リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第二十三話 チェンジ!邪神様!!

 時の庭園に設けられた一室に異様な光景が広がっていた。

 頭から被せられた半球状の銀色の機械帽子。そこから伸びるチューブはイソギンチャクの触手のように這えており、それはその一室全体に広がるように伸びている。

 座っている椅子もまたチューブが伸びていて、座らされている人物の身に着けている指輪やネックレスにピアスといった装飾品の数々はつけていない所を探すのが難しい程。

 そのような格好をした人間が二人いた。

 その正面にある巨大コンピュータには幾つもの情報を記す文字や映像が、滝のように流れ落ちるように移されては消える。

 その情報量は世界中のどのコンピュータでも捌き切れないほどの情報量。それを人の手で行うには不可能。だが、邪神の持つWCCで強化された時の庭園にあるコンピュータの情報能力を強化。さらにそれを補佐する人間として体が埋もれるほどのアクセサリーをつけたプレシアと裕でその情報を処理していた。

 

 その目的は一つ。アリシアの復活だ。

 

 WCCでジュエルシードをもってすれば可能とは思うが、万が一ということもある。

 ジュエルシードが及ぼす身体の影響や幽体とも思えるアリシア自身について地球はもとより、ミッドチルダという魔法世界で研究されてきた治療方法。

 幽体に関する方法サーチャーという遠くを見ることが出来る魔法で意識が戻らなかった患者。その快復手順等、ありとあらゆる情報を集め終えたプレシアと裕は椅子から立ち上がる。

 

 「…アリシアの幽体を体に重ねて、この魔方陣を展開させる」

 

 情報の海から必要な物を取り出すために全身から汗を流しているプレシアは、目の前にあるコンピュータ画面に映し出した魔方陣を幾つか添付する。

 

 「…召喚魔法と強化の魔法を組み合わせることで、アリシアの幽体を体に入れて、定着、固定する。…いわば憑依状態に近いものにする。ジュエルシードはその軛にする」

 

 魔法どころか外国。正確には異世界の言葉なのだが、バニングスと月村邸にあった貴金属のアクセサリーや装飾品を借りて『異世界語翻訳』『情報処理能力向上』『疲労回復』等様々なサポート能力を付属したアクセサリーをつけた二人は実に36時間ほどぶっ続けで情報処理とシミュレートを行い、ようやく形にすることにこぎつけた。

 

 「終わったわぁあああああ!」

 

 プレシアはアリシアの目覚めを願って続けてきた研究もようやく実を結べると喜びを露わに傍にいた裕を抱きしめる。

 ジュエルシードで二十代後半まで若返ったプレシアの体はまさに蠱惑的とも言っていい。普段ならにやけ顔でセクハラ発言を行う裕もこの時ばかりは達成感が強かったのか、黙って抱きしめられていた。

 

 「やったわ。これで、これで、アリシアが目を覚ますことが出来るわー!」

 

 「…それはいいから、フェイトの方にも連絡してやってよ」

 

 「それもそうね!」

 

 プレシアは上がりまくったテンションそのままに部屋を飛び出していった。

 そのままのテンションでフェイトを抱きしめたら、困惑するだろう。

 後で聞いた話だが、フェイトも最初は困惑していたものの、「あなたのおかげよ!ありがとうフェイト!」となんどもありがとうと優しく強く抱きしめられたフェイトはしばらくの間抱きしめられていたが、母のぬくもりと欲しかったことがフェイトはプレシアに抱きしめられて涙が出てきた。

 そんなフェイトをプレシアは優しく抱きしめてこれまでの隔たりを埋めようと埋めるようでもあった。

 プレシアはその後、フェイトとアルフにこれまでの非道な行いをしてきたことに関しての謝罪をしていた。

 月村邸での騒動の後。裕は月村とバニングスの家からアクセサリーを借り受けて、プレシアと共に時の庭園にある研究室にこもって情報処理を行っていた。

 その様子に嫉妬しているのかフェイトがむくれていたがプレシアの願いでなのは達と共にジュエルシードの探索を行っている。

 無論、無茶をしない程度に。その他にもいろいろとサポートしているので現在ジュエルシードは15個とかなりのペースで集まってきている。

 

 「…終わった。…やっと、終わった」

 

 しばらく抱きしめられていた裕は、その抱擁から抜け落ちるように床に寝そべりながらサポート能力がついたアクセサリーを外していく。正直、これ以上文字やシミュレート映像など見たくはない程に情報を目にして、頭に流し続けた所為で精神的にひどく疲れていた。

 未だにチカチカしている目と頭を休めたい裕はうつぶせの状態になる。

アリシア復活の決行は三日後。

 ちょうど『イエーガーズ』の皆でポケモン大会をやる日の翌日になる。その日は月曜日で学校に通わなければならないのだが、当然アリシアのほうが大事なので休むことになっている。

 とにかく、休息だ。そう考えた裕は全身の力を抜いて襲い掛かる睡魔をそのまま受け止めた。

 

 

 

 それから数時間してフェイトがアルフと一緒に裕を運ぶために研究室の中に入ってきた。

 あちこちに広がるチューブに足を取られないように裕の元にたどり着くとフェイトはつけられっぱなしのアクセサリーを外してから裕を運ぶ。

 部屋を出て、別の部屋に設置されたソファーに寝かされた。その時、裕は目を覚まして毛布を持ってきたフェイトにお礼を言うと、彼女の方もありがとうと言ってきた。

 フェイトの目元はプレシアとの抱擁で涙を流していたからか赤みを増していたが、うってかわって今まで張りつめていた緊張感は完全に抜け落ちている。

 そんなフェイトがもう一度お礼を言ってきたので、つい調子に乗って「お礼はチューでいいぞ」といった裕のおでこにペチーンと軽く叩いたフェイトはだいぶ裕の扱いが分かってきたようだ。

 フェイトは再びジュエルシードを探すために海鳴の街へと戻ろうと、未だにソファーの上から動こうとしない裕は疲れているのだろうと思い、彼を寝かせている部屋を出ようとした時、「お前のはお前が起きた後でいい」と、よくわからない事を言っている裕は既に目を閉じていたので寝言かと思ったフェイトはそのまま部屋を出るのであった。

 

 

 

 今頃、なのは達は管理局と接触しているだろう。あちらには恭也と忍が出向いているから下手な真似にはならないと思う。

 少し前の自分なら嘘だと思う共同作業にフェイトは嬉しさを感じていた。

 裕のおかげでいろいろと自分の周りが変わったと感じるフェイトはその変化を嬉しく思っていたが一つ気になることがある。

 時の庭園にあるロボットをWCCでステルス状態にしてジュエルシードの探索隊として起動させている。もし、それが見つかっても時の庭園で使われている物ではないと思わせるために姿形まで変えているのだが、ステルス(透明)にしているのに、赤、青、黄色とカラーリングされたロボットたちはそれぞれ空、陸、海と幅広く出撃しておりジュエルシード発見時にはフェイトとアルフで封印処置を行う。

 『ゲッター』の名前を付けられたロボットたちには分離・再合体。それぞれに変形すると言った男の子の夢が搭載されていた。

 そんな機能は非効率だとフェイトとプレシアは裕に訴えたが、そこは譲れないと頑なにその機能をつけたお蔭でロボットたちの防御力は落ちている。その代わりWCCで探索能力は上がっているので問題無いと言えば無い。

 

 

 

 裕自身の事は少しわかり始めたが、邪神。いや、男の子の夢というものには理解が出来ないフェイトだった。

 




 邪神の最終目標は数千数百を超えるロボットが合体して人の上半身と龍がくっついたような形をしたスーパーロボット!

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