していたため、見かける人間は全員知っている生徒ではあった。

 

(あれは...)

 

一方通行は一年二組のクラスの前で足を止める。

 

そこに花海 佑芽の姿が見えたからだ。もう友人ができたのだろうか、楽しそうに談笑している。というか彼女の周りにいるのは______。

 

(篠澤 広に、倉本 千奈(くらもと ちな)、だったか)

 

どちらも件のメモに目を通していた時に妙に印象に残った生徒だ。

 

篠澤 広は先ほどまで一方通行に余計な世話を焼いていた男がプロデュースしている生徒で、亜麻色の髪に橙色の瞳、心配になるほど細い身体をしていながら、妙にミステリアスな雰囲気を漂わせている。海外の大学を飛び級で卒業し、初星学園の入学試験で筆記満点、実技0点の成績を叩き出した、とメモには書いてあった。にわかには信じ難いが、書いてある以上信じるほかあるまい。

 

倉本 千奈に関しては、なぜ印象に残っていたかといえば、前述した篠澤 広より更に下の成績、つまり合格者最低点を叩き出した生徒であるとメモに書いてあったからだ。加えて、実家が太い、いわゆる生粋のお嬢様らしい。綺麗な黒の長髪と、平均より遥かに低い小動物を思わせる身長が特徴的である。

 

両者とも、本来アイドルを目指しそうにない______というかアイドルになる以外の道が既に用意されている人物だ。

 

(補欠合格と入学試験最下位と実技0点。気が合わねェ方がおかしいか)

 

これ以上考えていると頭痛がしてきそうだったので雑に脳内で処理し、納得する。花海 佑芽に見つかるのも面倒だ。さっさと次のクラスに足を運ぶことにした_______のだが。

 

「あ! プロデューサーさんだ!!」

 

見つかった。

 

相変わらず声がデカい。結果として、ただでさえ注目されていたのに更に注目を集めてしまう。

 

「佑芽、プロデューサーがいたの?」

 

「違うよ! この人はお姉ちゃんのプロデューサーさんなの!!」

 

「花海さんのお姉様...入学式で挨拶をしていた、あの方ですわね!?」

 

姦しく騒ぎながら、三人が一方通行のところへと向かってくる。

 

無視したいが、ここまで来られたらそれも難しい。さっさと会話を切り上げて一年一組を見に行こう。そう考えながら彼は三人と対面する。

 

「ところで、ここに何か用事ですか、プロデューサーさん?」

 

「人探しだ。もっとも、このクラスにはいねェみたいだがな」

 

一年二組を見渡しつつ、一方通行は花海 佑芽の質問に答える。

 

「私たちでよければ、力になる、よ」

 

「誰をお探しですの?」

 

篠澤 広と倉本 千奈が協力を申し出てきた。

 

...しかし、言っちゃなんだがこの三人が問題解決に役立つビジョンがあまり見えない。とはいえ、聞かれて答えないのもアレだ。一方通行は仕方なく探している人間の名を伝える。

 

「藤田 ことねと月村 手毬だ。知ってるか?」

 

「知りません!!」

 

「少なくとも、このクラスの方ではございませんわね!」

 

「ふふ...そもそも私たちは高等部からの新入生。他の生徒たちのことはあまり知らない...」

 

「...オマエらに聞いた俺が馬鹿だった」

 

特に篠澤 広。それがわかっているのなら何故協力を申し出たのか。予想通りやはり変人だ。篠澤Pとお似合いである。

 

「わ、わたくしたち、とっても冷たい目で見られてますわ〜!!」

 

「ふふ...ぞくぞくするね...。私のプロデューサーと同じくらい冷たい目」

 

「お役に立たなくてごめんなさい!! ...ってえぇ!? 広ちゃん、プロデューサーさんがいたの!?」

 

「初耳ですわ〜!!」

 

きゃいきゃい、と目の前で騒ぐ三人に一方通行はこめかみを抑えた。既に彼女たちの話題は篠澤Pに移ったようで、何にせよ無駄足だった、と一方通行はため息をつく。

 

さっさと馬鹿三人組と別れて一年一組に足を向けようとした______その直前だった。

 

「まりちゃん...月村 手毬なら、一年一組ですよ」

 

どこか気の抜けた、のんびりとした声が聞こえてくる。

 

声の主は_____。

 

秦谷 美鈴(はたや みすず)か」

 

「えぇ、そうです」

 

そのおっとりとした顔立ちには見覚えがあった。

 

秦谷美鈴______彼女は、中等部時代に『SyngUp!』というユニットに所属していた人物の一人だ。同じく『SyngUp!』の一員だった月村 手毬とは親友()()()、とメモに書かれていた。その辺りの事情は『SyngUp!』が解散したことにも繋がっていそうだが、今の一方通行には関係ない。

 

「まりちゃんのプロデューサー...ですよね」

 

「あァ」

 

どうも、月村 手毬の様子が気になっているらしい。彼女はしばらく何か言いたげにしていたが、

 

「まりちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

「...あァ」

 

と、それだけ言って会話を打ち切った。

 

「...ともかく、助かった」

 

「どういたしまして。...とはいえ、まりちゃんのことです。今の時間はもう教室にいないかもしれませんね」

 

「一年一組の生徒だと知れただけでもありがてェよ」

 

そう礼だけ言って、一方通行は一年二組を去った。

 

「プロデューサーさん! さようなら!!」

 

花海 佑芽の相変わらず大音量の挨拶に手を上げて適当に応え、今度こそ一方通行は一年一組へと向かう。

 

秦谷 美鈴によれば月村 手毬は既に教室にいないかもしれない、という話だった。それでも行ってみる価値はあるだろう。

 

そう考え、一年一組の教室を覗いてみるが。

 

(いねェ、か...)

 

やはり、藤田 ことねと月村 手毬の姿は見当たらなかった。そもそも藤田 ことねに関しては一年一組の生徒であるという確証もないし、誰かに聞く必要があるだろう。

 

と、そこで一方通行の視界が見覚えのある人物を捉えた。

 

「あら、プロデューサーじゃない。どうしたの?」

 

花海 咲季だ。彼女もまた一年一組の生徒だったらしい。

 

花海 咲季はほぼ同時に一方通行に気付いたようで、こちらに向かって声をかけてくる。

 

「一人か?」

 

「えぇ、そうよ」

 

妹は友人に囲まれていたのにこの差は何だろうか、という野暮な突っ込みは心の中にしまっておいた。

 

そんな一方通行の胸中など知るはずもなく、担当アイドルの様子を見にきてくれたのかしら、と自信満々に尋ねてくる花海 咲季。

 

「あいにくだが、そうじゃねェ」

 

「あっそう...。じゃあどうしてここにいるのよ」

 

「人探しだ」

 

不満げにこちらを見つめる花海 咲季を意図的に無視して、一方通行は淡々と言い放った。

 

「藤田 ことねと月村 手毬。この二人がどこに行ったか知らねェか?」

 

唐突に人名を出した一方通行に対し、花海 咲季は訝しげに眉を顰める。

 

「二人とも私と同じ一組の生徒だけど...その二人に何か用?」

 

「ただの野暮用。話を聞きてェだけだ」

 

ふーん、と尚も不満げに目を細める花海 咲季。

 

何か妙な違和感がある。藤田 ことねも月村 手毬も一方通行がプロデュースを担当しているはずだ。ではなぜ、花海 咲季はこうも釈然としないような態度を取っているのだろうか。

 

「手伝ってあげたいけど、あいにくわたしもこの後予定があるの。明日からのレッスンに向けてちゃんと準備しないといけないし」

 

「...面倒見れなくて悪ィな」

 

「本当にね。あなたはわたしのプロデューサーなんだから、わたしだけを見てればいいのよ!」

 

あぁ、そうか。

 

違和感の正体を見つけた。

 

花海 咲季は、一方通行が藤田 ことねと月村 手毬のプロデュースを担当していることを知らないのだ。なぜかはわからないが、彼女は一方通行が自分だけを担当していると思っている。

 

(また面倒事が増えやがった)

 

この様子だと勘違いをしているのは花海 咲季だけではなさそうだ。藤田 ことね、月村 手毬もそれぞれ同じ勘違いをしているに違いない。

 

なぜ伝えていないのか。一方通行は記憶を失う前の自分に再び殺意を覚えた。その勘違いを正すのも、納得させるのも、やるのはすべて今の一方通行だ。

 

「どうしたのよ、急に黙っちゃって」

 

「...なんでもねェよ」

 

「そう。じゃあプロデューサー、わたしはもう行くわね」

 

あなたも早く帰りなさいよ、とまるで母親のような言葉を残して花海 咲季は足早に教室から出て行った。

 

それを見届け、一方通行も教室を後にする。こうも無駄足になるなら大人しく連絡を待っておくべきだったか、とため息をついた。

 

ちょうどそのため息とほぼ同時だっただろうか。

 

スーツのポケットに入れていたスマートフォンが震え始める。

 

取り出し、画面を確認すると、そこには『月村 手毬』の名が表示されていた。恐らく一方通行のメッセージに気付いたのだろう。何にせよ好都合だ。一方通行は素早く応答ボタンを押してスマートフォンを耳に当てた。

 

「遅い。私の貴重な時間を奪うなんてどういうつもりですか?」

 

そんな第一声を聞いて、早くも一方通行は通話を切りたくなった。メモに書かれていた『性格に難あり』とはこういうことか。

 

とはいえ通話を切ったところで何の解決にもならない。

 

「...別に奪おうとしたつもりはねェが」

 

「まぁ、いいです。でも次からはもう少し早く出てください」

 

それで、と月村 手毬は続けて、

 

「その、メッセージの『会って話がしたい』...ってどういう意味? 私、今レッスンで忙しいんだけど」

 

よく聞けば、かすかに彼女の息遣いが通話口から流れてくる。過呼吸になりそうなところを必死で抑えて会話している_______まさにそんな感じの吐息だ。

 

「そのままの意味だ。少し話をするだけで、大した時間は取らせねェよ」

 

「ふ、二人きりで?」

 

「あァ、その方がイイ。...そォだな、何処か適当な店でメシでも食いながら______」

 

「行きます!」

 

一方通行の言葉の途中で、ブツンと唐突に通話が切れた。

 

何が彼女の琴線に触れたのかはわからないが、ともあれこれで月村 手毬と話ができる。

 

ただ_______。

 

「...場所、わかってンのか?」

 

数十秒後、案の定再び携帯に着信が入り、一方通行は深いため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

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