『普通科がスカウトされる1個の方法』 作:ゆるぁ
「さて、それじゃあ弁明を聞こうじゃないか」
「……なぜ、取り調べを受けているのでしょうか」
「理由がわからない、とは言わせないぞ?」
「……」
「あの子はアイドル科でも、ましてやアイドルを目指しているわけでもない。そんな子を転属届けを用意してまでスカウトする」
「これをプロデューサー業の範疇、とするには少々逸脱しているんじゃないか?」
「それは……」
「もちろん、これがこの学園での判断基準だ、と言うことは前提にあるがな」
今の自分の状態を名付けるのならば 異常。
それはわかっている、アイドル志望であるアイドル科の彼女達ではなく、普通科の生徒をスカウトしようとしているのは自分なのだから。
「学園長は何か言っていなかったのか?」
「『君が目を付けた子に、その気があるのなら……ぜひ一度お目にかかりたいものだのう』……と」
「……相変わらずと言ったところか、まぁいい。それはそうとしてお前は何故、あの子をスカウトしようとしているんだ」
「それが、よくわからないんですよね」
「はぁ?」
小鳥遊さんの方を見る。
……ふむ。
「小鳥遊さんをスカウトした時、私は間違いなく『この子をプロデュースしたい』と心の底から思った筈……なのですが」
「まぁ、スカウトするんだからそうなのだろうが」
「ですが……ですが、どうして私がそう思ったのか。というきっかけを、掴みあぐねています」
「つまり、直感だと?」
「はい」
「……じゃあ、今のあの子を見てどう思う」
今の小鳥遊さん、ですか。
「……普通である、と」
「ほう?」
「どこにでもいる、ダンスが好きな女の子。……アイドルをするには少々パンチが足りないかと」
「はぁ……」
呆れた様にため息を吐くトレーナー、申し訳ありません。
私が一番困惑しているところなんですよ。
「そんな子を、お前はアイドルという道に引き込みたい、と?」
「はい」
「どうしてそう思っているのかもわからないのに?」
「……はい」
アイドル科に負けず劣らずの容姿か、しっくりこない。
ダンスに目を引くものがあったのか、というわけでもなさそうだ。
ならば
「……あの時は」
「どうした?」
「いえ、どうにも言語化が難しいようです」
「そうか」
「ふぅっ……!」
「小鳥遊さん」
踊り終わった、と同時に声をかけられる。
「ぁ、プロデューサー、さん?」
「……すみません、息を整えてからで構いませんので、お話しさせてください」
「は、はい……」
限界まで踊ってたから……なんかごめんなさい。
近くに置いてあった水筒の水を、一気に煽る、気持ちいい。
……というか、ずっと待ってたのかなこの人、お姉ちゃんと何話してたんだろう。
「ぷはっ……ふぅ」
「落ち着きましたか?」
「ありがとうございます。えと、それで話って」
「スカウトの件です」
「あ、やっぱり……」
なんだろう、やっぱり諦めます! とかだったら私としてもありがたいんだけどな。
アイドルになりたいとはあんまり思ってないし……なりたくないとも思ってないけどさ。
「あなたのスカウトは一旦保留にさせて頂きます」
「ほっ……」
「……ですので、小鳥遊さん」
「? はい」
スカウトを保留? ということにした上で、まだ何かあるのだろうか。
……というか、保留って? 先延ばしにされたってのはなんとなくわかるんだけど。
「一緒にライブを見に行きましょう」
「……へっ?」
「あなたの小鳥遊さんのお姉さん……トレーナーと話をさせて頂いた結果、あなたはアイドルに関する知識が乏しい、ということがわかりましたので」
「だ、だからってどうしてプロデューサーさんと一緒に観に行くことになるんですかっ!?」
いくらなんでも急展開すぎますよっ!?
え、スカウト保留なんじゃないんですか?
「保留にしたから、だよ」
「お姉……トレーナーさん?」
「お前にはアイドルの知識が乏しい、そしてプロデューサーの方はお前のことを諦める気がないらしい」
「えっ」
なんでぇ?
絶対私より魅力的な子いますよねアイドル科!
「だが、当のお前が何も知らないまま頷いて、アイドルを目指すことになった、なんて問題にも程があるからな」
「た、確かに……なの?」
構図的には、何も事情を知らない人をスカウトした、みたいな?
確かにそれなら問題かも……なんだけど。
「だからこれからの数日間、お前にアイドルというものについてこのプロデューサーが色々見せてくれるそうだ」
「は、はぁ……」
「それを通じて、お前がアイドルを目指したいと思ったのなら……」
「その時は、プロデュースさせて下さい、ということです」
「えっと……」
「嫌なら嫌、と言って構わないぞ。側から見ればただの不審者だからなこいつは」
「ぐ……否定はしませんが」
アイドル。
正直興味はない、うん、ぶっちゃけね。
でも、この人に関しては、別だ。
『あなたをプロデュースさせてください』
と言ってきた時のこの人は、とても真剣な目をしていた。
……私は、私が普通である、と思っている。
でも、そんな私に可能性を見出した人がいた。
だったら……うん、少しだけ。
「……観に行くだけ、で良かったら……」
「! 本当ですか?」
「うぇっ、は、はい……」
「こらこら、うちの妹にそう迫らないでくれよ」
「……すみません」
……なんか、面白そうな人だな。