バニングスさんが自宅に来たのでお母様がお茶とお菓子を用意してくれた。
彼が言うには怪我をしているところで助けをよんでくれた俺にお礼がしたいと子供には高価すぎる懐中時計(純金)とルビーのネックレスとブレスレットを持ってきてくれた。
内心ガクガクです。
ルビーとか見せつけるようにお母様に渡してくるんですもの。俺が加工した物じゃないルビーとはいえ、何を言われるか分かった者じゃない。
あまりに高価すぎる物だというのにお母様はありがたくいただいた。見た目が綺麗なだけだと思っているんだろうけどそれマジで宝石だから。
そんな一部始終でジェントルメンな笑顔で俺を見る。
な、何を言われるんだろう。
「ところでこれなんだが…。君の指紋が取れたのでここまで来れたのだが」
懐から俺が加工したルビー、『自然治癒(中)』を取り出す。
ガクガクブルブル。
そのジェントルメンスマイルが怖いです。
指紋一つで我が家までたどり着けることが出来る経済力に庶民の子どもである俺。この後何を言われるんだろうか。
「今度の休み、娘の誕生日でね。私も以前強盗にあったばかりだしね。娘に“とびきりの”『お守り』を渡したくてね。この宝石みたいに。君に準備してほしいな。と」
ガクガクブルブルガクガクブルブル。
わざわざ言葉をきって話すジェントルメン。
もう確実に俺の能力に感づいているよ。
少し前にあった事件の患者HGSだったか?その患者達みたいに観察対象になるんだろうか、それとも脅迫されるとか?
昨日の夜に『超能力者の末路』というサスペンスドラマを見たせいかマイナスイメージが先行する。
「駄目ですよ、バニングスさん。そんな風に裕ちゃんを怯えさせちゃ」
「ははは、そんなつもりはないんですけどね」
「そんな調子じゃ裕ちゃんの『能力』は使ってくれませんよ」
へ?お母様、今、何と?
「…あらあら、裕ちゃん。もしかして気づいていないとでも思った。私はこれでもあなたのお母さんなのよ」
えへんと、胸を逸らすお母様。
なんでも俺の靴下を洗う時にタンポポの匂いがしたのが気になってこっそりと後をつけていたらしく、更には俺が公園で砂金を取ったり、港町で宝石をゴロゴロと召還したところも見ていたらしい。
バニングスさんを救出するところまでは見ていないが、いろいろ見られていたらしい。
「え、あの、お母様。怖くないの?」
「私はあなたのお母さんよ。怖いなんて思うわけないじゃない」
涙腺決壊。
お母様、俺、貴方の息子でよかった。
ちなみにお父様は気が付いていないらしい。
「というわけで、脅すのはやめてくださいね」
「いやはや、困りましたな。本当に脅すつもりはないんですよ。裕君の力で娘の身の回りを守ってほしかったのですが…」
バニングスさんは一枚の写真を出す。
そこにはバニングスさんとその奥さん。娘さんが写された写真。
「あらあら、可愛らしい娘さんね」
「…後ろにある家もでっかい」
「ああ、それは別荘です。今度招待しましょうか」
「「別荘?」」
なんでもバニングスさんは大金持ちらしい。
そこらへん、俺とお母様は疎いので知らないのだが、言われてみれば宝石商とあれだけ大量の宝石を購入する人ならそれなりに大金持ちなのだろう。
携帯で調べてみると世界有数の大富豪として紹介されている。
「身元も判明したらしいのでお願いを聞いてくれないかな」
「…私は構わないのだけれど。裕ちゃんはどうしたいの?」
まあ、WCCの事をあまり広めないのであれば構わない。
それを承諾してくれたバニングスさんとお母様に俺の力について簡単に説明する。基本的に何もないところだと何もできないと伝える。
お母様はこれから包丁やお鍋が新品状態で毎日使えるわと喜んでいたけど…。
バニングスさんの訪問は本当にあの時のお礼がしたくて高価なアクセサリーを持ってきてくれたらしい。
とりあえず、娘さんにはエメラルドのブローチを渡すつもりらしい。
『緊急転移』。危機に陥った時、今回貰った純金製の時計か、バニングスさんのWCCで加工済みのルビーのある所に転移することが出来る。
…かなり純度の高い宝石だったので初めて見る付加効果だ。
とりあえず、効果はそういう物だと伝えたら笑顔で了承してくれた。
そして、バニングス令嬢の誕生日当日。
超が付くほどの高級ホテル。綺麗なドレスを着たお姉さんやスーツを着たお兄さん。
そこに現れた俺。
…凄く、…不釣り合いです。
こんな時に限って両親。というか、父上が昨晩、ぎっくり腰になって入院することになって、母上が付き添いでここには居ない。
俺をタクシーに乗せた時に「バニングスさん達によろしくね。あと、妹と弟どっちが欲しい」と、送り出した母上。
…父上、頑張り過ぎです。
それはともかく、こんな貴族のパーティーみたいなところで何をすればいいのか分からない。暇だったのでWCCでホテルのデータでも取っていると…。
爆弾を発見しました。
ホテルの入り口とエレベーター付近に複数の爆弾が俺の目にしか見えないモニターに映し出される。
バニングス家は別名ジョースターとかではないだろうか?
ここまでトラブル続きだと呪われているんではないだろうかと、疑ってしまう。
それとも俺か?邪神の力を持っているからトラブルをよんでいるのか?
とりあえず爆弾はWCCで解除。元々、人目につかない所に設置されていたので解除することに躊躇いはない。
ついでにどこかの社長さんと話していた。えーとTUYOTAの社長?
とにかくバニングスさんと話をしようと手を振ってこちらに気づいてもらう。
彼が今話している人達との話を話を打ち切り、こちらのほうに歩いてくる。早く爆弾の事を教えようとこちらからも近づいていくと、
「おとーさま!」
「むぎゃっ」
俺を踏み台にしたぁ?!
後ろから誰かが奔ってくる気配を感じて振り返ると、目の前に覆い隠す赤い靴。
俺の顔を踏んづけた勢いそのまま声の主はバニングスさんに抱きつく。
「はは、アリサ。おっきくなったね。だけど、人の顔を踏んじゃいけないよ」
「ごめんなさい、お父様」
謝るんなら俺じゃないの?
そんな俺の心情を読み取ってくれたのか娘さんに注意する。
「…アリサ」
「う、わ、悪かったわね」
将来美人になること間違いなしの金髪の少女が謝っている。のか?
どこかで聞いたことがあるような。たぶん、どこかのツンデレだ。
「ところで裕君、どうしたのかね?」
「バニングスさん。じつは…」
とりあえず爆弾の事を伝えるとバニングスさんは目付きを険しくして招待客に変装していたSPに事の次第を伝えると、容疑者達を何人か静かに連れ出していく。
周りにたくさんの人がいるのに誰にも気付かれずにつれていく手際にちょっとビビった。
娘の誕生パーティーを邪魔されたくないのか、静かに事を済ませていくバニングスグループのSP。特にあの初老の男性。鮫島さんと言うらしい。
主人以外には「赤子」扱いしないかな?しないよね?
あんなパワフリャーなラブコメ世界だなんて生き残る自信無いです。
強盗事件もあったばかりで警備には力を注いでいたのかパーティーは無事終了した。ちなみに主犯はTUYOTAの社長。
俺自身が格好よく事件を解決できなかったのか?
いくらWCCという超常的な力を持っていたとしても五歳児にそんなこと求められても困る。というか、悪目立ちするだけだから使わないで済むならむしろ好都合という物だ。
とりあえず、爆弾とかは全部撤去したとだけバニングスさんに伝えておく。
後日。
「田神裕!私と勝負しなさい!」
おなじみの公園で遊んでいると、バニングス令嬢のアリサが誕生日プレゼントにもらった(WCCで加工済み)ブローチを光らせながら俺に勝負挑んできた。
自分の誕生日なのに俺の事を褒めていた自分の父親にジェラシーでも湧いたのか、俺の事を聞きだしたアリサはコテンパンにしてやると拳を強く握っていた。
いや、別に喧嘩じゃねーよ。
公園で遊んでいたちびっ子。なのはちゃんも混ざってサッカーで勝負することに。
アリサのオーバーヘッドキックを俺の顔面ブロックで防いだことで勝利することが出来た。
イナズマシュートはボールを蹴って繰り出すもので、決して人の顔で決めるものではないと、アリサにきつく言っておく。
だが、サッカーでの勝負を機にアリサとは何かと勝負する羽目になる裕であった。