願いの物語シリーズ【奇跡へ繋がる物語】   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第3話『まさか……神様?』

あぁ。まったく不幸な人生だった。

 

もし世界に生まれ変わりなんてものがあるのなら、今度は人間じゃ無くてイルカとかに生まれ変わりたいと思う。

 

優雅に海を泳いでさ。人間関係とか煩わしいものから解き放たれて、一人で、気ままに生きてゆきたい。

 

なんて、そんな夢みたいな事を願ってしまう程度に、私は追い詰められていた。

 

お腹の痛みが消えないのだ。

 

じくじくと、内側から焼けた棒を当てられているみたいに、痛くて、熱い。

 

ジワリと服に染み込んでいく赤い血は私の命があふれ出ているかの様だった。

 

このまま私は死ぬんだろうな。なんて刺された傷口を見ながら思う。

 

死ぬのは怖くない。

 

だって、私は今まで生きていなかったから。明日も生きたいなんて欠片も思う事は無かった。

 

不幸があるとすれば、今私のお腹の中にいる子供だろう。

 

この世界に生まれる事もなく、ただ、私と共に死んでいく。

 

哀れな事だ。

 

私ではない母の元に命として宿れたのなら、きっと幸せな未来があっただろうに。

 

名前すら決まっていない我が子を想い、私は意味も分からず涙を流した。

 

望んだ子では無かったが、命として宿った我が子が、このまま消えていく理不尽さに私は悔しさを覚える。

 

だが、悔しがった所で何かが変わるわけでも無い。

 

あのストーカー男から隠れる様に飛び込んだ建物であるが、外に出れば今度こそ殺されるかどこかへ連れ去られてしまうだろう。

 

あの男の意味不明な叫びの中に、私のお腹の子供への強い憎しみを感じた。

 

私はもしかしたら助かるかもしれないが、この子は助からない。

 

ならば警察か救急車を呼ぶかとも考えたが、生憎と近くに電話を出来る物は何も無かった。

 

見事なまでの絶体絶命。この子が生き残る道は万に一つもない。

 

このまま時間が過ぎれば私は死ぬし、この子だって死ぬ。

 

あのストーカー男がここを見つければ、私は助かってもこの子は死ぬ。

 

どうしようもない。いっそ笑えて来た。

 

私は壁に寄りかかりながら、ふと壁から光が差し込んでいる事に気づいた。

 

いや、壁じゃない。それはステンドグラスだった。

 

布に包まれた我が子を抱いた母親の絵だ。その絵が月明りで輝いている。

 

私はまるで何かに導かれるように、今まで祈った事のない神へ助けを求めた。

 

この子を助けて欲しいと。この子に幸せな人生を歩ませてあげて欲しいと。

 

「呼んだか?」

 

「……っ!? だ、だれ?」

 

「誰だ。と言われてもな。お前が呼んだのだろう? 俺の事を」

 

「まさか……神様?」

 

「あー。まぁ、一応そういう事になっているな」

 

「一応……?」

 

「なんにせよ、だ。何か願いがあるんだろう?」

 

「ある。私のお腹の中に居る、子供を、助けて」

 

「良いだろう。ただし、その願いを叶えるには代償がいる」

 

男の言葉に私は、またかと溜息を吐きそうになった。

 

いつだってそうだ。

 

男はいつも私に親切を押し付けて、やらせろと言ってくるのだ。

 

この男もどうせその手合いなのだろう。

 

でも、まぁ良いか。この子が助かるならその程度安いものだ。

 

どうせ、今までだって散々……。

 

「何か勘違いしている様だがな。俺はお前のガキ臭い体なんぞに興味は無い」

 

「はっ!?」

 

「いや、体が必要というのは確かだが、お前を抱く気はない。乳臭いガキに興味なんて無いからな」

 

「なんっ!? はぁ!?」

 

「お前のガキは助けてやる。その代わりお前はこの教会でシスターをやれ」

 

「……どういう、こと?」

 

「どうもこうもない。そのままの意味だ。色々と事情があってな。本来はこの教会でシスターをやる予定だった奴が居なくなっちまった。だが、運命が変わるとマズイ。そこでお前を見つけたって訳だ」

 

「意味わかんない」

 

「分からなくて問題は無い。ただ、お前はここでシスターをやって、2年後、ここに来る星野雛という少女の夢を後押しするだけで良い。それから先は好きにしろ」

 

「好きにしろって、そんなの」

 

「あぁ。いや、そこも一応気を付けた方が良いか。もう一つ条件追加だ。その腹のガキにお前が母親である事を名乗る事は許さん。それが条件だ。どうする。飲むか?」

 

正直まったく意味が分からなかった。

 

でも、こんな意味の分からない事を飲み込むだけで、この子が助かるのならそれで良いと思えた。

 

だから私は頷く事にしたのだ。その、後に天野と名乗った男の提案に。

 

 

 

それからすぐ教会に救急車が駆けつけて、私は無事救助された。

 

きっとあの男が呼んだのだろう。

 

ナイフで刺されたというのに、子供は元気で、私もあれから殆ど影響なく退院する事が出来た。

 

私を刺した男は非常に奇妙なのだが、誰も居ない階段で足を滑らせて、手に持っていたナイフを自らの首に刺し亡くなっていたらしい。

 

そのナイフから私の血が見つかったらしく、警察に事情を聞かれたが、どうやらその男が死んだ時間というのが私が救急車に乗っていた時間らしく、それが分かると事故だろうという事で解決するらしい。

 

でも、私は何となくあの天野という男が何かしたんじゃないかと疑っている。

 

だから、退院し、子供と一緒に病院を出て、教会に来てから問い詰めてみる事にした。

 

「いや、俺じゃねぇよ」

 

「じゃあ、勝手に死んだって事?」

 

「勝手にというのも違うな。あの男は自分の存在には過ぎた願いを叶えようとして、その命を燃やし尽くした。ただそれだけさ」

 

「その過ぎた願いって」

 

「お前を手に入れる事」

 

天野に指を差され、背筋が凍る様な事を言われた。

 

しかし、その目は嘘や冗談を言っている様には見えず、それが真実なんだろうと感覚で理解する。

 

「既にお前の存在はあの男にとって手に負えない物だった。お前がここで星野雛と出会う事は、夢咲陽菜へ繋がる道だ。そして夢咲陽菜は夕暮秋菜という伝説へ繋がる道。あの程度の男ではお前の時間を一秒だって奪えやしない」

 

「……よく分からないけど、ありがと」

 

「礼を言われる筋合いはない。俺はお前が仕事をこなしてくれればそれでいいんだ」

 

「そ。なら頑張るよ」

 

私はお礼を受け取らない意固地な男の為に、シスターとやらをやる事にした。

 

やってみれば出来る物で、色々と天野に用意はして貰ったが、すぐに様になった。

 

ただ、私目当ての男がやたらと来るようになり、怒った天野がお前の人生から不要な男を消すと言い放ち、その通り私の体目当ての男は来なくなった。

 

天野曰く、縁が無くなったから。だそうだ。意味はよく分からない。

 

でも、私を助けてくれたのは分かる。本人は絶対に認めようとしないけど。

 

ずっと一人で生きてきた私には分かるんだ。人の心が、気持ちが、私をどう思っているか。

 

天野はきっと私の事を娘みたいに思っている。

 

父親の様に不器用な優しさで包んでくれる。

 

まぁ、私には父親が居た事は無いからよく分からないけれど。

 

でも、天野と話しているとそれが少しだけ残念に思う時があるのだ。

 

天野は子供に母親として名乗るなとは言ったけれど、気づかれてはいけないとは言っていなかった。

 

そして、母親の様に、触れ合う事を止めもしなかった。

 

愛情を向けて、家族になる事を許してくれた。

 

だから、私は少しずつ成長してゆく理仁と共にある事が出来る。

 

それは感謝している。

 

だから、やっぱり残念だなと私は思うのだ。

 

もし、もし天野が私を娘じゃ無くて一人の女として見てくれていたなら。

 

この子の父親になってくれると言ってくれたなら。

 

それ以上に嬉しい事は無いだろうに、と。

 

そう、思ってしまうのだ。

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