親友を転生させたら竜の王女でTSヒロインになってた件   作:エイジアモン

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12.別れと勇者の噂

 

 結局その夜、竜の聖女を狙う不埒な輩は、現れなかった。

 

 宿の前で仁王立ちして睨みを効かせていたが人どころかネズミ一匹現れなかった。

 まあこういうのは何も起きない事が一番だ。

 ユーリもしっかり休めただろうし、心配が杞憂(きゆう)に終わって良かった良かった。

 

「おはよう、何かあった?」

 

 朝一番、ユーリが聞いてきた。

 

「……何も無かったよ。ちゃんと眠れたか?」

 

「おかげさまでぐっすり。――でもなんだろうな、一人で寝るのが久しぶりで少し寂しかったかな」

 

「いつもはオレと一緒の部屋か3人で野宿だからな。つっても、まだ冒険者を始めて1ヶ月も経ってないんだけど」

 

「ま、それだけ濃密な時間だって事だよ。だってヤマトと一緒なんだし、お前は違うのか?」

 

 言われて見れば、師匠と交代する前に一人で寝る時、すぐ側にユーリの気配が無いのは物足りない気がしたような気がする。

 再会してからというもの、殆どの時間を一緒に過ごしているし、ユーリと一緒なのはオレだって嬉しい。

 だからこそ。

 

「オレだって同じだよ、ユーリが側にいなくて寂しかった」

 

「そう思ってくれてるなら嬉しいなあ。 ……実はさ、いつか何処かの街や村なんかに置いてかれるんじゃないかって、そう思う時があるんだ」

 

「何をバカな――」

 

「だってさ、ヤマトやクリスに比べて、私は明らかに弱い。ヤマトとの模擬戦でクリスが指を舐めるの、あれって本気出す時なんでしょ? あれを私にはまだ一度だって見せた事が無い。つまり、私の強さはその程度だって事。 ――このままじゃ2人の足を引っ張って、取り返しのつかない事になる」

 

 ユーリがそんな事を思っているなんて知らなかった。

 そんな事、全く、おくびにも出していなかった。

 だけど、ユーリのその考えは間違ってる。

 

「だから何処かに街に置いて行くって? そんな事あるわけない。 今はまだでも、ユーリならきっと、もっと強くなれる! オレはそう信じてる! 大体この1ヶ月にも満たない旅の間だって随分強くなった」

 

「だけどヤマトはもっと強いじゃん」

 

「オレはチートだから良いの。 ユーリならきっと師匠を超えて、オレの隣に立ってくれる。 だからユーリは自分を信じて、オレを信じてついてきて欲しい」

 

 力強く言い放つと、ユーリは少し納得していない様子で考え込み、少ししてため息を吐いた。

 

「……分かった。自分はともかく、ヤマトを信じるよ。 ――だけど、もう無理だと思ったら遠慮なく言って欲しい。私のせいで、なんて事になりたくない」

 

 固い決意を込めた瞳で、オレを真っ直ぐ見て、そう言った。

 ――今はこれ以上は言っても曲げなさそうだ。

 

「ま、そんな事にはならないと思うけどな。 分かった。もしオレが見限ったらちゃんと伝える。 ――これで良いか?」

 

「ああ。約束だぞ」

 

「おう、約束だ」

 

 そう言って、拳と拳を突き合わせた。

 

◇◆◇

 

 オレたちは、その日の昼にはフーギ村を出た。

 村人たちは別れを惜しみ、見送ってくれた。

 

 何日かかけて王都の冒険者ギルドに戻って依頼達成の報告を済ませる。

 

 そして王都を出る時、ユーリは王都の町並みを、王城をじっと見つめていた。

 生まれてからずっと生活していた王都、そして王城、オレだって最後の別れのつもりで村を出た。

 ユーリもきっと最後の光景と思って、目に焼き付けているのだろう。

 

 すると、王城のほうから1台の馬車と共に20人くらいの集団がユーリの元にやってきた。

 驚いた事に、馬車から顔を出したのはこの王国のゲイル王とリーザ王妃だった。

 合わせてメイドや執事、騎士団長などもいた。

 

「やれやれ、なんとか間に合ったようだな。ユーリよ、連絡を入れてくれても良かろうに。ギルドから連絡があって慌てたではないか」

 

「お父様!お母様! それに皆さんまで……。すみません。ご心配とご迷惑をお掛けしてしまうので静かに出発しようと思っておりました」

 

「何をバカな事を……。本当なら国を挙げて出発式をしたかったくらいなんだぞ。 お前が言うので止めはしたが。……ワシはお前が心配でならん。……最後に……抱き締めさせてくれないか」

 

「はい」

 

 そういって、ゲイル国王とユーリ、そしてリーザ王妃は抱き締めあった。

 抱擁は長く続いた。

 

「お父様、お母様、これが最後ではありません。私は必ずヤマトたちと共に目的を果たして戻ってきます。それまで、少しお時間は掛かりますがお待ちしていて下さい」

 

「うむ、うむ。きっとそなたならやり遂げるだろう。待っておるぞ。 ――クリスよ、娘の事をよろしく頼む」

 

「ハッ! この命に替えましても!!」

 

「マットよ、大言壮語で終わらす事はまかりならんぞ!」

 

「はい! 必ずや討伐して参ります」

 

「うむ。 ユーリよ、他の者も伝えたい事があるそうだ。聞いてやってくれ。 ワシとリーザは戻る。 ――ユーリ、行ってきなさい」

 

「はい。お父様、お母様、ありがとうございます」

 

 こうして、ユーリは両親と別れを告げた。

 その後、残った騎士団長や従者との別れの挨拶を済ませた。

 

「良かったな、ユーリ」

 

「うん」

 

 皆と別れた後、ユーリの目には涙の後が残っていた。

 

 オレたちは王都を出発した。そして魔族の長がいるという、魔族の支配する方面へと向けて。

 これからが本当の魔族討伐の旅の始まりだ。

 

◇◆◇

 

 いくつかの村と街を過ぎて、ボビーネイトという大きな街の冒険者ギルドである噂を耳にした。

 

 この街に勇者が来ている、という噂だ。

 

 この世界にも勇者と呼ばれる存在がいて、魔王を倒すための選ばれし者らしい。

 しかし、ここ数百年の勇者で今存在している魔王を倒した者はなく、一番の功績が魔王の幹部を倒した程度だった。

 とはいえ、勇者は人並み外れて強く、冒険者ランクで表すならBからSランクはある。

 その勇者ですら倒せない魔王の存在が、いかに強大であるかを物語っていた。

 

 ちなみにオレたちの目的である魔族の長と勇者の目的である魔王は別の魔族だ。魔王と呼ばれている存在の上に、魔族の長が存在する。

 これは女神の託宣による情報なのでまだオレとユーリだけの秘密だ。

 

 さて、そんな勇者がこの街に来ているという事で、ギルド内は勇者の噂で持ち切りとなっていた。

 「筋骨隆々の大男」だとか「腰布1枚のおっさん」やら「金髪の優男で女だらけのハーレムパーティ」と、果ては「若い美人の女1人」なんてのも。

 

 冒険者ギルドには勇者の姿なども含めて通達されているが、実際にギルドに来て勇者を名乗った者はまだいないため、噂だけが先行し、冒険者たちは各々が勝手に自分の勇者像を想像して、(さかな)として盛り上がっていたのだ。

 

「勇者ねえ……ヤマトよ、この3人で魔族の長を倒すつもりか?流石に厳しいんじゃないか?」

 

 師匠が周りの噂を聞いて訪ねてきた。

 人数か……確かにあと2人くらいは戦力が欲しいところだけど、よっぽど強くないとな、と思う。

 勇者といっても実力が分からない事にはなんとも言えないし、B~Sって強さの幅が広すぎる。

 それにSには強さの上限が無い、例えば強さの値で9がAランクだとしてSは10以上、10倍の100でも同じSランクだ。

 そして魔族と戦うなら最低でもSランクの強さである事が前提となるし、Sランクの強さなら誰でも良いというわけでもない。

 

 つまり、仲間にするかどうかは実力を見てみないと分からないという事だ。

 

「まあ……あと何人かは増やしたいとは思いますけど、そこまで強い人って中々いないと思うだよな……」

 

「それでも勇者なら強いと思います。 というか、それくらいしか強い人って思いつかないんですよね……」

 

 確かにユーリの言うとおりだ。オレが求める強さは、それこそ勇者くらいの強さでないとダメだろう、それも相当な上澄みの強さを持つ。

 何処かに古の大賢者、とか、隠れ里に一子相伝の秘剣の子孫がいるとか、そういうのはいないものか。

 

「ま、とりあえず勇者とやらに当たってみたらどうだ?何もしないよりはマシだろ」

 

「……そうですね」

 

 ここであーだこーだと言い合い、考えていても仕方がない。

 それにこれはチャンスかも知れない。まずは勇者を捕まえないと。

 

◇◆◇

 

 師匠が冒険者ギルドの受付に聞いた話では、今日あたりに勇者が現れるという事だった。

 ここにいる他の冒険者も勇者を一目みようと待ち構え、あわよくば仲間に入れてもらうつもりなのかも知れない。

 

 しかしそんな面々の思いとは裏腹に、勇者は中々現れず、辺りは日が落ち始めていた。勇者に会う事を諦めてギルドを出ていく冒険者たちもチラホラと現れ始めた。

 

「おい、先に飯食って来ていいぞ。俺はここで勇者とやらを待ってるから」

 

 と、師匠が言う。

 せっかく師匠が気を使ってくれたんだ、ありがたくいただくとしよう。

 

「はい、それじゃあお先にいただきます。行こうか、ユーリ」

 

 そう言って席を立つ。

 

「おいおい、そこは「師匠が先に食べて来て下さい」って譲るとこだろ~?」

 

 師匠がボヤいた。

 あ~、確かに。すっかり失念していた。師匠の言う通りだ。

 

「あ、そうか。すみません気付かなくて」

 

「嘘だよ、冗談だ。 ゆっくりして来い」

 

 師匠はそう言って、オレたちを追い払うように手をヒラヒラと振った。

 

「では行ってきますね、クリス」

 

「師匠、早く戻りますから」

 

 師匠を冒険者ギルドに残し、オレとユーリは食堂へと向かった。

 

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