リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第六話 邪神様に敬礼!

 アリサと知り合って更に一年が経ち、二度目の小学一年生を迎えたその日。

 

 「なんで一緒のクラスじゃないの!」

 

 「…裕君」

 

 そんなことを言われても…。

 邪神にだって出来る事と出来ない事があるんだよ。

 アリサは不当な怒りを俺にぶつけ、なのはちゃんは若干涙目で俺を見る。

 私立の学校なのでそれなりに学力をつけないといけない。特にこのご時世では小学生の頃から英語を習う。

 見た目からバイリンガルなアリサになのはちゃんと二人で教えてもらったところ。

 

 一番俺が英語出来なかったとです。

 上を向いて歩こう。涙がこぼれないように…。

 

 前世の記憶と、見た目は外国人なお母さまを持つ自分としては悔しいものがあった。

 あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ。

 エイゴデキマセン。

 なので、国語、算数で点数を稼ぎ、何とか入学できた。

 WCCで『翻訳』の効果を持つアクセサリーを作るかギリギリまで悩んだが、使わないことにした。だって目の前でなのはちゃん達が頑張ってお勉強しているんだぜ。出来ませんよ、そんな不正。

 と、まあそんな苦労を重ねてきた三人。

 それが入学と同時に俺だけ違うクラスになるのが寂しいけれど仕方がない。でも、じきに慣れるだろう。

 あと、今更ながら気づいたんだが、ここってアニメか漫画の世界じゃなかろうか?

 だって、クラスメートの中に緑色の髪をした男の子やピンク髪の女の子がいる。カラーひよこじゃないんだから…。

 なのはちゃんもアリサも濃いキャラだったけどクラスメートも濃い。

 とりあえず、存在感を出すためにも自己紹介で一発かましてやりますか。

 

 「田神裕です!皆、気軽にダーリンとでも呼んでください!」

 

 「「「「「ダーリイイイイィン!」」」」」

 

 うん。このクラスでなら俺やっていけそうです!

 

 

 

 昼休み。

 クラスメートの皆でお弁当を食べていると隣のクラスが騒がしくなった。

 特にアリサの絶叫じみた声が聞こえる。

 ところどころで「なのは達は俺の嫁だ!」とか、「ひっこんでいろモブ!俺の物だ!」とか、「踏み台が!オリ主は俺だ!」とか、よくわからない言葉が飛び交う中、「気安く名前を呼ぶな!」「照れてんのか、アリサはツンデレだな」という言葉には同意を示す。

 アリサはなのはちゃんや公園で遊んでいたサッカー仲間には厳しくも優しい子です。

 普段はツンツンな彼女だが、相手が弱っているところを見ると優しく接することが出来るいい子です。

 ちなみに俺は初対面時がアレだったので遠慮なく呼び捨てにさせてもらっている。

 なのはちゃんはちゃんづけで呼べてもアリサはちょっと…。

 一度、アリサをちゃんづけで呼んだらお互いに鳥肌が立った。それ以降は互いに呼び捨てです。

 そんな中、「ところですずかはどこだ?」「恥ずかしがって出て行ったのか?さすが俺の嫁」「あの淑やかさは俺のだ!」と、隣のクラスはヒートアップ。

 

 「~~~っ」

 

 俺の隣でお弁当を食べている月村さんがプルプルと震えだす。

 彼女が件のすずかなのだろうか?

 名前は忘れた。すまん。

 

 「大丈夫か、月村さん?」

 

 「…知らない人たちが私のことを話してる」

 

 うん。それは怖いね。

 知らない人が自分のことを話していたら怖い。震えるのも当然だ。

 お呼ばれされているだろうけど出ない方がいいだろう。

 

 「う、うう、怖いよーっ、裕君っ、裕くーんっ!」

 

 なのはちゃんが騒いでいる誰かの圧力に耐え切れなくなったのか泣き出す声がした。

 ここで行かなきゃ男が廃る。というか、恭也さんと士郎さん。美由紀さんに殺される。桃子さんには精神的に殺されそうだ。

 

 「…行くのか、ダーリン」

 

 「ああ、行ってくるよ。俺帰ったら、デザートのさくらんぼを食べるんだ」

 

 俺は音も立てずに椅子から立ち上がる。

 フラグもきっかり残して、いざゆかん隣のクラスへ。

 

 「総員、ダーリンに向かって…敬礼!」

 

 びっ!

 

 月村さんを除くクラスメート全員が敬礼をして俺を送り出してくれる。

 そんな皆に親指を立てて教室を後にした。

 

 「…なんで皆、敬礼が揃っているの?」

 

 月村さん、それは楽しいからです。

 

 さて、教室を出て、個室トイレに入る。便座の上に座ってポケットからバニングスさんから貰った懐中時計を取りだしカスタマイズを行う。

 キラキラと光る懐中時計に『身体能力アップ(中)』の効果を付属させてなのは達がいる教室へと向かう。

 すると、床に座り込んで泣いているなのはをアリサが守るように立っている。

 そんな二人の前には銀髪で肌黒のイケメン君。

 金髪で肌白のイケメン君。

 茶髪で片方銀。片方金の瞳を持ったオッドアイ君。いや、表彰台君の方がいいか。

 金髪。銀髪。表彰台君が騒ぎの原因らしい。

 その三人はお互いに言い争っていて、こっそりとなのはちゃんとアリサに近付いていく。

 俺に気が付いたアリサはその行動の意図を汲み取ったのか、なのはちゃんを立たせる。このままこっそり抜け出そうとした瞬間。

 

 「裕君っ。裕くううううんっ!」

 

 俺を見つけたなのはちゃんが抱きついてくる。

 よほど怖かったのだろう、抱きついてきた体はプルプル震えている。超低振動抱きつき枕。いやあ、超気持ちいい。ではなく、そのまま抱きかかえて全速力で教室を抜け出す。

 何故なら後ろから異様なまでの気配が三つ俺に向けられたからだ。

 

 「「「てめぇっ、ごらぁっ、モブゥ!」」」

 

 後ろで三人が叫ぶが聞こえんな。

 アリサと共に教室を飛び出し、廊下を駆け抜ける。

 

 「「「なのはとアリサを離しやがれモブゥ!」」」

 

 なのはちゃんはともかくアリサは自力で飛び出しているのでとんだ言いがかりだ。

 

 「アリサさん、呼んでますよ?」

 

 「あんな奴等お断りよ!」

 

 ですよねー。

 飛び出した勢いそのままに廊下を駆け抜けて行くと後ろから俺をモブと呼ぶ三人が追ってくる。

 お嬢様でありながら習い事やスポーツジムに通っているアリサは、なのはちゃんを担いでいるとはいえ小学生にしてはかなり速く走っているカスタマイズ効果を受けた俺の速度についてきている。

 お嬢様じゃなくてアスリートのイメージが強い。だが、そんな俺達に追いかけてくる三人。このままじゃ追いつかれる。

 とりあえず、階段を駆け下りて目に入った保健室に入ってやり過ごそう。

 アリサが保健室のドアを開けると同時に俺が入り、アリサが続いて入り扉を閉める。

 保健室の先生がいれば匿ってもらうはずだったのだがいないので俺達でやり過ごすしかない。

 

 「「「そこかー!」」」

 

 ドアの向こう側からあの三人の声がする。

 仕方がない。

 

 「アリサ、なのはちゃんっ、ここに入れ!絶対声を出すなよ!」

 

 なのはちゃんを保健室に備え付けているベッドの中に放りこんで、更にアリサを押し込んで布団をかぶせて、カーテンを閉める。ついでにWCCでカーテンに細工をかける。

 カーテンを閉めているが、カーテンの向こう側から見ると、『カーテン空いておりベッドの中には誰もいないように見える』。いわゆるだまし絵。

 先に二人をベッドの布団に入れたのはこの二人にWCCのエフェクトを見られたくないからだ。

 後はこれがばれないように祈るだけだ。

 

 「ここかー!」

 

 声からして金髪君。後から知る事だが、金髪君は残る二人を蹴飛ばして地面に強く頭を打ちつけ保健室の扉の近くで気絶していたらしい。

 息をひそめている俺達がいないか探している金髪君の気配がすぐ近くまで感じられた。

 

 「・・・・・・・」

 

 「…ちっ、窓から逃げたか。必ずとっちめて俺の嫁を取り返してやるぜ」

 

 そう言って微かにあいている保健室の窓を開け放って飛び抱いていく金髪君。

 金髪君の気配が遠ざかったのを感じてカーテンの隙間から様子を覗う。…よし。

 

 「ほら、二人とも出てきていいぞ」

 

 「あ、ちょ、まっ」

 

 そう言って、ベッドの布団をめくるとそこには泣いて目を真っ赤にしたなのはちゃんと、布団と一緒にスカートまでめくられたアリサ。

 

 「……あ~」

 

 「……何か言いたいことはある?」

 

 羞恥と怒りで顔を赤くしているアリサが握り拳を作ってプルプル震えていた。

 そんな彼女に俺は。

 

 「黒はまだ早い!」(ソフト○ンク犬風)

 

 未だ追われている身なので、大声を出すわけにも大きな音を出すわけにもいかないアリサは俺の両頬を強く引っ張ることで憤りを発散することにした。

 

 




 後日。

 「裕、嫌がる涙目のなのはをベッドに引きずり込んだそうだね」

 「…責任はどう取ってもらうのかな」

 なのはちゃん、どういう伝え方をしたぁああああっ!

 週に一度の高町道場の訓練日。
 邪神は高町親子の猛特訓と言う名の私刑を受けることになった。


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