親友を転生させたら竜の王女でTSヒロインになってた件   作:エイジアモン

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8.銭湯と戯れ

 

 オレたちは、身体を洗い流してさっぱりするために王都で一番大きな銭湯へ来た。

 

 聖竜王国は水が豊富な国で、そして聖魔法で水を浄化し、湯を沸かして使用する施設があり、街規模であれば大なり小なりの銭湯が存在する。

 そしてここの銭湯には暖かい湯船とサウナがあり、さらに湯水には聖魔法による浄化の際に発生した聖なる水(聖水)が微量だが含まれるので身体に良い効果がある。

 良いことずくめの大人気施設なのだ。

 

 オレの村にはそんな施設は存在せず、濡れたタオルで身体を拭いたり、近場の川で身体を洗い流したりする程度で、初めて立ち寄った街で銭湯の存在を知った時は感動したのを覚えている。

 異世界で気軽に風呂に入れるなんて思っても見なかったからだ。

 

 というわけで、ユーリが加わった事で街にいる間は毎日銭湯に入る事となったオレたちは師匠とオレは男風呂、ユーリは女風呂へと別れて入った。

 

「で、ヤマト。本当のところお前はどう思ってるんだ……? 素直に話してみろ」

 

 身体を洗い終え、二人でゆっくり湯船に浸かっている時、師匠はそんな事を言ってきた。

 多分ユーリの事だ、ユーリがオレの事を親友だと言った手前、オレの本意は別にしてユーリに合わせて親友だと答えた。そう思っているんだろう。

 

「オレもユーリの事は親友だと思ってますよ。本当に。オレにとって大事な親友です。今はそれ以上でもそれ以下でもありません」

 

 本心だ。オレにとってユーリは、女の子になろうがなんだろうが、唯一無二の親友なのだ。

 そう応えると、師匠は頭に置いた手ぬぐいを押さえながら、天を見上げてふうとため息を吐いた。

 

「今は……ね。――OK分かった。俺はお前らを見守っててやる。……まあせいぜい変な虫が寄り付かないようにだけは注意しとけよ」

 

「変な虫って……それはユーリが決める事ですよ……」

 

「旅では様々な出会いがある。だから油断するなってこった、師匠の言葉は素直に聞き入れとけ」

 

「……はい」

 

 変な虫……ね。

 もし、ユーリに良い男が現れたら、もしユーリがその男と仲良くなったとしたら、オレはどんな気持ちになるのだろうか。

 祝福の感情だろうか、それとも盗られた、と感じてしまうのだろうか。

 考えてみたけど……まだ分からなかった。

 

 だけど、ユーリと親友じゃなくなるのは嫌だと感じた。それだけは分かった……。

 

◇◆◇

 

 湯船から上がり、服を着ている時、ふと気付いた。

 そういえば、ユーリは1人では服を着れないんじゃなかったっけ?

 そうだよ、ユーリは1人では脱ぐ事は出来ても着る事は出来ないんだ。

 

 となると、周りの人にお願いして着せてもらうのだろうか?

 そんなお願いを聞いてくれる人はいるのだろうか、仮にいたとしてもそんな人を探すのは大変だろう。

 

 着せてくれる人を探すならまだ良い、最悪の展開は下着姿のまま脱衣所から出てしまう事だ。

 いくらなんでもそこまで羞恥心が無くなっている事は無いとは思うけど、でも下着姿なら平気だ、とか言いそうな気がする。

 下着姿のままオレを待っているとしたら、それは大変な事だ。そんな格好で美少女が外にいたら襲って下さいと言ってるようなものだ。

 

 その考えに至ったオレは、慌てて服を着て表の待合フロアに出た。

 ユーリが周りにいないか確認したがそれらしき人影はいなかった。

 よく考えれえば仮にも女の子だ、髪の手入れもあるだろうし、男のオレより風呂の時間は長いはずだ。だからまだ中にいる可能性のほうが高い。いや、中にいるはずだ。そうに違いない。そうであってくれ。

 

 とりあえず自分を納得させて胸を撫で下ろし、待合フロアでユーリを待つ事にした。

 待っている間、師匠はのんびりと脱衣所から出てきて、販売所で飲み物を買って一息ついていた。

 前世のように銭湯はあっても風呂上がりのコーヒー牛乳は存在しない、代わりというわけではないのだろうが聖魔法で浄化され薄められた聖涼水を飲んでいる。これで身体の外側と内側の両方から浄化するというわけだ。

 

「どうやらユーリはまだ上がってないようだな、まあ女の風呂は長いからな」

 

「あー……まあ、そうですね」

 

 師匠は呑気にそんな事を言っているけど、オレにとって問題はそこじゃない。

 だからといって理由を話せるはずもなく、曖昧に返事をした。

 

「ん?なんだ。何か気になる事でもあるのか」

 

「いえ、別に……」

 

 師匠はグビリと聖涼水をあおり、まったりとしている。心ここにあらずでソワソワしているオレとは対照的だ。

 

「お待たせしました。ヤマト、クリス」

 

 と、そこへユーリが待合フロアに現れた。

 立ち上がりながらユーリを見ると、ユーリはちゃんと風呂に入る前と同じ格好、服を着ていた。

 大きく安堵する、どうやら中で誰かにお願いでもしたのだろう。

 

 ユーリの側に寄り、耳元で囁いた。

 

「良かった。心配したよ」

 

 しかしユーリはきょとんとし、何の事か分からないようだ。

 

「ん?何が?」

 

「ほら、着替えの事。1人じゃ服を着れないんだろ? 誰かに手伝ってもらったのか?」

 

 そういうと、ユーリが顎に人差し指を当て、何の事か考え……そしてハッとした。

 

「あ! あ~あ~あ~……あれね。 ごめん……アレ、……嘘!」

 

 そう言って舌をぺろりと出した。

 

「え!? は!?」

 

 突然何を? いや、何が!?

 

「いや~、ヤマトがやけに意識してるみたいだったから、からかってやろうと思ってさ~。まさかあんな嘘をあっさり信じちゃうなんてね~。 笑いを堪えるのに必死だった!」

 

「え……えええッ!!??」

 

 ちょっと待って! 服を着れないって、アレって嘘なの!?

 

「王族だからそういうものかと思って信じたんだけど!?」

 

「んなわけないじゃん。豪奢(ごうしゃ)なドレスや鎧とかならともかく、この程度の服なら着れるって。大体、服の着方を説明しただろう?あれはネタバラシのつもりだったのに、そのまま進むんだもん逆に驚いちゃったよ。でも本当ごめんな!」

 

「いやマジか~。……でもよく考えるとそうだよな、それくらい着れるよなあ……。すんなり信じちゃったよ」

 

 確かに、冷静に考えれば分かりそうなものだ。だがしかし……。

 オレは頭を押さえて大きくため息を吐いた。

 

「いやごめんて。 でも嬉しかったよ、私の事信じてくれてるんだなあ、って」

 

 見事にからかわれたわけだけど、怒りは湧いてこなかった。別に何か被害を受けたわけでもないし、ユーリとの良くあるじゃれ合いの1つだと理解出来た。

 っていうかオレ、そんなに意識してる事を見透かされてたのか。

 良い方に解釈するなら、そんなオレを見てユーリは緊張をほぐそうと思ってあんな嘘を吐いたのかも知れない。

 まあ、これは良く考えすぎか。

 

「まあでも、その嘘のお陰で美少女の下着姿を見れたんだから感謝しないとな」

 

「お前な、そういうのは言わなくて良いの。……そういえば、下着姿を見られるくらい平気って言うの、あれも?」

 

 そこは気になった。

 あの時は使用人に見られ慣れてるか、オレを男として意識しないのかと思っていたのだけど。

 

「あ~~、あれね……。 嘘に決まってるじゃん、異性に見せたのはヤマトが初めてだよ。いくら親友でも恥ずかしかったんだからな!」

 

「そんなに恥ずかしかったんなら、からかおうなんて思わなければ良かったのに」

 

「いやそこはそれ、面白そうじゃん? 実際面白かったし。それに今まではこんな事出来るような環境でも無かったしな」

 

「は~~ッ、お前ってやつは……」

 

 ――まったく、ユーリには参る。

 だけど嬉しいとも感じる。王女になってしまったユーリの、そういうからかいや冗談は心を許した親友のオレにだけしかしない行為である事が。

 オレと二人きりの時くらいは王女である事を忘れて、ただの親友に戻るのだろう。

 逆の立場でもオレもユーリにしかあんな事はしないだろう、それは間違いなく、確実な信頼の証だと思う。

 

◇◆◇

 

「おーい、いつまでこそこそイチャイチャしてんだ」

 

 師匠がいつまでも離れてこそこそやっているオレたちに声を掛けてきた。

 こそこそはしてたけどイチャイチャはしてないでしょうが。

 

「いやイチャイチャはしてませんけど」

 

「すみませんクリス、ヤマトが銭湯の良さを熱弁していたもので釣られてしまいました」

 

「へ~、ま、そういう事にしとこう。そろそろ行くぞ。 ほいユーリ」

 

 師匠はユーリにぽいと聖涼水を放り、ユーリはそれを受け取った後、蓋を開けてぐいと飲んだ。

 

「ん~、少し薄いようですが、やはり銭湯上がりの聖涼水は良いものですね」

 

 やはり王女様、風呂上がりの聖涼水も庶民とは違い聖水濃度が濃くて良い物を飲んでそうだ。

 ……で。

 

「師匠、オレの分は?」

 

「弟子には優しく厳しくが俺のモットーだ。パシらされないだけ優しい師匠だろ? 自分で買ってこい」

 

 うん、知ってた。それに良い師匠だってのも。

 こうして、オレたちは宿へと戻るのだった。

 

◇◆◇

 

「そろそろ寝ようか」

 

 オレたちは宿へと戻り、後は寝るだけとなっていた。

 

「待って、寝間着に着替えるから」

 

 ユーリはそう言って、魔法袋に手を突っ込んでいた。

 

「あ、ああ。分かった」

 

 慌てて扉の前に立ち、ユーリを見ないよう扉を見つめる。

 

「別にそんな事しなくても良いのに」

 

「いや、一応ユーリは女の子なんだし、けじめだ、けじめ」

 

「まあ、良いけどさ」

 

「なあ、思うんだけど、わざわざ寝間着に着替えなくても良いんじゃないか?」

 

「外ではやらないけど、宿にいる間くらいは着替えておきたいかな」

 

「そういうもんかね」

 

 でも分からないでもない。環境が突然大きく変わったのだ。

 今日の昼までは王女として生活していたのだ、いきなり生活スタイルを全部変えるというのも中々に大変だろうし、これくらいは好きにさせないと心理的負担が大きそうだ。

 そう考えれば、出来るだけユーリの負担を軽くして、支えてやりたいと思ったのだった。

 

「と、着替え終わったよ」

 

 なんて考え事をしている内に寝間着への着替えが終わったようだ。本当に?

 半信半疑でオレは中々ユーリに振り向けなかった。

 

「もう。嘘じゃないってば、こっち見ろ」

 

 その言葉に恐る恐る振り返ると、そこには寝間着姿の、かなり薄手の衣を纏ったユーリの姿があった。

 

「じゃあ消すよ」

 

 そう言ってユーリは魔法の明かりを消した。

 すると窓から入る月明かりに照らされて、ユーリの服が透け、シルエットがあらわになったのだった。

 本当に綺麗だ。芸術品みたいで、オレは見とれてしまった。

 

「ほらヤマト、もう寝るよ!」

 

「あ、うん」

 

 ユーリに促されて布団に入ったけど、まるで魅了の魔法にかかったように、オレの脳裏にはさっきのユーリと、昼間の下着姿のユーリがこびりついて離れず、日を跨ぐくらいの時間になるまで中々寝付けなかった。

 

 ちなみにユーリはすんなり寝ていて、小さな寝息を立てていた。

 そのすーすーという寝息すら、今のオレには刺激の強いものと感じられた。

 

 これはイカン、早く慣れないと魔族討伐どころじゃなくなる。

 

 ――こうして長い。 本当に長かった1日がやっと終わりを告げたのだった。

 

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