とある学Pの一方通行 作:大内
曇らせ苦手マン俺、清夏親愛度コミュで無事死亡。
「君の住んでいた部屋、調べておきましたよ」
時刻は午後五時。藤田 ことねのバイト先を訪ねる前に、一方通行は職員室へと足を運んでいた。
どうやら以前の自分は初星学園が管理する寮に住んでいたらしい。どの部屋に住んでいたのか分からない記憶喪失の一方通行のために、あさり先生がそれを調べてくれていたという訳である。
「寮の鍵はオートロックで、入る時は学生証が必要なのですが、学生証は持っていますか?」
「あァ」
学生証はスーツのポケットに入っていた財布の中にあった。記憶だけに飽き足らずそれすら無くしていたらもっと面倒なことになっていただろう。不幸中の幸い、というヤツだ。
「ともかく、助かった」
「記憶を無くしても相変わらずふてぶてしいですね、
あさり先生はジト目でこちらを睨んでくる。
「それより、本当に大丈夫なんですか? 花海 咲季さん、藤田 ことねさん、そして月村 手毬さん。君は三人のプロデューサーですよね?」
「問題ねェよ」
「まぁ、話を聞く限り無くしたのはエピソード記憶だけのようですし、何より君は優秀ですから、あまり心配はしていませんが...」
「担当のアイドルのことを覚えてねェのは致命的かもな」
「これから知っていけばいいんですよ。幸い、君たちは知り合ってまだ浅いんですから」
なのでその点は心配はしていませんが、とあさり先生は前置きして、
「プロデューサーとして、アイドルとの接し方には気を付けてくださいね」
「もっと愛想良くしろってか?」
「まぁ、それもありますが。私が言いたいのは『距離感に気をつけて』ということですよ」
あさり先生は一方通行に向かって指を立てた。
「信頼関係を築くのはいいことですが、貴方たちの関係はあくまでアイドルとプロデューサー。一歩間違えればスキャンダルです。...特に、
「心配しなくてもガキ相手にそンな感情は抱かねェよ」
「本当に口が悪いですね、君は...」
その後もあさり先生は『多感な時期の女子高生にはいろいろな意味で刺激が強い』だとか『くれぐれも勘違いさせるようなことは言わないように』だとか言っていたが、どれも一方通行の知ったことではなかった。
自慢ではないが、人に好かれない性格をしている自信はある。彼女が心配しているようなことなど起こるはずがない。
「それと、ちゃんとお友達も作ってくださいね。プロデューサー科には関係を持っておくとそれだけで有利になる人がたくさんいますから」
君は既に篠澤さんのプロデューサーくんと友達になったみたいなので先生も安心しました、とあさり先生は言う。
「勘違いしてるよォだが______」
「はいはい、君がそれを認めないことも分かっていますよ。私は君の先生ですからね」
「...チッ」
「今舌打ちしました?」
若干怒気を孕んだあさり先生の言葉は無視。
友達云々はさておき、一方通行としても、いわゆる『横の繋がり』の重要性は理解しているつもりだ。ただ、借りを作るのも面倒臭いし、自ら進んで関係を作りに行くことはない。頼んでもいないのに世話を焼いてくる変人と既に知り合ってしまっているのだから尚更だ。
「君が簡単に人の言うことを聞かないのはもう分かっています。ですから、心に留めておいてくれればそれでいいです」
「...考えとくぜ」
それだけ言って一方通行は職員室を後にした。
この学園には変なヤツも多いが、世話焼きとお人好しも多い。そんな感想を抱きながら、一方通行は藤田 ことねのバイト先へと向かうのだった。
十王 星南の話によると、この時間、藤田 ことねは『××××』というハンバーガーチェーン店で働いているらしい。
時刻は午後六時。一方通行はしばらく店前で佇んでいたが、痺れを切らして入口のドアを開けた。藤田 ことねの勤務時間が分からない以上、直接話をしに行く方が早いだろう。
夕飯時ということもあり、店内はそれなりに混んでいる。
一方通行の目的の人物はレジの前で接客をしていた。
「いらっしゃいませ〜...ってプロデューサーぁ!?」
一方通行に気付いたのか、店員用の制服に身を包んだ藤田 ことねが驚きの声を上げる。
藤田 ことね。黄色のおさげがトレードマークの少女だ。前の自分が残したメモに書いてあった『金銭的な理由からバイト漬けの日々を送っている』という文言は事実のようで、見るからに疲労が溜まっており、顔色も悪い。それでも営業スマイルを絶やしていないのは彼女の矜持ゆえか。
一方通行は誰も並んでいないタイミングを見計らい、藤田 ことねが担当しているレジへと向かった。
「えっと、ご注文は...?」
戸惑いつつも、一方通行のことはあくまで『お客様』として扱う藤田 ことね。
「...強いて言えばオマエだ。いつ終わるンだ?」
「意外とそういうセリフ言っちゃうんですネ、プロデューサー」
彼女はなぜか若干頬を赤らめて、
「今日は九時までなんで〜、それまで待っててくれます?」
「九時って、高校生が働けるギリギリの時間じゃねェか。...仕方ねェな。ここで待たせてもらうぜ」
今から三時間ほど待つことになるが、特に予定もないので手持ち無沙汰になること以外は問題ない。一方通行はついでに夕飯も済ませてしまおうと考え、適当なメニューを注文することにした。
「は〜い、ご注文ありがとうございまぁす♡」
慣れた手つきでレジを操作する藤田 ことね。現金を見る目が少々危うい気もしたが、一方通行は気にしないことにした。
注文札を受け取り適当なテーブルに腰掛ける。商品は店員が席まで届けてくれるらしい。
適当にスマートフォンを弄りながらしばらく待っていると、視界の端にぴょこぴょこと揺れる金髪のおさげが映った。
「お待たせしました〜。あたしの愛情入りですよ、プロデューサー♡」
商品をテーブルに置き、両手でハートの形を作る藤田 ことね。
「...ご苦労ォ」
「...プロデューサーってぇ、時々堅気の人とは思えない冷たい目しますよね」
彼女は若干引き気味にそう言うと、ごゆっくりどうぞ、という常套句だけ残して奥へと引っ込んでいった。
一方通行はその後ろ姿を目で追いつつハンバーガーを頬張る。
(...想像以上に切羽詰まってやがンな、こりゃァ)
表面上は元気そのものだが、隠しきれない疲労感が顔に出ている。
『金銭的な理由からバイト漬けの日々を送っている』とのことだったが、初星学園の学費すら自分で稼ごうとしているのか。もしそうだとすれば、アイドル業とバイトの両立は無謀であると言わざるを得ない。
身体の細さも気になった。細いと言えば(アイドルとしては)聞こえは良いが、藤田 ことねのそれは行き過ぎだ。
花海 咲季や月村 手毬とは比べるまでもないし、下手をすればあの篠澤 広より心配になる体型をしている。
(チッ...調子狂うぜ。赤の他人の心配をしてる余裕なンてねェンだが)
ただ、既に藤田 ことねが一方通行にとって赤の他人ではないのも事実。プロデューサーとして彼女を上手く管理する必要があった。
考え、己に呆れ、また考え。その繰り返し。それを何回繰り返したのかは分からないが、そうしているうちにいつの間にか時計の短針が九の字を指していた。氷が溶けて味の薄くなったドリンクに口をつけ、一方通行は小さくため息をつく。
「お待たせしましたぁ、プロデューサー」
聞き覚えのある声とともに一方通行の正面の座席に少女が腰掛ける。バイトを終えた藤田 ことねだ。
「それで、お話って何です?」
バイト中だったので連絡見れなくてごめんなさい、と彼女は手を合わせ、
「まさか、契約解除とか_______」
と青ざめた顔でのたまった。
「違ェ。こンな短期間で見切りつけるバカが何処にいンだよ」
「そ、それならよかったですケド_______あっ」
突然、ぐぅ〜、と音がする。見れば、藤田 ことねが若干頬を赤らめながら腹に手を当てていた。
「...飯食ってねェのか?」
「だ、だって。今日忙しかったですもん...」
デリカシーないですよ、と彼女は一方通行をジト目で睨む。
「仕方ねェな。...適当に買ってこいよ」
一方通行はポケットから財布を取り出した。千円札を一枚手に取り、藤田 ことねに渡す。
月村 手毬にも奢ったし、今更だ。
「え〜いいんですか〜?♡」
途端に藤田 ことねの声色が猫なで声に変わる。
千円札を一方通行から受け取ると、彼女はレジに向かって駆けていった。
「あ、藤田さん、お疲れ様。...ところでアレ、彼氏?」
「ち、違いますよ〜!」
レジから聞こえてきた会話は無視することにした。
「お待たせしました、プロデューサー。はい、これお釣りです」
「あァ」
釣りくらいくれてやってもよかったのだが、藤田 ことねは(困窮しているからこそ)そういう金銭的な管理をしっかりやるタイプだろう、と考え何も言わずに受け取った。
さすがファストフード店と言ったところか、その後すぐに注文したであろう商品が運ばれてくる。
「ごゆっくり〜」
店員がテーブルに商品を置いてニヤニヤしながら帰っていく。
「も、もぉ〜」
牛の鳴き声のような声を出し、バツが悪そうにもじもじする藤田 ことね。彼女は頬を羞恥に染めたまま、
「話の腰を折っちゃってごめんなさい、プロデューサー」
「別にいい」
「プロデューサーってぇ、顔はコワイですケド、優しいですよねぇ」
「...話を戻すぞ」
一方通行はそこで一呼吸置き、
「俺は春休みにオマエをスカウトした。今更だが、なンで俺の申し出を受け入れたンだ?」
それは月村 手毬にしたものと同じ質問だった。もっとも、既に見えてきてはいる。なぜ以前の自分がこの三人をプロデュースしようと思ったのか。
「プロデューサーもおかしな質問しますねぇ」
奇しくも、その反応は月村 手毬のそれとそっくりだった。
「自分で言うのも何ですケド、あたしって成績がすこぶる悪いんですよ。そんなあたしのことをプロデュースしてくれるって言ってくれるんだから、逆に断る理由がなくないですか?」
自己評価の低い少女だ。初星学園トップアイドルの十王 星南に評価されているのだからもう少し自信をもってもいいだろう。あるいはバイト漬けの日々からくる疲労がやはり彼女を苦しめているのかもしれない。
「未だに不思議なんです。プロデューサーがどうしてあたしのことを評価してくれているのか。そりゃあダンスにはちょっと自信ありますよ? 顔も世界一可愛いですし? ...でも、あたしより素質がある子はたくさんいますよね」
声をかけられた時もまず最初にナンパかどうか疑いましたよ、と彼女は乾いた笑い声をあげる。
「あはは。困りますよね、こんなこと言われても。忘れてくださ______」
「興味ねェな」
「______へ?」
「オマエが自分のことをどう思ってンのかは知らねェし、興味もねェ。だが、これだけは覚えとけ」
今まで三人の少女と話してきて気付いたことがある。
藤田 ことね。ダンスの実力が抜きん出ている。だが、多忙な日々からくる疲労で成績は悪く、そのため自己肯定感も低い。
月村 手毬。中等部トップアイドルと呼ばれていた実力者で、歌唱力に関しては現在でも初星学園トップレベル。だが、性格と素行に問題がある。
花海 咲季。入学試験主席の優等生。その実力はオールマイティと呼ぶに相応しいが、同時に究極の器用貧乏とも言え、これ以上の成長に限界を感じている。
三人とも明確な長所と短所が存在するのだ。
そしてそこに、以前の一方通行がまるで毛色の違うこの三人をどうしてプロデュースしようと考えたのか、その答えがあった。
「俺が、必ずオマエをトップアイドルにしてやる」
花海 咲季、藤田 ことね、月村 手毬。この三人でアイドルユニットを結成する。それが、プロデューサー科一年、記憶を失った一方通行が出した答えだった。
でも一方通行さんは性別不詳なんだよね...。