「いきなりこんな真似をしてごめんなさい。まずは謝罪の言葉を受け取って欲しいわ」
「いや、いきなり土下座されても…」
「あなたのいる世界ではこれが最上級の謝罪の形だと聞いているわ」
「いや、まあ、うん。そうだけどさ、そもそも誘拐なんてしなければよかったんじゃないかな?」
それでも雷が落ちた所から俺がUFOキャッチャーの如く、サルベージされる光景を見ていたなのはちゃん達は何を思っただろうか?いや、雷の光で何も見えなかったかも…。わずか五秒での出来事だからな…。
で、今現在ドラクエの魔王の間というにピッタリな空間にフェイトの母親であるプレシアさんと話し合っている。
「フェイトの話だともう少し落ち着いている感じだと思っていたけど、…いえ、なんでもないわ」
「俺をどういう風に伝えたんだ?」
それにしても金髪なピカチュウと似ていると言えば、そのきわどいバリアジャケットとかいう防護服か?
それにしてもこの大部屋、滅茶苦茶広いな。
「ところでなんで俺を拉致するような真似を?」
「あなたの力を貸してほしいからよ」
「こんな真似をされて力を貸すとでも?」
「思っていないわ。だけど、あの場ではそうするしかなかった」
「あの場?」
「時空管理局よ」
なんぞそれ?
なのは視点。
裕君が海から上がってくることなく途方に暮れていると空の上から異様な気配を感じた。だけど、それはしばらくすると消えてしまう。
そんな時、レイジングハートからメッセージが二つ届けられていると告げられた。
『邪神の少年は預かっている。危害は加えない。しばらくしたらそちらに返す。ただし、邪神の事を管理局に伝えるな。プレシア』
『時空管理局より。スクライアの一族からの要請により現地に到着した。そちらからの連絡を待つ』
管理局と言うのはユーノ君曰く、魔法世界の警察らしい。
魔法の事は裕君が黙っていてくれたけど、これはもう黙っているわけにはいかない。
とりあえず、私は翠屋を貸し切りにして魔法の事をみんなに打ち明けた。
ユーノ君に出会ってからこれまでの事を全て話した。
アリサちゃんとすずかちゃんは驚いていたけど、ユーノ君の口添えもあってどうにか納得してくれた。
「それで、これからどうしようか?」
「僕としては管理局に連絡してほしいんだけど…」
裕君の事が気がかりなのかユーノ君は管理局に連絡を入れずに迷っている。
「でも、そのまま連絡したりなんかしたら、プレシアって言う人が何をするか分からないよ」
「邪神。て、裕の事よね。あんな誘拐までしといて黙っていろなんてどういう神経しているのよ!」
「…もしかして、プレシアと言う人は裕君の存在を管理局に隠しておきたいのかもしれませんね」
私達、子どもグループが話しているとノエルさんがぽつりと言葉をこぼす。
「…忍、お前ならどう考える?」
「…ユーノ君。あなたは元々、その時空管理局にジュエルシードを持って行こうとしたのよね?」
「は、はい。そうですけど…」
「…ジュエルシードのような危険な物を預かっている。裕君の力は物体に干渉する力。この二つが合わされば巨大な力を簡単に扱うことが可能なんじゃないかしら」
願いを曲がった形で叶えるジュエルシードに裕君のWCCが合わさっただけで純粋な願望機になる。
「それだけじゃないわ。裕君の力があるだけでゴミ問題や原子力発電で生じた産廃処理。武器を材料さえあれば量産できる。そんな力、どんな組織でも引く手数多よ」
「つまり、裕の力の事が知られたら管理局に入局させられるって言う事?」
「…それも手段は問わずにね。下手したら誘拐されるかも。…少なくても私は裕君の力を手元に置いておきたいわね。ジュエルシードと裕君。二つの存在を手に入れた勢力はかなりの利益になる。そんな存在であるにもかかわらず返すと言っているプレシアという人間を私は信じてみたいと思うわ」
「裕を誘拐した奴を信じるの?!」
アリサちゃんは忍さんの出した答えに驚きと怒りの混ざった声を上げる。
その隣にいるすずかちゃんは少し微妙な表情を見せていた。忍さんも何かを思い出したのか少しだけ表情を苦しそうにする。
そんな皆を見たお兄ちゃんが咳払いを一つしてから、皆に教えるように口を開く。
「…とにかく、明日は管理局とやらに接触するとしよう。俺と忍。そして、ユーノ君の三人で出向いて、残りの皆は翠屋に残っていてくれ。特になのは。お前は絶対に残れ」
「え、なんで私が行っちゃいけないの?」
「…お前には海鳴に残って裕君の帰りを待っていてほしい。そして、フェイトという子を探してほしい。おそらく、プレシアの関係者だろう。初めて会う俺達よりお前の方が話を聞いてくれるだろう」
う、そう言われると何も言えなくなる。
「あと、レイジングハートだったか?それをユーノに返しておけ。その中にあるジュエルシードの分だけでも管理局に渡すとしよう。その対応で管理局がどのような存在かをある程度把握しておきたい」
「レイジングハートまで?!」
「そうでもしないとお前は無茶をしそうだからな」
「で、でも。それじゃあ、レイジングハートを持っていない間にジュエルシードを見つけた時、どうすればいいの?」
「それは」
お兄ちゃんが答えようとした、その時だった。
「それは俺に任せて欲しいぜ!」
銀の髪をした榊原君が鍵をかけている状態の扉を壊して翠屋に入ってきた。
私のお父さんのお店に何をしてくれてイルノカナ?
アトデユウクンニナオシテモラワナイト。
後からメイドのファリンさんから聞いた話だが、その時の私とすずかちゃん。アリサちゃんの表情はまるで人形のように無表情で怖かったそうです。
ハヤク、ユウクンカエッテキテクレナイカナ…。
アルフ視点。
私は今、時の庭園に設置された部屋で安らかに眠るフェイトの寝顔を眺めていた。
いつもいつも鬼婆のプレシアに褒めてもらいたいがために頑張ってきたフェイト。使い魔という主従の関係を無しにしてもフェイトは一生懸命頑張って来たと言える。
だけど、そんな努力は報われることなく虐待という形で返って来た時、私は思わずプレシアに殴りかかろうとしたが、それをフェイトに止められた。
ジュエルシードの回収という危険を伴う事なんて本当ならしてほしくなかった。フェイトにプレシアから逃げようと何度も言ったけど、フェイトはそれだと母さんが一人になるからと言って逃げるという選択肢は無くなっていた。
だけど…。
「…母さん。…私、やったよ」
その安らかな寝顔からは達成感に満ち溢れた寝言がこぼれた。
ジュエルシードの回収という仕事の中で出来た協力者。ユウだっけ?
そいつとフェイトが知り合ってからプレシアは変わった。
正確に言うと裕から渡された白いジュエルシードをフェイトから渡されたプレシアは事の詳細を聞いた時、その白いジュエルシードを握りしめて「治せるというのなら、あの時をっ、あの時の時間を返して!」そう言いながら空いている方の手でフェイトに魔法を放とうとしていた。
またいつもの虐待かと思い、私は思わずフェイトの前に立ってそれを防ごうとした。
フェイトも私も間もなく訪れるだろう痛みに目をつぶっていたが、その痛みは来ない。
ふと、目を開けてみると、驚いた表情をしたプレシアが自分の手を見ていた。
そこにあっただろうジュエルシードは砕けて砂になっていたが、それ以上に変化があったのはプレシアの体だ。
バリアジャケットの所為でか、不気味な雰囲気は纏っていたものの前に比べて生気に満ち溢れていた。
疲れ切っていた顔も、細すぎた腕もまるで生き返ったかのように生気に満ち溢れていた。
なによりも、私達を見た瞬間にプレシアは涙を流していたのだ。
その変化の連続にフェイトも私も驚いていた。が、プレシアは涙を拭きとりながら私達の傍までやってくると、フェイトの頭に手を置いてこう言ったのだ。
「よくやったわね。…ありがとう、フェイト」
と、
私は耳を疑った。あの虐待ばかりしていたプレシアがフェイトにありがとうと言ったのだ。
隣にいたフェイトも思わずプレシアの方を見ていたがプレシアはそのまま部屋を出て行った。さらに、去り際にはゆっくり休みなさいとまで言ってきたのだ。
プレシアがいなくなった部屋でフェイトは静かに泣いていた。
しばらくして泣き疲れたのか、自分の部屋に戻るとすぐにベッドに倒れこむように眠ってしまった。
ユウが直したバルディッシュのおかげでフェイトの体に残っていた虐待の傷はもう残っていない。
あの邪神を自称する子どもには感謝するばかりだ。
出会った時は妙な気配を感じさせたが、彼に出会わなければこうはならなかったのかもしれない。
そう考えているうちに私もいつの間にか眠っていた。
そして、目が覚めたら半日以上も時間が過ぎていたのでフェイトを起こして食事を取ろうとフェイトが寝ているベッドに近付く。
「フェイト~、起きてー。もう、夕飯だよ」
「…う~、眠いよ。…アルフ」
普段はしっかりしているのに寝起きが悪いフェイトを連れて歩くようにバスルームへと向かう。
常に湯が張っている広いバスタブが設置されているのは、この時の庭園の中で数少ない利点の一つだ。
洗面所で未だに寝ぼけているフェイトの服を脱がせて、私も裸になりバスルームの扉を開けると、件の少年ユウがバスタブに浸かっていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・う~?」
目と目が合うのも数瞬、先に動いたのはユウだった。
「キャー、アルフさんとフェイトさんのエッチィーっ」
と、からかい気味に自分の胸を抑えながら言う邪神の姿にアルフの思考が再び止まる。
「…なんで、あんたがここにいるんだい?」
「いや~、プレシアさんに半ば強制的に連れてこられた。あ、それからプレシアさんにいろいろと協力することになったから、ジュエルシードの探索はなのはちゃん達と仲良くやるように。って、詳しい事はあとからプレシアさんに言われると思うから、その辺よろしく」
「まあ、それはいいけど。…まあ、いいか。…ありがとうね。フェイトの事、助けてくれて」
「いやいや、こちらこそ、ごちそうさまです」
どうしてユウがここに居るのかとか、なにが御馳走様なのかとか、プレシアに協力するのかは分からないがとにかくフェイトの敵にならないならそれでいいかと私は思った。
「ところでいいんですか?お互い裸ですけど…」
「あ、そうだね。ほらフェイト、シャワーを浴びて目を覚まして」
「…う~、わかった~」
「え?!そう言う反応!」
目の前のユウは期待していたリアクションじゃなかったからか驚いてた。
お風呂場だから裸でいるのはいいとして、そのままお湯を浴びないと風邪をひいてしまうからとフェイトはシャワーのノズルを探し、アルフはスポンジに泡をつけていた。
「ほら、礼代わりにアンタも洗ってやるよ。こっちに来な」
「え、ちょ、アルフさんっ、俺男ですよ?」
「何言ってんだい、子どものくせに男も女も無いだろ」
「いや、でも、隣にフェイトが…」
「いいから背中を流させろ。これでもフェイトとリニスには上手だね。って、言われているんだから」
「下は、下は自分でやりますからぁああああ!」
そんなやりとりをしている間にフェイトはシャワーを浴びて眠気を飛ばした後、湯船につかると再び眠ってしまい、危うくお風呂場で溺れる寸前でアルフに起こされることになった。
お風呂から上がってきた三人の表情はほのかに赤い顔をしたアルフ。
湯船の中でやっと自分の状況が理解したフェイト。顔は真っ赤っかである。
そして、最後に出てきた邪神は頬にビンタの後がついてはいたが、実に満たされた表情だった。
「…全く、小学生は最高だぜ」
見た目が小学生(中身は邪神で三十過ぎ)のおかげでアルフのナイスバディ―を至近距離で眺められた満足感。しかもお咎めなし。そして、顔を赤くして湯船に慌てて体を隠すフェイトの仕草に萌えを感じたからこその言葉だった。
そう呟くユウの言葉に頭をひねるアルフと、顔をさらに赤くしたフェイトだった。