加筆もするつもりですが物語の流れを大きく変えません。
あとpixivにも投稿を始めます。
メインはハーメルンなので暫くはハーメルンの方が先の話まで掲載されます。
目の前に佇むのは高級なマンションの一角。僕にとってはASTの駐屯所と並んで、行きづらい場所の一つだ。姉さんがいるから。
一年前に別れも言わずに姿を消した挙句、敵として対峙した実の姉と弟。気まずい以上の感情があるだろうか?
しかしながら、僕が行かなければならない。四糸乃の相棒であるウサギのパペット、よしのんを回収するために。
気絶した僕はよしのんを回収できなかった。七罪はよしのんが落ちていることを知らず、ラタトスクはそれが重要なものだと知らなかった。だから、こっちの人間はだれも拾わなかった。
結果、よしのんを回収したのは原作と同様に姉さんだった。後でフラクシナスの映像から確認したから間違いない。
ここで前提を整理する。姉さんの家に入ることが可能だと思われる人物は僕と士道のみだ。それ以外の人間は姉さんに拒否されるだろう。
こっそり侵入?到底無理だ。ASTの駐屯所よりもセキュリティレベルが高い建物に入れと?
姉さんは自室にトラップや通信妨害装置を普通に仕掛けている。本気で部屋に侵入したいなら、プロの特殊部隊を派遣しなければいけない。
と言う訳で、僕か士道が姉さんの家に入ってよしのんを回収しなければならない。よしのんを回収できなければ四糸乃の攻略ができない。よって、これは確定事項だ。
ではどちらが行くか。結論から言うと僕が行くべきだ。何故なら、士道にはこれからイベントが目白押しだから。
十香は士道と四糸乃のキスを見て機嫌を悪くしている。ある程度は令音さんが見てくれるが、放置することはできない。
四糸乃とのよしのん探しも恐らく行われる。攻略精霊とのイベントは絶対行ってもらわないと困る。
そして、崇宮真那が来たことでその対応も予測される。この上によしのんの回収まで押し付けたら、最悪回収できないかもしれない。
姉さんの呼び方が変わる、姉さんの意思の確認するといったイベントが発生する。しかし、そこまで重要なことだとは思えない。
と言うか、姉さんならその程度のイベントが消えても自力でイベントを作る。あの行動力の化身がお行儀よく待っている訳が無い。だから、今回のイベントは我慢してもらう。
士道の監視は七罪に任せたから安心だ。僕は姉さんとのやり取りに集中すべきだ。心理的には一番難易度が高いミッションだから。
久しぶりに昔のスマホの電源を入れると、通知が山のように表示される。ざっと確認すると一年前の僕がアメリカに行った日から、大量のメールや着信が有る。
一番多いのは姉さんだ。記録を見ると最低月に一回は連絡してくれていたようだ。
メッセージを流し読みした後、一番最近のメールに返信を出す。『会いたい』と短いメッセージを。
心配してくれた相手を騙すようで心苦しいが、やらないといけないことだ。別に姉さんと会って話しておきたかったのも嘘ではないし。
姉さんからも返信は恐ろしいほどの早さで返ってきた。内容は端的に『いつでも構わない』と。
あれだけやってこの対応だから姉さんが僕をどれだけ大事に思ってくれているかよく分かる。それに甘えている僕自身のなんと醜いことか。
そして僕は姉さんの住むマンションにやって来た。一年前まで僕も住んでいたから入ることは簡単だ。
鍵が変わっていたら電話するつもりだったけど、変わっていなかった。僕の事をずっと待っている意思表示かもしれない。
「待っていた。入って。」
ドアを開けると、そこに姉さんがいた。姉さんらしく淡々と迎え入れた。
士道を迎えるときのようなコスプレではなく、普通の私服だ。白いブラウスに淡い水色のカーディガンを羽織っている。控えめながらも上品な雰囲気がある。
家に入って僕はテーブルの前に座る。姉さんは隣に座って麦茶を差し出す。
僕が猫舌なのを知っているから、熱いお茶ではなく冷たい麦茶を出してくれる。こういう所が地味にありがたい。
「姉さんは怒ってる?」
お茶を飲んで一息ついたから会話を切り出す。いきなりよしのんを回収してバイバイは薄情だから、適当に話を振る。良い機会だからある程度姉さんの内心が知りたい。
「何に対して?」
「僕が急にいなくなったこと。ASTの皆に酷いことをしたこと。」
姉さんは表情を変えずに淡々と聞く。姉さんは喜怒哀楽の内、怒りしか顔に見せない。だから、感情を読みにくい。感情豊かな癖に。
感情は言葉や行動から読み取るしかない。それなのに言葉はとにかく短いし、行動はぶっ飛んでいる。
だから、分かりにくいことこの上ない。もうちょっとどうにかならないだろうか?
「
「そうか。」
姉さんは本当に怒っていないようだ。ただ純粋に僕の事を案じている。
七罪のために行動すると決めた時、心残りが一つだけあった。それが姉さんと敵対することだ。だから、この言葉は正直嬉しい。
「愛、あなたは今までどこにいたの?」
姉さんからしたら当然の疑問だ。書置きだけ残して街から消えた弟の行方が気にならない訳ない。行先は書かなかったし。
「アメリカに行ってた。」
「パスポートは持っていなかった筈。」
僕の返事に姉さんはすぐにおかしな点を見つける。僕は姉さんの言う通りパスポートを持っていなかった。それなのにアメリカに居たとはどういうことだと。
「今お世話になっている所が便宜を図ってくれたから。」
「あのCRユニットも?」
「まあね。」
姉さんは考え込んでいる。パスポート無しで急に海外に行かせることができる。加えてASTより高性能なCRユニットを用意することができる。
相当な力を持っている組織だと想像できるだろう。姉さんならすぐにラタトスクという答えに辿り着く。ASTには崇宮真那も居ることだし。
「あなたのやっていることは危険。今すぐに止めるべき。」
「危険は百も承知だよ。でも、必要なことだと判断したからやっている。姉さんには悪いけど、止める気は無い。」
危険を避けたいのならこの街に戻らなければ良い。僕だけが逃げるのならアメリカでのほほんとしていれば良かった。
でも、七罪はそうはいかない。DEMや始原の精霊は絶対に逃してくれないから。あいつらとの決着をつけないと、七罪に平穏は訪れない。
「それは《ウィッチ》のため?」
「そうだよ。」
僕が七罪の為に動いていることは姉さんに何度も宣言してきた。姉さんが知らない訳が無い。姉さんの神経を逆撫でする発言だが、否定する気は無い。
「あなたはあの精霊に会ってからおかしくなった。精霊の肩を持つようになって、いつの間にか《ウィッチ》のことばかり話すようになった。お父さんの事は忘れてしまったの?」
姉さんの目は僕の事を強く責めている。七罪の出会いで僕は前世の知識を取り戻した。僕は世界の真実を知ったから行動を変えた。でも、姉さんにとっては七罪が諸悪の根源に見えているみたいだ。
「忘れていない。でも、七罪は父さんを殺していない。」
「《ウィッチ》も精霊。そして、精霊は全て人類に害をもたらす存在。」
僕の反論に姉さんは即答する。姉さんは復讐が全てだとよく言っていた。でも、精霊による犠牲者を出さないという意識も強い。
だから、全ての精霊を憎み殺そうとしている。父さんを殺したと
姉さんの復讐心は、僕にとってとてつもなく厄介な問題だ。ある意味では僕の最大の障害に成り得る。
姉さんは僕の敵になるかもしれない相手の中で、唯一殺したくない相手だ。他の誰を手にかけることになっても、姉さんだけは殺したくない。
しかし、姉さんに真実を伝えることはできない。伝えたとしても信じて貰えると思えないし、信じて貰えたとしても歴史を大きく変えてしまう可能性が有る。
姉さんが精霊化しないことでも有ろうものなら、全てが終わりだ。だから、迂闊なことはできない。
「……少しトイレに行ってくる。」
ヒートアップしてきた会話を中断するため、よしのん回収の隙を作るために席を離れた。姉さんは軽く頷いた。
精霊の話題に関してはずっと平行線だ。《イフリート》こと琴里を殺して、姉さんの感情を解消させる手段を考えたことも有る。
だけど、姉さんは恐らくそれで止まらない。それが理由で、姉さんとは決別した。
軽い家探しをしたら、よしのんは見つけることができた。よしのんを鞄に詰めて、とりあえずミッション完了だ。あとは適当に家を出るだけ。
そう思っていた時に空間震警報が鳴り始めた。このタイミングで精霊の現界がASTに感知されただと?想像よりも早すぎる。
間を置かずにスマホが鳴る。相手が七罪であることを確認して出る。
「もしもし。」
『愛、四糸乃が
電話の相手は七罪だ。状況を端的に説明してくれているが、余り良くないようだ。こんなことにならないように七罪を士道の監視役にしておいたんだが。
「お前がいて、どうしてそんなことになっているんだよ。」
『仕方ないでしょ。士道と四糸乃が一緒に居るときに、十香と崇宮真那が一気に集まったんだから。』
「あー。」
流石に三つのイベント全部が同じタイミングで発生するとは思っていなかった。
そんなガソリンかけたダイナマイトに火をくべるような現象が起きていたのか。それなら七罪が対応できなくても仕方がない。
『とにかく早く来て。』
それだけ言うと七罪は電話を切った。七罪自身がかなり焦っているようだ。僕も行かなくてはならない。そして、空間震警報が鳴ったということは、出動する人がもう一人。
「愛。」
姉さんが僕の事を見ている。先ほどの会話を聞いていたのかもしれない。聞いてなかったとしても、僕が行くことは分かっている筈だ。
「止めても無駄だよ。僕は行く。」
僕は姉さんに背を向ける。僕と姉さんは分かり合えない。それは先ほどの会話で嫌と言うほどわかった。だから、戦場であったら敵同士だ。
「愛、最後に。」
「何、姉さん?」
「最近、お父さんとお母さんに会いに行った?」
思わず足が止まってしまう。僕たちの両親は二人とも死んでいる。
父さんは五年前の火災の時に。母さんは僕が生まれた時に。だから、姉さんが言っているのはお墓の事だ。ちゃんと父さんと母さんのお墓に顔を見せに行っているか聞いている。
「……姉さんと一緒に行ったのが最後だよ。」
姉さんと最後に言った墓参りは小学生の終わりだ。もう一年以上行っていない。アメリカから帰った後も。
合わせる顔が無かったから。姉さんを裏切って精霊の味方をする僕に、行く資格はないと思ったから。
「顔を見せてあげて。」
振り返って姉さんの顔を見る。心なしか姉さんの顔は優しげに見えた。
「……今月中には行ってくるよ。」
姉さんへの返事と言うよりも、自分自身への誓いだった。
「姉さん、僕たちは何があっても家族だよね。」
震える僕は安心を得るために姉さんに問いかける。卑怯な問いを。
「私とあなたは家族。何があっても。」
姉さんは迷う素振りすら見せなかった。姉さんの方は見ずに僕は七罪の所へ駆け出した。
愛君と折紙の会話でした。この二人は色々と複雑な感情を持っています。互いに大事に思っているけど相容れない関係。この二人もいずれ幸せになって欲しいものです。
今回の裏話は愛君のAST所属のときの話。愛君は七罪とASTの初任務で出会いました。そして、七罪との出会いは一年半前です。通っていませんが、愛君は琴里と同じ中学二年生です。つまり、愛君の初任務は小学生です。小学生に精霊との戦いをさせるなんて正気じゃないですね。これには理由が有ります。
愛君は試しに触ってとんでもない