『イエーガーズ』の皆でサッカーチームのキャプテンとマネージャーの関係を茶化しているうちにいつの間にかキャプテンを胴上げすることになった。
皆が茶化している間にマネージャの事が好きだと言い切ったキャプテンの男らしさにみんなで祝った。
そうしたら胴上げしている間に彼のポケットから落ちてきた・・・。
JEWEL(ジュエル)なSEED。
いや、別に割れてもないし、覚醒もしていない。それにどちらかと言えば俺はアストレイの方が好きだ。
ジュエルシードを拾った俺はその場の勢いのままキャプテンから内密にこれを貰うことに成功した。
後日、お礼になのはちゃんと月村さん。アリサが仲良く食事をとっている写メを送ることにした。
怒られた。
キャプテンの彼女(マネージャー)。なのはちゃん達からも。
わかった。わかった。
お礼は俺にチアコスチュームをしろと言うんですね!
…あ、はい。すいません。今度アイスを奢りますからそれで。はい、なのはちゃん達にも奢ります。翠屋のシュークリーム?小学生のお小遣いでは…。はい、わかりました。月刊ロンロン今月号は諦めます。はい。
というわけで、月の初めだというのだというのに財布から漱石さんがいなくなりました。諭吉さんだっていません。樋口さん?知らない人ですね。
そんな俺を察してか月村さんが今度の休みにお茶会に誘ってくれました。
…いや、嬉しいんだけどね。なのはちゃんから聞いた話だと彼女の家って猫屋敷らしい。
バニングスさん。アリサの自宅も屋敷で犬屋敷だ。
そこに初めて訪問した時、屋敷中のわんこ達が吼え始めた。
そう、俺は動物に嫌われる体質らしいのだ。
公道を歩いて犬に会ったら吠えられて噛まれる。公園で猫に会えば威嚇されて引っ掻かれる。
動物園に言った時なんか軽いパニックを起こしたサファリパークの如く荒れる。
いまでこそバニングス邸の執事長、鮫島さんのしつけもあってか噛みつかれるという事は無くなったが、時々唸り声を上げる声がするのは心情的にきつい。
前世の頃から動物好きだったのに、邪神の力を持っている所為なのか嫌われまくりな俺。
お菓子を取るか。心の平和を取るか。
ぐらぐら揺れる心の天秤が傾いたのは『そこのメイドが準備したクッキーが美味しい』と言う情報。
決めました。「行きます!何故行くか?そこにメイドがいるからだ!」
思わず声に出してしまった俺に対してなのはちゃんが少し不貞腐れる。
…それはおいといて。
一度も行ったことが無い月村邸も結構な広さがあるのでWCCでアイテムグループ化してジュエルシード探索もすることが出来る。
あ、後付じゃないし。こっちが本命だしっ。
いざ行かんっ、月村邸!
お茶会当日。
フシャー!猫の鳴き声攻撃。
グルウニャアアアッ!猫の睨みつける攻撃。
ニャアアア!猫の引っ掻く攻撃。
カー!猫の乱れ引っ掻き攻撃。
猫の噛みつく攻撃。猫の。猫の…。
猫の。猫による。邪神だけを攻撃する為だけの空間が月村邸で繰り広げられていた。
もうやめて!邪神の心のHPはゼロよ!
そう言わんばかりになのはちゃん達が猫を俺から引っぺがすが、
HA☆NA☆SE!
と、言わんばかりに猫たちは彼女達の制止を振り切り、俺に襲い掛かる。
最初から嫌な予感はしていた。
月村邸に入っただけで猫たちが一斉に俺を睨んで唸りを上げる。
月村邸を進むにつれて猫たちが俺の周りを取り囲み、その輪をじりじりと狭めてくる。
屋敷の中庭にあたる所でお茶会の席についたその瞬間、月村邸の猫が襲い掛かって来た。
その猛攻に耐えきれず俺はそこから逃げ出す。こんな状況じゃ、ゆっくりWCCのカスタマイズメニューも開けない。猫に構って変なカスタマイズでもしたら大変である。
とりあえず、月村邸の屋敷は案内される間にデータだけ取っておいた。残るはこの屋敷を取り囲むかのように生えている林の部分のデータを取るだけ…。
敷地内に林…。というか森と言っても過言ではないくらいの広さを持つ林に逃げ込む俺を追ってくる猫たち。
まさに猫まっしぐら。
今度、月村邸に行く際には猫が嫌いなみかんの香りがするポプリを買おう。
そう固く決意した邪神は林の中へと逃げ出した。
猫に追われる事30分。
狩猟本能から目覚めた猫たちから木に登ることで逃げ切ることにどうにか成功した。
一息入れてから逃げ回りながら辺り一帯のアイテムグループ化したデータをまとめていると、とある一部分が異様な反応を示す。
何かがゆっくりと大きくなっている。マップ上ではゆっくりだが実際はかなりスピードで巨大化している。
『にゃあおー』
「MA・TA・KA!」
シェンガレオン。もとい怪獣クラスに巨大化した子猫が目の前に現れた。
そして、またしても目と目が合う。
俺達は巡り合う運命だったのか…。
巨大な子猫が奔ってくると同時に気の上から飛び降りてWCCを発動させる。
猫パンチが襲ってくる前に地面に穴をあけてその中に飛び込む。
『にゃん』
ずずんっ。
可愛らしい声とは裏腹に地面に掘った穴にまで伝わってくる振動が恐ろしい。
だけど、ビビっている暇はない。
対ドスファンゴ対策用のアイテムクリエイトを発動させる。
「威風堂々(フード)!」
『植木の法則』という漫画で出てきた能力の一つ。
地面から手甲のような物をつけた巨大な腕が伸びて敵の攻撃を防ぐ堤防になる。
それをWCCで再現かつ魔改造を行う事で何本も出現させ、猫を押さえつける。
『にゃあっ?!』
猫から見たら地面から突如生えてきた何本もの土の腕が自分の体を押さえつけるものだから驚くのも無理はない。
十数本もの土の腕に押さえつけられた猫はもがくも動けない事を悟ると大人しくなった。
それを感じ取った裕は、自分がいる穴から這い出てくると黒いワンピースを着たアリサとは違う金髪の少女が自分を覗き込むように立っていた。
「…これがあなたの力?」
「…お前か」
少女は手にした鋼鉄の杖の先を裕に向けながらも猫の方を見る。
「…貴方も魔導師なんだ」
「魔導師ってなんだ?」
初めて聴く言葉に疑問を感じた裕の言葉に、少女の方も疑問を持つ。
「あなたも魔法を使うんでしょ」
「いや、俺が使っているのは神技だ」
もともとWCCの作品の中では神技人という、火、風、水、土で起こったり起こせたりする現象を起こす事が出来る人間がいる。
「神技?」
「と、その前に聞きたいことが二つ。お前、この間俺から取ったジュエルシードはどこにある?」
少女の方は少し考える素振りを見せて答える。
目の前の少年はこの町に住む家族の為にジュエルシードに関わっている。
「…今は持ってない。だけど、何があってもいいようにいずれは持っていくつもり。暴走しても影響がないように遠くに持っていくから安心して」
「…そうか。ならいい。じゃあ、次の質問なんだが」
そう教えると裕はほっとしたような顔を見せつつも、すぐに次の質問に取りかかろうとしたが、少女の持つ杖の先を首元に添えられて中断される。
「今度は私の番。あなたの言う神技って何?」
裕の持つ力を知ることでこれから敵対し続けても対策がとれると考えた少女は未だに冷たい視線のまま湯に質問を投げかける。
「…俺の神技は『物体に干渉する力』だ。物体なら例外なく干渉できて、変形させたり動かせたりする力だ」
「…物体。あの土の腕もそれで出したんだ。…それで」
「ん?」
「それでこの後はどうするの?」
「どうするって…」
「まさか、この猫のお腹を割いてジュエルシードを取ろうなんて考えてない?」
「…抑え込むことまでしか考えてなかった」
裕は慌てて弁明しようとするが最悪そうするしかないという結論に達し、項垂れる。
WCCでは生き物の体を直接操る事は出来ない。その事を少女に話すと呆れられた。
「…私があの子からジュエルシードを取り出すから、邪魔しないでね」
「…わかった」
ため息交じりに少女は猫の下に魔方陣を展開すると呪文を唱える。
猫は苦しそうな声を上げているが、裕はそれを黙って見ることにした。
ジュエルシードについての質問の答え。この町を巻き込まないと答え。
そして、猫の安否を気遣った少女の見え隠れする優しさを信じてみようと思ったからだ。
「最後に質問していいか?」
「…何?」
「俺は裕。田神裕だ。お前の名前は?」
「…フェイト。フェイト・テスタロッサ」
フェイトの魔法で巨大化した猫の体が光りだし、その作業も終わりかかろうとしたその時だった。
「ドラゴンショットォオオオ!!」
どこかで聞いたことがある声が聞こえると同時に猫を抑え込んでいる土の腕。威風堂々ごと赤い光が呑みこんでいった。
メダルトリオの一人。
茶髪の白崎健吾という少年は歓喜に震えていた。
前世の記憶を持ち、かつ、その中でも反則級と言われた力。赤龍帝と白竜皇の力を持ってこの世界に転生出来た事。
そして、この世界。原作ともいえる主要キャラに関わり合う事でハーレムを形成しようと思い立ち、なのは達に近付いた。
だが、自分と同じ境遇。考えを持つような人間が裕も含めて三人もいるのでややこしくなった。
日々、彼等を出し抜こうと考えていたがいきなり殺すのはマズイ。秘密裏に。もしくは事故を装って殺してしまおうとも考えていた。
そんな事を考えながら人目にはばからずそこそこの高さで空中飛行しながらなのは達を探していると近くでジュエルシードが発現した気配を察知し、裕とフェイトがいる月村邸の上空に現れた。
原作キャラであろう少女、フェイトが猫に襲われかけているように見える。さらに隣には目障りなモブがいる。
猫を攻撃してフェイトを助けることで彼女の気を引き、近くの邪魔者を排除する。フェイトは風習な魔導師だと原作知識を持っている白崎は、フェイトなら防いでくれるだろう考えながら全力の魔力を込めた砲撃を猫にめがけて撃ちこんだ。
ドラゴンの力で強化した砲撃により巻き上がった粉塵の中で、黒焦げになった巨大な猫と裕がゆっくりと倒れていくのを見た白崎は上手くいったと喜びながら巻き上がっている粉塵の向こうにいるフェイトの金髪の一房が見えた時、白崎は声をかけようとしたが、その髪は放たれた矢のようにすぐ自分の傍を通り過ぎると同時に一瞬の痛みが襲い、意識を失った。
その瞬間見たフェイトの表情はまるで道端に落ちたゴミを見るような顔だった。
「…いってぇえな。あれが魔法ってやつか?」
「ごめんね。シールドを展開しても防ぎきれなかった。あなたにもバリアジャケットがあれば無事だったんだろうけど」
黒いレオタードにマント。黒い手袋。一見するとワンピースよりも薄着に見えるが、物理的、魔力による攻撃も防いでくれる戦闘服を着込んだフェイト。
声がした瞬間に巨大な魔力を感じ取ったフェイトはバリアジャケットを瞬時に展開。と、同時に自分を中心に半球状のバリアを張ったが、白崎が放った赤い閃光はそのバリアを貫き猫にあたり爆発した。
それでもフェイトのバリアが赤い閃光に砕かれるまでの数秒の間に威風堂々を何本かだし自分達を覆うことに成功した。
フェイトのバリアと威風堂々の二重の障壁。そして、巨大化した猫の陰に入ることで裕は体を強く打ちつけるだけで済んだ。
フェイトは裕と猫の安否を確かめる前に攻撃してきた白崎を雷の刃を生やしたバルディッシュの鎌で攻撃し、撃墜した。
その速度は白崎が攻撃されたと感知するよりも早く鋭いものだった。
「…にゃあ」
と、猫が鳴くと猫の体が少しの間輝く。
その輝きが収まると同時に元の大きさに戻った子猫が横たわった状態で出現し、傍にはジュエルシードが転がっていた。
「おまえ!」
子猫の背中は抉れており、そこからは大量の血が零れていた。
裕はそれを止めようとして子猫の傷口に手を当てる。
キンコーン。
「っ!」
裕の頭の中に加工可能なアイテムを入手した時のアナウンスが鳴る。
裕が項垂れている傍に立っているフェイトはその様子に猫が息絶えたことを知る。
「…ごめんね。私がもっと早く封印で来ていれば」
「…いや、お前だけが悪いわけじゃないさ。俺の威風堂々だってもっと頑丈に作っていればこんな事にはならなかった」
裕はせめて飼い主であるすずかに背中が抉れたままの子猫を見せるわけにはいかないと思い、子猫の死体をカスタマイズして、怪我をする前の状態にする。
裕の腕の中で光りだし、まるで今にも起き出しそうな状態になった猫を見てフェイトは驚きの表情を見せる。
「…もしかして、生き返ったの」
「いいや。…死ぬ前の体に戻しただけ。そこまで便利じゃないよ。俺の神技は生き物には効かないから」
「…そう」
それだけ言葉を交わすとフェイトはジュエルシードをバルディッシュの中に入れる。
はたから見るとジュエルシードがバルディッシュの中に溶けていったようにも見える。
「なあ、フェイト。連絡先を教えてくれないか?」
「…どうして」
「お互いに情報を出し合えばジュエルシードも集めやすいだろ。それにこいつみたいのが増えるのはごめんだ」
「…ジュエルシードは私がもらう」
「それで構わない。こんな物無い方がいい」
「…わかった。見つけたらここに電話して」
フェイトはメモ帳を取り出して連絡先の番号を書いて裕に渡すと、白崎を切り払った時のように空を飛んでいくとすれ違うようにユーノを連れたなのはが林の向こうから走ってやってきた。
「裕くーん。って、何?!大丈夫なの!あちこち汚れちゃっているし、それに地面に大きな穴が!」
まさか、白崎が魔法をぶっ放して出来上がった穴ともいえない。
慌てているなのはをなだめながら、既に冷たくなっている子猫を飼い主であるすずかに見てもらおうと急がせる。
いきなり地面が吹っ飛んで自分と猫が飛ばされた。と言い、猫はそのショックで気絶したまま動かない。と、裕はすずかにそう伝えると、子猫は動物病院に連れて行かれたが改めて子猫が死んだことを伝えられ、悲しんでいるすずかに心で何度も謝る裕だった。
翌日。
月村忍のメイド。ノエルと名乗る女性は放課後にすずかを迎えに来ると一緒に裕を月村邸に招待することになる。