リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第十話 おや、邪神様の様子が・・・?

 海鳴市にあるとある森林の中を全力疾走する影が二つ。

 

 「かなりの主とお見受けされる。何故にそこまで荒ぶるのかっ。静まりたまえ!静まりたまえぇえ!」

 

 巨大な猪に追われている少年。田神裕の姿があった。

 ジュエルシードを手に入れた翌日。土曜日で学校は休み。

 裕はサンプルとして一つだけジュエルシードをポケットに入れて、週に一度の高町道場での稽古に向かう途中でいつもなら通らない道を通り、海鳴の町でアイテムグループ化していない地帯をグループ化させていると、WCCの干渉可能域でジュエルシードの反応を捉えた。

 ジュエルシードの探索として高町親子やバニングス氏に協力をお願いするかと迷っていた裕だが、まずはこれを処理しようと思い反応があった森林の中へと向かう。

 

 森林の奥でジュエルシードと一緒に親猪とはぐれたウリボーを発見。

 「・・・やだ、可愛い」と、和んでいたらウリボーがジュエルシードを食べる。

 おや、ウリボーの様子が・・・?

 デンデンデンデンデンデンデッテ、デンデンデンデンデンデンデッテン!!

 デーデデン、デデッデデン!

 ウリボーはドスファンゴ(金冠サイズ)に進化した!

 何と言う事でしょう!あんなにも愛らしかったウリボーが体長二メートルはある威圧感のある猪へと変貌ではありませんか!

 …すごく、大きいです。

 おいおい、そんなにぽやっとしていていいのか、俺は呆然としている奴も食っちまうんだぜ?

 呆気にとられている裕をしり目にドスファンゴは裕をロックオン。少しの間を置いて突撃を開始すると同時に裕も逃げ出す。

 といった状態だ。

 

 子どもの脚ではすぐに追いつかれると思われがちだが金の懐中時計にカスタマイズ効果が施された物。その効果で裕は大人以上のスピードで山の中を疾走する。

 あの時、不思議な飴。もとい、ジュエルシードをBボタンで進化キャンセル。ではなく、回収できなかった事が悔やまれる。

 

 「ブギィイイイイイ!!」

 

 「くそ、調子に乗るな!」

 

 猪がいる場地面に光が奔ると同時に、猪の前から裕の姿が消える。代わりに見えたのは土の壁だ。

 WCCで落とし穴を瞬時に作り上げた裕から見たら猪の方が消えたようにも見えただろう。

 

 「ピギィッ?!」

 

 ズズン!

 と、局所的な地震が森林の中で響く。

 落とし穴に落とされた猪を見届けた裕は、思わずそこに座り込む。

 

 「た、助かった」

 

 ジュエルシードの起こす異常事態は知っていたのに思わず逃げに入ってしまった事。いや、その異常事態から自分の身を守る対策を考えてなかった自分に反省している。

 それが更に悪手となる。

 裕は確かに猪を落した。深さは六メートルから七メートル。普通の猪なら駆け上がることは出来ない。だが、相手はジュエルシードを呑みこんで異質化した猪だ。

 

 「ぎゅあああああああっ!!」

 

 短い脚から信じられないくらいの脚力で土壁を蹴り、駆け上がってきた猪が落とし穴から飛び出してきた。しかも飛び出してきた先には座りこんでいる裕の姿があった。

 

 …あ、これ死んだ。

 

 そう思った裕が猪に潰される瞬間。

 

 「…サンダーレイジ」

 

 小さく聞こえた少女の声と共に晴天の空から雷が飛来し、猪を貫いた。

 

 

 

 少女視点。

 ジュエルシードが発現した気配を感じた私はその気配があった場所へ行くと一人の少年が丸い生き物に追われていた。

 猪の方から魔力を感じた。おそらく原生生物に反応したジュエルシードの暴走。そして、あの男の子を襲っているんだろう。

 助けに入ろうとした瞬間、男の子から魔力に似た何かを感じた次の瞬間、猪が消えた。いや、猪の下に急に穴が出来てそこに落ちたんだろう。

 男の子の方はそこにへたり込んでしまうが、猪の方は諦めずに落とし穴を駆けあがっていく。このままじゃ、あの男の子は殺されてしまうかもしれない。

 私はポケットから三角形のデバイス。バルディッシュを取りだし魔力を込める。

 魔導師と呼ばれる魔法が使える人間が持つ力。私にはそれがあり、それを振るうための道具。機械的な黒い両手斧ある。刃と杖の連結部分にある部分には金色の宝玉のようなものがついている。

 

 「…サンダーレイジ」

 

 そこに意識を集中させて魔法を放つ。

 バルディッシュから放電した雷が意志を持った蛇のように猪の上に落ちる。

 猪は雷で焼かれると落とし穴のすぐ傍に倒れる。

 

 「…上手に焼けました」

 

 少年の方は何やら訳の分からないことを言っているけど、猪からジュエルシードを取り出す為に私はバルディッシュを担ぎながら男の子の前に姿を現す。

 

 「…バルディッシュ」

 

 動かなくなった猪にジュエルシードを摘出する魔方陣を展開。魔方陣の光を浴びながらジュエルシードを取り出しながら私は男の子に静かに告げる。

 

 「…この事は誰にも言わないで。でないと、また危険な目に会うから」

 

 「…な、なんでジュエルシードを取り出せるんだ」

 

 「あなたには関係ない。…っ、どうしてジュエルシードの事を知っているの」

 

 私はこの少年の前では『ジュエルシード』の単語は発していない。

 よく観察していると少年からもジュエルシードの反応がある。

 

 「そうか、君も持っているんだ。…それを渡して」

 

 「…これをどうするつもりだ」

 

 猪を相手にしていた時と違い、落ち着いている。いや、冷静さを取り戻したともいうべきか。

 

 「あなたには関係ない」

 

 「ある。これが暴発したら俺も家族の皆も死ぬ」

 

 …そうか。この男の子にも家族がいるんだ。

 だからこんな危険な目にあってもこんな事に関わろうとしている。

 気持ちはわかる。…でも。

 

 「それにあなたが対処できるとは思わない。さっきのもそう。あなたは弱い」

 

 少年はその言葉を聞いて悔しそうに顔を歪めるも言い放つ。

 

 「弱くても対処は出来る。俺はこれを『調整』出来る」

 

 「…そう。だけど」

 

 私は高速移動の魔法を使い男の子の後ろに回り、次に雷の魔法を当てる。

 火傷しないように、だけど立っていられないほどの麻痺を負わせる威力の魔法を。

 

 「がっ?!」

 

 「根本的に弱かったら話にならない」

 

 少年が地面に倒れるとポケットからジュエルシードが一つこぼれ落ちる。

 それを手に取ろうとした時、バルディッシュを掴まれた。

 だけど、それも一秒たらずで離される。

 

 「・・・」

 

 「…ごめんね」

 

 家族を守りたい一念で振り絞った力なのだろう。

 少年が気絶したのを見届けた私はジュエルシードをバルディッシュの中に封印。そして、男の子を担いで森林を抜け、人目につくベンチに置いて行った。

 

 

 

 夜。

 邪神の力を持った少年はベッドの中で声を殺して泣いていた。

 痛いからではない。苦しいからではない。

 一人の少女に手も足も出なかった自分の不甲斐なさ、彼女の言葉を否定できない悔しさで涙を流していた。

 そして、その日から自分の力を、WCCを戦闘に活かせるよう策を練る。

 家に置いていたジュエルシードを睨みながら決意する。

 自分は無力ではないという事を。

 彼女に認めさせる。そして自分自身に証明するために。

 その為に今は泣く。これ以降は絶対に泣かないと。

 邪神は自分にそう言い聞かせた。

 

 


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