人々の願いを聞きその願いに近い人生を与えて悟りを開くための修行を与える菩薩。寛大すぎるその心故に悟りを開かずとも良いと考えてしまう事もある。
悟りとは祈りだけで到達できるものでは無い。
令和元年12月24日、東京の転生寺にて
「…少し、1人で祈らせてもらえないでしょうか?」
そう言うのは室町時代から続く老舗を筆頭に100年以上続く老舗を複数経営する女社長であり、民間で唯一、皇族と血縁関係が認められている一族の1人だった。
「分かりました。私は扉の前に居ますので何かあればお声掛けくださいます様お願い致します。」
この転生寺を代々継ぐ和尚は彼女の血族以外で事情を知っている1人である。前の訪問は祖父の代だった為に理由が知りたかったが、我慢し外に出た。祖父が和尚として現役だった頃、まだ遊び盛りだった少年時代の初恋でもあった。その頃から早40年、妻子も居るのに再び会い当時の気持ちが再燃し始めたが気合いで振り払い和かに部屋を出る。
「…仏よ。どうだ見たか!お前は我々にはこの先に居場所は無いと言ったが我々は人間と住み分けができている!お前の予想が外れたんだよ!そして私の一族は人間と共に生きていく。外に逃げたお前たちとは違うんだよ!」
実はこの女、鎖国が終わった時にこの仏に〔俗世にて生き辛かろう、肉を捨て俗世より解放されたし〕つまり〔今の世界でお前の席ねーから〕と言われていたのである。
今回の訪問は居場所を作り〝お前の予想は外れたぞやーい〟と煽りに来たのである。何千年も生きてなおコレである。
これには肉の器を捨て極楽に至りて怒ることが少なくなった仏もこれには激怒。
しかし、悲しきかな。肉の器を捨てた仏には罰を下す力は無かった。
ならば、仏が頼るモノは自らの持つ力、即ち“転生”である。
仏の持つ転生の力は今の文字通りの転生ではなくこの世界との繋がりを断ち新たなる世界へと繋げるものであった。
儀の始まりを感じ取った彼女は即座に抗い始めた。
流石は日本神話の頃より生き続けている化け狐にして、神の1柱として天照大神に認められた女。そんじょそこらの神仏には負けないが、相手は知名度は低けれど菩薩の位まで徳を積んだ仏である。故に互角。故に此度も引き分けになる筈であった。外部、不穏な気配を感じた和尚が部屋に駆け込んで来なければ。
ふと途切れる集中、均衡が崩れて仏に傾いた。
彼女は渦に飲み込まれ異界に飛ばされたのであった。
「クソ仏ぇ。いつか絶対に殴ってやる!」
異界へと飛ばされた彼女、天霧陽雨(あまぎり・ひさめ)は愚痴を溢し異界へ落ちていく。
落とされたのは人と魔物が殺し合う世界。英雄を数多く輩出した国、“英雄の国”アヴァロン、奇しくも今、まさに魔物に襲われている街中に落ちたのだった。そして、関ヶ原の落武者“剣鬼”も同じく落ちてきていた。
天霧陽雨
古くより存在する狐の神、人と関わり続け神として崇め奉られようともその気質は変わらず、のんびりと穏やかだが、子供や身内と認識された者を傷つけられると烈火の如く怒り暴れる。