リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第五十九話 邪神様の宝箱

 騒動。もしくは乱痴気騒ぎとも言ってもいいクリスマスパーティーはつつがなく笑顔(?)で終わった。だが、その参加者の中には邪神さんと恋人に成りたかった少女達がいた。

 彼女達のうちの一人が風邪を引いたため邪神に告白することはなかった。むしろ、あの場で告白していたら正気を疑われていただろう。それだけの騒ぎを起こした邪神様の家の前に少女達が集まった。クリスマスの翌日に彼女達は改めて邪神様に会いに来た。風邪をひいていた少女が快復したのもあるが、もう一つの理由がある。それは八神はやてを一時的に田神家で預かる事になっていた。

 ミッドチルダに赴き、これまでの管理局を通して『闇の書』の被害にあった人達に謝罪を入れるべく守護騎士達が赴いている間、はやての面倒は田神家で面倒を見ることになったからだ。

 本来なら自分も行くべきだとはやては言いだしたが、「子どもが何言っているんだ?」と、裕の生ぬるい視線と共に言いくるめられるはやて。伊達に人をおちょくったり裏をかくのが趣味というか仕事というか生きがいという邪神に口で勝てるはやてではなかった。トドメとなったのは「邪神キッス(ぬるめ)をくらわすぞ?」と何やらモザイク加工の掛かった茶色い何かを持ち出す姿にはやては降伏した。彼が言いださなければ守護騎士達が止めていた。

過去に侵した罪は自分達の所為でありはやてには何の関係も無い。念のためにリーゼ・アリアが田神家のリビングではやて同様に預かる形の護衛に回ってくれている。彼女もまたはやてや守護騎士達の事を半ば怨んでいたような物だが、裕が榊原から聞いた情報を元に、彼女達の動作を前もって潰したお蔭で何とも言えない罪悪に悩まされていた彼女だったがはやての護衛という償いにしては少なすぎるかもしれないが納得してくれた。その上での護衛だ。

 まあ、そんなこともあって、年末は一人になるはやてが裕の家にお世話になる前になのは達は告白をして、自分達の色恋に決着をつけようと思った。特にはやても裕に気があるようにも見えたのでそれを思っての行動でもある。

 

 「じゃ、じゃあ、押すわよ」

 

 「う、うん」

 

 「な、なんかドキドキするね」

 

 普段はすぱっと決断し、行動するアリサが田神家の家のインターホンを押す。その後ろにはなのはやすずか。アリシアにイエーガーズの千冬。それについて来たおまけのフェイト。

 何度か彼の家にお邪魔することがある彼女達だが、今日ばかりはその平素な家づくりがまるで巨大な城のような圧迫感を感じさせていた。既にはやては田神の家にいるらしいのでもたもたしていると先を越されるかもしれない。だが、彼に想いを伝えるのはかなりの覚悟がいる。早く早くと思いながらも、ちょっと待って、ちょっと待ってと思う乙女心のせめぎ合いをしながらも玄関の扉が開く。

 

 「あら、いらっしゃい皆。待っていたわよー♪」

 

 「・・・まあ、上がってくれ」

 

 妙に肌がつやつやのピカピカの裕の母。リアが現れた。その様子から下手したら十代にも見えそうなその笑顔。その後ろにはかなりやつれた感じの田神父。洋の姿があった。昨晩は凄くお楽しみだったらしい。もともと口数が少ない彼だが今日はそれに輪をかけて物静かというか生気が無かった。

 

 「お、お邪魔します」

 

 「あらあら皆今日も可愛らしい格好ね。これからデートかしら?」

 

 「そ、そんなんじゃないでひゅ」

 

 珍しくアリシアが言葉を噛んだ姿に更にピカピカと下手したらギラギラと輝いている笑顔に一同目を覆った。リアは彼女達が自分の息子に気があるのを知っている。そんな可愛らしい女の子達が可愛くってしょうがないのだ。

 

 「さあさあ、寒いでしょうしはやく上がって上がって」

 

 今にもスキップを通り越して空中バク天三回転捻りをしそうなリアの後ろについていくなのは達。田神父はそれを見送った後自分の部屋に戻った。

 通された居間にはすでにはやてもスタンバイしていたが何故かその表情は暗い。

 

 「ちょ、はやてさんどうしたんですか?」

 

 「は、はは。聞いてな。ちーちゃん。実はな・・・。・・・君が、おらんのや」

 

 「・・・は?」

 

 「だから、おらんのや。裕君が!」

 

 「・・・え?」

 

 「なんやねん裕君ってば、私達が何か言おうとしたらすぐどっかに行ってまうんやで!しかもどこに行ったと思う!管理局やで、管理局!どっちかといえば裕君の方が関係ないのに、元『闇の書』の主の私を差し置いて管理局行ったんやで!」

 

 ムキーッ!と怒り狂うはやてはようやく動き出した足をぴくぴくと痙攣させながらも腕をバタバタと動かす。その様子をソファーの上で丸まっていた猫。アリアが呆れた目線ではやてを見ていた。

 

 『仕方ないでしょ。あんたは『闇の書』の被害者で。『闇の書』を解決したのは邪神であるあの坊やなんだから…。被害者と当事者じゃ雲泥の差よ。それに今も『邪神レーダー』に反応がある。これはあの坊やが邪神だって管理局も気が付いているのよ』

 

 (まあ、一週間前からなんだけどね・・・)

 

 クロノやロッテと共にはやても含め、裕の周りを警戒していた彼女達。邪神の力を欲した管理局。中には強引な手で勧誘する輩もいる、そんな輩を相手にした彼女達。猫の状態でいるのも少しでも魔力を回復させたいからだ。

 考えたくはないが、邪神がいない今。邪神の親しい人間。親を人質にして勧誘。いや、強要してくる奴がまた出てくるかもしれないから。

 

 (そんな汚い部分を目の前のお嬢ちゃん達に見せないために自分から敵地に乗り込む邪神も邪神だけどね・・・)

 

 「これはもう、裕君の部屋の家探しをするしかないで!」

 

 「それはただの八つ当たりですよはやてさん・・・」

 

 「それについてはモウマンタイやっ。ちーちゃん、これを見てみいっ」

 

 はやてが取り出した紙切れ。

 そこには裕の字でこう書かれていた。

 

 

 

 『俺がいないからって勝手に部屋に入るんじゃないぞ。絶対だぞ』

 

 

 

 あっやしいぃい~~っ。

 日頃の裕の行いを見てきた少女達はこう思った。

 こうも念入りに言うという事は部屋に入ってもいいという事だろう。

 

 「という訳で、すずかちゃん。だっこして」

 

 「なんで私なのかな?」

 

 バリアフリー構造ではない田神邸。二階にある裕の部屋に行くには誰かの補助が必要なはやては一番運動能力が高いすずかにお願いをした。

 生憎、車椅子のはやてにはまだ歩行が困難だ。元『闇の書』である『夜天の書』は邪神と共に管理局の局員と待ち合わせをしている世界にある為魔法が使えない。というか、一般人の千冬がいるから尚更使えない。

 という訳で少女達は邪神お部屋の前にたどり着く。その扉には『Welcome』と書かれた札がかけられていた。これはもう、あれだ。絶対何かが仕掛けられているのだと誰もが身構えた。そして、その扉をゆっくり開く。そして、部屋の中には一個の宝箱が置かれていた。しかも丁寧に宝箱の蓋の部分には『開けるな』というメモが張られていた。

 

 あっやしいぃい~~っ。

 二度目になる少女がしてはいけない顔。怪しがる表情を見せたがその宝箱以外に怪しいところはない。

 普通の部屋の中には勉強机にベッド、本棚。そして妙な存在感を放つ宝箱が部屋の真ん中に置かれていた。

 

 「とりあえずこの箱を開けようか?」

 

 「ちょっと正気なの?」

 

 「でもこの箱を開けない限り進まないで・・・」

 

 「うう、でも、あの裕君が作った宝箱だよ。びっくり箱レベルじゃ済まないよきっと・・・」

 

 「大丈夫やって。きっと・・・。いきなりザラ○かましてくるような物は流石に作らんやろ」

 

 「あれ?メモ用紙の裏にも何かが書かれているよ」

 

 ペロンとメモ用紙をめくったすずかが見た物は。

 

 

 

 『メ○ゾーマ』と書かれたメモ用紙だった。

 

 

 

 「これ絶対ミミッ○だよ!?」

 

 「くそうっ、ここにシャマルがいればイ○パスを使えたのに!」

 

 「いや、必要なのはマホ○ーンでしょ!」

 

 「しっぷ○づきじゃ駄目かな?」

 

 「皆さんドラクエ大好きですね」

 

 部屋の中に入る前からだが女三人で姦しい。それが倍になればもっとだ。

 とにかくフェイトが千冬にばれないように軽く魔法を使って調べた結果、魔法的なものはないらしい。

 

 「多分、罠はないと思うから開けてみるよ」

 

 「魔法的なものが飛んでこない事を願います」

 

 そして宝箱の蓋を開けて邪神のお宝を見ることにした。

 それは全身を釘で滅多打ちにされた藁人形(使用後)だった。

 

 「・・・宝物?」

 

 「あかんて!裕君(邪神)が持っていたらシャレにならんて!」

 

 「しかもギリギリ藁人形とわかるか分からないかぐらいまで釘を打つなんて・・・」

 

 「あ、藁人形に小さい写真が挟まれてる」

 

 その写真に写っていたのは・・・。

 邪神。裕自身の姿だった。

 

 「まあ、なんとなくオチは読めていたけど・・・」

 

 「写真の裏にもなにか書かれているよ」

 

 「えーと、『北斗七星のすぐ横に未発見の星を発見記念』?」

 

 「それは見えちゃいけない星だよ!」

 

 凄い笑顔の裕の写真。それはまるで彼女達を笑っているかのようだ。

 次はグラビアアイドル写真集と文字だけで書かれた大きめの本だった。

 

 「これまでの流れからして、きっと禄でもない気がするわね」

 

 「でもだからって、ここでこの宝箱を閉じるわけにもいかんやろ。というか、皆が帰った後きっと私一人だけじゃあ開けてまう。きっとひとりじゃ処理できん」

 

 「それに団長の好みを知ることもできるし・・・」

 

 「・・・じゃあ、開けるよ?」

 

 アリシアがゆっくりとその写真集をめくる。

 それにはしおりがついており、そのしおりがついていたページをめくる。そこにはなのはたちがよく知る人が写されていた。

 汗でぬれた髪。吸い込まれそうな瞳。道着の下から見える異性を魅了する体つき。そう、その人の名は・・・。

 

 「なんでお兄ちゃん?!」

 

 高町恭也。その人である。

 

 「あ、ザフィーラの写真もある」

 

 ザフィーラの写真もそこには掲載されていた。

 よく見ればそれは女性向けの写真集。そして、そこに掲載されているのは裕が盗撮して無許可で投稿した物であり、後に怒られる結果になる。

 

 「・・・あ、あー、なるほどつまりモテる男になるにはモテる男を研究すればいいという訳ですね」

 

 「驚かせてくれるわね。でも、変ね?あいつの事だからエッチな本でも入っているのかと思ったんだけど…」

 

 「あ、まだ何か入ってるよ」

 

 少女達の探索は終わらない。邪神の宝箱を空にするまでは・・・。

 

 「にゃああああ~~、何か『うねうね動いてぬとぬとする液体がついたモザイク』がぁあああ~~!」

 

 「あいた、く、ない?綿毛のトラバサミなんて初めて見たわ。すんごいふわっふわっ」

 

 「なんか、小型マイクが何かをぼそりぼそり言っているような・・・?『お嬢ちゃんどんなパンツはいてる』ふんすっ」

 

 「すずかさん、一応団長個人の物ですから壊さない方がいいと思いますよ」

 

 「あ、裕の事も写真集に乗ってる選考外枠で・・・」

 

 「一応自分も応募していたんだ・・・」

 

 少女達の家探しはまだ始まったばかりである。

 

 




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