じ、蕁麻疹ががががが・・・。
それは夫の親友でもあるグレアムからの報せ。
正確には、その使い魔からではあるが、知らされた報せ。それは・・・。
「・・・あの人が、生きている」
『闇の書』の暴走に巻き込まれて、アルカンシェルという超重力砲で元凶ごと吹き飛ばされたクライドが生きているという報せだ。
その強力無比な砲撃により、『闇の書』もろとも吹き飛ばされ遺体なんて回収できるはずが無かった。
それでも目の前で散っていった旦那が生きているという情報に私はいてもたってもいられなかった。
ジュエルシード事件のあった世界。地球。
から少し離れた管理外世界だった。
私は溜まりに溜まっていた有休もすべてつぎ込み、仕事中のクロノとその補佐をしていたエイミィの首をひっつかんで報せを持ってきてくれたグレアム提督とその使い魔のロッテの五人で地球へと向かう。
報せを持ってきたグレアム提督も信じられない様子だった。
だが、もう一人の使い魔。アリアの念話から懐かしくも忘れられないクライドの声を聴いた私は提督が貸し切った次元航行船に乗り込みながらも念話で何度も何度も連絡を取った。
アリアとロッテという双子の使い魔間で伝わっている念話。それを切ると彼とは連絡が取れないんじゃないかと思った。だから、何時間もかかる航行時間も苦ではなかった。
何故かその途中で次元を何度もまたいでまるで痕跡を誤魔化すような航行路にすら疑問を持つことも無かった。
たとえ、それが自分達をはめる為の罠だとしても、あの人の声を聴けば行かざるを得なかった。
そして、指定された世界へと降り立った私達を出迎えたのはクライドがいなくなった原因となった『闇の書』プログラムの一端。
細部は変わっているが、忘れるはずのない守護騎士達だった。
だけど、そんな事よりも・・・。
「・・・今、帰ったよ。リンディ」
少しやつれた頬。だけど、見間違えるはずがない。
最愛の人が守護騎士達の輪から外れるように歩いて出てきた。
私は走った。走って、クライドを抱きしめた。
二度と離さないように。離れないように抱きしめて、思いっきり泣いた。
ひとしきり、クライドの胸で泣いているとクライドの手が頬を包み、優しく上を向かせる。そして、唇を重ねた。
それから数秒。周りに人の目がある事に気が付いたものの、クライドが本当に帰って来たのだと再認識して、再び涙が流し、クライドの胸に顔を埋めた。
「…馬鹿。馬鹿ぁっ。今まで、今までどこにいたのよぉっ」
「…実は」
「巨乳美人が二人にツンデレペッタン娘と一緒に狭い空間にいたんじゃよ」
「・・・・・・・・・あなた?」
「リンディ、ちょ、苦しい?!まだ病み上がりなんだから、それ以上締め上げないでっ?!折れるっ、背骨が折れる!」
「更には筋骨隆々の肌黒マッチョさんと一緒の空間に」
ミシミシミシミシと鈍い音が耳元で鳴っているけど気にしないわ。
浮上した浮気疑惑。
寝取られたのかしら?どこぞの馬の骨とも知らない女に?それとも男かしら?
あはははは、クライドが何を言っているけど聞こえないわ~。
グレアム提督とその使い魔であるリーゼロッテ・アリア。更にはクロノの四人が力づくで私達を引き離したけど、私、まだ、あの人を抱きしめたりない。
「どいてクロノ。クライド、抱きしめない」
「いろいろ言葉遣いがおかしくなっている間はちょっと無理っ」
「あの人の、胸の中で、眠りたいの」
「それは、物理的にイン?それとも、アウト?」
「勿論、物理的にイン」
「アウトだよ、リンディ!クライド君、完全に眠っちゃうよ」
二度と目覚めない眠りに。
「今日という今日はあの人をお持ち帰り。テイクアウトするの」
「テイク(撃破)アウト(いろいろやばいという意味の)だよね!?それって、やばい方の持ち帰りだよね?!」
「うふふふ」
「絶対にリンディを離すんじゃないよ、クロスケ!」
「わかってる!って、ぬぅおおああああああ!す、すんごい馬力!?く、ストラグル・バインド!」
「うおおおおおっ!魔力が抜けていく?!クロスケ!凄いじゃん、これなら魔力で身体能力をブーストしているリンディも止まる。いつの間にこんな魔法を・・・。って、それでも止まらないリンディって何者?!」
女という生き物ですが何か?
「ええい、こうなったらデュランダル起動!リンディ君、少し頭を冷やそうか!」
「ちょ、僕らごとですか?!」
目の前で氷ついていく妻と親友の使い魔と見覚えのある、恐らく成長した息子が氷ついて行く様子を呆気にとられながら見ていくことしか出来なかったクライド。
さらにその様子を離れた場所で見ていた守護騎士とその主、八神はやて。そして、リンディが暴走した原因を作った邪神がいた。
「まったく、人間とは言葉一つでこうも簡単に乱れ狂う」
くっくっくっ。と、いかにも意地悪そうな笑いを作る白い民族衣装を着た邪神。
「な、なあ。ユウ、なんで」
「これこれ、今はアユウカスで頼む」
「あ、ああ。アユウカス。なんで余計なひと言を入れたんだ?」
ヴィータは白袴に白い狐の仮面。白く長いかつらをつけ、身元を隠すために変装した裕の答えに、こめかみを指で押さえながら質問する。その答えが、
「美形のカップルが目の前でいちゃいちゃしているとムカつかない?」
「いや、もう、なんていうか、いろいろと残念やな。この邪神は」
はやては仮面の下ケラケラ笑っているだろう裕の顔を想像しながらも、今まで自分の生活を援助してくれたギル・グレアムに挨拶をするのであった。
一方で、死んだと思っていた親友が生きていたというのに、目の前で氷漬けになった親友の妻子と自分の使い魔達を一時的に氷漬けにしたグレアムはとても残念そうな顔をしているのであった。
シリアス?ラブ?なにそれ美味しいの?