リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第十九話 ざ・じゃしんさま

 フェイト達と風呂場で遭遇する数時間前。

 

 断固としてプレシアの依頼を断ってやる!

 邪神は鋼の意志で断るつもりだった。

 

 

 

 プレシア曰く、管理局の無理な依頼で暴発事故を招いてしまった。

 曰く、その時に娘のアリシアが事故に巻き込まれ死んでしまった。

 しかもその時に発生した事故の責任を全てプレシアに押し付けた事により、彼女は家族だけでなく、科学者としての地位と名誉まで失った。

 その悲しみを埋めるためにアリシアのクローンを作り出して、彼女を疑似的に生き返らせようとした事。

 この時点でプレシアは事故による被曝症による精神障害と身体障害。それを抑える薬の副作用でまともな判断が下せないでいた。

 それでも、アリシアのクローンとしてではなく、フェイト個人としての情も湧いて自分の娘の一人と考えることもあった。

 当時自分が使役していた使い魔のリニスにフェイトが一人で生きて行けるように教養を積ませ、逆境にも生きて行けるようにアリシアには無かった魔力を生まれ持ってきたフェイトに合った戦い方を伝授させた。

 一人の娘と母親として接しようと考えたこともあったが、精神が不安定だったとはいえフェイトに虐待してきたことは事実。しかも、使い魔という性質上、主の魔力を糧に生きるリニスをこれ以上使い魔にすることは命を縮めることにつながる。

 その為にフェイトが独り立ちするまで強くなった時期を見計らってリニスとの使い魔契約を解除することにした。それは、リニスの存在が消えることを意味していた。

 フェイトにとって、リニスは姉のような存在だった。それを奪ったともいえる自分の所業にプレシアは悔いていた。

 この時、既にプレシアはアルハザードという死者すらも生き返らせることが出来る世界があると信じて、ジュエルシードを用いてそこへ辿りつこうとも考えていた。

 プレシアは今回のジュエルシード騒動でフェイトを自分の元から切り離そうと考えていた。

 辛く、厳しく接することであるかどうかも分からないアルハザードへの道のりにもう一人の娘フェイトを巻き込む訳にもいかない。

 だけど、優しすぎるフェイトはきっと自分の無茶な旅にも付き合ってしまうかもしれない。

 だからこそ、自分の狂気に身を任せて、フェイトに辛くあたった。そうする事で自分を嫌い、離れていくだろうと思って…。

 それがプレシアにとってなけなしの愛情だったかもしれない。

 

 

 

 だが、それはある意味で無に帰ってしまう。

 裕がWCCで万能薬化したジュエルシード。

 世界を吹き飛ばす威力をそのまま治癒効果に回した結果、プレシアの体は事故に会う前の体になってしまった。

 自分の体の負担が無くなったと同時に、今までフェイトにしてきた罪悪感で涙を流してしまった。

 今更、どうフェイトと接していけばいいか分からない。だけど、これ以上彼女に辛くあたることが出来ないプレシアは、『狂気に駆られながらも愛情を』というスタイルから『狂気を演じた愛情を』というスタイルに切り替えるしかなかった。

 だが、同時に裕が加工したジュエルシードの力があればアリシアが生き返るかもしれないという思惑も湧いてきた。

 今まで無理を言ってきたフェイトをこれ以上戦わせるわけにはいかない。

 とりあえず、フェイトを休ませている間に自分が裕に接触しようと海鳴の街へと転移すると同時に自分の人生を狂わせたともいえる時空管理局も海鳴の街に来たことを知る。

 幸いな事にあちら側はまだ裕には接触していない。

 かなり無理矢理もあったが、あちらの綺麗な部分だけの先入観を付け加えられる前にこちらの事情を話して協力してもらおうと思い、プレシアはあのような暴挙に出た。

 あれは管理局への怒り。そして、アリシアが目覚める可能性を奪われるかもしれないという感情が暴走した行動なのかもしれない。

 

 

 

 「ひっぐ、うっぐ、ぶええええんっ」

 

 

 

 もうだいぶ前の段階で涙と鼻水をボロボロと流しながら話を聞いていた邪神は全力で彼女に協力することにした。

 

 

 鋼の意志?ありましたよ。針金ほどの細さで。

 

 

 つまりはバッキバキに丸め込まれたともいえる。

 裕も一応、嘘発見器ならぬ嘘発見紙(ティッシュ)をその場で作り、プレシアに今の話に嘘が無いかと尋ねた。

 嘘なら赤。本当なら青に染まるティッシュはプレシアの手の平の上で青く染まっていた。

 それを見た裕はプレシアから渡されたジュエルシードにWCCをかけてプレシアが回復したようにアリシアも回復するかもしれないと時の庭園の奥に安置されたアリシアの元へ歩いていく。

 時の庭園の最奥には二メートルくらいのカプセルに詰められた少女がいた。

 ついでに、その近くで満足そうな顔で眠っている半透明の女の子の姿も見えた。

 

 

 

 ちょっと。ちょっとちょっと。

 

 

 

 いやいやいやいや。リアルで「ゆーたいりだつ~」の場面を見るとは思いもしなかった。

 

 しかし裕がそう思うのも無理はない。

 カプセルの中で体を丸めている少女が話にあったアリシアなのだろう。その体の上に重なる形で半透明の少女が宙に浮いて寝ているのだ。

 前世の記憶にあったお笑いコンビの事を不意に思い出した裕は、失礼だと思いプレシアの方に顔を向けた。

 

 

 

 「綺麗な顔をしているでしょう。これでも死んでいるのよ」

 

 笑っちゃ駄目だ俺!

 

 

 

 前世で見たことがある漫才コンビと高校球児のアニメの光景が脳裏に浮かんだ邪神は必死に自分の感情を抑える。

 左手で口を押え、右手でふとももを抓り、下を向いてプレシアの方を見ないようにする。

 プレシアからしてみれば、また自分達のことを思って顔を逸らしてようにも見えたのだが、実際はこみあげてくる笑いをこらえているに過ぎない。

 どうにか顔を上げた裕を見て、プレシアは話を続ける。

 

 「ジュエルシードを加工することが出来たあなたになら、アリシアを目覚めさせることが出来るかもしれない」

 

 プレシアが神妙な顔つきで裕に話しかけてくるが、その後ろで半透明の少女アリシアが目を覚まして裕の存在に気が付く。しかも、裕と目が合う。

 この時、裕は嫌な予感がした。

 アリシアは自分と目があった裕に気が付いたのか。手を振って見せる。

 とりあえず無視してプレシアの話を聞こうとしている裕を見て気が付いてもらえるように体全体を揺らしてみる半透明のアリシア。そうする事で自分に気が付いてもらおうと思っているのだろうか。

 だが、それは裕から見るとプレシアを中心にどこかのアイドルグループのようにチューチュートレインしているように見える為、再び裕は目を逸らすことになる。

 

 無論、笑いをこらえる為にだ。

 

 その様子にプレシアは裕が悲しみあまりに体を震わせているように見えた。

 その間にも、裕にWCCを使ってアリシアを呼び起こしてくれないかと、ジュエルシードを用いて助けてくれないかと懇願してくる。が、その間にもプレシアには見えていないようだが半透明のアリシアはFANFANするのをやめない。

 裕が顔を上げればそのような行動が目に入るのだ。

 シリアスな話をしているのに、その後ろでコミカルな動きをするアリシアの姿に裕は大変苦しめられていた。

 

 無論、笑いをこらえる為にだ。

 

 シリアスな雰囲気のプレシアとコミカルな動きをするアリシアのギャップが邪神を苦しめる。

 アリシアにいたってはぴょこぴょこ動きながらプレシアを素通りしてこちらに近付いてくる。

 

 

 

 FANFANしながら。

 

 

 

 邪神の我慢は限界を超えた。

 


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