ヒロインは七罪   作:羽国

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折紙の誕生日から連続投稿スタートしましょうか。

十一月十一日連続投稿スタートです。そこから行けるところまで頑張ります。

まあ今の時点でストック十四話あるので。多分折紙編最終話まではいきませんが、できたら頑張ったって褒めてください。


自分じゃない誰かのために

 街明かりが消え始める夜の時間帯。俺は全速力で駆け抜けていた。

 握ってくしゃくしゃになっている手紙。そこには二度目の招待が書かれている。

『美九さんの家に今すぐ来てください。来ないなら、美九さんがどうなってもいいと受け取ります。

 鳶一愛』

 

 相変わらずの簡素な文面。直接の表現こそないが、美九が危険な目に遭ってるとしか思えない。

 今のあいつにはそれだけのことをするかもしれない怖さがある。簡単に踏み外してしまいそうな怖さが。

 開けっ放しの門を抜けて、鍵のかかっていない玄関を開ける。そこには異様な光景が広がっていた。

 

 美九が颶風騎士(ラファエル)の鎖でぐるぐる巻きにされて宙に浮いている。身動きが絶対に取れないほど厳重だ。

「むー、むー」

 しかも声が出せないように口に何か黒いものがつけられている。美九の能力を封じてるんだろう。

 くぐもった声だけがむなしく響く。

 

 そして隣には霊装を身に着けた愛が座っていた。豪華な椅子を用意して、魔王のように笑いながら。

 煌びやかな装飾の中でも、その姿はひと際目立つ。この空間を支配しているのはあいつだ。

「来ましたね、士道さん」

「一体何のつもりだ、愛?」

 愛をにらみつけていつでも天使を出せるように準備する。覚悟だけはしておかないといけない。

 

「士道さん、私言いましたよね?美九さんを攻略できなかったら女にするって」

 前にこの家で会ったときに行った言葉だ。あのとき、愛は天使を出して脅してきた。

「でも、勝負には勝ったし、美九のことは封印したぞ」

「ええ、そうですね。でも、蛇蝎のごとく嫌われてる有様じゃないですか。このままじゃいつ霊力が戻ってもおかしくない」

「それはお前が男に戻したからじゃないか!」

 キスした瞬間に男に戻すなんて。男嫌いの美九との関係が荒れるなんて火を見るより明らかだ。

 

「だったら一生騙しているつもりだったんですか?」

「それは……」

 それを言われると困る。美九を騙し通す自信なんてないし。

「まあ、現状は五十点といったところでしょうか。合格とは言えませんが、評価には値します」

 

 愛は美九を手元に寄せて鎖の上から撫でる。美九は何とか離れようともがいてる。

「そこで、士道さんには選択肢をあげましょう。じっくりと考えて答えてくださいね」

「選択肢……?」

 嫌な予感しかしない。こんなときに用意される選択肢なんて。

 

「一つは断罪覇王(アズラエル)で美九さんを書き換えること。士道さんに身も心も全て捧げたということにします」

「な⁉そんなのただの洗脳じゃないか!」

 人の心を弄ぶなんて。いくらこんな状況でも、それはやっちゃいけないだろ。

「士道さんは一度美九さんを救ってるんでしょう?そのときに好感度が上限突破したことにします。

 何もおかしなことはないじゃないですか。命を救われた相手に心酔することなんて」

 愛は口角を釣り上げる。甘言でたぶらかす悪魔のように。

「むー、むー」

 美九がさらに力強く暴れて抵抗する。全力で嫌だとアピールしている。

 

 でもそんなことお構いなしに愛は続ける。

「もう一つは士道さんが女になることです。そうすれば美九さんは問題なく士織さんを好きになる。他の精霊もその程度で嫌いになりはしないでしょう」

 愛が出したもう一つの選択肢は俺が女になること。女になって一生過ごすという、俺の人生を丸ごと書き換える選択。

「さあ、どっちを選びます?私はどっちでもいいですよ。」

 愛は立ち上がって手を広げる。俺に選択は委ねられた。

 

 俺と美九、どっちかが人生を書き換えられる。でなければ、愛がここで敵になるだろう。

 美九をじっと見つめる。美九の顔はひどく怯えている。

 あれだけ嫌いな男を好きにさせられるんだ。身の毛もよだつ人生に違いない。

 少し考えて結論を出した。これが一番だ。

 

「俺を女にしてくれ」

 愛が笑い、美九が目を見開く。

「いいんですか?一生女のままですよ?女になるの、嫌だったんじゃないんですか?」

 愛は試している。でも、俺は最善を選んだつもりだ。

「確かに女になるのは嫌だよ。でも、美九の心を玩具にされるよりマシだ」

 

「士道さん、美九さんが何をしたか覚えてます?他人を洗脳して襲わせたんですよ。そんな人のために自分の人生をかけるんですか?」

「美九はずっと苦しんでたんだよ。誰も信じられなくて、また手を返されるんじゃないかって気が気じゃなかった。

 だから少し間違えちまっただけなんだよ。それがわからないお前じゃないだろ、愛」

 愛は意味ありげに笑みを深める。通じなかったとは思えない。

 

「それでこそ士道さんですよ」

 愛は颶風騎士(ラファエル)を輝かせて手の中に収める。再びあの禍々しい白と黒の杖の天使に戻った。

 同時に美九を縛っていた鎖もなくなり、マットの上に落ちる。同時に美九の口を塞いでいた黒いものも外れ、荒い息の音が聞こえる。

「では、始めましょうか」

 愛はゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。それをしっかりと見つめ返す。

 せめてものあがきだ。無様な姿は見せてやるもんか。

 一メートルもない至近距離。愛は天使を掲げて白と黒に輝かせる。

 

「待ってください」

 それを妨げたのは美九だった。その手をよく見ると小さく震えている。

 あの美九が俺のために愛へ立ち塞がった。

 

♦♦♦

 

 ふざけないでくださいよ。

 誰が自分の人生と他人の人生を天秤にかけられるんですか?みーんな自分がかわいいに決まってるじゃないですか。

 それなのに、なんなんですか。今目の前にいるこの男は。

 

「俺を女にしてくれ」

 自分の性別を変えられることを選ぶなんて。自らアイドルを奴隷にできるチャンスを投げ捨てるだなんて。

 どうしてそんな選択を選ぶことができるんですか?そんなの、人間の考えじゃないですよ。

 

「いいんですか?一生女のままですよ?女になるの、嫌だったんじゃないんですか?」

 私は男になるなんて絶対に嫌です。考えるだけで吐き気がします。

 

「確かに女になるのは嫌だよ。でも、美九の心を玩具にされるよりマシだ」

 それでもこの男は、五河士道は選べてしまう。そんな人なんですね。

 二度も助けてもらうまで気づけないだなんて。私は馬鹿です。

 この人は私のために本気で命を懸けてくれる。自分よりも私を大事にしてくれる。

 

「士道さん、美九さんが何をしたか覚えてます?他人を洗脳して襲わせたんですよ。そんな人のために自分の人生をかけるんですか?」

 そうですよ。私は救いの手を拒んだんです。差し伸べられた手を振り払って、あまつさえメイドさんにしようとしたんです。

 勝負に負けたのに醜く抗って。全部台無しにしようとしたんです。

 

「美九はずっと苦しんでたんだよ。誰も信じられなくて、また手を返されるんじゃないかって気が気じゃなかった。

 だから少し間違えちまっただけなんだよ。それがわからないお前じゃないだろ、愛」

 

 それでもまだ手を伸ばしてくれる。その不器用なまっすぐさが私には眩しすぎる。

 ただの感傷なんかじゃなくて、心から寄り添って想ってくれてる。私のことを本気で救い出そうとしてくれている。

 そんな人、もう二度と現れてくれるはずありません。だからこそ、ここで甘えちゃダメなんです。

 

「待ってください」

「どうしたんですか、美九さん?」

 愛さんは微笑を浮かべてこっちを見ています。おもちゃでも見るみたいに。

 

「私を好きにしてください。だから、この人には手を出さないで!」

 精一杯の声で訴えかけます。心からの気持ちを込めて。

「美九さん、士織さんが戻って来るんですよ。願ったり叶ったりじゃないですか」

 愛さんは目を細めて天使をくるくると回しています。完全に遊び半分です。

 

「ええ、そうですよ。

 士織さんに戻ってきてほしいですよ。こんな素敵な人が女の子になってくれるなら最高ですよ。

 でも、それじゃダメなんです。こんなに優しい人だからこそ、甘えてばかりじゃダメなんです」

 

 自分でも何を言ってるかわかりません。ただ、そう思ったんです。

「美九……」

 五河士道が私を見つめています。私を救ってくれた、ただ一人だけ受け入れられる男の人。

 この人のものになるなら悪くありません。

「男だって好きになってみせます。さあ、やってください」

 目を閉じて覚悟を決めます。やるならせめてひと思いに。

 

「もう天使なんか使う必要ないじゃないですか」

「え?」

 顔を上げると愛さんは背中を向けていました。

 

「私の目的は士道さんが美九さんをちゃんと攻略すること。それだけの覚悟があるなら、わざわざ情報を弄る意味なんてないんですよ」

 そのまま玄関の方へすたすた歩いていきます。

「救いようがないほど歪んでいるなら加工するのも一つの手です。ただ、そんなことしないに越したことはない」

 愛さんはドアを出たところで振り返りました。

 

「人間は振れ幅が広い。救いようのないゴミもいれば、士道さんのようないい人もいる。忘れないでくださいね」

「はい……」

 緊張が解けて腰が抜けました。しばらく立てそうもありません。

 

「待てよ、愛」

 五河士道が、士道さんが愛さんに声をかけます。

「なんでしょう、士道さん?」

 愛さんはもう一度振り返ります。あの深淵のような底の見えない瞳でこちらを見つめて。

 

「折紙のことはどうするんだ?あいつは泣いてたぞ、捨てられたって」

 士道さんは怖い顔で愛さんを見つめています。

 折紙さんは愛さんのお姉さんでしたよね?おうちの中でもあんなに仲が良かったのに。

 

「士道さん、姉さんのことはあなたに任せます。守り抜いてくださいね。何かあったら、殺しますから」

 それだけ言い捨てて去っていきました。そんなに大切なら、どうして自分で守らないんでしょうか?

 あれだけの力があるのに。

 

「愛、相変わらず勝手な奴だ」

 士道さんは拳を握り締めています。血がにじむほどの強さで。

 私も知らないといけません。士道さんを支える精霊の一員として。

 

♦♦♦

 

 日が暮れるのも早くなってきた。夜の冷たい風が白衣をはためかせるる。

 私自身は別にいいが、シンに貰ったこの子はそうもいかないな。胸元のクマのぬいぐるみを撫でながら、かすかな霊力を使って簡単な障壁を展開する。

 向き直るとつぶらな瞳と目が合う。心なしか心配しているように見えた。

 

「私の心配をしてくれているのかな?」

 最近不安の種がいろいろと多い。いつもその中心にいるのはあの子だ。

「力に目覚めたときから嫌な予感はしていた。ここまでとは思っていなかったけれど」

 愛は強大すぎる力を持って生まれた。世界はあの子が愚かでなかったことに感謝すべきだろう。

 あれを持ったのが愛でなかったら、既に世界は滅んでいる。

 

断罪覇王(アズラエル)。生物の在り方を変える天使か。

 やはり似ているね。私の天使に」

 軽く振るうだけで人をガラス細工のように壊す。とても、人に扱えるような代物じゃない。

 君はどれだけの重圧を抱えているんだ?そんなものを振るいながら。

 

「それでも君は歩き続けるのか」

 心と身体を傷だらけにしながら。君にしか見えない道をただひたすらに。

 人のことは言えないけれど、意固地な子だ。

 

「そろそろ、私も動かないといけないな」

 きっとあの子はこのままだと取り返しのつかないところまで突き進む。確かな根拠なんてないけれど、間違っている気はしない。

「最後の霊結晶(セフィラ)。残しておいて正解だったようだ」

 手元で光り輝くのは白い結晶。これが逆転の一手になるかもしれない。

 私でも士道でもダメなんだ。君の声だけがあの子に届く。

「弟が間違った道を進むのなら――正してあげるのが姉だろう?」




愛くんが二重の意味で魔王化してきました。次回から折紙編なので、お待ちください。

さて今回の裏話は愛くんの内心について。
一部の読者は正確に当ててくれそうですが、愛くんは天使で味方の心を弄るのは絶対しません。今回のは完全に脅しです。万が一美九を選んでたら、士道は問答無用で士織ちゃんにされてました。

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