管理局との話し合いが終わったと連絡を受けたなのは達は裕と守護騎士達を迎えに行くために待ち合わせた場所にやって来たなのは達。そこはアリサに魔導師やジュエルシードなどの邪神のことを知らせた港の一角だった。
先日の田神家訪問から二日後の事だった。もうすぐ年越し。初詣に行こうと裕を誘うつもりでもあった少女達。生憎、千冬は体調を崩したため彼等を迎えに来たのは魔法に関して大なり小なり関係する少女達だった。
「・・・榊原君、大丈夫か?」
「おう、大丈夫だ。団長がいない間、虫よけは俺がやる」
はやてが心配そうに見ている先にはあちこちに生傷が見える榊原がいた。今朝方、白崎とバトっていた。なのは達が仲良く裕を迎えに行こうとした瞬間に白崎がやってきた。いかにも偶然を装って嘘くさい爽やかな笑顔を見せながらやってきた白崎を見た幼馴染トリオは一斉に無表情になった。それはもう、近くにいたテスタロッサ姉妹。そして、以前は自分もこんな風にさせていたのかと思った榊原は罪滅ぼしの為にも白崎に喧嘩を売って結界を展開。ドラゴンとドリルの喧嘩が勃発。WCCで強化されたコアドリルが無ければ生傷だけでは済まなかっただろう。
「・・・あ、魔法の反応が出た。もうすぐやって来るよ」
フェイトはバルディッシュから読み取った反応を見て皆に注意を促す。と、同時に魔方陣らしきものが現れて、何やら愉快な音楽が流れてる。
じげんのう~みから、やぁああってきた~♪
ぼ~くら、ゆかいなオットセイ~♪
ずんどこオットセイッ♪
「たぁ」
それはまるでオットセイに丸飲みされかかっているような着ぐるみを着たシグナムが艶めかしいふとももを出した状態で妙なポージングを取りながら現れた。
(・・・おい、シグナム)
ずんどこオットセイッ♪
「えい」
「・・・シャマル?」
自分の守護騎士の将。そのあまりの変わりように主であるはやてはショックでツッコミが遅れた。羞恥で顔を赤くしていて絶対に来そうにない着ぐるみと足を出したそのファッションスタイルに唖然としていたら彼女に続いて現れたシャマル。こちらはなんだか楽しそうだが、シグナムと同じ格好だった。それは後から出てきた守護騎士達もそうだ。
ずんどこオットセイッ♪
「てや」
「・・・ヴィータちゃん」
どこか諦めたような表情のヴィータ。
ずんどこオットセイッ♪
「せい」
「ザフィーラ、だよね」
思わず確認をとるアルフ。ザフィーラは応えない。
ずんどこオットセイッ♪
「とお」
「…っ、リインフォースさん」
目が死んだ魚の様に光を失ったリインフォースの惨状を見て言葉失うアリシア。
ずんどこオットセイッ♪
「やあ」
「それ、絶対オットセイじゃない!」
一番愉悦に浸っていそうな、嬉々とした瞳をした邪神が現れた。だが、その姿はオットセイというよりも魚のブリを思わせる物で守護騎士達が身に着けているオットセイの着ぐるみよりも派手さがある。妙に光沢を放つ魚の着ぐるみを着た状態で『私は森の妖精』と書かれたたすきをかけていて、しかもお手玉をしながら出てくる裕の姿に榊原はツッコミを入れた。
ずんどこオットセイッ♪ずんどこオットセイッ♪ずんどこオットセイッ♪ずんどこオットセイッ♪
「いや、なんで踊ってんの?」
「しかも私達を取り囲むように」
なのは達を囲むように不思議な踊りをしている裕達。呆気にとられている彼女達の周りをグルグルと踊りながら、『ずんどこオットセイッ♪』と謎のオットセイサークルを形成する。
「・・・シグナム。どうしてこんな真似を?」
「タガミがちょっと不慣れな大人な話し合い(※脅迫合戦)をした所為で自分のアホさが足りないと言い出して・・・。失礼します。アホのビンタをおみまいです」
むち。と質問してきた質問してきたはやての頬に触れて押し上げるような優しいビンタのような行為を行ったシグナム。
「その格好は、なに?」
「なんでも自分のアホさを高めるヌイグルミだそうです。アホのビンタをおみまいよ」
むち。と、笑顔のシャマルのビンタを受けるフェイト。
「なんでヴィータちゃん達までそれを着こんでいるの?」
「一応、裕の奴には世話になったからな。これはその礼だ。アホのビンタをおみまいだ」
答えるのも億劫だと俯きながらむち。と、なのはにビンタをかますヴィータ。
一応はやてへの便宜を図るようにしてくれた邪神へのお礼としてこの悪ふざけに付き合うように言われた守護騎士達はそれを受け入れるしかなかった。
「ザフィーラ。あんた。・・・すね毛処理をちゃんとしているんだね」
「アホのビンタをおみまいだ」
べちーん。と、アルフの頬を叩くザフィーラ。見当違いなコメントを出すんじゃないと言わんばかりのビンタだった。
「リインフォースさん、しっか」
「アホのビンタをおみまいだ」
何かを言われる前にむちと頬に柔らかすぎるビンタをかますリインフォースとそれを受けるアリシア。
ここまで来ると何か質問をすると『アホのビンタをお見舞い』されると悟ったありさとすずか。そして榊原は押し黙っていた。おそらくもうすぐ『すんどこオットセイ音頭』は終わりを迎えるだろう。そして愉快な音楽が鳴り終わると同時に邪神の目がカッと開くと同時に榊原に向かってお手玉を投げつけた。
「アホのお手玉おみまいだぁああああっ!」
「「なんでや、榊原君関係ないやろっ」」
おもわず関西弁になるアリサとすずか。だが、そんなのお構いなしに裕はビシッとポーズをとる。
「これより俺はレッスントゥーに移る。さらばだ!」
だばだばだばと両腕を振りながら邪神は海の向こうへと飛んで行った。
「・・・あ、あれはトリックアートで魚の格好をしているように見えるブラックゲッターだから」
と、説明するシャマルだが、裕の内心を察していた。
ここに戻ってくる前。管理局とのやりとりをしている時自分の心情が歪んでいく殿を感じた彼はせめて彼女達。なのは達の前ではいつもの自分で。馬鹿をやっている自分。ふざけ合っていた頃の自分の感じを取り戻すためにこのようなふざけた真似をしたんだと。そして、照れ隠しもあったのだろう。ここに来る前にどす黒い感情ながらもはのは達の事を好きだと言ったばかりの裕はどう彼女達に接すればいいのか戸惑っているのだろう。彼には少し時間が必要だと考えていたシャマルに声がかかる。
「おい、シャマル。裕がいなくなったんだからそれ脱げよ」
「え、これ可愛くない?」
「え?」
「え?」
裕がその場を去った時点で『ずんどこオットセイ』は終わりのはずなのにそれを辞めようとしない湖の騎士の嗜好に一抹の不安をぬぐえない鉄槌の騎士だった。
海の向こう側にたどり着く前に光学迷彩機能を起動させ、最寄りの公園近くに降り立った裕は一息つく。
「あ~、はずっ、はずっ、恥ずかしすぎるっての。あんな告白まがいの事をした後になのはちゃん達の前に居られるかっての」
シャマルの読みは当たっていたらしく裕は前から考えていた悪戯をしながらも今日一日は一人過ごすつもりだった。
汚い腹の探り合い。というか脅迫合戦でイライラしているのを彼女達に気取られないように逃げるようにやっては来たものの、さてどうしたものか。はやてはしばらく田神家で預かるつもりだったが守護騎士の皆もとりあえず情状酌量で帰してもらったが八神邸に戻るのか、それとも田神でそのまま預かるのか。
色々と考えなければいけない事がある裕は薄暗くなった公園でぶらぶらすることにした。もうすぐ帰らないといけない時間帯だが、ここから家までそう遠くはないと思いながらその辺を散策していると草むらの方で何かが動く音を聞いた。
「くせぇ。こいつはフラグの匂いがプンプンするぜぇ」
だけど、見ちゃう。ビクンビクン。
きっとこの邪神様なら道端にバナナの皮があれば全速力で踏みに行くだろう。
茂みの奥をこっそりのぞいてみると。
汚らしい格好のおっさん。おそらくホームレスが幼女に覆いかぶさるように組み敷いていた。
1アウト。
WCCで冷静さを。鎮静効果を持つアクセサリーを身にまとった裕だからすぐに手を出すのはやめた。何らかの事故でそのような格好に陥っただけかもしれない。いわゆるラッキースケベと言う奴だ。更なる情報収集を行う。
「むーっ!むむーっ!」
「ちっ、暴れるんじゃねえよ」
おっさんの手が涙目の幼女の口を塞ぐ。
2アウト。
ああ、あれだ。幼女がラッキースケベで悲鳴を上げるのを慌てて抑えたとかそういうのだよな。
「ガキとはいえ一応女だしな」
と、言いながら下着ごとズボンを脱ぐおっさん。
3アウト。
邪神様、コイツです。
「待てい!」
「っ!だ、誰だ!」
おっさんが後ろを振り向くとそこには腕組みをした状態の少年が夕日を背に立っていた。その腕を組む体制は夕日によって影としてしか認識できなかったが、まさに威風堂々とした雰囲気を身に纏っていた。
「己が力を研鑽せずに無下な花を散らそうとする下郎よっ、自身の姿を見るがいい!花とは愛を持って摘み取るからこそ美しい。その花を得る為には努力、才能、時間。様々なものの積み重ねを行った者のみに許されるっ。人、それを代価という」
「て、てめぇ、何もんだ!」
「貴様に名乗る名前はない!」
おっさんはズボンをはき直すと同時に声をかける少年に唾を飛ばしながら怒鳴る。相手が子供だから脅せばすぐにいなくなると踏んだのだろう。だが、彼が食ってかかるのは邪神だ。
「青いツナギよ!性技の使徒を呼べ!ぷぅわアッ―――いる、フォーおおうルメイション!」
夕日の向こうから、青い作業服が飛んできて(※WCCで加工したブラックゲッターです)、裕にかぶさると更なる光が彼を包み込む。その光に目をくらませたおっさんの前にいたのは妙に綺麗な瞳をした青いツナギを着たイイ男だった。
「おい、こいつを見てくれ。こいつを、どう思う?」
「・・・すごく、・・・大きいです」
おっさんはいやな気配を感じてその場を急いで離れようとした。先程組み敷いた幼女を攫うようにこの場を離れようと思って自分の足元を見たが幼女の姿が無い。いつの間に逃げ出したのか、とにかくここは早く逃げなければと思った矢先に自分の肩に大きく暖かい手が置かれた。
「おいおい。掘っていいのは掘られる覚悟がある奴だけだぜっ」
ずむっ。
「アッ―――――!!」
おっさんの悲鳴が公園に鳴り響いた。
おっさんが青いツナギのいい男に彫られている最中、そこからそう離れていない所に裕と押し倒された幼女がいた。
裕はわざと大きな声と光を出しながらおっさんの目と耳を塞ぎ、おっさんがこちらの姿を見失っている間に幼女をシフトムーブで救出。更に合体したと思われたゲッターから分離し、おっさんを襲うように仕向けた。
その目論見は見事に性行。もとい、成功した。だが、あのブラックゲッターはもう廃棄しておこう。使う気が起きない。
「追加で旅人(ガリバー)。バラの部屋バージョン触手を添えて」
まるでフランス料理か何かの様におぞましい小部屋をおっさんを中心にして作り上げられる。
外から見るとそれは公園のトイレにも見えなくもないが、その中身はおっさんとイイ男と触手が絡み合っている婦女子限定の空間だろう。
目の前の幼女にはまだ早すぎると判断した邪神はブラックゲッターに動力がきれるまでがおっさんの性癖が変わるまで掘り続けるように命令して、使用後は誰もいない所で自爆してもらうように最後の指令を出しておいた。
「う、あ?」
「大丈夫か幼女よ。危機は去った」
「ぶ、無事に決まっているだろうが。わ、わりぇは王なのだかりゃな」
おっさんに組み敷かれていた少女に優しく声をかける裕。気丈に答える少女だがその声は震えすぎてかみかみだ。
だが、間に合ってよかった。もう少しで児童ポルノに引っかかる展開になっていたし、少女の心と体に消えない傷が出来ていたかもしれない。いや、すでに心の方は傷ついている。だって、何気に自分の事を王だって言っているし・・・。
「レビにシュテゆがいればあんや奴」
「おお、よしよし。怖かったんだな。・・・はやて」
何より襲われたショックで髪の毛が白くなっているじゃないか。
裕は目の前にいるはやてと思しき少女の頭を撫で続けるのであった。
邪神様は目の前の少女をはやてだと勘違いしています。
自分を追ってきたはやてが公園でおっさんに襲われたと勘違い。