「いやー、良い事って連続して起こるんだね」
「まったくね。とても清々しい気分よ。入学以来の清々しさね」
昼休みに入るとアリサと月村さんがロイヤルスマイル全開でした。
何でも、メダルトリオが夜中に起こったガス爆発事故にあって入院が決まったと担任から伝えられると遠くから見てもわかる程にキラキラした笑顔でした。
逆になのはちゃんは少し疲れた顔をしていた。しかし、そんな様子に気づかない二人。
…そんなに嬉しいか。
しかし、普段はあのメダルトリオが授業もきかずになのはちゃん達に話しかけてくるものだから授業中は常に騒がしい。
「…授業が滞ることなく消化されていく。こんなに素晴らしい事はない」
アリサ。お前はどこぞの新人類か。
でも一年生の頃はメダルトリオに追い回され、二年生になった時でもクラスに乱入され、三年生になった今でも追い回される。
…ロクな小学生生活ではない。今日ぐらいはそっとしておこう。
そう考えると昨日の告白大会は酷だったかもしれない。
形はどうあれ、『イエーガーズ』からもメダルトリオ同様に求愛行動?みたいなことをされたから内心疲れたかもしれない。
というわけで『イエーガーズ』の皆に、三人娘はしばらくそっとしておこうと伝える。
あと、昨日の告白(本気と書いてマジ)で失恋した団員が数人いた。
その心を癒すために放課後には野イチゴが実る林道に連れて行き、ちょっとした失恋パーティーを開催することにした。
大丈夫。いつかその涙は大きな笑顔になるはずさ。
こっそりWCCで味を調整した野イチゴを貪るように食べた団員たちは悲しみを野イチゴで満たすと晴れやかな顔をして帰っていった。
あと、いつの間にやらなのはちゃんが動物病院に預けていたフェレットの飼い主。とはいっても飼い主が見つかるまで預かるという形になっていた。
夕方。
「裕ちゃーん。ちょっと来てくれない」
母上に呼ばれてきてみれば、両親の寝室の天井の一部が妙に変形している。
変形しているところから水がぽたぽたと落ちているところを見せられて「裕ちゃん、悪いんだけど直してくれない」
昨晩は気が付かなかったけど、今日のお昼時間に雨漏りをしていることに気が付いた母は俺が帰って来ると同時に修理をお願いしてきた。
WCCを使えば一発で分かるのだが、何やら異物がある事に気が付いた裕は、周りにある天井の板に挟まれた状態の異物を取り出すために、周辺の天井の板を横に避けて、異物の周りに何もない状態にする。
すると支えていたともいえる物が無くなったことで異物と判別された青い植物の種のようなものが俺の手の平の上に落ちてきた。
キンコーン。
裕はジュエルシード№13を手に入れた。
ちなみに『キンコーン』という音はWCCで加工できるものを手にした時に鳴る脳内アナウンスみたいなもの。
ふむ、日本語に訳すると宝石の種ですか。植えれば宝石が生る草木でも生えるのか?
そう、のんきに考えながら天井を直しながらジュエルシードの事をWCCで解析していくと…。
『所有者の願いをある程度叶える石。異世界の産物。超圧縮エネルギー体。暴走の可能性中』
…暴走したらどうなるんだ?
WCCには強度の確認をするほかにも、それをプレビュー。想定することが出来るので確認してみると・・・。
『これが仮に爆発したと想定すると軽く海鳴の街が消滅する』
はい、アウトー!
速攻で暴走要素を消して、更に内部・外部からの衝撃に強いジュエルシードに作り替える。
とんだ腐った聖杯だよ!どんな不発弾だよ!というか、これは『№13』と表記されているという事は少なくても似たようなものが十二個はあるということになる。
というか、『所有者の願いをある程度叶える石』のある程度って、どのくらいの程度なんだろう?
このジュエルシード(安全確認済み)で叶えられる最大許容範囲は…。
『体力・魔力。状態異常全回復』
どこのエリクサーですか。
『身体の巨大化・異質化』
ゴジラ?!
『身体機能が全盛期まで回復。若返る』
初代ピッコロ大魔王?
『ギャルのパンティーが空から降ってくる』
オラ、ワックワクしてきたぞ。
まあ、ざっとこんな物だ。
というか後半部分はドラゴンボール。この世界はでっかい宝島なのか?
さすがに死者蘇生。時間移動。未来を知るということは出来ない。
この三つはいずれも願いの中でも禁忌とされていると、どこかで聞いたことがある。
暴走要素を取り除いた所為で叶えられる許容範囲がかなり狭まったが、解析するとこんな感じだ。
魔力の回復とか、若返ると夢が溢れるキーワードが溢れ返っているが必要とする人は俺も含めて周りにはいない。
ふと、あのメダルトリオの性格を矯正できるかどうか考えたがすぐにやめた。もしできたとしたらそれは洗脳。もしくは人格だけを殺した殺人になる。
ふと冷静になって考えてみる。
こんな物があと十二個も落ちていると考えただけでもぞっとする。
この町からは放棄。もしくは処理がしたい。
俺の持つ邪神の力。WCCはジュエルシードに干渉することが出来る。
「・・・やれるか?」
…海鳴の町全体をグループアイテム化。
そして、そのグループアイテム化した海鳴市の物体。海鳴市に落ちたジュエルシードに干渉して、処理する。
いろいろ試した所、WCCにはいくつか制限がつく。
グループアイテム化している所はシフトムーブ可能。
干渉も出来るが二次間接。例を挙げるなら、グループアイテム上にある車は干渉できるが、それが生き物の上にあると干渉できない。
移動は出来るけどカスタマイズは出来ない。
あくまでグループアイテム化している物の上に直接触れている物でないと干渉できない。
原作も自分の部隊や敵の部隊も転移させた主人公も敵が装備している装備までは干渉できなかった。ただし、乗り物としての兵器には干渉できた。
例を上げると敵の戦車には干渉できるけど、ハンドガンには干渉できない。
転移はあくまでその一帯丸ごとの転移であり、個別で処理することは出来ない。
だが、レーダーやソナーのように感知することも出来る。
もちろん、グループアイテム化している地帯の上には多くの建物や車、人で溢れかえっていて、ジュエルシードのような子どもの手の平にも収まるような小さな物を探すにはかなりの手間がかかるだろうが、幸いなことにサンプルは既に手の中にある。これを参考にして、似たような物だけをピックアップすれば見つけきれるはずだ。
WCCの力で自分の目にしか見えないカスタマイズメニューを開き、アイテムグループ化している地帯の上にあるジュエルシードを探す。
「・・・あった」
反応は二つ。一つはここから少し離れた公園。そして病院の屋上。
すぐさま自宅を飛び出し、暗くなる前に反応があった場所へ行くとそれはあった。
「…実行」
一つ目と同じく、暴走の危険性があったのでそれをWCCで削除する。
もう一個の方はどうするかと考えていたら、反応が突如消えた。
「あれ?消えた?」
まさか氷のように溶けてしまったのか、反応がプツリと消える。
カスタマイズメニューを開いても大まかなことまでしかわからないから何とも言えないが、今のところ問題無しだ。
「…今日は遅いし、帰って寝るか」
WCCの操作一つ間違えればジュエルシードを暴走させてしまう可能性も出てくる。
問題をほったらかしにするわけにもいかないが、集中力を切らせるわけにもいかなかった。
慎重に事を運ばないと一瞬でお陀仏だと肝に銘じながら、夕食を取った後、すぐに眠った裕だった。
夜。
病院の屋上に一人の少女が避雷針の上に立っていた。
金色に輝く腰まで伸びた髪を揺らしながら、人が立てそうにないその場所に佇む少女は先程手に入れたジュエルシードを手の平の中で転がす。
「…これが、母さんが探している物。…もっと、多く見つけないと」
そうすれば、きっと。
そう少女が呟くと彼女は避雷針の上から浮かび上がると夜の空へと消えていった。