前回、短すぎたから奮発しようなんて思っていないから!
今回、うちの邪神様が珍しく激おこプンプン丸だった為、かなりの長文になっています。コメディが無いので前書きでコメディさせてもらいました。
次回からはコメディが再動すると思いますので気長に読んでください。
ジュエルシードを全て執務官であるクロノに渡し終えたプレシアは海鳴の海の上を漂っていた。
先程までの戦闘を終えた全員がお互いに間合いを取り合っていた。
戦闘後の緊張感は若干薄れたものの管理局への不信感をぬぐえないプレシアはもちろんフェイトとアルフも何があってもいいように距離を取っている。
不意に空中に浮かび上がったモニターから翠髪の女性の映像が現れる。
『初めまして。私は地時空管理局、アースラの艦長。リンディ・ハラオウンです。今回のジュエルシードの封印処置の手伝い。大変感謝しています。よろしければ、こちらの船に来てお話をしたいのですがよろしいでしょうか』
「よろしくないわね。そちらで私はどのように判断しているかを考えればわかるでしょう」
『…プレシア・テスタロッサ。ヒュードラ事件で大量の死者を出した魔導師として記録されているわ」
管理局の上部からの命令で無理矢理進行させられた計画で娘を、魔導師として、科学者としての全てを失ったプレシアはその言葉を聞いて怒りを露わにした。
「…出したんじゃないわ。出させたのよ」
『・・・どうだかな』
そこにもう一つのモニターが映し出される。
そこにはぶくぶくと太った初老の男性が映し出されていた。
『…プロフェッサー・マダ。どうして貴方がこちらに』
『…ふん。ジュエルシードとやらを回収するのに時間がかかっているようだから私が自ら出向いたのだ。久しいな、テスタロッサ女史。相変わらず、いや、以前よりも麗しくなったようで。どうかな、今からでも私の所に来ないか。昔の事は水に流せばそれなりの地位を与えってあげてもいいが』
「…私が、貴方の。…ふざけないで!貴方が、貴方達があのプロジェクトを強行させたから私はアリシアを失ったのよ!」
マダはかつてのプレシアの部下であり、ヒュードラ計画の強行を押した科学者でもある。
今では、その時のデータを元に多大な功績を遺したと言われている科学者の一人だ。
『おや、ではそちらにいるのは。…そうか、あのプロジェクトの人形か』
プレシアは今にも初老の男性を殺さんばかりの眼光をぶつけ、マダを名乗る初老の男性はそれに怯むもフェイトの方に視線を移してにやりと笑って返した。
「この子は…。私の娘よ。汚らわしい目で見ないで!」
フェイトを隠すように前に出るプレシアに対してマダは笑みを深める。
これは使える。と、
『いい年をしてお人形遊びですか。…まあ、分からないでもないですがね』
「…貴方、まさか。あのプロジェクトを」
『残念だよ。女史。…執務官。そこの犯罪者を捉えてくれ』
「待ってください。プレシア・テスタロッサ。計画を強行させたと言いましたね。だったら」
クロノは今までのやりとりでプレシアとマダの間に何かがあると感じ取った。
ジュエルシードの危険性は無くなったので事情を詳しく聞こうとしたが、それを無視して急かすマダは口から唾を飛ばす。
『執務官!とっととその犯罪者を捕まえ』
グオオオオオオオオオオオオンッ!!
突如、鳴り響く轟音。
まるで巨大なエンジンの音にも聞こえた。が、巨大な生物の咆哮にも聞こえる。
その音を聞いた者は皆が皆、その音源に目を向ける。
そこにいたのは百メートル近い緑の龍。
鋼鉄の頭。首。胴体から尾にかけるまで全てが鋼鉄。
生物とも言えず、かといって完全に機械ともいえないその異形の物体に誰もが気を取られた。
「海の上で異常事態が発生したと思えばその問答。…この世界を守ってくれた者に対しての度重なる無礼。そこまでにしなければ貴様、ただでは済まんぞ」
凛と響く少女の声。
鋼鉄の龍の頭にブラックゲッターから発せられる声にプレシアは不思議に思ったが、どうやら裕は変声機を使って声を誤魔化しているようだ。
『な、何者だ、貴様!』
「我が名はアユウカス!この世界に流れ着いたゲッターだ!」
堂々とした態度ではったりと偽名をかましている裕。
だが、その足元にいる鋼の龍がそのはったりを真実に魅せる。
現にブラックゲッターの中身が裕だと知っているプレシアもそれを真実として受け取ってしまう程の迫力があった。
『…その姿。まさか、あのロボットの大群も貴方の』
リンディは裕の姿を見てこれまでに出てきたロボットとの関連を探ろうとしてきたが、それを裕は即座に否定する。
「それは否定する。ゲッターとは進化の先にある存在!つまり、意志を持つ者すべてがゲッターになることが可能である!この世界に存在していたロボットは元からこの世界にあったモノであり、後から来た私とは違うゲッターである!」
「…つまり、貴方は違う世界からの来訪者だと」
クロノの言葉に裕は頷く。
その迷いない行動に誰もが納得しそうになっていた。が、実際はったりをかましている裕は内心ぼろが出ないか冷や汗をかいていた。
『それがどうした!ただの次元漂流者ではないか!関係のない奴は引っ込んでいろ!』
若干落ち着きを取り戻したマダは裕に対して強気に出る。
次元越し。モニター越しに話しているという事もあってか彼は自分の態度を変えない。
「関係はある。私は私とは違う進化をした存在を見守っていた。そこにジュエルシードという世界を滅ぼす存在が現れた。私だけでは対処できなかったそれを解決へと導いてくれたのはそこの親子だ。彼女達には多大なる恩がある」
その言葉にマダは言質を取ったと、言わんばかりに声を張り上げる。
『恩?だったら私達管理局に協力しろ!そうすればテスタロッサの罪を無かった事にすることだって可能だz』
「つけあがるなぁああああああっ!!」
グオオオオオオオオオオオオンッ!!
裕の怒声と共に鋼の龍も同調するように咆哮を上げる。
それを向けられたマダはモニター越しでも分かるくらいに怯えていた。対してプレシアとフェイト。アルフはその力強い咆哮に心強さを覚える。
「話を聞けばそこの魔女は貴様達の言う無理強いにより娘を失ったことになる!それなのに罪を無かった事にするだと!罪があるのは貴様等の方だ!実の母と子を死というもので引き裂くという所業、断じて許しがたい!」
『ひ、ひいいいぃ』
ぎろりと動いたブラックゲッターの瞳に宿った怒気に怖気づいたマダ。
確かにプレシアの話が真実だとしたら彼。ひいては管理局はとんでもない罪を犯した。
だけど、それが真実かどうか確かめようがない。
『落ち着いてください、アユウカスさん。貴方の怒りは最もですが真相は私達が確かめます。ですから…』
「母子を引き裂いた管理局の調べ上げた事を信じろと?」
『…それでも、です。管理局の一人としてではなく。リンディ・ハラオウン個人としてヒュードラ事件の真相を報告します。ですから』
リンディの真摯な対応に裕は矛を収めようと思った。
だが…。
『何をしている!執務官!はやくその黒い奴と犯罪者を、人形共々逮捕しろ!』
人形と言われたフェイトとプレシアは顔を苦しく歪めた。
彼女達だけではなく、その場にいたなのはやユーノ。クロノ達、アースラスタッフ。そして、
「…つくづく癇に障る奴だ。どれだけ俺を怒らせれば気が済みやがる!」
『ふ、ふんっ。貴様がどう足掻こうが所詮管理外世界の田舎だ!一番近い管理世界とはいえ、私のいる世界。そう、貴様といる世界が違うんだよ!』
裕の口調は「私」から「俺」に変わっているが、それは演技をする気が無くなる程に怒らせるものだった。
マダが強気でいられるのは距離。
時空を超えて話しかけている彼にとってその距離は絶対。どんな攻撃でも届かなければ意味がない。
ならばその距離を潰そう。
「上等だ!なら、その世界の差を切り裂いてやる!ゲッタァアアア、トマホォオオオオオクゥウウ!」
龍の全体から緑色の光が迸り、その光は頭に乗っている黒いゲッターに手の中に集中していく。
その光はやがてその手から飛び出すように一つの大きな斧へと変化する。
鋼の龍の倍はありそうなその斧を振るい、マダが映し出されているモニターを叩き斬る。
もちろん、そのモニターは立体映像だから画面越しのマダには何の影響を受けない。その行動を見て顔を引きつらせながらも無駄な行為だとタカをくくっていた。
現に裕が放った斧の攻撃などこちらに対して何の効果はない。だが、裕の振り降ろした斧は攻撃の為に振り降ろしたのではない。
一つは見ているだけで腹が立つマダの顔が映し出されたモニターをぶった切る為。
そして、もう一つは振り降ろした軌道上にまるで切り裂かれたかのように傷痕のような魔方陣を展開するためだ。
裕は魔法が使えない。
ブラックゲッターと鋼の龍。真ドラゴンの縮小版。ドラゴン・クォーターに内蔵されたプレシアの魔力と転移の魔方陣を展開する動作をクロノやリンディといった管理局員に邪魔されないために攻撃の動作を取った。
「シャイン・スパァアアアクッ!!」
緑色に光る魔方陣に向かって飛び込むドラゴン・クォーターとブラックゲッターは再び輝きだす。
それはまるで一つの流星ように飛び込んでいく。
二つのゲッターがその魔方陣に突入すると同時に魔方陣は癒えていく傷のようにその姿を消す。
その光景になのは達はもちろん。その設計に携わったプレシアも何が起こったか分からなかった。
グオオオオオオオオオオオオンッ!!
何が起こったか。それはマダの顔が映し出されたモニターの向こう側から響く鋼の龍の咆哮だった。
マダは大きな勘違いをしていた。
所詮、管理外世界。所詮は魔法文明が無い程度の低い世界。
そこにいかなる大きな力が働こうとも世界。いや、次元世界で一番高度な文明を築いている自分達に管理外世界の力など届くわけない。
そう結論付けていた。
それが間違いだった。
たまたま自分の趣味で作り上げていた人形で魔法研究・実験。そして己の欲求を発散するための玩具として管理外世界の地球のすぐ近くで遊んでいた。
そこからすぐに引き返せばいいものの、すぐ近くの世界で手柄を上げるチャンスを見つけた。しかも、プレシア・テスタロッサが関与していると知ったマダはプレシアを手玉に取れると考えた。
彼女はプロジェクトF。人造魔導師計画を進めていた科学者の一人だ。自分の玩具も彼女の技術があればもっと高度に、面白く遊べる。そう考えて顔を出した。
それがいけなかった。
今、彼の前にいるのは鋼の龍を引き連れた黒い邪神だ。
装甲に施された黄色の瞳は無機質なのに怒りを感じさせるほどの迫力。それに追従している龍の咆哮もまさに自分を喰わんばかりの大咆哮だった。
マダがいるのはただの航行艦。武装は一切積んでおらず、積まれているのは同じ穴のムジナ。いわゆる外道研究者たちから貰った玩具が十数人。
マダはその玩具に命じた。あの龍と邪神(裕)を倒せと。
航行艦から飛び出してきた玩具達は一斉に砲撃魔法を放つ。
その威力は百メートル近い鋼の龍を埋め尽くす土煙を撒き上げさせた。
その光景を見たマダは狂喜に顔を歪める。
ざまあみろ。と、
管理局に逆らうから、自分に歯向かうからこうなるんだと、リンディ達と通信が切れていない事に気づかぬまま笑い声をあげた。
オープン・ゲット。
そう響いた邪神の声が聞こえるまでは。
土煙を突き破るように飛び出してきたのは地球で戦っていたゲッターロボとは細部が違うロボット。
いわゆるプロト・ゲッターロボが百以上は飛び出して、マダの玩具達を制圧していく。
いつの間にかあの巨大な龍は消えていて代わりに出てきたロボットにマダは酷く混乱していた。
その間に邪神はマダのいる航行艦に穴をあけてマダがいるだろう艦の中央まで隔壁をWCCで強化した手斧サイズのゲッタートマホークやその鋼鉄の拳で破壊しながらマダのいるブリッジへとたどり着く。
マダは裕。ブラックゲッターの容姿・風貌を見て自分を殺しに来た死神かと思った。
「…よう、来たぜ」
扉をこじ開けた際に放り投げたトマホークがコントロールパネルに突き刺さり緑色の光を放っていた。
その光で映し出されたブラックゲッターの瞳が不気味に光る。
醜く怯えたマダは画面に映らないように配備していた人形二人を。プロジェクトFで作られた人造魔導師に命令する。
一人は金髪の二十歳前後の女性で着ているのはシーツを一枚羽織っているだけの格好でクロノの持つ杖型デバイスに似た杖を持ち突撃していく。
もう片方はリンディを幼くしたかのような少女で金髪の女性と同じような格好だった。
マダの言葉を借りれば、『出荷したて』という状況だったからか裕でも対処が出来た。女性と少女の腹部を殴り飛ばして壁にぶつけた。
二人の意識はまだ持っているのだろうがダメージが大きく動けないでいた。
「ひ、ひ、ひ、わ、私に手を上げれば管理局全体を敵に回すことにぶげぇっ」
マダは醜い体を震わせながら未だに裕に対して強気の態度を崩さない。だが、そんな彼の言葉を遮るようにゲッターの拳がマダの顔を殴りつける。
「…い、いだ、いだい」
裕に背を向けて逃げようとするが、そんな彼の頭を掴み乱暴に持ち上げて壁に投げつけるゲッター。
WCCで強化された袴の上からゲッターというパワードスーツを着た裕にはたやすい事だった。
「痛い、だと?あのプレシアの受けたもんはこんな物じゃないぞ」
裕がそう冷たく言い放つとマダは失禁しながら今も殴り続ける裕に懇願する。
自分の持つ人形を総べてやると。管理局が自分に命じた実験の事も全部話すから助けてくれと。
無様に泣き叫ぶマダに途中から嫌悪を感じていたクロノとリンディからもやめるように頼んできた。
「目だ!耳だ!鼻だ!」
「げっ、ごっ、ぶふぅっ」
外のプロト・ゲッターに捕獲された人造魔導師たちの事も含めてちゃんと罰するからこれ以上はやめてくれと。
その時にはブラックゲッターの全身にはマダの返り血が所々こびりついていた。
アースラからマダの航行艦に積まれていたデータを転送。
まだに関する情報は十分に取れたというリンディとクロノの言葉を聞いて裕はマダを殴ることを止めて、マダの体をブリッジの壁に放り投げた。
顔は元の顔の倍に膨れ上がり、体中に痣や出血している部分が見れたが、プレシアがゲッターにも非殺傷機能をつけている効果が活きているのか、マダに致命傷は見られない。
「…プレシアに感謝しろよ。彼女の手心が無ければお前は死んでいた」
もちろん、ゲッター制作にプレシアがかかわったという事は匂わせない為にもそう話す裕だがアースラ。いや、この光景を見た管理局員が悟った。
プレシア・テスタロッサの家族に何かをしようとすれば黒い邪神が黙っていないという事を。
だが、それを悟れていない人物がいた。
「…今だ!奴にしがみつけ!」
マダが殴られている間に先程受けたダメージが抜けた女二人が裕にしがみつく。
それを振りほどこうとしたその時、女二人の腹がまるで風船のように膨れ上がる。その大きさは大人一人が入っているのではないかと思わせるほどの大きさだった。
その異様な光景に一瞬間を取られた裕が目にしたものは、彼女達の腹から出てきた爆炎だった。
ズドンッ!
と、大きく鳴り響くと同時にアースラとマダ繋いでいた映像回線が途切れる。
別の画面ではプロト・ゲッターに捕縛されていた人工魔導師たちも同様に自爆してゲッターの数機をスクラップにしていた。
まだは万が一に備えて彼女達に爆弾を仕掛けていた。
それは彼の命令に忠実に従うように作られた彼女達にとって証拠隠滅を兼ねた代物だった。
爆発は小規模とはいえ外にあったプロト・ゲッターをも一撃で破壊した物。それが二つ。しかも至近距離で爆発させられた裕はその場に倒れていた。
ブラックゲッターの装甲は所々が砕け散っており、その隙間からは出血も見られる。
下につけていた袴を突き破っている白い物は裕の骨か、それとも先程自爆を強制された彼女達の物だろうか。
そんな傷だらけの裕を見てマダは晴れ上がった顔で笑う。
自分をこんな風にした裕を罵り、プレシアを罵る。
彼女は所詮、犯罪者。その娘フェイトもいずれは自分の玩具にしてやると、既に回線も復旧しているというのに外聞もなく下品に笑う。
そこにリンディとクロノからそれ以上喋るなというメッセージが届く。
それ以上喋るな。と、
管理局の名を汚している行為に対してではない。
それは彼の身を案じての言葉だった。
ブラックゲッターを中心に白の光の渦が巻き上がる。
マダは表情が固まっているのか、ただ目を見開くだけだった。
黒い邪神が重傷を負いながらも立ち上がった。
ブラックゲッターは元々裕が着込むもパワードスーツだったために他のゲッターよりも防御力はあった。それでも裕が受けたダメージは甚大だった。
肉は裂け、骨が突き刺さっている。動くだけでも激痛でのたうちまわるだろうその怪我で立てたのは、WCCで『鎮痛効果』が施された黒袴。
その効果で裕は激痛を緩和し、行動に移せた。
「…ひっ、ひっ」
マダは今度こそ観念した。
だが遅い。遅すぎた。
邪神は止まらない。自分の腹にこもったモノを具現化するように力を込める。
それは元のロボットの製作者の怨念も込められていたのか、黒い邪神の腹に紫の光が灯る。奴を討てと輝きが強くなる。
ギンッと、ブラックゲッターに睨みつけられたマダは悲鳴を上げる事しか出来なかった。
「…ゲッタァアアアアッ」
「や、やめろっ。やめてくれぇええええ!」
マダの悲鳴がアースラのモニターの向こうにいるなのは達にも聞こえる。
だが、邪神を止められるものは誰もいない。
「ビィイイイイイイイムゥッ!!」
紫の光がマダを写していたモニター画面を覆い隠す。
終わらない紫の光。終わらない爆音。それでもその光景を見ていた人間はモニター画面が砂嵐で覆われるまで目を逸らすことはなかった。
数分後、再びモニターに映像が映し出されたのは鋼の龍に乗った黒い邪神が天に昇っていく映像だった。
爆発に紛れて、WCCでゲッター・クォーターをゲッターに戻して撹乱。
最後はモニターが潰れている間に再合体させました。
幾つか分離したゲッターが落とされているので一回り程ドラゴン・クォーターは小さくなっています。