とある学Pの一方通行 作:大内
手毬「極月学園かい。今から一時間後お前らをブチ負かしにいくぜ。藤田 ことねです...」
「貴方______私のモノになりなさい!!」
その言葉のあまりの唐突さと意味不明さに、最初は聞き間違いかと思った。しかし、何度頭の中で反芻しても言葉の意味が変わることはない。
仕方なく、本当に仕方なく。一方通行は声の主の方へと顔を向ける。
「それで? 返事を聞かせてもらえるかしら?」
そこには、ブロンド色の髪を靡かせた女子生徒がいた。白いベストとネクタイを身につけており、多少大人びた印象だが、やはりアイドル科の生徒だろう。
「『
一方通行はこの女子生徒を知っていた。記憶を失う前の自分が残したスマートフォンのメモに記されていた人物で、中でも印象に残っていた生徒。
曰く、学園長『十王 邦夫』の孫にして、現時点での初星学園のトップアイドル。そんな彼女には『
「えぇ、初めまして。初星学園生徒会長の十王 星南よ」
一方通行の言葉を受け、彼女は改めてそう名乗った。
「プロデューサー科の一方通行だ」
一方通行も名乗り返す。あわよくば、先ほどの意味不明な発言が有耶無耶にならないか、と一縷の希望をかけて。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「ふふ。自分のポテンシャルに気付いていないのね。だからプロデューサー科にいるのでしょう?」
十王 星南はそこで言葉を切ると手のひらを顔の前にかざす。そしてウインクの容量で片目を瞑ると、
「貴方、アイドルパワー100000以上の逸材よ」
「なンだって?」
本気で頭が痛くなってきた。アイドルパワーとかいう意味不明なワードもそうだが、そのふざけたポーズは何なのか。これが初星学園一のアイドルだと? いくら何でも冗談が過ぎる。
「というわけで、私に貴方をプロデュースさせてちょうだい! 必ずトップアイドルにしてみせるわ!!」
「オイオイ...アイドル科の生徒がプロデューサー科の生徒をスカウトって、そりゃなンの冗談だ?」
十王 邦夫は一体どういう教育をしているのだ。まだ顔すら知らない学園長に思わず文句を言いたくなる。
「...本当に冗談じゃねェ」
プロデューサーを務めるのでさえ面倒臭いのに、アイドル? 死んでもやりたくない。そもそも一方通行に一番向いていない職業だろう。もしかしなくても十王 星南の目は節穴なのではないか。
「そう、残念ね...」
一方通行の拒絶を受けて、彼女は落胆の表情を見せる。どうやら本気で一方通行のことをアイドルとしてプロデュースしようと思っていたようだ。
「そもそも、だ。オマエはアイドル科の生徒だろォが。なンでプロデューサーの真似事してンだよ」
「アイドルを辞めた後はプロデューサーになるつもりだからよ。アイドルの才能の数値が見える私の天職でしょう?」
そう言って先ほどの謎のポーズを取る十王 星南。
この変な女に付き合っていたら日が暮れる。一方通行がさっさと会話を切り上げてこの場から去ろうとしたその時だった。
「やっぱり私にはことねしかいないわね...」
十王 星南の口から聞き捨てならない言葉が出てきた。
一方通行は即座に彼女に詰め寄ると、
「ことね_______『藤田 ことね』か?」
「あら、貴方ことねを知っているの?」
十王 星南は顔を輝かせる。それはまるで、自分の友達を家族に自慢する時のような、そんな表情だった。
「ことねも貴方と同じ、トップアイドルたる器よ。いずれ私がプロデューサーとして、彼女をトップアイドルにしてみせる。そう決めているわ」
「悪ィが、藤田 ことねのプロデューサーは俺だ」
「なんですって...?」
ガーン、という擬音が聞こえてくるくらいショックを受けた様子を見せる十王 星南。いかに彼女が藤田 ことねに惚れ込んでいたか。表情だけでその惚れ込み具合が読み取れた。
が、その落胆も束の間。すぐに彼女は不敵な笑みを浮かべ、
「ふふ。プロデューサーとしてのその手腕、認めざるを得ないようね、
「先輩、だァ?」
「えぇ、私にとってあなたは見習うべき先輩。今そう認識したわ。ことねを口説き落としたプロデューサーとしてのテクニック、影ながら学ばせてちょうだい」
「俺の邪魔さえしなけりゃどォでもイイ、勝手にしろ」
何とも変な女に目をつけられてしまった、と一方通行は内心後悔する。しかし、この女に聞きたいことがあるのもまた事実。機嫌を損ねられても面倒臭いので拒否はせず適当にあしらっておいた。
で、肝心の聞きたいこと、なのだが______。
「藤田 ことねが今どこにいるのか。知ってたりしねェか?」
とはいえ過剰な期待はしていない。十王 星南はあくまで藤田 ことねを有望視しているだけで、実際に彼女のプロデューサーではないのだから、彼女の動向を把握する必要性もないのだ。
ただし、十王 星南が藤田 ことねのことを念入りに調べている可能性は十分にある。具体的な動向は把握していなくても、何らかの情報は得られるかもしれない。そう考えた上での質問だったのだが_______。
「ことねなら、今の時間はバイトだと思うわ。そうね、今日は多分『××××』で働いてるんじゃないかしら」
返ってきた答えはえらく具体的なモノだった。
「...ストーカーでもしてやがンのか?」
「ことねに惚れ込んだ者として、彼女のことを知りたいと思うのは当然ではないかしら?」
貴方こそそんなことも知らないなんて、と落胆の表情を見せる十王 星南。
「やっぱりことねをプロデュースするのは私ね!」
ストーカー行為で得た知識を自慢げに話されても、という感想はさておき。
実際のところ、今の一方通行はアイドルをプロデュースすることに大した関心はない。故に藤田 ことねのプロデューサーとしての座を十王 星南に譲っても何ら問題はないのだ。
だが、彼の口から出たのはそんな内心とは正反対の言葉だった。
「...オマエはプロデューサーとしての心配よりアイドルとしての心配をした方がイイんじゃねェか?」
「何ですって?」
「足元掬われるって言ってンだよ、
それは殆ど挑発だった。プロデューサーがアイドルに向けて言っていい言葉ではない。
が、十王 星南はその言葉を受けても大した動揺を見せない。ほんの少し呆気に取られてはいたが、それも一瞬、すぐさま元の表情に戻る。むしろ彼女は不敵な笑みを浮かべて、
「楽しみにしているわ、先輩」
そう言い放った。
言葉の端々から彼女の自信と期待が読み取れる。それは王者としての余裕の表れなのか、それとも_______。
と、今は深く考えている暇はない。とりあえず藤田 ことねのバイト先とやらに行ってみる必要があるだろう。
「あら、もう行くのかしら、先輩?」
「あァ。...藤田 ことねの情報に関しては素直に礼を言っとくぜ」
「ふふ...貸し一つね」
この貸しは高く付くわよ、と呟く十王 星南。
思えば、記憶喪失になってから借りを作りすぎている気がする。悪手だったか、と今更ながら一方通行は後悔し始めた。
元来、自分は人に頼る性格ではない筈だ。自分で何でもできるからこそ、自分で何もかもをやってきた筈なのだ。
(...根拠はねェが)
一番の根拠となる自分の記憶は現在欠けている。が、根拠などなくても自分のことは分かっているつもりだ。直感、というヤツだろうか。
「こっちとしても借りを作ったままにしておくつもりはねェよ」
「なら貴方、私のモノになりなさ______」
「ならねェつってンだろ」
「冗談よ。ことねのプロデュース、期待してるわ、先輩」
じゃあ、とそれだけ言って十王 星南は去っていった。
嵐のような女だった。できればもう二度と会いたくはないが、初星学園にいる限りはそれも叶わないのだろう。
(本当にろくなヤツがいねェ。だが_______)
退屈もしない。
そんな感想が出てきた自分自身に一方通行は驚く。一体誰の影響を受けたのか。もしくは、誰の影響も受けていないのか。答えは闇の中だった。
その答えは、もしかすると以前の自分なら知っていたのかもしれないが。