リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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邪神「ぼく、悪いじゃしんじゃないよっ」


第三十七話 邪神様は逃げ出した。

 はやて達をテスタロッサ研究所に連れて行った翌日。

 裕はアリサに壁ドンを越えるときめきコマンド、体を押し倒される床ドンをされていた。

 

 熱く零れると吐息。

 お互いの鼻がぶつかりそうになる顔と顔。

 そして、涙目の・・・。

 

 

 

 邪神。

 

 

 

 はいっ。マウントポジションを取られた裕です。

 休み時間、イエーガーズのメンバーと交代で久しぶりに幼馴染たちとお昼ご飯を食べようと校庭の一角に来たとたんに、背負い投げからの抑え込みは痛かったです。

 お嬢様の柔らかいはずのふとももががっちり挟まって身動き取れません。

 両腕の方はすずかちゃんに押さえつけられている。

 この二人と一緒にご飯を食べるはずだったイエーガーズのメンバー達は「ごゆっくり」ほほえましい笑顔と共に去って行った。

 俺もそっちに行きたい。

 フェイトとアリシア。なのはちゃんは別の場所で食事をとっているだろう。そっちに行けばよかったな・・・。

 極上の笑顔の後ろに薄暗い炎をともしたアリサが声をかける。

 

 「・・・さて、裕。私達に何を隠しているの?」

 

 「何の事だ。まだ俺は何もばれてないよっ」

 

 「裕君。軽く、自白しているよ」

 

 ミシリと俺の腕から嫌な音が聞こえた気がした。

 金の懐中時計(WCCで防御力アップを施した物)が無ければ俺の腕は大変な事になっていたかもしれない。

 

 「もしかして・・・。また、ジュエルシードみたいな事件が起こっているの?」

 

 すずかちゃんのどこか悲しそうな表情。それでも抑え込んでいる腕は解けそうにもない。

 アリサもどこかいら立ちを隠せないのか声を荒げながら俺の胸ぐらをつかみ取る。

 

 「何年、あんたと幼馴染やっていると思ってんのよっ。あんたが裏で何かしているのはなのはやすずかだって気が付いているのよ」

 

 「今頃、なのはちゃんがフェイトちゃん達を問い詰めているよ。なのはちゃん、見た目に反して頑固だから今頃、フェイトちゃん達にいろいろ聞きだしているよ」

 

 うん、それはJ・S事件で分かっている。

 逆にフェイトとアリシアが不安だ。

 あの二人、一度心を許したらガードが甘くなるからな。

 あれ?でも、俺には冷たいような?

 やっぱりあれか。

 シグナムさんにやった粘着性の高い捕獲用のWCC、旅人からの『モザイク加工された蠢くモノ』のコンボの詳細を聞いたからか?

 エロ同人誌的な物でもない。ただ、それがフェイト対策だと言ったから?

 

 何度も言うようだが、エロ同人誌的な物じゃないのに・・・。

 べつに、『モザイク加工された蠢くモノ』を使ってフェイトにアレしようなんて少ししか考えてなかったのに・・・。

 

 その考えが透けて見えたのだろうか、シグナム戦の詳細を話したあろに、プレシアさんに雷光で光り輝くシャイニング・フィンガーを受けました。

 今、その事をいえば、

 

 お嬢のその手が真っ赤に燃えて、邪神を潰せと轟き叫ぶことになるだろう。

 

 「裕、何とか言ったらどうなの。言っておくけど、あんたが休学届を出したのはもう知っているわよ」

 

 いつ知った?!出したのは今朝だぞ?!

 お嬢様方の情報網の広さと速さに驚愕を隠せない。

 特に静かに笑顔を見せるすずかちゃんが怖い。

 

 「いや、だって、言えるわけない。お前等だったら余計に・・・」

 

 なにせ、暴走すればジュエルシードよりも厄介だと榊原君からも聞いている。

 『闇の書』救済処置を失敗すれば地球があべしっ!ユワッショック!するらしい。

 

 『闇の書』にはWCCでも干渉することはできる。ただ、プログラマーとしての知識や技術が無いから手をつけられないだけであって、これからそれを身につければいい。

 それを身につける為に休学届を出したのだが、こんなにも早くばれるとは思わなかった。

 

 一応邪神もどきでもあるアリシアも『闇の書』がバグっていることを確認する事は出来るだろう。

 だが、邪神の共鳴反応で『闇の書』の悪影響がアリシアに共鳴したらやばいし、彼女の中にあるジュエルシードがどんな反応を示すか分からない。

 一応、蘇生後のアリシアに断って指先を切ってもらい、傷の治りの経過を見てみた。

 アリシアの邪神共鳴能力で『不老不死』という物はなかった。

 ただ、涙目になったアリシアを見て萌えた俺とプレシア。

 それはともかく・・・。

 下手にアリサ達を巻き込む訳にはいかない。

 彼女達は身体能力が少し高いだけの子どもなんだから。

 

 「余計に、何よっ。言いたいことがあるなら言いなさいよっ」

 

 俺が言葉を中途半端にきった所為か、アリサとすずかの表情に変化が見られた。

 よしっ。ここだ。

 

 そう考えた裕は懐から二枚の写真をわざと落とす。

 その写真にはアリサとすずかがそれぞれ写った写真だった。

 

 「これって・・・」

 

 「大事な、友達だから巻き込みたくないんだよ」

 

 すずかがその写真を拾うとアリサにも見せると俺を押さえつけていた足も外れ、裕は照れ臭そうに立ち上がる。

 

 「なによ・・・。それ、結局私達は足手まといだとでも言いたいの」

 

 「いや、やってほしい事はあるよ。王城と白崎の目から俺を逃がしてほしい」

 

 まあ、もともと眼中には無いだろうが、ここ最近なのはちゃん達とよく模擬戦をするためにテスタロッサ研究所の模擬戦場を使わせてもらっているし、はやて達も榊原が言う所の原作キャラらしい。

 管理局の暗部も関係しているらしく、『闇の書』を輸送中に暴走してクライド・ハラオウン。

 以前、この地球にやってきた管理局の船に乗っていたリンディさんの夫。クロノの父親がそれに巻き込まれて死んだ。

 そんなことに巻き込みたくないから魔法の力を持たない二人には出来る限り離れていてほしいし、王城や白崎みたいな魔力の塊がちょっかいをかけて『闇の書』暴走。地球終了のお知らせにもならないためにも処理が終わるまでは二人の目を惹きつけて欲しい。

 

 「全部終わったら話すから・・・。それまで待っていてほしい」

 

 「裕君、本当に話す気あるの?」

 

 それは死亡フラグだよ。と、すずかちゃんが少し困った顔で俺の顔を覗き込んでいた。

 と、そこに怒気を含めた声を発しながらメダルコンビの金髪。王城がやってきた。

 

 「ごらぁっ!モブ野郎!アリサとすずかから離れやがれ!嫌がってんだろう!」

 

 全くだ。嫌がっているだろう。

 

俺が!

 

 嘘です。アリサさん。落ち着いてください。だからその振り上げたこぶしを下ろして。

 俺の体以外の所に!

 

 「たくっ、俺が見ていない間に嫌がる二人に絡むとはキモい考えをする奴だな」

 

 絡んでいるのはどう見てもアリサとすずかちゃんだと思うんだが・・・。

 ひぃっ。すずかちゃんの表情が無表情にっ。

 至近距離且つ下から見る美少女の顔はグッとくるが、それが無表情だと同じくらい怖い。

 

 「別に、俺から絡むつもりはないんだけどな・・・」

 

 「はんっ。どうせ、てめえもこれから起こる『闇の書』事件に関わっていこうと考えているオチだろう!そうやって、俺のなのはやフェイト。はやて達を手に入れようとかんがえているんだろうが!」

 

 「・・・なんだと」

 

 裕は珍しく、怒気を含ませた声で声を上げながら立ち上がり、王城を睨む。

 

 「図星を刺されて怒ったのか?単細胞だな、この雑種が!」

 

 「つまり、お前はこう言いたいんだな・・・」

 

 裕は一度言葉を切りながらも王城を睨み続けた。

 そして、声を大にしながら言い放った。

 

 

 

 「実は俺がジュエルシード事件からフェイト達と関係があって、その時の縁でプレシアの研究所に入りびたり、

 

 その事件前からバニングスさんと知り合った後、月村家という二大スポンサーを手に入れて娯楽に不自由することなく遊びまわり、

 

 『闇の書』関連ではやて達と知り合い、付き合っていく中で、美女・美少女に囲まれた学園生活を過ごしていけてトロピカルヤッフゥイイイイイッ!しているとでも言いたいのか!?」

 

 

 

 ・。

 

 ・・。

 

 ・・・。

 

 「・・・だ、誰もそこまでは言ってはおらぬ」

 

 「王城君っ、今言質とれたよっ?!」

 

 メダルコンビを前にして、珍しく素の表情が出てきたすずかのツッコミがでた。

 そのツッコミを聞いて、呆然としていたアリサもすずかと一緒に王城の視線から避けるために裕の後ろに回る。

 それを見た王城は二人が恥ずかしがっているんだなとおめでたい事を考えていた。

 

 「待っていろ。すずか、アリサ。こいつをすぐにそいつをぶちのめしてやるからな」

 

 にこりと王子様が笑ったかのような笑顔を見せた王城だが、様々な企業が開催する立食界に参加した事のあるお嬢様二人には、その笑顔の下に後ろめたい物があると前々から感じ取っていた。

 

 「かかって来い。雑種」

 

 指をくいくいと曲げて裕を挑発する王城に対して裕は気合の声を上げながら、その一歩を踏み出した。

 

 「遠慮なくいかせてもらうぜ、王城!必殺ぅ!」

 

 裕は右拳を振り上げると同時に裕の足元から以前使用した煙幕の煙が噴き出る。

 その光景を見て、煙に紛れて攻撃するのだと思ったのか王城は全身に魔力をめぐらせてどんな攻撃でも受け止めようと身構えていた。

 

 「テレポート!」

 

 

 

 煙幕が晴れた所には誰も、そして、何もなかった。

 煙玉を使って、煙幕を撒き上げただろう邪神の姿も無かった。

 

 

 

 「・・・もしかして、あいつ。逃げたんじゃ?」

 

 ピーッチチチチッ。

 

 

 と、その通りだよ。と言わんばかりに雀の鳴き声が聞こえた。

 

 煙幕に紛れて見えなかったが、裕はWCCを発動させて、シフトムーブを行い、その場を離脱していた。

 必殺とは名ばかりの見事な逃走劇だった。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 それから数分もしないうちにお昼休み終了の鐘が鳴る。

 王城が来たその時既にお昼休みは終了五分前だったのだ。

 王城はもちろん、アリサやすずかまでその予鈴がなるまで裕が逃げたと判断出来なかったのである。

 

 「雑種ぅうううううっ!!」

 

 逃げられたと理解した時には時間切れという侮辱を受けた王城は遅刻するわけにもいかないので憤りながら、教室へと向かう。

 そこに裕がいれば殴りかかりそうになるだろうが、逃げ出したついでに早退していたのでそれが叶う事はなかった。

 

 「あいつ、ああやって人を煙に巻いて逃げるのは上手よね。でも、今度会ったら全部話してもらうんだから」

 

 「・・・うん。そうだね。いろいろと聞かせてもらわないとね」

 

 アリサのつぶやきにすずかが答えた。

 裕が落とした写真をアリサに見せながら。

 ただし、写真の裏側。

 

 そこには『非売品』の文字が書かれていた。

 

 その時、お嬢様たちの心の中に絶対に邪神をとっちめてやると確固たる意志が宿っているのであった。

 




 アリサ達が持っていた写真は『イエーガーズ』のメンバーのみに配られる団員限定の写真。

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