リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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 とある少女の選択肢。
 本編では2を選択しているのでまずはこちらからどうぞ。



第五十七話 邪神様に 1.告白する  →2.告白しない

 まるでス○イダーマンのようなマスクとかぶった赤いビキニだけをつけた少年が体育館の舞台の上でまるでプロレスラーの様にマイクを持ち、パーティー会場にいた人達の視線を集める。その行動に彼の後ろにいたマスクの集団達も彼の行動に付き合うように拳を天に突き上げた。

 

 

 

 「会場良し!料理良し!参加者殆ど集合!野郎どもぉ、クリスマス・パーティーの準備は十分かぁああああっ!」

 

 「「「いいですぜっ!団長!」」」

 

 それはまるでプロレスがこれから行われようとしているような光景だった。

 だが、知ってるか?

 彼等がいる場所ってば、クリスマス・パーティーが開かれようとしている小学校の体育館なんだぜ?

 

 「良いわけあるかぁああああっ!なによ、その格好はぁああああっ!」

 

 「ぐふぅっ?!」

 

 「「「だ、団ちょおおおおうっ!」」」

 

 アリサの放ったドロップキックが綺麗に赤いビキニをつけた少年。現世邪神である俺の腹に突き刺さりながら部隊の端へとそのまま転がっていった。

 俺は運命に打ち勝った。

 ではなく、あまりにもひどい仕打ちを受ける前にフェイトが幼馴染トリオ&姉を止めてくれた。

 フェイトたそマジ天使。いや、なにその視線。マジで感謝してますですのよ事よ?そんな呆れたような目をしてないで、助けて。

 

 「今からパーティーだというのになんて格好しているよ!」

 

 「なんの格好と言われても・・・。クリスマス・パーティー二次会用のコスチュームだけど」

 

 「なんで二次会のコスチュームをもう着ているの?」

 

 一般人では買うどころか触ることもはばかれそうなほど綺麗なドレスを纏ったアリサにドロップキックを喰らい、舞台裏から現れたすずかもまた綺麗なドレスを着ていた。ナイトドレスというものか?アリサは黒、すずかは白のドレスをつけている。

 このパーティーはバニングスと月村がパーティーに出る食事と貸衣装持ち。テスタロッサはパーティー終了時に清掃業。というか、次世代型ゲッター(ステルス状態)の試運転も兼ねた清掃作業。高町からは特製のクリスマスケーキと、結構な有力者たちが出資してくれている。裏ではギル・グレアムさんやハラオウン家の善意ではやて達の事を嗅ぎまわろうとしている輩の警戒に出ているといった警備面もばっちりである。

 さて、話を戻してすずか嬢の質問に答えるとしよう。それは、お前達が無理矢理、俺を、ひん剥こうとを・・・。何でもないです。べ、別にすずか嬢の視線に怯えたわけじゃないんだからね!

 

 「せっかくパパや忍さんが準備してくれたスーツが沢山あるのにそれを着ないのよ」

 

 だって自分で用意した衣装は着たいじゃん?あと残っているのっていえばトナカイコス(全裸+鹿角のみ)。またの名を全裸せんと君しかないよ?

 

 「俺、何にも縛られたくないんだ。縄でなら縛られたいんだ」

 

 「だからといっても解放感ありすぎるよその格好。あと、荒縄でいい?」

 

 俺のボケに対して懇切丁寧にかつ優しくツッコミを入れてくるすずか嬢。成長したなぁ。あ、最初は優しく、じゃなくて縛らないで、縛らないで。公開プレイは俺達にはまだ早すぎる!

 

 「あと、何よその格好は・・・」

 

 「この格好?この格好はだな・・・。聞いて驚け、この姿こそ、非モテ男達の英雄!その名もぉおおおお~~~~っ、『しっとマスク』だぁっ!」

 

 ひゅぱっと立ちあがりながら綺麗にポージングを取りながら答える俺の姿にイエーガーズ男子団員が歓声を上げる。

 

 「非モテたちの目の前で無駄にいちゃつくカップルに外道な手段で制裁を加える非モテの星!」

 

 「それって、たたの八つ当たりよね?」

 

 「地獄の底から舞い戻った救いのヒーロー!」

 

 「まず自分を救い出そうよ。あと、地獄に落ちていたの?」

 

 「餓鬼、畜生、地獄、修羅、人間道を極めた正義(非モテ限定)の味方!それがすぃいいっとぅ、マァアアアアスクゥアアアアアアア!」(巻き舌調)

 

 「きっとその人は絶対に天道は極めきれないわね」

 

 アリサとすずかは呆れ顔になりながらも俺を解放してくれた。

 変態ルック(自覚あり)な俺から距離を取ろうという思惑があるのだろうか?まあ、それはそれで構わない。何故ならばこの後に催されるイベントは告白大合戦だからな!

 パーティーの序盤からいきなりクライマックスだと?何を言うかと思えば、人生初だってクライマックスなのさ!それに表向きはビンゴ大会の様になっているが、じつはお目当ての女子が見事ビンゴした時、特別賞としてイエーガーズ団員からの愛の告白付きで商品を授与されることになっている。イベントに乗じて告白無事に受け取ってもらえれば後でビンタ付きの祝福の言葉を贈る事になっている。失敗したとしても『その場の雰囲気でしちゃっただけなんだからねっ』と言い訳して二次会で涙滂沱の歌を歌えばいい。『三年目の浮気』でも『ガラスの少年』でもオールナイト歌い尽くそう!敗れ去った兵達は潔くリア充共の怨嗟を呟けばいいのだから!

ちなみに幼馴染トリオ&テスタロッサ姉妹はもちろん、他の女子団員達への愛の告白。更にはゲストとして招き入れた八神一家のうちの誰かにでもOKだ。前もって男子団員との打ち合わせ済み、きっと大合唱でアイの歌が歌われるのだろう。哀でない事を祈る!

・・・あ。と、その前にマイクテスト。マイクテスト。マイクチェックの時間だ!おらぁっ!ではなく、おーい、ちゃんと回線繋げているかーい。今回風邪や家族で過ごすメンバーにもこのイベントには参加できるようにプレシアさんと忍さんに技術提供として携帯電話越しにでもこのビンゴには参加できるようになっている。ビンゴ用紙は既に発送済み。電話でちゃんと届いているのも確認しているから大丈夫。不正が無いようにちゃんとビンゴ用紙は写メで送るように!

 

 「もごぉ!もーごごもごもごご!」(さあ、パーティーの始まりだ!)

 

 「ユウ、なんで口元を押さえながら喋っているの?」

 

 「あ、いや、ねぇ。俺もちゃんと学習しているんだよ。悪巧みを考えていると口に出ているみたいだから口元を押さえているのさ!さらに言うんであれば表情にも出るからマスクをかぶっているのさ!」

 

 「裕君、ダウトや」

 

 ・・・しまった。見事にフェイトの誘導尋問に引っかかってしまった。

はやての指摘に気が付かなければずっと騙されていた。・・・フェイト、恐ろしい子!

 

 「裕君がただチョロいだけだと思うの」

 

 「・・・なのはちゃんにまでチョロいって言われる俺って」

 

 「にゃっ。どういうことなの裕君!」

 

 「だが、思い通りにいくと思うなよ!たとえこの俺を訊問できても第二第三の俺が」

 

 「呼んだ?」

 

 「お姉ちゃんは呼んでないよ。ああ、もう、そんなにお皿に持ったら零しちゃう」

 

 「そもそも今の台詞じゃ詰んでいるで」

 

 くっ、認めたくない現実が俺を苦しめる!

 憤るなのはちゃんの後ろで既にお皿に山盛りの御馳走を持ったアリシアにフェイトが駆け寄り、はやてが俺を残念な子を見るような目で見ている。お、俺、チョロくねえもん!

 若干涙目の裕の姿を見て『やっぱちょろいやろ』と思いはしたものの出すのはやめた。いやだってもう自分のチョロさに泣きそうだったから・・・。




1. 告白する。を選択した場合。

森下家に舞い降りた邪神

 ここで一つの物語を語ろう。
 邪神に恋した少女の物語を。



 少女は元々病弱だった。
 体が弱いからなかなか学校に行けず、また友達も作りづらく、今でも初見の人と会うと距離を取ることも多い、引っ込み思案な少女だった。
 そんな彼女を変えたのは七歳になったばかりの邪神。田神裕だった。
 少女が授業中に風邪による高熱で倒れた。倒れると同時に抗いようのない嘔吐感に負けて吐瀉物に顔や制服を汚してしまった。そんな彼女の様子に誰もが悲鳴にも似たような声を上げて彼女から離れて行った。邪神以外は。

 『俺に任せろ!』

 そう言うなり彼は汚れる事を考えていないのかすぐさまおぶさり、保健室へと直行した。その途中でまた嘔吐してしまった少女は恥ずかしさと申し訳なさ。そして、裕の背中をさらに汚してしまったことに涙を零しながら謝った。彼から帰ってきた言葉は慰めでもなければ謙遜でもなかった。

 『ありがとな』

 まさか感謝の言葉が返って来るなんて思ってもみなかった。彼と付き合って一年経った今でもあの言葉を発する彼はいわゆる変態なんじゃないかと考えさせる物だった。
 保健室に連れて行かれ、なんでありがとうと感謝の言葉を言ったのか聞いてみると彼曰く『馬鹿は風邪をひかない』という事を女友達に言われたらしい。

 少女の吐瀉物の付着 → それによる風邪の感染 → 風邪をひく → 『俺馬鹿じゃない』どやぁ

 それを証明したいという何とも間抜けで馬鹿な理由だ。まるで風邪を引いているのなら誰でも助けるというそんな彼の優しさと馬鹿さ加減を垣間見た気がした。
 何故なら彼は自分の使っていないジャージを私に貸し、彼自身は自分の吐瀉物で汚れてしまった上着を脱いで肌着のまま家に帰ったのだから。
 翌日、彼は当然の様に風邪を引いた。保健室には半袖とはいえ夏服の制服があることを知っているにもかかわらず肌着のまま帰ったのだから。後日、「あんたはやっぱり馬鹿だ」とその女友達に言われたらしい。
 その日から彼になんとなくくっついて行動するようになった。彼の馬鹿な行動の裏には何かと人の縁がある。それは自分と同じように彼に付いて行きたいと思わせるものが男女問わずついていた。
 気が付けばイエーガーズという少年探偵団を思わせるグループを作り、彼の女友達を助けるためのグループの参謀役を任されるという無茶ぶりもされた。・・・体が弱いから頭を使えとかひどい団長だ。だけど、こなせるようにさりげないフォローやサポートしてくれたのを覚えている。
 『計算づくされた馬鹿騒ぎ』。そう感じ取るまでそんなに時間はかからなかった。
 そんな彼の周りには彼の言う美少女とも言ってもいい女友達が沢山いる。彼もそんな彼女達が気になるのだろう。だからこそ彼女達を助ける団体を作った。
 だけど、その団体を通して広がる友人の輪。そして、彼を独占したいという卑しくも狂おしい恋心も広がっていった。
 彼がしばらくの間学校に来なくなった時期がある。それを終えると同時に彼はまた魅力的な少女を紹介してきた。悪く言えば節操なしな彼だが、その連れて来た彼女と彼女の家族も訳有なのだろう。今度のクリスマスパーティーに参加するから皆仲良くするんだぞー。と、幼稚園の先生みたいな紹介をする彼の傍でふざけ合う少女。はやてさんの存在。
 一番付き合いが長い高町さん。何かと性格が似ているアリシアさんが一番恋人になりそうな気配がしていたけど、はやてさんが一番近い気がする。
 なんというか彼との間に遠慮が無いのだ。
 高町さんは団長に助けられた恩があるからかなかなか進もうとしない。
 アリシアさんの場合は団長の方が彼女に遠慮している。
 それに比べてはやてはどうだ。遠慮なくお互いに馬鹿を言いあっている。それは心を許しているといっても過言ではないのではないか。
 団員の皆と馬鹿騒ぎするときは『計算された馬鹿騒ぎ』感を覚えさせられるのに対してはやてさんに対してはそれが無い。つまり彼女が特別な存在なのではないかと勘繰ってしまう。
 だから決意した。クリスマスパーティーに団長に告白しようと魅力的な少女に囲まれた彼のめがねにかなうとは思っていない。だけど、万が一という可能性も有る。一応、これでも男子団員から告白やラブレターを貰ったこともあるから私も少しは可愛いのかなともう。一応、告白は全部丁寧に断った。教室に帰ってきたらで団長と他の団員達がハンカチを噛んでいた。

「き~、妬ましい~」とか。「あの子ってばまたラブレターを貰ったそうよ~」とか。「いーなー、俺もほしいなー」「お前にくれる女の子なんていないよ」「男子からの手紙は?・・・ありかもしれんな」「俺、パス」「俺もパス」「え、俺もう書いちゃったよ」「誰に渡すんだ?」「お前達にさ」「「「・・・・え」」」。

 馬鹿騒ぎしていた彼等に一枚ずつ手紙を渡していく裕。何故か顔を赤らめて・・・。
彼からもらった手紙に書かれていたのは、

『俺達、ずっと友達でいようね』

 「「「だ、だんちょぉおおおおっ!」」」

 「俺達ずっと友達だかんなぁああ!」

 まるでラグビーの様なタックルからの抱擁に男の友情というものを垣間見た瞬間だった。
 相手に恩を着させない彼に心惹かれるのは男女問わずだ。
 そんな彼に一代決心して告白しようとしたクリスマスイブの日。この日に自分の貧弱さを感じたことはない。

 「・・・けほっ」

 「・・・38.9度。今日のパーティーは諦めなさい。お母さんが電話で断りの電話を送るから」

 「・・・お母さん」

 「駄目よ」

 せっかく彼に告白しようとした矢先に風邪を引いた私は終業式を家で迎えることになった。お母さんは私を気遣ってベッドに押しやるとリビングの方へと歩いて行った。
 それと同時に私の携帯に一通のメールが入る。

 『今からそっちへ行きます。










                  待っててね?』

 怖っ?!なんでこんな風に行間とスペースを開けたメールを送るんだろう。時々自分達を率いる団長の思考回路に驚かされる。
 彼の奇行と彼に率いられる男子団員の奇行には慣れてきたところに不意打ちをかましてくる。
 そんな事を考えているとドアのインタホーンが鳴った。

 『ちぃ~~ちゃん。遊びましょ~』

 「千冬っ、110番!変なマスクをかぶった赤い海パン少年が人差し指を空に向けながら家の前にいるわ!」

 その変な海パン少年が団長だとしても私は驚かない。
 千冬はそんな思いのまま母親を落ち着かせるために裕について説明しようとして、ふと足が止まった。
 どう、説明すればいいのかと・・・。



 「と、言う訳でパーティー不参加の人達にも前もってこのビンゴ用紙を持ってきたという訳なのです!」

 エッヘンと胸を張る海パンマスクこと田神裕はお見舞いも兼ねて来たらしくビンゴ用紙を千冬と森下母。今から帰ってくるだろう森下父の分も通された客間で彼女達に渡す。

 「どうしてそんな恰好をしているのかしら?」

 「パーティー不参加の人にパーティー分のサプライズをと」

 森下母の疑問はもっともだ。娘からはとても愉快な少年とその仲間達とで遊んでいると聞かされているがこんな奇行をしていると思われると付き合いを考える様に言われるかも。最悪の場合隔離とか・・・。裕の場合は本当にありえそうで怖い。

 「それはいいんだけど。・・・田神君、マスクを取ったらどうかしら?」

 「え~、そんな事をしたら身元がばれちゃう~」

 恥ずかしそうに身をくねらせながら言う裕。むしろ真冬にマスク装備で海パン一丁の少年が街中を闊歩している方が身元を特定されそうだ。

 「寒くないの?」

 「このホットパンツ(WCCで耐寒性能UP)をはいているから大丈夫っ」

 シャキーンッ。と、ナイスポーズをしながらそう言い放つ彼はどこか誇らしげだった。
 WCCの事など知りもしない森下親子は早々に彼の格好について言及することを諦めた。

 「そ、それじゃあ、お茶でも出しましょうかね?」

 「あ、お構いなく。これを渡したらすぐパーティー会場に戻りますので。早く戻らないとすずかちゃんとかに心配かけちゃうんで」

 変態的な格好なのに紳士的に断りを入れる彼の事を俗にいう『変態紳士』のだろうか。
 外にはここまで来るまで送ってくれた月村邸のメイド。ノエルを待たせている裕は早く戻らないと彼女の主であるすずかや待たせているほかのメンバーに心配をかけてしまうと思っての発言だが、特定の女子の名前が出てきた瞬間に千冬は風邪以外の熱で顔を赤くした。
それは自分からなのは達にした約束を忘れさせるほどに焦りと嫉妬。そして恋心だった。

 「ま、まあそう言わず。お茶の一杯でも飲んでいってくださいな」

 「あ、それじゃあ、一杯だけ」

 日本人の性なのか、一杯のお茶だけを出して裕にはパーティー会場に戻ってもらおうと千冬母は台所へと向かった同時に千冬は裕を押し倒した。それは彼女の母親には見えないタイミングで。彼が座っていたのは割と質のいいソファーだったのか押し倒した音は母親には聞かれてなく、押し倒したことも気取られていない。そこから一気に裕のつけているマスクを取り、彼の顔を確認した後考えなしに自分の唇を彼の唇に押し付けた。

 「・・・ち、ちーちゃん??」

 自分が何をされたのか分からないのか裕はきょとんとした顔を見せたが、すぐに気づき顔を赤くした。
 風邪がうつった訳ではない。自分がした行動が彼にしっかり伝わった事を実感した千冬はそのままの勢いで彼の顔を見つめてこう言った。



 「好きです。裕君。私の恋人になってください」



 その日以来、邪神がしっとマスクをかぶることは無かった。

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