「ユウがTECに全振りするからっ!」
「そういうフェイトはSPDに全振りじゃないか!」
「裕がやることなすことクリティカルだって自覚してよ!」
「そういうならお前は行動回数が多かったじゃないか!」
「どうするの!本当にねえ、どうするの!」
「落ち着けっ、こういう時こそ落ち着いて考えれば…。どうにもならねえな」
「落ち着いて諦めた?!」
田神家長男の部屋で一組の男女が向かい合って部屋の真ん中にあるちゃぶ台を挟んで怒鳴りあっていた。
片方はこの部屋の主、今年で16。今年の春に高校二年生になる田神裕。
もう片方はお隣の研究所で同じく16になるフェイト・テスタロッサ。今年から管理世界ミッドチルダで念願の執務官という職業に就いたばかりのキャリアウーマン(予定)である。幼いころから育った二人がこうも言い争うのは珍しい。
裕の方は幼いころから変わらず公私問わずの場を賑やかすのが好きなムードメーカーで今でも小学生、中学生の頃の知り合いに何かイベントがあれば率先して場を盛り上げるスペシャリスト。
対してフェイトは優等生で優しい性格だが、パーティーを盛り上げるというよりもその下準備をして陰から祝うといった大人しい性格で、どちらかといえば裕とは反対側の性格の人間だ。
そんな二人がこんな風に言い争う事は珍しい。だが、この二人。実は一カ月前にもこのように言い争っていた事があるのだ。
一カ月前。
それはミッドチルダで執務官の合格通知を受けて一週間たった頃だった。
フェイトはある悩みを抱えていたのでコミュニケーション能力の高い裕に相談したいことがあった。それはセクハラ。ミッドチルダでは地球程晩婚化は進んでおらずむしろ早婚が進んでいる為にフェイトはそう言った目で見られることが多く、自分の娘ほどの差がある彼女にねっとりと近づいてくる輩が多い。執務官とは狭き門でクロノといった前例を除けばフェイトはかなり若い部類で入門したと言ってもいい。しかも器量もいいので男受けもする。
そんな状況をどうにかできないかと相談したのがリンディと邪神である田神裕である。実の母プレシアに相談すればその相談先が物理的に消される事待った無しになるため出来ない。リンディからは断り方を学び、裕からはどうすればそのような目で見られないようになるかを相談する。男友達で特に親交が深いのはユーノ、クロノ、裕の中で今回の件で頼りになりそうなのが裕だった。
かくいう裕もフェイトに相談したいことがあった。それは幼馴染達による猛アタックである。なのは、すずか、アリサ、はやて、アリシアといった美少女達に交際を迫られて困っていたのだ。こう聞くと非モテの男達には怨敵認定されそうだがこの邪神。恋もしたいが友情を失いたくない。彼女達の気持ちは嬉しいが自分はまだ友情を大事にしたい。彼女達との関係を崩したくないといった正真正銘の『ヘタレ』だった。かといって彼女達を傷つけるのも嫌だ。だから自然に好感度を下げる態度を取ろうと思ったが参考にするのがいない。クロノやユーノは好青年だし、王城達のように「おいおい止めるんだ。全員まとめて俺の嫁だろ?」と言おうものなら本当に重婚させかれない状況だった。片やお嬢様で自分の両親すらも囲いにかかっている手段とか、片や魔法少女(邪神もどき)の為、実力行使と言う逆レ○プもされかねない。一般(?)女子(男子も含む)からも似たような状況もある。そうならない為に身近な女子(良識派)のフェイトに白羽の矢を立てたのだった。
ちなみにこの二人に友情はあっても恋愛感情はほぼない。
フェイトが地球に帰ってくる日に合わせて裕はテスタロッサ研究所で彼女の帰りを待っていた。
「あっ、ユウ。ただいま。良かった来てくれて。相談したいことがあったんだ。実は」
彼女が奇抜な行動を取って好感度を下げようとしたら本当に心配されてそうだが、心優しく真面目な彼女に奇抜な行動を取るという選択肢は最初からなかった。だから、
「おかえりー。なに、俺も相談したいことがあったんだ。実は」
彼は常日頃から奇抜な行動を取っていたためにそのような事をしても中々好感度が下がる事はなかった。だから、
「「どうやったら他の人から嫌われるようなれるかな?」」
二人の意見は一致した。と同時に相手の相談ごとに憤りを感じた。
なんでわざわざ好感度を下げる必要があるのかと。というか自分は他人から嫌われているのかと。これは人間関係で疲れ切っている二人だからこその憤りだった。
「ま、まあ立ち話もなんだし、私の部屋で話そうよ。いろいろと長くなりそうだし」
「そ、そうだな。よーし、WCCで美味しく加工しちゃうぞー」
「それじゃあ、あの、お互い聞きたいことがあるみたいだしここは思い切ってお酒見たいに飲む?」
「いいねー、お酒の勢いで話したい事全部ぶちまけちゃおうかー」
「「あはははははは。…はぁ」」
それと同時に悟った。あ、目の前のこいつ人間関係で疲れているな。と、
二人共幼馴染と言う事もあるが人間関係には敏感なのでなんとなく感じ取った。これはかなり深刻だと。お酒の力でも借りないとか話せないと。一応ミッドチルダでもワイン程度なら裕達にも飲めるが二人は未成年。しかし裕のWCCを使えばアルコール無しでも酔う事は出来るだろう。そういう訳でフェイトは研究所に入ると同時に取っておいたお菓子とミッドチルダで買ってきたジュースを取りだし、裕を自室へと招く。途中でアルフとすれ違い、これから裕と大切な話があるから部屋に入らないでねと伝えた。その時の気配が一年前、執務官試験に落ちた時に似ていたのでアルフは一もなく二も無く頷いた。ご主人様のご機嫌も伺えなくて何が使い魔か。
「とりあえず、フェイト、執務官テスト合格おめでとう」
「ありがと。ユウから貰ったアロマオイル良かったよ。試験前日もぐっすり眠れたし」
「おう、力になれたなら何よりだ。まず一献」
「おとと、ありがと」
フェイトの持つコップにジュースをまるでお酒のよう注ぐ裕。まあ、WCCでお酒の様にテンションが上がる効果付属したこのジュースはノンアルコールで悪酔いも呂律が回らなくなるという心配もない。幼馴染達の日程上、彼女の執務官試験合格祝いは後日の予定だが今日あいているのがたまたま裕だけだったので二人だけの祝勝会が開かれた。
30分後。
「いやー、しかし去年の落ち込みようが嘘のようだな」
「もー、勘弁してよー」
この時まではケラケラと笑いあう二人の声が響いた。ちなみにこの部屋もWCCで防音性はばっちりである。ちなみに酒の勢いを得るために裕は愛用している懐中時計(WCCで鎮静効果を持つ)を外している。
1時間後。
「でね、ちょっと、変な目で見られるようになって」
「ああ、俺も背筋をぞっとさせられるような思いをするなぁ」
徐々に互いの苦労話がにじみ出てきた。
この時にアリシアとプレシアが帰宅してフェイトにお祝いの言葉をかけようとしたがご主人様が愚痴をこぼしているだろうと考えたアルフに面会謝絶を言い渡されたところだった。
2時間後。
「だからさっ。私だってそんな目で見られたいわけじゃないんだよっ」
「あー、うん。自分が想定していた事とは違うことになると結構くるもんなぁ。俺もこの間…」
徐々に自分の悩みがぼろぼろこぼれ落ちてくるようになった。フェイトから負のオーラのような物がにじみ出てきている。裕からも徐々にそのオーラ零れだしてくる。
2時間30分後。
「ユウはいいよねっ。自分勝手にしても受け入れられるんだからっ」
「受け取り方にもよるっつーのっ、こっちだって」
フェイト、だんだん吹っ切れる。
3時間後。
「大体、その容姿・性格でもてないわけないだろ。めっちゃ発育しまくってんじゃん。なんだそのメロンは、男なら誰でだってその果実に手を伸ばしたくなるんだよっ!それに群がる男達だってお前なら選び放題じゃん!」
「それを言うならユウだってそうでしょっ!それに私は選びたくない相手ばっかりだよ!皆、胸とかお尻とか見ていやらしいっ。ユウみたいな悪戯はするけどそこに性的意図が無い人なんてほぼいないんだよっ!ユウの方が贅沢だよ!」
「お前には『選ばない』って選択肢があるだろ!誰も選ばなくても苦労しないだろ!俺には選択肢自体が無いんだよ!あっても『保留』って選択肢以外ないんだよ!でも皆には離れて欲しくないんだよ!」
「ユウのいやしんぼっ!贅沢者!」
「なんだと!?」
愚痴合戦はヒートアップし互いの悪口合戦に。テンションも変な方向へと上がる。
3時間15分後。
「ユウのヘタレ!おたんこなす!」
「フェイトのムッチリ優等生!」
ムッツリではなくムッチリと言う所にフェイトへの悪意?が。感じられる。
3時間27分後。
「ぜえぜえ・・・。この、いやしんぼ邪神」
「はあはあ・・・。我儘天然ボディ」
息切れを起こすくらいに悪口を言いあう二人。一息入れてWCC加工のジュースを煽る。
3時間51分後。
「ふうふう・・・。この、女の敵」
「げほげほ・・・。この、男性の夜のおかず」
息切れを起こしながらWCC加工のジュースを(略)
4時間29分後。
「けほけほ・・・。こんの、童貞神」
「どっ?!うぇほうぇほ・・・。こんの純情サキュバス」
「なっ?!」
息切れをしながらWCC(略)
4時間42分後。
「く、う・・・。これならどうだなんちゃってエロ」
「ばっ、ぶふぉ・・・。なら、こっちはこうだムッツリスト」
「へあっ?!」
息を切らしながら(略)
4時間57分後。
「ん、ふうっ、これでも純情に見えるか童貞神」
「・・・ぷはっ、まだまだ純情すぎるだろムッチリサキュバス」
息を(略)
6時間23分後。
「ふう、はあ、ん・・・。こにょ早漏童貞」
「く、はぁ、もう童貞じゃねえよ、純情ムッチーリニ」
「わ、私だって純情じゃないもん。サキュバスだもん」
い(略)
12時間13分後。
((やっちまったぁあああああ!!))
二人は賢者タイムに入る。
ナンデ?!最初は愚痴を聞きながらお悩み相談のはずがナンデ致しちゃっているンデスカ?!酒の勢いって怖い。やはり未成年がお酒(ノンアルコール)を飲むのはいけなかった。お互いにこれからの事を考える。これがばれたら幼馴染(姉)達にばれるとやっかみを受ける。そしたら自分の就職先(就学先)で印象がダウン。好感度もダウン。その結果手に入るのは自分の良き理解者だけ。・・・あれ?これっていいんじゃね?
((んなわけあるかぁああああ!))
まず、最初の段階。幼馴染(姉)達にこの事がばれたら想像もできない末路がまっているかもしれない。
「と、とりあえずこのことは無かった事に。お互い無かった事にしよっ。お姉ちゃん達が来る前に片づけて」
「え?」
「え?」
(なんで俺残念そうにしてんの?!)
(なんで私嬉しがってんの?!)
そして二人は頭を抱える。自分は目の前の相手に恋愛感情は持っていないと言い聞かせながら相手の事を考える。片方はコミュニケーション能力も高くて人脈も広く、地域限定だがカリスマ性も高く、陰ながらずっと力になってくれる。片方は容姿端麗、成績優秀、エリート街道まっしぐら、内面も三歩下がって自分を押してくれる人格者。自分にないものを持っている。あれ?考えれば考えるほどかみ合ってないか?そう思案し始めた時、
フェイトー、ユウー。もう朝だよー。起きてー。というアルフからのメールが互いのスマホに届いてお互いの体が十センチほどベッドから浮く。そこから急いで事後の後片付けをして身なりを整える。WCCという物体干渉の力をフルに生かして事案が起こる前の状態に戻した後、裕は懐中時計を、フェイトはWCCで『鎮静効果』を着けてもらったバルディッシュを手にして部屋を出た。フェイトの家族であるアリシア・プレシア・アルフはこの二人に限って何かあるわけではないし、あったとしたら顔に出ているはずだとタカをくくっていた。もしWCCが無ければ部屋を出た時点で二人は終わっていた。
それから何もなかったかのように演じきった二人は自分と相手に言い聞かせるように昨日あったことは無かった。犬にかまれたと思って忘れようと言いあった。しかし、一ヶ月後。
「…来ないの」
「…は?」
「だから、…が来ないの」
「へ?」
「だからっ、生理が来ないの」
「ふっ?!」
フェイトが自宅に押しかけてきてから聞かされた事実。それは裕のファーストアタックがクリティカルヒット。犬に噛まれたら実はTウイルス感染しましたと言うくらいに致命的な事実だった。そして冒頭の部分に戻る。
「あ、あれだ!体調不良とかで来ていないだけだって!」
「そ、そうだよね!きっとそうだよね!」
「それにそうだっ、不安ならそれを調べる薬用品を買えばいいじゃないか!」
「買えるわけないでしょ!私達まだ16だよ!ユウが作ってよ!」
「そ、それもそうだな。よしっ、ちょっと待ってろ!」
そして、その結果は。
九か月後、プレシア・テスタロッサ。おばあちゃんになりました。
運命の人は意外と近くにいた(嫉妬)!
そして誤字訂正のメッセージをくれる皆さん。ありがとうございます。こんな拙い私を補助してくれて助かります。頑張って誤字が少なくなるようにしていきたいのでこれからも感想を待ってます。