リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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 鎹。かすがいと読みます。
 大工さんが建物の材木などを連結させるために作る部分の事。
 タイガー&ドラゴンという噺家ドラマの最終話で知りました。



第二十九話 邪神様は皆の鎹。

 

 ジュエルシードの引き起こした事件。通称J・S事件はそれを発掘したスクライアの一族の一人、ユーノ・スクライア。

 彼が現地で出会った少女。高町なのは。

 偶然、その管理外世界の近くを放浪していたテスタロッサ一家の協力。そして、高町なのはの知人たちの協力により事件は迅速に解決した。

 その事件で発覚した管理局の非人道的実験。

 

 多くの死者を出したヒュードラ事件。そして、人工魔導師生産計画、プロジェクトF。

 

 当時、事件の解決に向かっていた管理局の航行船アースラ船長。リンディ・ハラオウン。執務官クロノ・ハラオウンはその容疑者としてプロフェッサー・マダを連れてジュエルシードと共に管理局本部があるミッドチルダへと戻り、必ずプレシア・テスタロッサの無実を証明してみせると彼女達に約束した。

 その際、監視役としてステルス状態のゲッター1を連れて行っている。これはプロフェッサー・マダの背後関係を調べる為も兼ねている。ばれそうになったら機密保持の為に自爆するという機能も付けている。

 その事を知っているのは艦長リンディとクロノだけ。

 二人は武装が積まれていないとはいえ、プレシアの信頼を得るためにも爆弾付きのゲッターを連れてミッドチルダへと戻っていった。

 

 

 高ランク魔導師に匹敵する資質を持った高町なのは。フテスタロッサ母娘。

 資質だけは高ランクの王城と白崎。

 サポート能力なら管理局の上ランクはあるだろうユーノス・スクライア。

 

 彼女達が(一部を除く)がどれだけ尽力を尽くしたかを報告する。

 だが、彼女達に迂闊に彼女達に接触しないようにとも伝える。

 

 彼女達に危害を加えたその時、鋼の龍に跨った黒い邪神が黙ってはいないのだから。

 それは暗黙の了解であった。

 

 

 

 管理局に少なからず変化を及ぼす事件からしばらくして、邪神の住んでいる町でも少しずつ変化が現れていた。

 

 テスタロッサ母娘の元に長期療養していたという事情で復活したアリシアと合流。

 フェイトとアリシア。

 姉であるアリシアは積極的にフェイトを可愛がろうとするが長い間仮死状態だった体の筋肉は弱り切り、張りきろうとすれば何度も転んでしまうといった事が起こる。

 そのたびに涙目になるアリシアを慰める形でいつの間にか二人の間の距離は縮まっていった。

 そんなアリシアを通してプレシアとの距離も縮めていくフェイト。

 子は鎹(かすがい)。とは、よく言ったものである。

 

 

 

 高町なのはは自分に魔法という力があることを知ったその日からテスタロッサ母娘の元で魔法の特訓を重ねている。

 また、J・S事件のように自分の力が役に立つその日が無い事を願いながらも、自分の力が何かの役に立つと信じて力を高めていく。

 そんな彼女に協力。もしくは追いつこうとアリサとすずかも自分に魔法の力が無いかとプレシアに訊ねてみたが無いときっぱり否定された。

 魔法の力は危ないし、むやみやたらと近付いてはいけない物だと言うプレシアさんに納得がいかないアリサはそこを何とかと迫る。

 すずかもアリサ程ではないが退く気はないらしく二人でプレシアに迫ってみたがプレシアは首を縦には降らなかった。

 リンカーコアと言う魔導師特有の臓器のような物があるかないかで魔法が使えるかどうかが分かる。

 なのはにはそれがあるが二人には無い。と、説明したプレシアに対してアリシアが「魔法が使えないならユウに代わりになる物を作ってもらえばいいじゃない」と、発言した。

 アリシアはこれ見よがしに裕からWCCで『体力増強』の効果がついた指輪を見せる。

 裕は別に指につけるならどこでもよかったので適当に調整した指輪で復活した手のアリシアの補助になればと渡したのだが、アリシアが嵌めている場所。それは魔法世界でもなのは達のいる世界でも共通して愛情を寄せる者から贈られた指輪をはめる場所だった。

 その場所と指輪について小一時間ほど説教じみた説得により、アリサは前から持っていたブローチについていた効果をアリシア同様に『体力増強』に更新された。

 すずかは自分が大事にしていたカチューシャ。カチューシャに金をあしらった刺繍でレア度を上げて、『鎮静効果』という効果がついたものになった。

 これによりアリサはいざという時にはそのブローチ握ってその効果を発揮して離脱する。

 すずかはその『鎮静効果』で冷静な判断を取ることが出来、その場から逃げ出すなどあくまで逃げる為のアクセサリーだった。

 なのはとフェイトは既にある相棒にWCCで強化された物があるから二人に何か渡す必要は無い。

 

 

 

 さて、肝心の邪神様はというと。

 

 「さあ、どうぞ裕様。本日は黒毛和牛のレアステーキです」

 

 「…おおう。グレイトリッチ」

 

 J・S事件。

 マダにゲッタービーム(ゲッター線未使用)を当てて全身火傷。そして、数か所の打撲や骨折という重体に追い込んだ後、海鳴の街に戻った裕はマダの命令で自爆した人工魔導師の攻撃。特攻によってマダ程ではないが重症の状態だった。

 プレシアがなのは達と共にリンディの所に出向いているうちに忍は裕を自分の邸宅で保護し、月村家専属医師を呼んで手当てをすることになった。

 その際、ユーノに月村邸の周りに管理局の監視魔法。サーチャーが展開されていないかを調べ、更には時の庭園から運び出したゲッターに周りを捜索させ、監視されていないと判断してからの月村邸での看護である。

 一応、異世界に行ったという事でその世界にしかいない細菌を持ち込んでいないかとか、人工魔導師の体液に触れているので感染症は起こしていないかなど入念な身体検査は月村邸でしか行えないと判断したからだ。いざとなった時はノエルやファリンといった戦うメイドで抵抗するつもりだったが、管理局の中『清』と『濁』のうち、『清』に属するリンディとアースラスタッフには無用の心配だった。

 いくらWCCで回復力を高めたアクセサリーを見に纏っているとはいえ、あの時流した血と折れた骨。少しだが抉れた筋肉を回復させるにはそれ相応の栄養が必要になる。

 その栄養として月村邸で摂取していた裕だが毎度毎度豪華な食事が運ばれてくる。

 いわゆる庶民派な邪神にとってあまりにも豪華すぎる食事に何度か家に帰ろうかと本気で悩んだ。

 バニングス・月村・高町の順番でお見舞いの品が届けられたが、高級メロン。ハム。バナナと持ってきてくれた品を見て、なのはに「味噌汁を作ってくれ」と庶民の味を要求したが高町父子に却下を言い渡された。

 というか、肉を毎日一回は出してくる月村家の人達。いくら新陳代謝が大きい子どもとは言えこんなに食べたら太るのではと疑問に思う事もある。

 

 まるまると太らせて自分を食べる気なのか?

 あれは養豚場の豚を見る目なのか?

 

 それを全力で否定できたらいいのだけれど、月村邸で看護を受けて三日ぐらいの晩に動けない自分の首に歯を立てているすずかの夢を見た。

 翌朝自分の首過ぎを確かめてみたが、そのような事をした痕跡も無かったので夢だと断定した。のだが、妙にリアルだったのだ。

 夢の中でとはいえ、自分の首に噛みついているすずかの舌が妙に艶めかしい物だった。

 ちょっぴりゾクゾクした裕だった。

 

 

 

 J・S事件が終結して一週間ほどが経過した。

 なのは達の通っている学校にはフェイトとアリシアが同じ学園に入学することが決まって、裕が日常生活に復帰するころには双子として編入してくるテスタロッサ姉妹。

 アリサとすずか。なのははその変化を快く迎えるだろう。

 だが…。

 

 「…では、お前を新しい『イエーガーズ』の一員として迎えいれる!厳しくしていくぞ、覚悟しろ!」

 

 「はい!よろしくお願いします!」

 

 フェイト達が転校する少し前に裕が立ち上げた『イエーガーズ』の集まりで一人の少年が裕の前で勢いよく頭を下げた。

 その頭は太陽の光をよく弾いていた。

 そう弾いていたのだ。頭で。髪ではなく、頭で。

 それは産毛も剃り落としたのではないかと思うほどの坊主頭だった。

 

 「その覚悟、本当かどうか試してやる。…榊原。いや、イエーガーズ№59よ!」

 

 「望むところだ!」

 

 J・S事件後。

 榊原は自分の行いを反省して自ら頭を丸めこんでなのは・すずか・アリサに土下座をしながらこれまでの所業を謝罪し、更には高町道場に入門し精神的に鍛え直そうと訪れた。

 その言動に少女達は困惑、もちろん裕も驚いていたがあのキラキラサラサラの髪を剃り落した榊原を信じてみようと思った。

 更には『イエーガーズ』に入団して陰ながら彼女達を支えるという意気込みを聞いた時裕は彼を信じてみようと思った。

 

 「では、思えに早速やってもらう事がある、それは!」

 

 「…それは?」

 

 裕はWCCで作った『イエーガーズ』の缶バッチ。しかも大きくRと書かれたバッジを榊原に渡す。

 

 「お前には、これから『イエーガーズ』の一ヶ月リーダーをやってもらう」

 

 「いきなりだけど無茶ぶりしすぎじゃないか?!」

 

 『イエーガーズ』の主な目的はなのは達がメダルトリオ。榊原がいなくなったのでコンビになる。

 そのコンビから逃げ出すための逃走経路を探しだし、誘導を行い週に一回何かイベントを起こす。

 それはゲーム大会から体力作りのための鬼ごっこ一度相手を捕まえるごとに鬼の服に重りをつけて行くもの。そんな幹事のような事を考えるのが『イエーガーズ』リーダーの仕事だった。

 だが、この『イエーガーズ』。創立者の裕の無茶ぶりに楽しく答えるという面白愉快で難易度が高い遊びを目指している。

 これぐらいしてもらわなければ今度の体育会で披露する高速組体操には間に合わない。

 

 「これからビシバシいかせてもらうぜ!№59!ちなみに俺は№1.017だ!」

 

 「その端数は必要なのか?!」

 

 とにもかくにも『イエーガーズ』の団員の心得。

 ボケに対してのツッコミを忘れないという規約を守った榊原であった。

 





 さかきばらくんが邪神のなかまになった。


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