リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第十三話 やっちまったな邪神様

 裕視点

 月村邸に再度、お呼ばれされたはず、なんだが…。

 気が付けば薄暗い部屋で椅子に座らされていた。

 車で月村邸に向かっている間に渡されたジュースを飲んだ後の記憶が無い。

 

 「田神裕君。それが君の名前ね」

 

 「・・はい」

 

 目の前にいるすずかの大人バージョンがいた。

 ではなくて、姉の忍さんか。しかし、いやに声が頭に響くな。別に不快に感じるわけではなく、むしろ心地いい。

 

 「あなたは夜の一族の事を知っている?」

 

 「・・・いいえ」

 

 本当に心地いい?何かがおかしい。何かが…。

 

 「あなたは魔法と言う存在を知っている?」

 

 「・・・は、い」

 

 何がおかしい。この空間か…。それともこの人か?

 

 「…。それの存在を知ったのはいつ?」

 

 「…きの、う。きっかけをくれたのは初めて、フェイトと出会った日」

 

 「あなたが使う不思議な現象も魔法?」

 

 「…神技。魔法とも、いえる」

 

 この質問がおかしい?どこがおかしい?

 俺は邪神の力を持っていて、それを使う事が出来る。

 

 「ジュエルシード。あなたは今、いくつ持っているの?」

 

 「…二つ」

 

 何故、答える?何故、黙っていなければならないと思う?

 …決まっている。

 

 「…貴方は強大な力を持っている。それを何に使うの?」

 

 「…俺が使いたいように使う」

 

 この力は強力だ。だからこそ自分の為だけに使う。自分が欲しいものの為に使う。自分の守りたいものだけ守る為に使う。それを誰かのためにじゃない。

 誰かの為に使えば、他の誰かがその誰かになりたがる。恩恵を受けたくなる。それは尽きることが無くなる。だから、対等な関係で、対価を支払い受け取る。

 

 「残念ね。あなたもあの白崎という自称『主人公』だと思っているみたい。…あなたは月村に害を成す恐れがあるわ。だから…」

 

 忍さんの瞳が赤く染まり、彼女の言葉が心地い音色から警戒すべき声室に変わっていく。

 それを本能的に悟る。これはまずいものだと。

 

 「…今までの全てを失いなさい。田神裕」

 

 彼女の言葉に俺は応える。

 

 「断る!旅人(ガリバー)!」

 

 

 

 忍視点。

 

 今までぼんやりと答えていた少年。裕がはっきりと答えたことで私は驚きの色を隠せないでいた。

 彼に飲ませた催眠剤は効果が強力な分、その効果時間は短い。

 それでもこの催眠効果が無くなるのは早すぎる。

 その異変に、すぐ傍に立っていたメイドのノエルが裕に向かって走り出そうとしていたが、それは突然前後左右に現れた壁に阻まれる。

 そして、その壁によってふさがれた箱に蓋を閉じるようにもう一枚の壁が頭上を覆い、サイコロ状の壁に閉じ込められた。

 ノエルはその細腕からは信じられないほどの力で壁を殴り壊すと、まず自分の主である私がいた場所に目を向ける。そこには自分同様に箱形の物に閉じ込められたのかどんどんと中から叩く音が聞こえたので箱の真ん中で伏せていてくださいと言い、その剛腕を持って破壊した。

 

 「お嬢様!」

 

 次に向かうべきは自分達を箱に押し詰めただろう少年の方を見るとそこにも箱があった。

 間髪入れずそれを破壊したが中には少年はおらず、自分達がいる部屋全体が将棋盤のようなマス目のように光る線があちこちに走っていた。

 そのマス目の線から壁が生えるようにあちこちから生えてくる。その壁はどれも私達を閉じ込めようとしてくる。

 その壁から逃れるように私とノエルは屋敷の地下室を出ると、まるでおもちゃ箱をひっくり返したかのようになっていた。

 電球が床に設置されていたり、扉が天井についていたり、ドアノブが水道になっていたりしていた。

 

 「単純にものを壊すんじゃなくて、そこにあった物を取ったりつけたりしているの?」

 

 白崎と言うすずかのストーカーは自分の力を倍にしたり、相手の力を半分にするというドラゴンの力があるという。

 現に屋敷内を監視するカメラでは空を飛び、手からビームをぶっ放すという摩訶不思議な現象を捉えている。

 監視モニターは初め、裕は猫たちから逃げている間に監視しているカメラから一時的に消えるが、巨大化した猫と対峙している映像に移る。

 そこで繰り広げられたのは猫を土の腕を出現させて押さえつけているだろう裕の姿と、妹のすずかと同じくらいの女の子が奇妙な杖を掲げると巨大化した猫が光りに包まれる。その様子では猫は苦しそうに唸るが今すぐ死ぬという状況ではなかった。

 白崎が猫の背中を砲撃で攻撃するまでは。

 砲撃で辺り一帯が土煙に覆われるなか、空に浮かんでいる白崎をいつ着替えたのか分からないがフェイトらしき人物に雷の鎌で切り払われって撃墜したあと、空の向こうに跳んで行った。

 そんな中裕君の腕には。先程まで血まみれで倒れていた猫が、怪我などなかったような綺麗な状態で収まっていた。

 その後、猫を病院に連れて行ったが、彼の表情からして腕の中に抱いた時に彼には手遅れだと感じ取っていたのかもしれない。

 すずかを守る為に自警団を作り、なのはちゃん達をストーカー三人組から守ってくれている裕を疑いたくはないが、彼もまた白崎同様に不思議な力を持っている。

 下種な考えだが、私達が吸血鬼。『夜の一族』という事を知っており、それを利用して近づいてきたかもしれない。

 

 「お嬢様、監視カメラの配線が多数切れております。それだけではなく屋敷のあちらこちらがまるでオブジェのように変形しています」

 

 「あの子を野放しにするわけには…」

 

 白崎の方は『夜の一族』に関してのみ記憶を消して彼の家に帰した。出来る事なら彼の持つドラゴンの力の使い方まで消したかったが出来なかった。

 裕はもうこの屋敷から逃げ出したかもしれない。そう考えた時だった。

 

 「ファリンから通信が来ました!すずかお嬢様と裕様が接触!ファリンが交戦中の様です!」

 

 「なんですって?!」

 

 

 

 すずか視点

 裕君に睡眠薬を飲ませた後、地下室に運ばれた彼を見送った私は自室でメイドのファリンにきっと大丈夫ですよ。と、慰められていると私達のいる部屋全体が急に光り出すと私達の足元から壁が出てきて私達を閉じ込められた。

 

 「お、お嬢様!」

 

 ファリンが慌てて私を閉じ込めた箱のようになった壁を壊した。

 メイドのファリンとノエルは普通の人間じゃない。体の中に機械が搭載された人造人間のような存在であり、見た目に反して人以上の力と速さを繰り出すことが出来る。

 ファリンはその力を持って私を救い出すと、私を背にしながら辺りを警戒する。

 私の部屋のあちこちから不思議な光が溢れている。

 異常事態にもかかわらず私はその光に見惚れていた。

 

 「な、なにが起こっているんですかぁあああっ」

 

 ファリンは手にしたはたきをパタパタと振りながら辺りを警戒していると部屋の隅が一際輝く。

 

 「…あ」

 

 「…実行!」

 

 その光の中から地下室でお姉ちゃんと話しているはずの田神君が現れた。

 田神君は私とファリンの見た瞬間、壁に手をつくと同時に空いた手で何もない宙に指を走らせると再び部屋が光ると同時に私達を隔てるように鉄格子で出来た壁が何重にも出現した。

 

 「これって?!」

 

 「ふええええ?!」

 

 「動くな!」

 

 私とファリンが驚いて声を上げると同時に田神君が私達に向かって声を荒げる。

 学校では見たことが聴いたことがない、怒気と恐怖が入り混じったその声に私は一瞬、本当に彼なのか疑ってしまうほどだった。

 学校での彼はお調子者だけど私やアリサちゃん達を助けてくれる明るい子だったのに今では見る影もないくらいに私達に対して警戒の色を強めている。

 

 「…月村、お前も俺を殺そうとするのか」

 

 「…え」

 

 「俺は知らない。夜の一族だとかっ。魔法の事なんかもついこの間まで知らなかった!」

 

 田神君は訴えるように叫ぶ。泣き出しそうな顔をして私を睨みつける。

 あの顔によく似ている顔を私は知っている。

 初めて飲んだ輸血パックをすすって美味しいと感じてしまった自分にショックを受けた自分の顔だ。

 人とは違う自分の体。人とは違う力。それに苦しんでいる自分自身。

 

 「普通の人と違うから駄目なのか!力を持っているから駄目なのか!」

 

 田神君の姿が昔、鏡の前で泣いていた自分と重なる。

 そんな彼を見ていると胸が苦しくなる。

 

 「俺は!俺は…」

 

 田神君が俯きながら言葉を紡ぐ。

 それは昔の私が、そして今も心の中で自問自答している言葉だった。

 

 「…俺は、お前達と友達でいちゃいけないのか」

 

 「そんな事ない!私達は友達だよ!」

 

 その言葉に田神君は顔を上げる。

 怯え、苦しみの表情が消せないまま私の方を見る。

 ああ、そうだ。私もそう言って欲しかったんだ。

 お姉ちゃんでもなく、ファリン達でもない。

 本当に赤の他人である誰かに友達だと言って欲しかったんだ。

 

 「…じゃあ、なんで俺を殺そうとするんだ」

 

 「殺す?!そんな事しないよ!」

 

 「…お前の姉さんは俺を消すって言っていたぞ」

 

 「お姉ちゃんがそんなことを言ったの?!」

 

 とても信じられない事だと思い、田神君にもう一度話を聞こうとした時、私の部屋のドアを開けて入って来た人に言葉を遮られた。

 

 「…ちょっとお互いに食い違いがあったようだな」

 

 「恭也さん?」

 

 手に木刀を持った高町恭也さんが困った表情で現れた。

 

 

 

 裕視点。

 

 恭也さんという知り合いの登場に何とか落ち着いて話を聞いた俺は全身を使って悶えていた。

 

  つまり、忍さんは記憶を消す。って、意味だったらしい。

  それを俺が盛大に勘違いした。

  俺中二廟全開でWCCを盛大に披露して、すずかと遭遇。

 

 たった三行で本日の重要事項が説明できる件。

 つまり俺、超恥ずかしい!

 やっちまった感が半端ない!

 十分前に戻れるなら戻って自分を殴り倒したいくらいに俺は悶えていた。

 

 「…ふぅおおおおおおおおっ」

 

 「…田神君」

 

 月村さんが居た堪れない雰囲気で俺に声をかけるが、それ以上の言葉が出てこない。

 

 「『…俺は、お前達と友達でいちゃいけないのか』」

 

 「ぎゃあああああ!」

 

 俺の声真似しないで忍さん!

 羞恥心が、羞恥心で悶え死にそうです!

 てか、殺せ!いっそ殺せえええええ!

 

 「『そんな事ない!私達は友達だよ!』。成長しましたね、すずかお嬢様」

 

 「にゃああああ」

 

 俺と同様に悶える月村さん。

 うん、恥ずかしいよね。自分の黒歴史を再認識させられるのって。

 メイドであるにもかかわらず自分の主の妹を辱めるノエルさん。

 そのクールな表情から繰り出される言葉攻め。まじパネェっす!

 

 「…まあ、これからの事なんだが。ジュエルシードとやらが海にあるという情報を白崎から得たんだ。それを裕君が処理してフェイトと言う子に渡せばいい。という方向でいいかな?」

 

 「はい。それがいいかと思います。それが今回で一番大きな騒動らしいですから」

 

 メダルトリオの片割れ、白崎を薬物と夜の一族の能力を使ってジュエルシードが海にあるという情報を忍さん経由で手に入れた俺は明日素潜りをすることになった

 ふとしたきっかけで暴走するジュエルシードはWCCの力を持つ俺が直接回収する。

 ああ、ちなみにWCCの事は素直にゲロりました。

 家の中を滅茶苦茶にカスタマイズした事とそれを元に戻したところを直接見た月村姉妹にメイドズ。そして恭弥さんにWCCの事を全部喋りました。

 恭也さんには士郎さんの入院時に施した治癒効果。そして、道場で袴にカスタマイズしたドーピングの事も喋った。

 忍さんに『歩く奇跡ね』と言われましたが、残念。邪神です。事の詳細が明らかになれば騒動につながりかねません。そして、頭の中は中二です。

 忍さん達は『夜の一族』という吸血鬼で身体能力が半端ないと言うが、WCCで装備を固めた俺でも十分に対処できる。

 催眠効果も『身体能力強化』を施した懐中時計の効果で、新陳代謝が速まり薬の効果が切れるのが速まったのが原因かと思う。

 素直に記憶を消すという『夜の一族』の力を使えばいいのだが、俺より先に取り調べた白崎君。彼が持つドラゴンの力がその効果を打ち消した事で俺にもそれを打ち消す力があるんじゃないかと思われた為、薬を使った自白強要・洗脳(記憶消失)を使おうとしていたのだという。

 とりあえず、『夜の一族』の事を知った俺は一生彼女達に付き合っていくか。それとも記憶を失うかという選択を迫られた。

 選んだのは少し迷って前者。・・・いや、黒歴史を忘れたいからじゃないよ。本当だよ?

 月村さん達の事を考えると忘れた方がいいかもしれないけど、WCCという荒唐無稽な力を持った俺を友達だと言ってくれる子の事を忘れたくはない。

 

 「よし、それじゃあ忍。明日の夕方。海の方に行ってジュエルシードを探すための船を手配してくれないか」

 

 「わかったわ。私もこのジュエルシード事件は早々に解決したほうがいいと思う。だけど…」

 

 「どうかした?」

 

 「…ううん。なんでもないわ。船の方なら私の方で準備するから気にしないで」

 (白崎が言っていたジュエルシード事件の黒幕はあの空を飛んで行った女の子。フェイトちゃんの親のプレシア・テスタロッサ。だけど、白崎はまだ情報を持っていそうだった。もう少し薬を多く投与しておけばよかったわね)

 

 様々な思考をしていた忍さんは一度俺の方を見て、ふんっと鼻を鳴らしながら俺の肩を掴んだ。

 

 「…裕君。私達の盟友になってくれてありがとう。すずかが大変そうになったら助けてあげて見た目通り人間関係は苦手にしている子だから」

 

 「わかりました。月村さんを全力でサポートします」

 

 俺が忍さんにそう答えると、すずかが手をもじもじとしながら近づいてきて俺の服の端を掴んで小さい声で語りかけてきた。

 

 「…んで」

 

 「ん?なに?よく聞こえない?」

 

 「…名、前で呼んで。お友達なんだから名前で呼んでほしいの」

 

 少し顔を赤くしたすずかちゃんはとても可愛らしかった。このまま連れて帰りたいくらいに。いや、しないけどね。

 そんなことをしたら悪戯好きな忍さんはともかくメイドの二人と恭也さんが黙っちゃいないだろう。

 恭也さんにとって、月村さんは将来自分の義理の妹になる存在だから、

 忍さんみたいな恋人を持つ恭也さんが羨ましい。

 と、脱線したが名前で呼ぶか。でもな~。

 

 「…駄目、かな」

 

 「いや、ダメじゃないけどあのメダルトリオみたいに呼び捨てされるのは嫌だろうなと思うんだが…」

 

 「全然平気だよっ。だから、その…」

 

 「わかったよ、月村じゃなかった、すずかちゃん。これからもよろしくな」

 

 「うん。宜しくね。裕君」

 

 こうして俺は月村邸の皆と恭也さんの助力を借りることにした。

 明日はレッツダイビング。海に沈んだジュエルシードが俺を待っている。

 




 おまけ話。
 「でも、これって見た目は普通の懐中時計なのに持っているだけで本当に力が湧くのね」

 忍さんにWCCの効果を確かめさせてくれと言われたので持っていた懐中時計を渡すと、なるほどという感想を貰った。

 「一応、こんな事も出来ます」

 「ん?ソファーが?」

 「…ああ、力が抜けて、気持ちいいですぅ」

 恭也さんが座っていたソファーにWCC『治癒効果とリラックス効果』をつける。すると恭也さんの顔にしまりが無くなって来た。一緒に座っていたファリンは見るからにだらけきった顔をしていた。
 ソファー自体もバニングスさんの書斎にあった物と同じくらいのレア度であったため結構なカスタマイズが行えた。

 「…これは使えるわね。ねえ、裕君。このリラックス効果のあるソファーなんだけど屋敷中にかけてくれない癒しと防犯の効果をつけて欲しいんだけど」

 「それは無理。というか駄目です。一応、俺にもパトロンがいますし、そちらの方の意見も聞かないといけません。たとえ許可が出てもWCCをただでやってしまうのも、使うのも対価を払ってからにしてください。でないとお互いの為にならないです」

 「ちなみにパトロンって、誰かしら?」

 「バニングスさんです」

 「…く、表の方で力がありすぎるわ」

 「怖い事を言わんでください忍さん。裏からもやめてくださいよ」

 怖い事を言いだす月村忍にビビった裕は思わず距離をとってしまった。
 後日、バニングスさんから許可を貰ってサファイヤの指輪を貰う代わりに、忍さんの腰かける椅子に癒し効果を付属する邪神様だった。



 貴金属には勝てなかったよ。



 金目の物には弱い邪神様であった。


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