リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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邪神様の愛。というか闇が一部覗ける話です。


第六十話 うちの邪神様がヤンデレすぎて笑えない。

 プレシアとギル・グレアム。その使い魔リーゼ・ロッテを左右に並べ、後ろからハラオウン親子に守護騎士達。囲まれた裕はとある管理世界に設置された管理局の施設にやってきた。その施設では管理世界・管理外世界の動向を見守り、干渉すべきかどうかを観測する施設。この施設があったからこそ管理局はJS事件で迅速に地球に干渉することが出来た。

そして、邪神はそこで今後の事についていろいろと話し合う予定だ。

 裕は黒い袴に狐の面。金の懐中時計に指輪といったお気に入り且つ最高装備。バニングスや月村。テスタロッサといったパトロン達から装備類は見た目に反してバリアジャケットには及ばずともそれの半分。そして身体能力の強化。更には冷静さを保つ効果を及ぼすといった防御力と判断力を伴ったパワードスーツを着込んでいるようなもの。

 そんな臨戦状態の邪神と相対するのは初老の男性に三十代半ばほどの男女。彼等が管理局の代表であり、邪神との交渉に来た人達だ。明らかに頭脳系な人達だ。この人達相手にどこまで我を通せるか。ハラオウン一家含めて裕の出方を見守ることにした。彼の身柄に不自由があれば即座に援護に入る予定だ。

 邪神を相手に。敵対したら碌でもない事になる。個人的に、集団的に敵対した事があるプレシア達は管理局の人間たちを守るため意味でも援護に入らなければならない。

 

 「君が邪神。タガミ・ユウ君だね」

 

 「邪神?何の事ですか?」

 

 既に調べはついているという事は裕も知っているだろう。狐の面をかぶっていながら、こちらの動揺を誘っているのか、そんな事も知らないのかと呆れ気味に表情を変えようとした管理局代表の三人だったが、

 

 「俺は何処にでもいる通りすがりの美少年です」

 

 (((((全次元世界の美少年に謝れ!)))))

 

 邪神を除くその場にいた全員の想いが一つになった。

 惚れんなよ?と、ポーズをとる邪神は心の中でガッツポーズをとる。これでこちらのペースで話せると思った。

 

 「まあ、それは置いといて・・・。俺からの要求はこれぐらいです」

 

 一つ、邪神である自分に管理局に勧誘しない。問題事を押し付けない。

 一つ、守護騎士達の過去の罪をはやてに被せない。

 

 「・・・ほう。それが君の要望かね」

 

 「間違えるな。要望じゃなくて、要求だ。これを果たせば俺にしでかしたことは許してやる。まあ、二つ目はともかく。一つ目が通らない場合、今まで俺にしでかしたことをそちらがしでかした事を管理局関係者の全員にやり返す。というかやり通す。具体的には拉致監禁に強要と言ったところか?」

 

 「何のことかね?」

 

 子どもである裕の上から発言に眉一つ動かさず、さらっと狐の面の下から聞こえてきた拉致監禁と言った物騒な言葉に平然と返す管理局の初老リーダー。我々は関係ないよと言った顔をしている。顔の厚い奴等だとプレシアは思った。だが、狐の面の下で邪神がほくそ笑んだのも感じとっていた。

 

 「これを見てもそう言えるのか?」

 

 裕は懐から取り出したプレシアに作ってもらったリモコンのスイッチを入れる。

 

 ギャオオオオオオオオオオンッ!!

 

 その瞬間、施設のはるか上空で何もない空間から現れた鋼の龍の咆哮が鳴り響き、裕達がいる施設全体を咆哮だけで揺れ動かす。その爆音に誰も驚き屋内にいるにもかかわらず鋼の龍。ドラゴン・クォーターが現れた頭上を見上げた。

 けたたましく鳴り響く異常事態を知らせるサイレンと共に幾つものモニターが浮かび上がり鋼の龍の姿を映し出す。それは邪神の最大戦力であり、彼の唯一持つ機動兵器。

 管理局の人間だけではなく、裕と共に来た守護騎士達やプレシア達も驚いている。特にプレシアの反応は顕著だった。

 

 「・・・あ、押すボタン間違えた」

 

 「おいっ、今なんのボタン押したんだよっ!」

 

 それは何かあった時の為に出撃させるために配備したステルス状態のドラゴン・クォーターの咆哮だった。どうやら報告にあった邪神のうっかり癖が出たらしい。管理局側の三人は緊張の表情を崩さないまま彼に畳み掛ける様に声をかけた。

 

 「我々は友好的に話し合いをしている最中にそのような事はしない方がいい。たとえ念のためにとはいえ」

 

 「何言ってんですか。管理局という存在を認知してから今まで友好的だと思ったことは一度もありませんよ」

 

 返された言葉は明らかな敵意。最初に行ったように邪神。裕は管理局に中立よりも敵対的な感情があると言いきった。

 プレシアの事情を知ってから裕は管理局に良いイメージを持っていない。それはプレシアと友人である榊原からの情報から集めた物だ。それでもリンディやクロノと言った『裕にとって好ましい人物』達がいるので基本的には中立だった裕だが、それもここ一週間で敵対することになる。

 

 「…悪い事は言わないわ。邪神への勘繰り。情報収集及び捜査を外してください」

 

 「そうだ。我々は彼に恩はあっても恨みや禍根はない。確かに彼の力は魅力的であり危険だ。だが、彼の行動を束縛するのはやめてほしい。それが彼の為であり我々の為だ」

 

 裕の後ろにいた管理局サイドのリンディ。グレアムが口添えをする。

 触らぬ神に祟りなし。

 裕のご機嫌を損ねるとロクな目に遭わない。それは守護騎士達がよく知っている物だ。

 

 「どうしたのかねリンディ君。グレアム提督。彼の力、自らを邪神と称するその力の優位性。危険性は近くで見ていた君等でがよく知っているだろう」

 

 「然り。そして、それを今の様な『うっかり』で暴発させてしまえばどうなると思う。文字通り世界が滅ぶかもしれないのですよ」

 

 「我々管理局がそれを管理すべき力です。子どもが使うにはあまりにも巨大すぎる」

 

 確かにWCCは使いようでは魔法より凶悪だ。なにせ、一度加工すればその品質が劣化しない限り能力が付きっぱなしの極悪兵器にもなり得る。ドラゴン・クォーターがそうだ。

 

 「なに、彼にも損はさせない。可能な限りの「断る」・・・。なに?」

 

 「断るって言ってんだ。てか、そっちの返事がまだだぞ。さっさと俺に詫びを入れろ。『ごめんなさい』が言えんのか」

 

 明らかに侮蔑の感情を。隠そうともしないその態度に管理局から来た交渉人の男女のこめかみが浮かび上がる。

 

 「君、いくら子どもと言えど立場というものを・・・」

 

 「あんたらが俺にしでかしたことに比べれば微々たるもんだろ?」

 

 「だから我々はそのようなものは知らないと言っている」

 

 「へえ?そう出るんだ。彼等の持っているデバイスのログや経歴を見ると管理局の人間だって出て来たけど・・・」

 

 「『管理局』のデータと偽った犯罪者だな。こちらで引き取ろう」

 

 「あんたは見知らぬ犯罪者を見知らぬ組織に預けて安心できるのか?それもその犯罪者と組織がグルになっている可能性があるのに?」

 

 裕が普段通りにしている間。WCCで強化されたデバイスを持った榊原にプレシア。リーゼ・ロッテ。アリアやクロノが裕の身辺を探っていた管理局の人間らしき者達を捕縛した。元から素養の高い魔導師である彼等にWCCで強化したデバイスを持たせたのだ。『邪神レーダー』もそれぞれに渡しているのでその探査能力は群を抜いている。

 更に尋問の際には嘘発見器というかリトマス紙のような物にWCCで強化した後の残らない『自白剤』など裕がサポートするだけでその性能はぐんと上がる。デバイスに施されたブラックボックスや機密事項もWCCにかかればいとも簡単に解かれてしまう。

 あくまでWCCの事は隠しつつ、吸い上げた情報を開示しても目の前の三人は『知らない』と通すだけだった。

 

 「物を加工する君のレア。いや、ユニーク・スキルというべきか。それがあればどんな情報も意味を持たない。何せ加工し放大なのだからな」

 

 「だから、我々とあれとは無関係だ」

 

 「だ。そうだ。残念だったな」

 

 裕は再度リモコンをいじると新たに浮かび上がるモニター。そこには両手両足鎖で縛られた状態の男女がいた。それは先程話した管理局の人間と思われる諜報員たちだった。

 その内の一人、諜報活動のリーダーである男が涙を滝のように流し、口からはだらしなく涎を垂らしながら、助けを請う。助けてくれ、死にたくない。と、

 彼とはある約束をしていた。

 彼を助けるために管理局が己の非を認めたら、そのまま返す。だが、認めなかった場合。実験台になってもらう。WCCで特殊加工したデバイス。

 

 『いやだぁあああああああっ!?あ、ぎ、ぎがぁああああああっ!?!!?』

 

 映像に映し出される男の胸に小さな赤い染みが生まれ、そのしみが一気に体全体に広がり始める。その染みが広がるにつれ男性の皮膚部分も黒く染まり上がる。やがてその染みが体全体を覆い、男の意識はそこで途絶えた。そしてしばらく痙攣する事数秒。男の痙攣していた右腕が不自然に破裂した。それは膨らませ過ぎた風船ように。そして、破裂した腕に変わってまるで焼死体の様にくろく、水死体の様に光沢を放つ腕というにはまりにも不細工すぎる肉塊が生えていた。

 

 「な、何をした?!」

 

 交渉人リーダーと女性はあまりの光景に息を呑みこんだ。その光景を見守っていた守護騎士やプレシア達も絶句している。彼女達もこうなるとは思わなかっただろうか。

 

 「何って、決まってんだろ。見せしめだよ。見せしめ」

 

 狐の面をかぶり直し不敵に笑う邪神。

 彼の能力は生体。生きている物に反応しないのではないのかと自分達が持っている情報を思い返す。今まで隠し持っていた能力なのかと。

 

 「・・・見せ、しめ。だと」

 

 「俺の家族に。友人達に危害を加えようとしたんだ。それ相応の罰ってのを与えるのが当然だろ」

 

 「タガミッ、お前、奴に何をした!」

 

 未だにビクンビクンと痙攣している諜報員。生きているのか死んでいるのか分からないくらいの涎と排泄物を体中から溢れ出している。大の大人が演技でもやりたがらない脱糞をするはずがない。諜報員があんなに怯える様子を。無様を晒すはずがないと。だが、映し出された諜報員の姿は何だ?それを近くで見ている他の諜報員の怯えは何だ?それら全てがまるで現実だと言っている。そう伝わる。

 

 「JS事件で俺はデバイスというものを知った。デバイスとは魔力を持つ人間の魔力を使ってその不可思議な力を発動させる。自働防御とかもそうだな、本人の意志と関係なく使用者を守ろうとする機関がある」

 

 「・・・まさか」

 

 管理局が強く出ることが出来るのは魔法が使える人材があり、それを従えるからだ。それは同じ魔法の力を用いたモノ。だが、それが邪神に支配されるなど。第一人体の作り変えるデバイスなど作れるはずがない。

 

 「俺は知った『闇の書』の機能の中に魔道の力持った肉の体を作り上げる機関を」

 

 「ユウ、お前。まさか・・・」

 

 「確かに貴方なら作れるでしょうけど。そんな、まさか・・・」

 

 デバイスは物である。そこに魔力があればそれを使って不思議な力を生み出すことが出来る。所詮物である『闇の書』が肉体を作り出すことが出来た。

 

 「その二つの知識、技術に触れた俺はある実験をしてみることにした。魔導師につけさせることで俺に従順な部下が作れないかと。それが、これだよ」

 

 『キュウウウアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 諜報員の人だった体の部分はすべてはじけ飛ぶとそこにあったのはまるで黒く焼け焦げたようなゴム人形のような異様な怪物。その怪物は元になった人間の残滓だろうか目だけが残っていた。口の方だけは異様に変化し、まるで虫のようなマスクのようなくちばしが生えていた。

 

 「そのデバイスをつけた人間に莫大な力を与え、絶対遵守で俺を守る。強化人間・インベーターっといったところか?」

 

インベーダーは自分と同じように鎖に繋がれた他の諜報員を見つけるとその何体を活かしてちゅるんと拘束を解き近づいてくる。来るな。来ないで。と泣き叫ぶ諜報員だったがその声は会議室にいた裕にも届いていたはずだ。だが、裕は冷たく言い放った。やれ。と、

 

「あびうぎゅうううがああああああああっっっ!!?!?」

 

インベーダーは拘束されている人間の顔を自分の方に向けると同時に正面からその顔にかじりついて、その諜報員の顔に穴をあけた。この時点でこの諜報員の命はない。だが、恐ろしいのはここからだった。

何を思ったのかインベーダーは自分の腕を食いちぎるとその何もかも無くなった顔のあった場所に放り投げる。すると、ビクンビクンと痙攣して十秒弱。その諜報員の体も破裂した。そしてそこに出来上がったのは二体目のインベーターだった。

 

「こ、これは合成だ!合成映像に決まっている!」

 

「なあ、交渉人さん。いい加減認めた方がいいよ。そうすれば残っている諜報員たちも助かるんだけど」

 

 「君が命令を取り下げればいい事だろう」

 

 「・・・ああ、確かに俺が言えば止まるだろうな」

 

 「なら」

 

 「俺が直接あいつ等に触れないとあいつ等は止まらない。俺が触れるまで増殖を辞めない。それこそ、魔導師を糧にネズミのように増えていく。凄いよな、『闇の書』のバグってのは・・・」

 

 狐の面で隠れているからわからないが邪神の発する言葉は嬉しそうだった。実験に上手くいった。自分達が動揺しているのがおかしくてたまらない。そんな薄暗い声色だった。

 

 「いいのか君は!これは殺人だぞ!」

 

 「何言っているんだ?これは正当防衛だ。俺の家族や知人たちの情報を嗅ぎまわり、捉えてみればこちらの捕縛や脅迫の使命をおびている。その場で即座に殺せたにもかかわらずそれを保留していたんだぞ」

 

 「だからといって」

 

 「間違えんなよ。俺はチャンスをあげたんだ。あいつ等を助けるチャンスを。あいつ等の命を見限ったのはお前等だ」

 

 「だ、だから、彼等と我々は関係ないと」

 

 「関係が無いなら執行権は俺にある。被害を受けたこの俺に」

 

 映像に映し出されたインベーダーはなおもその数を増やしていく。また一人また一人とその犠牲になっていく。その犠牲者の中には交渉人にやってきた人の名前を叫びながら命乞いをする人間もいた。

 

 「こ、こんな事をしてただで済むと思っているの。管理局はあなたを敵とみなしますよっ」

 

 女性の交渉人は震えながら邪神を睨みつける。

 

 「あんたは管理外世界で。地球で行われている犯罪に口を出すのか?出さないだろ」

 

 邪神の声色は変わらず薄暗い笑みを含んだ声色。

 

 「その力、その使い方、その思考、その存在!君は危険すぎる!」

 

 

 「別にそっちが何もしなければこっちも何もしないよ。因果応報って言葉知らないか」

 

 邪神は諭すように言うが交渉人たちの顔色は子どもに口がよく回る子供が調子に乗っているという憤怒と何のためらいもなく非人道的手段を用いる邪神の手腕への恐怖で染まっていた。

 

 「・・・そうか、その言葉。対応。後に後悔することになる。よく覚えておきたまえ。話は以上だ」

 

 交渉人たちは彼と言葉を交わすことは何もない。放った諜報員は全滅。今から本部に戻り邪神の危険性を伝え、彼の排除を行う手続きを踏もう。そう思い立って席を離れようとした瞬間だった。

 これまで一言もしゃべらなかった守護騎士のシャマルとリインフォース。クライド・ハラオウン。グレアムの使い魔ロッテ。の四人が彼等に飛び掛かった。交渉人の男性にはシャマル。女性にはクライドが組み敷くと同時に顎が外れるくらいに口を開けると、そこから黒い物体が零れだす。

 

 「ひっ。ま、まさか、インムゥアアアアアガアアアアッ」

 

 シャマルの口から零れだしてきたのは先の映像で見てきたインベーダーだった。その黒い物体は自らを液体へと変貌させて、押さえつけた男性の口の中へと注ぎ込まれ、入りきれなかったそれは溢れ出し全身をコーティングするように男性の体を覆い尽くす。そして、

 

 「ギュアアアアアアアアアッ!!」

 

 濡れたゴムを擦りつけたような、耳障りな声をあげながら新たなインベーダーが生まれた。

 

 「いやっ、いやぁあああああばあぁああああああっっっ!!」

 

 シャマル同様にクライドの口から溢れ出した黒い液体が女性も同様に包み上げ新たなインベーダーを作り出した。

 

 「な、なにをっ、なぜこんな事を・・・」

 

 「おいおい、そっちが言ってきたんだろ『今から君を殺す』って。殺されたくないから殺した。これって、立派な正当防衛だろ」

 

 「それは貴様がそう誘導したからだろう!」

 

 「おいおい、俺の要求は経った二つだろ。俺に謝れ。はやてに迷惑かけるな。そうすれば許してやる。それが出来なかったからこうなるんだろ」

 

 プレシアは止めない。いや、止められないといったところか。リンディは自分の旦那がまさかこのような状態に陥っているなんて思いもよらず、そしてこのような事になってしまったショックで気絶してしまったのかグレアムに支えられる。クロノもあまりのショックで言葉どころか身動き一つとれない。守護騎士であるシグナムとヴィータも何か言いたげではあったが命の恩人と言ってもいい邪神に何も言えず、彼の言葉にははやての助命嘆願もある為に動けない。

 

 「これは人道的な問題であって」

 

 「勘違いすんな。これは『ごめんなさい』と言えなかった。それが無くても『そちらから何もしなければ何もしない』と言った俺に『お前を殺す』と言ったお前等が招いた結果だ」

 

 狐の面か見えるその瞳の暗さ。それは何よりも淀んだ泥沼のようにも見えた。邪神を名乗る少年を手駒に取れればとやってきてみれば既に彼の手のうち。いや、腹の中だった。

 交渉人は悟る。我々は触れてはいけない逆鱗に。邪神の怒りを買ったのだと・・・。

 

 「あと、ドラゴン・クォーターはあと三隻用意していてな」

 

 邪神はとつとつと語り始める。

 手に持っていたリモコンを操作して新たなモニターを浮かび上がらせる。そこには三体もの鋼の龍が映し出されていた。

 

 「それには百近くのインベーダーが搭載されている」

 

 「ま、まってくれ」

 

 邪神は席を立ち、交渉人に近付く。

 切り替わったモニターに映し出されたのは邪神が生み出した黒い化物が蠢く光景だった。

 

 「その三隻は全て管理局のあるミッド・チルダを目標に進んでいる。俺が命令しないと止まらない。そんな命令を出す理由も今無くなった」

 

 「まて」

 

 邪神は笑う。こうなったのはお前の所為だと。

 

 「・・・さあ、互いの生き残りをかけた戦争を始めようか?」

 

 「まってくれぇえええええええっ!!」

 

 

 

 それから必死の説得と謝罪をした交渉人はどうにかして邪神の機嫌を取る。

 管理局には『邪神は管理局が取るに足らない存在』であるという事と『八神はやてへの誹謗や中傷はさせない』事を約束させたうえで、地球に次元犯罪者及び余計な干渉はしない・させないように約束させた。

 そう約束させた後、インベーダーにされたと思っていた交渉人の男女。そして、諜報員全員が実はほぼ無傷で返されることになる。

 シャマル達の中に潜んでいたと思われたインベーダーも元から自動ロボットの外見を彼女達に似せて加工した物。流れ出した黒い液体はとりもちのような物でそれに覆われた瞬間に覆われた中身と予め魔法で姿を消したシャマルと一緒に持ち込んだインベーダーロボットをWCCのシフトムーブで入れ替えた。勿論暴れられたらばれるのでシャマルと同様にステルスの魔法で姿を消したザフィーラがその意識を瞬時に刈り取った。交渉人そして、諜報員たちが見せられた映像も途中からは合成映像だったとネタバレもしておく。それと一緒に、こう言っておいた。

 

 『やろうと思えばできるんだよ』

 

 それは邪神からの最終通告であった。

 この日の出来事は語られることはなかったが、邪神の存在はそのまま黙殺されていくのであった。

 

 

 

 管理局との話し合いも済んで地球へと帰るドラゴン・クォーターの中でハラオウン親子。グレアムは裕の行動に文句を言ってきた。

 

 「裕君。さすがにあれはやり過ぎではないかね」

 

 「そうよっ。いくら脅しでもあれは…」

 

 「え?脅しじゃないけど?」

 

 「は?」

 

 「俺はね。なのはちゃん達が大好きなんだよ。フェイトもはやてもアリシアも皆が大好きなんだ。榊原君も好きだぜ。皆が笑っているのが好きなんだ。だから、な」

 

 裕は狐の面を取りながらこう言った。薄暗い瞳のままでこう言った。

 

 「あいつ等の笑顔を壊さない為ならなんだって出来る。あいつ等が笑顔になれるんだったらなんだってやれる。あいつらの笑顔を守れるんだったら何でもできる。それがたとえ戦争だろうとね」

 

 どこまでも暗く、熱を帯びているがそれは決して触れてはならない狂気じみた瞳をした邪神の姿がそこにあり、その姿を見た者達は皆こう思った。

 

 邪神を本気で怒らせてはならないのだと。

 


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