「・・・ふん何やらあちこち這いずりまわっていたようだが。そんなにもその闇の書を完成させたか。雑種共」
金の髪に黄金の鎧をつけた王城がはやて達の後ろから現れた。
「・・・だ、誰や、あのキンピカは?」
「そこの愛嬌のある狸少女よ。・・・貴様、足を患っているようだな。今の俺は気分がいい。我が宝物庫にある妙薬を飲ませてやろう。それで貴様の足も呪いという呪縛から解かれ、動くだろうよ」
王城はその秘薬を一つ。自分が持つゲート・オブ・バビロンからエリクサーを取り出す。
エリクサーは回復アイテムの一つで。魔力と体力を回復させる物。
その夢のようなアイテムは王城の転生特典。ゲート・オブ・バビロンの中にある宝物。そして、ギルガメッシュが関係している宝物の中にエリクサーというアイテム。それもそのまま引き継がれていた。
「どうした?お前達の主を助けたいのだろう、守護騎士達よ」
「闇の書といい、我等守護騎士の事といい、我等の事をどこで知った?」
「ふんっ。そんな物俺様の手にかかれば造作もない!というか守護騎士に襲われたデータが我がデバイスのキレイがとっていたぞ」
「・・・くっ。奴もデバイスを持っていたか」
「ただ声をかけただけなのに攻撃して俺の頭を強打する。このような無礼万死にあたる所だが、俺様は寛大だ。守護騎士とその主。俺のモノになれ。そうすれば寛大な俺様が貴様等を助けてやる」
上から目線ではやて達に話しかける。
だが、王城が出してきた案件はあまりにも遅すぎた。
既に邪神から『闇の書』に『夜天の書』への快復プログラムを打ち込み、後は自動で治るのを待つだけだ。
「それには及ばないわ。そちらの方は既に処理が済んでいるの。お人好しの邪神。いえ、ゲッターが快復させてくれているから」
リーゼ・アリアがキンピカ。王城に残念だったわねと嘲笑気味に答えた。
その言葉が気に障ったのか、こめかみに欠陥を浮き上がらせた王城だったが、すぐに言葉を返す。
「ふん、まさかの神頼みか。神の名を持ち出すものほど碌なものではないだろうに・・・」
アリアを含めてそんな神に頼ろうとした全員をいかにも憐れんでいる口調で喋る王城にはやては力強く否定、
「そんなことっ・・・。そんなこと・・・。そんな事あらへんわっ!」
出来なかった。
「主はやて。ここははっきり言わないと説得力がありません」
「せ、せやかて、あの、邪神様やしな」
「駄目ですよ、はやてちゃん。ここはびしっと言わないと。あんな邪神でも一応命の恩人なわけですし・・・」
『あんな』呼ばわりされる邪神。田神裕。
確かに日頃の行いを見ていると『あんな』呼ばわりされても仕方がない。
持っている能力も以上で異様だったとしても彼が持っているとどうにも威圧感というか覇気を感じない。
「・・・ふん。俺もあまり暇ではないのでな。俺の温情を無にするつもりならどうなっても知らんぞ」
「生憎だな。お前と違い、私達に救いの手を伸ばした邪神はこう言っていたぞ『ウランでもいい。だから助けられろ』と。恩を着せるのでもなく、自分の我を通し、成功の合否がどうなろうとも怨んでもいいと。お前と同じように我儘な奴ではあるがまだ、こちらの方が信用できる」
邪神の被害を一番感じているだろうシグナムが王城に言葉を返す。
彼に酷い目に遭わされたというのにこう言えるのは彼が真摯にはやてを助けようと行動した結果だ。
だが、それをどう解釈したのか、それを聞いた王城の背後に無数の魔方陣が展開され、更にはそこから飛び出してきた黄金の鎖が守護騎士やプレシア。管理局を面々を縛り上げた。
「なに?!この鎖?!」
「バインド?!違う、魔力とは違う何かで構成されている物なの?!」
補助魔法のスペシャリストであるシャマルは王城が繰り出した鎖を解除しようとするが
「天の鎖。神すらも捕縛することが出来る。なるほど力尽くが好みならこれで捉えられても仕方あるまいな?これからは俺もそうさせてもらおうか」
鎖が飛び出していない魔方陣から一振りの短剣が出て、王城の手の中に納まる。
同時にはやて達から取り上げるように鎖が『闇の書』を巻き取り、王城の目の前に
「ルールブレイカー。術式といった魔力で構成されている物ならば自分で好きに改変する事が出来る我が宝具で『闇の書』に干渉するとしよう」
「っ。待ちなさい!そんな事を今行えば回復処理を行っている『闇の書』がどんな異常をきたすか分からないわよ!」
王城の繰り出した鎖。そして、握られた短剣から異様なプレッシャーを感じたプレシアは彼に制止を求めながらも自分の魔力を全開にして鎖を解こうとしたが鎖は砕けず、魔法も放てない。
「やめてっ。今、それに変な事をしたらヴィータが!裕君が!」
「裕?・・・ああ、あの雑種か。いつまでも我が王道を邪魔する道化も『闇の書』に捕らわれたか。いいだろう、ついでだ『闇の書』の異物に対して命じる。『闇の書』よ、『夜天の書』に戻り、且つ、中にあるバグもろとも異物を排除しろ!」
はやての悲鳴じみた声を聴いて、王城は口元を歪ませながら手にした短剣。ルールブレイカーを突き刺す。
すると、『闇の書』全体にまるで血管の様に赤い文様が浮かび上がり、王城の言葉に反応するようにビクビクと震え始める。
その様子に王城は更に愉悦の表情を見せる。そして、その震えが一瞬止まり、次の瞬間には大量の生々しい肉で風船のように膨れだしてきた。その膨張のスピードはあっという間に『闇の書』事態を呑みこみ醜い肉の風船へと変貌した。
天の鎖で縛られている為、その時は溢れ出した肉の塊は王城に触れることはなかったが、肉は膨れ上がろうと密度を高めながらなおも広がろうとする。
密度が溜まりに溜まった風船はどうなるか?答えは子どもでも知っている。
バンッ!
「なにっ?!」
と、王城の目の前で肉の塊がはじけ飛ぶと中に詰められて生々しいピンクの液体が王城に降り注がれる。
彼が着込んでいる鎧もバリアジャケット。いわばパワードスーツのような物なのだが、振りかかった液体がまるで侵食していくコンピュータウイルスの様に増殖していく。
そして、液体がついた鎧から新たな肉の風船の目が出ると、まるで王城の魔力を吸い上げる様に膨れ上がる。
「な、何だ、これはあああぁぁぁ、ぁぁ、ぁっ」
王城の鎧に付着した肉の芽。それが風船のように膨れ上がるに反比例するように王城の体が衰えていく。まるで空気を抜かれ、しぼんでいく風船のように彼からごっそりと魔力と体力を削り取っていった肉の風船にその場にいた誰もが戦き、その場から離脱しようとしたが王城の施した鎖が未だに絡みついており、先程から解除に全力を尽くしているが解ける気配が未だに見えない。
王城は三つの間違いをした。
一つはルールブレイカーを突き立てた時に『排除せよ』という言葉を発した。排除とはその場から取り除いたり、撤去することで消滅することではない。
ルールブレイカーで初期化された後に真っ白な状態の『闇の書』に命令すれば排除してくれると考えた事。
二つ目は初期化される前のリミッターは守護騎士達を通して、闇の書の最奥にいた女性が必死に強化を施した物。
闇の書のバグを抑え込んでいたのリミッターがルールブレイカーの初期化により、強化状態を解かれた。弱くなったリミッター等意味をなさない。
闇の書のバグは外に飛び出すことになった。
『闇の書』プログラム及び『夜天の書』は邪神に対して攻撃しても何らかの手法で対処されると学習していたから邪神。裕を攻撃することは止めて、裕と『闇の書』のバグごと放り出そうとした結果が魔力を急襲し増殖する肉の芽を『闇の書』の外に出してしまうという事だった。
『闇の書』が侵入してきた裕やヴィータを最初から吐き出そうとしなかったのは、シャマルのジャミング。裕のWCCでそれを阻止していた。言うなれば吐き気を催している物のそれを薬や根性で無理矢理押さえていたに過ぎない。
要はバグを押さえつけていた強化型のリミッターをルールブレイカーの初期化により緩めてしまった結果、バグが外に出るということになったのだ。
三つ目は天の鎖にて自分を助けてくれるかもしれない守護騎士や管理局の人間を捕縛してしまった事だ。これでは王城を助けたくても彼を助けることは出来ない。
自分の出した鎖で自分の首を絞める事になった王城。
はやてやシャマルは目を閉じて肉の風船に飲み込まれそうになっていく王城から視線を逸らすことしか出来なかった。
シグナムにザとフィーラ。プレシアに管理局の面は一刻も早くこの鎖を解こうと足掻いていた。
主である王城の意識が無くなったからか鎖の締め付けは無くなり何とか解けた彼等はその場から弾かれたように退避する。
「ちょっ、ちょっと待ってシグナム。ザフィーラ。あの子を放っておいていいの?!」
「自業自得です!それにもう間に合いません!」
シグナムがはやてを急いで担いでその場から離れて行こうとした時に『待った』をかけるが、シグナムの言葉通り、王城の体は『闇の書』から生じた肉の風船。そして、王城から発生した肉の風船は一つになりながらも膨張していく。
はやてがシグナムに声をかけた時には王城がまるで助けを求める様に伸ばした右腕が今にも呑みこまれようとしていた場面だった。
しかも魔力を吸収する性質上、守護騎士に管理局。プレシアといった魔力を主体とした魔導師達に彼を救う手だてはない。
ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ!
と肉の風船から聞こえてくる金属音と肉の断裂音を響かせながら脱出してきた邪神の御業以外には・・・。
「「これが邪神的グラーフアイゼンの最終進化だあああああああぁっ!!」」
「・・・私が知っている鉄槌の騎士のデータじゃない」
巨大なドラム缶の上部分に高速回転するドリルを装着し、下部分には巨大なロケットブースター。そして、真ん中に位置するところには申し訳程度にヴィータが愛用する呪いウサギを機械的にデフォメル化した顔がついた巨大な建造物が肉の風船から飛び出してきた。
それはヴィータの持つグラーフアイゼンが持つ最終形態であるギガント・シュラーク。
彼女が持つ魔力とカートリッジシステムを使い鉄槌部分を巨大化させ、ビル一つを簡単に押しつぶしてしまえそうな鉄槌を裕がWCCで改造。
破壊力を突破力に変換されたグラーフアイゼンのギガント・シュラークはあるドリルの付いたゲッターマシンの姿に変貌した。
自分達がいる『闇の書』内部に異変が起きた事を察知した裕とヴィータは即時に脱出する際にこれを敢行。
巨大なドリルな潜水艦(呪いウサギヘッド付き)を思わせる物に変貌したアイゼンに乗り込み、脱出してきた二人と呪いで外に出られずにいたはやてのもう一人の家族が肉の風船から飛び出してきた姿にはやてとプレシアは一縷の希望を見出すのであった。
脱出のイメージとしては、
チェーンジ、真・ライガー!です。