「えへへ、五河くんいい人だったな」
お姉ちゃんがソファの上でもだえてる。普段は落ち着いてるけど、たまにトリップしちゃうんだよね。
「シンのことは気に入ったようだね」
「いや、別にそんなことは。確かにかっこいいと思ったけど」
お姉ちゃんは慌てて否定する。でも説得力が全くない。
反応がもう好きな人のものじゃん。鈍感な僕でもわかるよ。
「それでこそ引き合わせた甲斐があった」
令音さんは微笑む。
この人はいつもそうだ。僕たちにいいことがあると心から喜んでくれる。
「お姉ちゃん、あの人にはちょっと気をつけた方がいいよ」
ただ、僕は反対だな。
「どうして、愛くん?優しそうな人だったよね?」
お姉ちゃんが困惑した顔で聞いてくる。あの人のことが気に入っちゃったみたいだ。
「愛、何か思うことがあるのかい?そこまで警戒すべき人間ではないと思うよ」
令音さんは落ち着いている。紹介した人をけなしたちゃったけど、怒らず僕の話を聞いてくれる。
「悪い人ではないと思う。ただ、何か裏がある気がするんだよね」
僕たちと出会うことで何かが手に入る。一番可能性があるとすれば――
「お姉ちゃんを狙ってたとか」
何かしっくりこないけど、一番ありそうなのはそれ。令音さんが見抜けなかったとは思えないし。
「彼女ってそんな……」
お姉ちゃんは慌てふためいてる。初対面で好きになり過ぎじゃない?
「……まあ気の多い人間であることは否定できないね。好色家というわけではないのだけど」
令音さんが困った顔をしている。
「モテるってこと?」
「彼は度を越えて優しいからね。多くの女の子から好かれるのさ」
「……地味に面倒」
優柔不断そうだし、修羅場が絶えないんだろうな。
「まあ、折紙が嫌だというなら私が手を回そう。これでも君の保護者だからね」
令音さんは頼りなくないよ。お父さんが死んじゃった後も、十分幸せに安心して暮らせてる。
「大丈夫だよ、令音さん。どうしてもってときはちゃんと話すから」
不安だな。お姉ちゃん警戒心が足りないから。
「そういうことだから、お姉ちゃんは気を――」
言いかけて着信音が鳴った。お姉ちゃんが携帯を取り出して内容を確認する。
「えっと、五河くんからだね」
「なんて?」
今日の挨拶かな?『楽しかったです、また会いましょう』みたいな無難なやつ。
「『今日は本当に楽しかった。また今度の休日にでも一緒に遊ばないか』って……」
お姉ちゃんの言葉が小さくなって、立ち消えるように聞こえなくなった。明らかに顔が紅くなってる。
本当に、お姉ちゃんどれだけわかりやすいんだ。それと一つ言わせてくれ。
「完全に悪い狼じゃないか!」
♦♦♦
携帯をつけてメールアプリを起動させる。とっくに返信済みのメッセージを開いて読み返す。
そこには五河くんからの遊びのお誘い。二人きりでという文言が輝いて見える。
「五河くんと、デート……」
そうデートだ。高校生の男女が二人きりで遊ぶだなんて、デート以外の何物でもない。
想像するだけでちょっと胸が躍る。最後にはキスまで、なんてことまで考えてしまってる。
自分でも浮かれ過ぎだと思う。
でも仕方ないじゃない。夢の中の男の子が現れたんだから。
思わず行くって返信しちゃった。今は五河くんの返信待ち。
きっと五河くんはそこまで意識してないと思う。でもいきなり二人きりでってそういう意味なのかな?
「あ~~~!」
どうしたらいいの?私、期待しちゃってもいいの?
不安と期待で頭の中がぐるぐるする。いつまで経ってもこの気持ちが消えてくれない。
むしろ思いは募るばかり。目を閉じるとあの優しい笑顔を思い出してしまう。
でも、夢の中の男の子がかっこよくなって目の前に現れてくれたんだもん。私、悪くないよね?
どんなデートになるのかな?デートの内容を妄想する。
映画館?遊園地?水族館?
どこへ行ってもきっと忘れられない日になるんだろうな。きっと楽しい一日に。
「はっ、こうしていられない。着ていく服を選ばないと」
洋服棚を開けてコーディネートを考える。五河くんはどういうのが好みなのかな?
寒くなってきたし、黒いシャツにトレンチコートを合わせて……。これちょっと地味すぎない?
せっかくのデートなんだし、もうちょっと大胆になってもいいのかな。五河くんもどうせならかわいい格好の方が喜んでくれるよね。
だったらいっそのことミニスカートにしようか。ルーズソックスとタイツを合わせたら寒くないよね。
それに合わせてトップスも少し布面積が小さいものを。これで五河くんも思わずドキッと……。
「って、私は痴女か!」
相手はそこまで意識してないって思ったばっかじゃん。そんなに攻め過ぎたら引かれちゃうって。
落ち着いて。少し可愛いって思えてもらえたらそれでいいの。
スカートはやっぱり普通にAラインのロングで。
黒は地味すぎるしピンクは何か露骨過ぎる。ベージュが丁度いいかな?
このままだとちょっと地味になっちゃうな。トップスはもうちょっとかわいい寄りにしても大丈夫だよね。
このフリルのついたシャツにして。あとネックレスとかもあんまり派手じゃないものなら……。
こうして服を選んでいるだけで一日が過ぎていく。私ってば、浮かれ過ぎだよぅ。
♦♦♦
俺たちの家のリビング。そこはいつも通り会議室代わりにされていた。
「デートには乗ってくれたみたいね」
「ああ、かなり丁寧な返事が返ってきたな」
昨今、中々見ないぞ。時候の挨拶が書いてあるメール文。
「相手は鳶一折紙。特筆すべきは元ASTの隊員ってことね」
「ん、元?」
「最近辞めたらしいわよ。令音が教えてくれたの」
俺たちの世界でもASTは辞めてたけど、それは愛と仲直りするためだったはずだ。どうしてこっちでも辞めてるんだ?
「何か事情でもあったのか?」
「むしろ精霊がASTの基地に入り浸る方がおかしいじゃない」
それもそうだ。ASTは精霊を殺そうとしている組織なんだから。
「もしかして、琴里や美九みたいに精霊になった人間ってことか?」
少なくとも、前の世界で折紙はずっと人間だった。精霊になったのもつい最近だった。
きっとこっちの世界でも。
「かもしれないわね。何故か天使を使用した痕跡もなければ、被害を隠蔽している様子もない。最近なったばかりで本人も困惑しているとしたら納得できるわ」
琴里が俺の意見に賛同する。今まで精霊が何も問題を起こさないってことがほとんどなかったからな。
「というか、令音さんは?」
いつもなら琴里の隣で参加しているはずだ。なのに今回はいない。
「不参加にするみたいね。保護者として攻略には関われないって」
「それもそうか」
この世界だと令音さんは折紙の親代わり。そんな立場で好感度を上げてキスさせようって思えないよな。
「ただ、邪魔はしないそうよ。『折紙を幸せにするなら娶るのも構わない』って伝言もらってるわ。
よかったわね士道。公認付きで精霊攻略ができるわよ」
琴里がニヤニヤと笑っている。俺を虐めてとても楽しそうだ。
「ハハハ、そりゃどうも」
かつてないプレッシャーが襲い掛かる。親公認ってどれだけ重い攻略なんだよ。
折紙除いて六人の女の子とキスしてるんだけど。俺、刺されたりしないよな?
「それで、どうするつもりなんだよ?」
「ん~、まあ正直言って焦る必要はないのよね。ファーストコンタクトから印象は悪くないし、好感度も封印できるほどじゃないけどいい値よ」
琴里が紅茶を飲みながらタブレットを操作する。そしてその画面を俺に見せてきた。
そこには折紙の霊波、好感度、機嫌などのデータが記載されている。パッと見た感じ友人以上って感じだろうか?
「どういうわけかわからないけど、士道は好かれてるみたいね。まあ都合がいいから構わないんだけど」
「……なるほどな」
前の世界の折紙のことを考えると納得しかない。前の世界でも最初からグイグイ来てたから。
本当に、なんで俺は折紙に好かれるんだろうな?こっちの世界ではアレが初対面のはずなのに。
「まあこちらとしてはこれ以上ないくらいの好条件よ。たまにはサクッと決めちゃいなさい」
「ああ、勿論だ」
♦♦♦
ASTの基地内では毎日厳しい訓練が行われている。あまりやる気はないけど、僕もその一員だ。
僕は
今は練習試合の真っ最中。
相手は僕より小柄な女の子、岡峰美紀恵さん。一応、高校二年生だ。
『ミケ』の愛称で親しまれてるあの人はASTのマスコット。ころころと変わる表情や、真面目な性格でみんなに好かれている。
「やぁ!」
ミケさんが魔力で刃を作る武器《ノーペイン》を振りかぶって攻撃する。
「ほいっ、やぁ、それっ!」
それを軽く躱し続ける。
ミケさんの軌道をずらしたり、身体を逸らしたり、バク転したり。三次元的な動きでミケさんをかく乱する。
「どうしてそんな変な動きで戦闘になってるんですか!」
ミケさんが息を切らしながら剣を振り続ける。一方、僕はまだ余裕がある。
「むしろ、なんでみんなやらないんですか?重力に縛られてたら、動きが読まれやすいじゃないですか」
「普通の人間は逆立ちのまま戦えません!」
ミケさんが勢い良く振った剣を逆立ちのまま足払いした。
「それじゃあこっちからも行きますよっと」
「止めてみせます!」
ミケさんがビームサーベル、《ノーペイン》を若干下げて構え、防御の姿勢を取る。僕も《ノーペイン》を振りかぶる。
「はっ!」
ミケさんは攻撃へ合わせに動く。僕の軌道と丁度ぶつかるように《ノーペイン》を置いた。
それを無視して僕はきれいに真っすぐ攻撃の軌道を描く。
《ノーペイン》同士が重なる。その直前の僕の刃だけ一瞬消えた。
僕の刃はミケさんの防御をすり抜け、そのままミケさんに直撃した。
「はぅっ」
ミケさんの
『そこまで。勝者、鳶一愛!』
隊長の声で勝者が宣言される。これで面倒な訓練は終わりだ。
「ありがとうございました」
「……こちらこそ、ありがとうございました!」
ミケさんは悔しそうな顔を少し見せ、大きく頭を下げた。
ミケさんだけはちゃんと悔しがってくれる。そこはちょっと感謝しないと。
他のみんなは僕に勝つことを諦めてるから張り合いがないんだよね。
♦♦♦
休憩室、僕たちはドリンクを飲みながら休んでいた。そこに騒がしい人がやって来る。
「愛くん、教えてください。さっきの攻撃どうやったんですか。私の防御がすり抜けたように見えましたけど」
ミケさんがきらきらとした目で僕に近寄る。さっき負けたばかりなのに、メンタル強いなー。
「大したことはしてないですよ。《ノーペイン》を消しただけです」
「どういうことですか?」
ミケさんは首をかしげる。本当にただの小細工なんだけど。
「《ノーペイン》って魔力がないとただの柄ですよね?」
魔力を流して刀身を作るビームサーベル。それがASTの基本装備の一つ、《ノーペイン》。
「ふむふむ、それで?」
「だから、刃と刃がぶつかる瞬間だけこっちの刃を消す。それだけのことです」
さっきもミケさんの防御のときだけ刀身を消した。だから、ミケさんの防御が意味を成さなかったのだ。
「ほえ~、すごいですね~」
ミケさんが尊敬のまなざしで見てくる。僕の技を褒めてくれる人は少ないから、素直に嬉しい。
「隊長は渋い顔するんですよね。他の隊員が真似したらどうするんだって」
「それそんなに難しいんですか?」
「簡単だと思うんですけど。思いついたその日に使えるようになりましたよ」
隊長はいつも首を横にぶんぶん振る。僕が他の人に何か教えるのは禁止だ。
『第三の目』とか絶対役に立つと思うんだけど。
「まあ、そんなことはどうでもいいんです。丁度ミケさんに話したいことがあったんです」
「私にですか?」
「はい、お姉ちゃんについて協力して欲しいことがあるんです」
『お姉ちゃん』という言葉を聞いた瞬間、ミケさんの瞳が輝く。
「折紙さんが私に助けを求めてるんですか?任せてください、私何でもやりますよ」
鼻を鳴らしてやる気をアピールしている。この人も僕と一緒でお姉ちゃん大好きだ。
「お姉ちゃんが助けを求めたんじゃなくて、僕が必要だと思ったんです。お姉ちゃんに危機が迫っています」
「詳しく聞かせてください!」
ミケさんはお姉ちゃんに助けられてASTに憧れた。その経緯もあって、お姉ちゃんがASTを辞めた今でも尊敬してる。
「お願いします。僕たちがやるべきことは、とある男からお姉ちゃんを守ることです」
ミケさんはうんうん頷きながら聞いてくれる。
「先日、令音さんの紹介でとある男と会いました」
一緒にその男の妹もいたけど。
「ふむふむ」
正直その時点で怪しいんだけど、その後はもっとダメ。
「その人からお姉ちゃんはデートに誘われてちゃいました。優しいお姉ちゃんはきっとデートに行ってしまう」
あの人自分のことをちゃんとわかっていないから。あんな優しい超絶美少女、男から狙われるに決まってるのに。
「なるほど、言いたいことはわかりましたよ!」
ミケさんが指を鳴らす。僕と同じことを考えたみたいだ。
「折紙さんを影から守るんですね」
「はい、その通りです!協力してくれますか?」
「勿論!折紙さんのためなら例え火の中水の中です!」
なんて頼もしい。持つべきものはよい仲間だ。
「来る十一月九日。よろしくお願いしますね」
「はい、折紙さんに近づく悪いやつをやっつけましょう!」
二人で手をがしりと握り合う。ここに同盟が結成された。
「ミリィ、何かちびっこどもが手を取り合ってるけど大丈夫?あの子たち優秀なんだけど、ちょっと個性的だから」
「ハハハ、大丈夫じゃないですか。どうせいざとなったら折紙が止めますよ」
「……折紙も大変ね」
背後で隊長とミリィさんがひそひそ話している。その声は僕たちに届かなかった。
色々なキャラの思いが交錯して楽しいことになってますね。……本当にちゃんと収集つくんだろうか?
今回の裏話は折紙の夢の中の男の子について。
無論その正体は士道なのですが、実際に会った記憶を令音が消しちゃってるんですよね。それで、この世界でも記憶の蓋が微妙に開いちゃってます。士道はそのことを知らないからこんな困惑状態になってるんですね。
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