ヒロインは七罪   作:羽国

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初めまして。

昔から小説を書きたい書きたいと思っていました。書いては消して、書いては消してを何度も繰り返しました。

それでも諦めきれずにようやく投稿に至りました。読んでいただけたら嬉しいです。

なお、性転換等のタグの大半の要素はだいぶ先の話になります。


十香編
プロローグ


 夜の屋上には冷たい風が吹く。空には星が瞬いている。夜の街は僕たちの旅立ちを惜しまない。

「この街も今日で最後か。」

 逃げるようにここへ来て戸惑いの多い生活だった。でも、今はここも悪くないと思っている。楽しいとは言いにくいけど、充実した日々だった。

 ぽつりと呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく闇に消える。その筈だった。

「そうね、長いようで短い一年だったわね。」

 振り返るとそこには、エメラルドグリーンの癖っ毛をポニーテールにまとめた少女が後ろに立っていた。優しげな目でこちらを見ている。

 僕がこの世界で一番大切な存在、七罪だ。パジャマの上にゆったりとしたカーディガンを着て、時折小さく身体を震わせている。

「なんでこんな時間に出てきたんだ?寒かっただろ。」

「あんたがこんな時間に出ていくからよ。」

 七罪は僕のすぐ隣に腰かけつつ文句を言う。明日はアメリカを出発して日本に戻る日だ。それなのに、日が変わるような時間帯に部屋を出た僕の事を気にかけてくれたのだろう。

 横長のベンチに距離を空けずに座る。軽く指を触れさせながら、二人で街並みを見る。

「ごめんな、七罪。心配かけて。」

「分かれば良いのよ。明日寝坊でもしたら目も当てられないじゃない。」

 互いの方を向かずに言葉を交わす。それでも七罪が怒っていないと分かる位には長い時間を一緒に過ごしてきた。

「七罪。」

「何よ?」

 意を決して七罪の名前を呼ぶ。その空気を察してか、七罪も心配げにこちらを見る。

「天宮市はきっと危険なことが沢山起こる。お前が精霊だからって、死なない保証はどこにもない。ここに残ってアスガルド・エレクトロニクスに保護して貰った方が絶対に安全だ。それでも日本に戻るのか?」

 詰まりそうになりながらも、言葉を紡ぐ。七罪にはずっと近くに居て欲しい。この世で最も大切な人だから。

 別れてしまうなんて絶対に嫌だ。だから、一緒に天宮市に戻って欲しい。それが本音だ。

 でも、彼女のためを本当に思うのなら止めるべきだ。死ぬなら僕一人で十分だ。本当は存在しなかった人間の命で七罪の命が救えるなら、それが良い筈だ。

 喉の渇きを感じながら、七罪の返答を待つ。

「震えてるじゃない。」

 僕は意外な言葉に息を呑んだ。その隙に七罪は僕の手を取り、真っ直ぐこっちを見る。その瞳は真剣そのものだ。

「あんたが私の事を想っているのは嫌と言う程知っているわ。なんで、私なんかを好きなのか分からないけど。あんたが大事にしてくれているって、分からないほど恩知らずじゃない。だからこそ、少しは私のことを頼りなさい。震えるほど怖いなら、私だけ残れなんて言わないで。」

 そう告げる七罪の瞳は少し潤んでいた。それを見て、酷いことをしたのだと自覚した。

「ごめん七罪。」

「これだからあんたは本当に。」

 少し目を閉じてから七罪に謝る。七罪は文句を言いつつ、手を引いて部屋へ促す。

 その手に逆らわず、僕は屋上を後にした。

 

 ♦♦♦

 

 僕、鳶一愛は昔から度々変な感覚に襲われていた。自分の「鳶一」という名字を見るとき。姉の「鳶一折紙」の顔を見るとき。ニュースで「空間震」という言葉が出た時。「精霊」と言う存在を知った時。

 様々なタイミングで何とも言えない既視感のようなものが有った。

 その原因が分かったのは七罪と初めて出会った時だ。ASTとしての初任務で出撃した際に、七罪と遭遇した。

 その時に記憶の扉が開いた。情報の暴力が頭に叩き込まれ、今まで欠けていたものを取り戻した。そして、この世界のことのネタバレをされた。

 この世界はライトノベル「デート・ア・ライブ」の世界だ。僕が前世で初めて買ったライトノベルであり、思い入れが深い作品だ。

 本編全巻と短編集を買い揃えた。それなりにファンだった。

 この世界には精霊と呼ばれる超常の力を持った少女たちが存在する。彼女らは現界するだけで、空間震と呼ばれる大災害を引き起こす。更に、その力を振るえば、街一つを容易く消し飛ばす。

 当然そんな存在は放置されるわけもない。対処するために自衛隊は精霊対策部隊(Anti Spirit Team)、通称ASTを結成した。しかし、精霊を討伐した実績はほぼない。

 そこで重要になってくるのが主人公サイド。精霊の好感度を上げてキスすることで精霊の力を封印することができる主人公「五河士道」。それをサポートする秘密結社「ラタトスク」。彼らが精霊を無害化するため奔走するというのが物語の大筋だ。

 その中で僕はヒロインの一人である鳶一折紙の弟として生を受けた。当然、原作にそんな存在はいなかったからイレギュラーだろう。そんな僕の感情は嬉しさ三割、不安七割だ。

 確かに好きな作品に生まれ変わることができたのは嬉しい。推しの七罪は居るし他のキャラクターも結構好きだ。個性豊かで面倒くさい性格をしている美少女たちに会えるなんて胸が躍る。

 しかし、この世界はとてつもなく危険なのだ。精霊の力は余波を喰らっただけで死にかねない。人間サイドにも人に改造手術を施すクソ野郎が居る。そんな環境の中でちょっと顕現装置(リアライザ)が使えるだけの人間はいつ死んでもおかしくない。

 この世界は原作知識があっても相当過酷な世界だ。僕はいつ死んでもおかしくない。

 だからこそ、最初に決めた。僕は推しの七罪の為だけにこの知識を使うと。推しを幸せにするためだけに人生を捧げると。

 それから約一年半が経った。その間にできるだけのことはしてきたつもりだ。そして今日、僕たちは原作に介入する。

 

♦♦♦

 

 

「うふふ、ここにも貼れるわね。」

 意識が浮上すると、顔をぺたぺたと触る感覚が伝わってくる。同時に楽しそうな女性の声も聞こえる。

「なにやってんの、七罪。」

 目蓋を開けると二十代前半美女、七罪の顔が目と鼻の先に有った。普段とは違って絹糸のようなさらさらの髪と抜群のプロポーションを伴っている。どこか蠱惑的で大人のお姉さんの魅力が有る。普段の中学生くらいの姿とは別人だ。

 動きやすさを重視してエメラルドグリーンの髪をポニーテールにまとめている。それに合わせて服も動きやすいパンツスタイルだ。長距離移動に合わせてその服を選んだのだろう。

 七罪は対象を様々な姿に変身させることができる。その能力で自身を理想の姿に変身させるのだ。僕の前では素の姿を見せてくれるが、人前では基本この姿だ。

「おはよう愛。今日もいい天気ね。」

 七罪は悪戯な笑顔をみせる。悪戯がばれたから、舌を出して出して誤魔化そうとしている。その動きがとても可愛らしい。

「何これ?」

 顔のあちこちから違和感が伝わる。適当に触ってみると明らかに皮膚ではない感触だ。それは顔のあちこちに貼られているらしい。

「シールでデコレーションしてあげただけよ。可愛くなったんじゃない。」

 七罪は大変良い笑顔で答える。スマホの内カメラで顔を見てみる。

 自分の頬やおでこでデフォルメされたキャラクターが等間隔で並んでいる。やたらポップで可愛いキャラクターが多い。七罪の自前だろう。

「こういう時って落書じゃないの?おでこに肉とか。」

「そんなことしたら、跡が残っちゃうでしょ。これからラタトスクの奴らと会うのに。そんなことできるはずないじゃない。」

 七罪は当たり前でしょと言わんばかりに自論を述べる。悪戯はしたいけれど、妙なところに気を配る点がこの娘らしい。

「そんなことよりも着陸したわよ。」

 シールを剥がしていると、七罪が僕の隣の窓を指さしながら話す。

 自分で仕掛けておいてその言い草かと思った。けれど、可愛い七罪の悪戯なら、笑って受け入れよう。

 周りを見ると乗客が列を作って飛行機から出ようとしている。

「それじゃあ行こうか、七罪。一年ぶりの日本だ。」

 僕と七罪は荷物を持って飛行機を出た。

 飛行機から降りてゲートに向かうと見覚えのある顔を見つけた。長身の金髪のイケメンと藤色の髪の眠たげな目をした女性だ。

 中身を知らなかったらお似合いの美男美女に見えるだろうか?中身を知っていたら、そんな感想は出てこなくなるけど。

「やあ、愛に七罪。久方ぶりだね。」

 眠たげな目の女性、村雨令音さんが挨拶をする。美人で気が利く。変わったところはあるが良い人だ。

 ラタトスクメンバー唯一の良心でもある。あの船のメンバー、この人以外変な人しかいないから。

「お元気そうで嬉しいですよ、愛くん、七罪さん。」

 金髪のイケメン、神無月恭平さんもそれに続いた。爽やかに挨拶できるコミュニケーション能力は流石だ。本当にこの人の性癖以外は完璧だ。

「お久しぶりです。令音さん、神無月さん。」

「久しぶりね。」

 七罪と共に挨拶をする。変身している時の七罪はどこからか自信が溢れてくるらしい。

 普段のおどおどとした態度とは大きく異なる。フランクに挨拶ができるコミュ強になれるのだ。

「君たちが戻ってきてくれて嬉しいですよ。君たちの力は精霊の攻略には欠かせませんから。」

 神無月さんがそう言う。お世辞もあるだろうが、本心も入っている筈だ。僕たちの力はラタトスクにとって重要だから。

「うれしいわね。でも、私たちはあくまで協力者よ。」

 それに対し七罪は釘を刺すように発言した。互いの関係を馴れ合いではないのだと否定するための言葉だ。

「勿論わかっているさ。七罪の封印はしない。君たちの安全はラタトスクが保障する。それが君たちの協力を得る条件だからね。」

 令音さんが真面目な顔で答える。少し失礼な態度にも動じない大人の対応だ。僕たちは軽い会話をしつつ空港を出た。

 

♦♦♦

 

 神無月さんの運転する車に乗って空港から移動した。車を降りた先には高層マンションが建っていた。五河と書かれた表札が有るから、主人公の家はお隣だ。

「ここが君たちの住居、通称精霊マンションだ。荷物も運びこんでおいたから今日からここで住んで貰って大丈夫だよ。」

 令音さんはそう言いながらマンションを案内してくれた。恐らく原作と同じように精霊の集合住宅としてラタトスクが拵えたものだろう。

 ラタトスクは精霊との対話による無力化を目的とした組織だ。そして、精霊を無力化した後のアフターフォローもその活動に入っている。

 精霊の多くは家や戸籍がない。だから、精霊を保護するためにこのマンションが建てられることになっているのだ。僕たちが色々した結果、原作よりも一ヶ月以上早く立てられることになった。

 好き勝手した癖に精霊でもない人間が住民第一号になろうとしている。まあ、精霊も入るから良いよね。そういうことにしよう。

 案内されたマンションはとてつもなく豪華な設備であった。キッチンに談話スペースなども備わっているし、部屋もとても広い。

 何も言う事のない完璧な住処だ。案内されたのが二人部屋でなければ。

「何故、僕と七罪が同じ部屋で住むことになっているんですか?」

 半ば絶叫しながら突っ込みをいれていた。そこには二人部屋として住みやすいように工夫された間取りの部屋があった。

 二人それぞれの個室も用意してある。普通に住むなら家賃は結構お高いだろう。既に僕と七罪の荷物が運び込まれており、準備万端だ。

「何故と言われても、君たちは向こうでは同棲していたのだろう。」

 令音さんは不思議そうに首をかしげる。まるで君は何を言っているんだいと言わんばかりだ。

 前言撤回。やっぱりこの人も少し、いや結構変わっている。

「してませんよ。何を言っているんですか。」

 確かに僕たちは向こうで生活音が聞こえる程近くに住んでいたし、よく互いの家に出入りしていた。

 しかし、寝泊まりしたことはあまり多くない。いきなり同棲する関係ではない。

「ふむ。てっきり私は君たちが恋仲の関係にあるのだと思っていたのだが。違ったかい?」

「七罪は大事な存在ですけど、そういうのじゃないですって……。」

 言葉が尻すぼみになってしまう。意識したこと無かったから、そう言われるとどう返して良いか分からなくなる。

「しかし、要望通りだよ。」

「要望って一体誰の?」

 令音さんが顔を僕の斜め後ろに向ける。誰が居るかなんて見ずとも分かるが、一応後ろを見る。そこには当然七罪が居る。

「どうしてそんな要望を出しているんだよ?」

「良いじゃない別に。」

 大きな声で言う自分に対して七罪は当然と言わんばかりだ。口をもにょもにょさせているけど、どういう感情なのかいまいち分からない。

 これではまるで僕が常識外れみたいではないか。僕は男女の急な同棲を止めようとしている、常識的な人間なのに。

「何でいきなり同棲始めようとしてるんだよ。向こうでそんな話はしてなかっただろ」

「愛こそ冷静に考えなさいよ。山ほど秘密の話をするんだから一緒の家に居た方が良いに決まってるじゃない。」

 七罪は聞き分けの悪い子供を窘めるように言う。外見年齢的には本当にそのように取られかねない状況だ。七罪は見た目だけ二十代だからな。

 しかし、七罪の言う事も一理あることは確かだ。原作の知識をまともに共有しているのは七罪だけだ。ラタトスクには色々と見返りを求めつつ情報を渡したが、はっきり言って全体の一割も渡していない。

 だから、七罪と秘密の話をする場所が必須だ。そういう意味では同じ家の中なら、かなり楽になる。対策をすればラタトスクの監視も防げる。

 そういう実利的な面だけ考えたら、確かに合理的だ。問題は別の所にある。

「良いのか?男女が同じ部屋で二人っきりって。」

 結局問題はそこになる。精霊とは言え、女の子と二人きりで同室は問題ではないだろうか?

 「私は良いわよ。愛になら襲われても。」

 七罪は挑発的に断言する。大人モードだから変に自信が有る。

 しかしながら、顔が少し赤い。七罪も僕と一緒で何も思わない訳でないのだろう。堂々とした態度も虚勢を張っていることが分かる。

 まあ、そもそも精霊である七罪が一方的に襲われるなんてありえないけど。それこそ同じ精霊か一部の人外魔術師(ウィザード)しか勝てない。

 つまり、そもそもそんことは起り得ない訳だ。 頭の中でそう自分を無理やり納得させた。

「仕方ないか。」

 僕は受け入れることにした。別に嫌ではない。

 むしろ、大歓迎だ。ちょっと小躍りしたい気分になっている。露骨に表現するのは負けたみたいだから、やらないけど。

 令音さんがそんな僕たちを微笑ましく眺めていた。

 




楽しめていただけたでしょうか?
誤字脱字報告でも構いませんので、反応を頂けたら嬉しいです。

12月21日追記
折角なのでこの話にも裏話を追加することにしました。裏話では本編中に話し切れていない設定についてお話します。

今回は二人部屋について。七罪がわざと愛君に言わずにラタトスクに作らせました。愛君は言ったら反対すると分かっていました。、だから、外堀を埋めて逃げられない状況にしました。七罪は部屋の図面を見て、細かく指示しています。
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