とある学Pの一方通行   作:大内

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麻央ちゃん先輩は学マス内で最もチョロいことで有名。


第7話『出した答え』

「俺が、必ずオマエをトップアイドルにしてやる」

 

らしくないとは自分でも思う。ただ、同時に一方通行は言いたいことは言っておかないと気が済まない性質でもあった。

 

「ぷ、プロデューサーぁ...」

 

「...なンで泣いてやがンだ」

 

気付けばいつの間にか涙目になっていた藤田 ことね。彼女は両手で涙を拭いながら、

 

「...最近のあたし、結構限界だったんです。バイトして、レッスンして、またバイト。その日々の繰り返しで、ほんとに自分はアイドルになれるのかなって」

 

震え声で一方通行に話しかける。

 

「だから、今のプロデューサーの言葉を聞いて凄く安心しました。あぁ、この人なら。この人なら、お先真っ暗だったあたしの未来を変えてくれるかもしれないって」

 

「変わるかどうかは、オマエ次第だ」

 

プロデューサーの仕事はあくまでアイドルの補助。火のないところに煙が立たないように、いかに優れたプロデューサーであろうと『0を1にする』ことは不可能だ。

 

ただし。逆に言えば、そこにトップアイドルとしての素質さえあれば何とでもなる。『1を2にする』どころか、『1を100にする』ことだってできてしまう。

 

「そうですよね。改めて、頑張らないといけませんね、あたし!」

 

そう言い切った彼女の表情にもはや悲壮感は見当たらない。涙もすべて乾いてしまったようだ。

 

精神面では持ち直したようだが、とはいえまだ一番の問題が残っている。

 

「まず手始めに金銭面の問題をどォにかする必要があンな」

 

「...どうにかできるものなんです? 初星学園の一年の学費、大体九十万ですよ」

 

再び顔を青ざめさせる藤田 ことね。

 

一方で、やはり自分で学費を稼ぐつもりだったのか、と一方通行は小さくため息をつく。この少女、自分がプロデューサーについていなければ遅かれ早かれ大変なことになっていたかもしれない。

 

「...これもプロデューサーの仕事だ。どォにかしてやるから、オマエは余計なことを考える必要はねェ」

 

今のオマエに必要なのは休息だけだ、と一方通行は言い放つ。

 

「...わかってますよ? わかってはいるんですケドぉ...」

 

わかってなさそうな顔をしながら藤田 ことねは言い渋る。

 

もはや無理矢理にでも休ませないと休みそうになかった。このままでは明日も何食わぬ顔でバイトをしに行くだろう。

 

「プロデューサー...怒ってます?」

 

「怒ってねェよ」

 

彼女の家庭状況がどうなのかは知らないが(あるいは忘れてしまった)が、何にせよ『金』は彼女の中で優先度の高い存在となっている。そのことを責めることはできなかった。

 

「...どォすれば休む」

 

「そうですねぇ。あたし、こう見えて結構シビアですから。具体的な解決策が見つからないと安心して休めないかもしれません」

 

具体的な解決策。それが可能か不可能かはさておき、頭の中で既にいくつかのプランは浮かんでいる。

 

「それと、プロデューサーが膝枕してくれたら安心して眠れるかも、なんて」

 

「......」

 

「ほんの冗談じゃないですかぁ! なんでそんな冷たい目するんです!?」

 

再び涙目になる藤田 ことねだったが、一方通行はこれを意図的に無視し、おもむろに席を立つ。

 

「用は済ンだ。さっさと帰るぞ」

 

「あっ!? 待ってくださいよ、そんな怒ることなくないですか!?」

 

一方通行が店の外に出ると、藤田 ことねも慌ててそれに続く。当たり前だが外はすっかり暗くなっていた。時刻は午後十時。約四時間をこの店で過ごした計算だ。

 

「...はァ」

 

特段疲れるようなことはしていない筈なのに、一方通行はどっと疲労感を覚えた。記憶喪失、プロデューサー、アイドル。考えることが多すぎる。

 

「あの、プロデューサー?」

 

そんな一方通行に恐る恐る話しかける藤田 ことね。

 

「お疲れのところ申し訳ないんですケド...寮の門限が...」

 

「あァ? 何時だ?」

 

「えーと、十時です...」

 

「...過ぎてンじゃねェか。もっと早く言えよ」

 

「だってプロデューサーと話すのに夢中になってて気づかなかったんですもん!!」

 

拳を握りしめて抗議する藤田 ことね。

 

とはいえ、普通ならそういうこともプロデューサーが管理するものなのだろう。女子生徒寮の門限を把握していなかった一方通行にも責任はある。

 

(記憶を失うってのも楽じゃねェな、まったく)

 

一方通行は自虐気味に息を吐いた。

 

「つっても、なンか不味いことでもあンのかよ」

 

「寮長に怒られちゃいますよ! 大幅に遅れたら反省文も書かされるかもしれませんし...」

 

「反省文、ねェ...」

 

そんなものを書いていたら尚更休息の時間が取れなくなる。

 

「...仕方ねェな」

 

一方通行は諦観気味にそう呟き、

 

「大人しくしてろ」

 

「へっ!?」

 

藤田 ことねの体を抱き上げた。それも、いわゆる『お姫様抱っこ』の形で。

 

「ちょ、プロデューサー!?」

 

「悪ィが反論は聞かねェぞ。今にも死にそうな顔してンだから黙って抱えられてろ」

 

門限は既に過ぎているが、ここから急いで女子寮に向かえば大幅に遅刻することはない。ただ、当の藤田 ことねが既に疲労で限界だ。故に、急いで向かうためには(非常に不本意だが)こうする必要があった。

 

「それはそうかもしれませんケド...」

 

抱えられ、彼女は上目遣いで一方通行を見つめる。その頬が赤く染まっているのは夜の闇の中でもよく見えた。

 

その後も重くありませんか、とかめっちゃ見られててちょー恥ずかしいんですケド、とかいろいろ言いつつも、結局藤田 ことねは身じろぎひとつせずに女子寮まで運ばれた。

 

「初日から門限破りなんていい度胸だね______ってえぇ!?」

 

女子寮の入り口には一人の女子生徒が待ち構えていた。彼女はこちらに気付いて振り向くと、一方通行と抱えられた藤田 ことねを見て素っ頓狂な声をあげる。

 

口ぶりからするに、彼女が寮長だろうか。

 

「ちょっとプロデューサー! 早く下ろしてください! 麻央ちゃん先輩が見てるからぁ!!」

 

ぽかぽかと胸を叩かれ、ようやく一方通行は彼女を下ろした。

 

(有村 麻央。コイツが寮長だったのか)

 

スマートフォンのメモで見た情報が脳内に浮かぶ。

 

有村 麻央(ありむら まお)。初星学園高等部の三年生だ。何でも、小さな王子様(リトルプリンス)の愛称で多くの生徒から慕われている面倒見の良い生徒だとか。寮長を務めているのもその性格ゆえだろう。

 

愛称の通り、小柄な身長は小動物を思わせる。

 

「...なぜ抱き抱えられていたんだい?」

 

「それは...プロデューサーがぁ...」

 

彼女は藤田 ことねにそう問うと、一方通行にも鋭い視線を向けた。

 

「あなたがことねのプロデューサーですか?」

 

「そォだ。体調が悪そうだったもンで、ここまで運んできた。門限については悪ィな」

 

「なるほど、そういう事情なら仕方ないですね。でも、今度からは気をつけてくださいよ」

 

「あァ、しっかり言い聞かせておくぜ」

 

一方通行は彼女たちに背を向けながら答える。いい加減疲れた。一刻も早く帰って休みたい。

 

「プロデューサーぁ! 送ってくれてありがとうございました!!」

 

「いいプロデューサーだね」

 

「はい!!」

 

「...ただ、ボクのことを『麻央ちゃん先輩』と呼ぶのはやめてもらおうか。それと門限を破った件についても_______」

 

「か、勘弁してくださ〜い!」

 

そんな会話を背に、一方通行は自分の住んでいた寮に向かって歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無事寮へと辿り着いた一方通行。あさり先生から伝えられた部屋の認証装置らしきものに学生証をかざし中へと入る。

 

いよいよ部屋に足を踏み入れた一方通行の目に入ったのは、それはそれはシンプルな内装だった。あくまで生活に必要なものだけが揃っていて、ミニマリストの部屋だと言われても違和感はない。

 

なまじ部屋がそれなりに広い分、余計に物が少なく見える。

 

「断捨離でもやったのかコイツは」

 

舌打ちしつつ、嫌な予感がしたので何となく冷蔵庫を開ける。

 

やはりと言うべきか、中にはろくな食材がなかった。その代わりに大量の缶コーヒーが中を占拠している。

 

文句を言おうにもその相手はもういない。半ば諦観気味に缶コーヒーのプルタブに手をかけ、中身をあおった。

 

「面倒臭ェ...」

 

そのセリフももう何度目になるかわからない。シャワーを浴びることさえ億劫だ。明日の朝でいいか、と妥協して一方通行はソファに寝転ぶ。

 

(ユニット、ねェ...)

 

恐らく間違いない、はずだ。過去の自分はユニットを組ませるために花海 咲季、月村 手毬、藤田 ことねの三人を同時にスカウトした。その旨を彼女らに伝えていなかったことは癪に触るが______。

 

(ユニットを組むという行為自体が誰かの『地雷』になった可能性があるってワケか)

 

それが誰なのかは薄々勘付いている。とはいえ、以前の自分がやったことは結局ただの時間稼ぎだ。『ユニット結成』を最初に提示すればプロデュース契約を拒否される可能性があったから伏せた。要は単なる後回し。

 

(なンでその尻拭いを俺がさせられてンだ)

 

一方通行は苛立ちに任せて舌打ちした。

 

各々の長所を引き出し短所は互いに打ち消し合う。『ユニット結成』は、それが実現できる最も手っ取り早い方法だ。彼女らにそれぞれ大きな長所と短所が存在するからこそ、『ユニット結成』という手段が生きてくる。

 

だが。

 

(...面倒臭ェことになるに決まってる)

 

ただでさえ癖の強い三人だ。『地雷』を抜きにしても上手くいくわけがない。今日彼女たちと実際に話してみて一方通行はそう確信した。

 

どうやって説得するべきか、似合わないことを考えているうちに瞼が重くなってくる。

 

人は誰しも眠気には抗えない。それは彼も例外ではなく。その後すぐに一方通行は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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