ヒロインは七罪   作:羽国

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前回の話で年末の挨拶をしなかったのはもう一話書けるかもと思っていたからです。本当に書けるとは思っていなかった。

五期辺りのネタバレが死ぬほど有ります。ネタバレが嫌な方は先にアニメを視聴してきてください。半月も有れば一期からアニメ全部観られます。

それではどうぞ。

2025年2月14日追記
七罪の誓いに演出を入れました。


光を目指して

 現在、僕と七罪は朝ご飯を食べている。内容はベーコンエッグにトーストだ

 作ろうと思えば、もっと凝った料理もできる。七罪に至っては、プロレベルのコース料理を用意できるくらいだ。

 でも、普段はシンプルな料理が並ぶ。特別な日でもない限り。

 七罪も僕も半分寝ぼけ眼で食事を口に運ぶ。僕の愛する平穏な日々だ。

「今日空いてる?」

「特に予定はないけど……。ネトゲ?買い物?暇だから何でも付き合うわよ。」

 七罪は話の内容を聞く前から付き合う気でいる。七罪の予定は大概僕の予定でもある。

 だから、七罪が僕の誘いを断ることなどほとんどない。最近はちょこちょこ四糸乃と遊んでいるみたいだけど。

「今回はそういうのじゃなくて……」

「何よ。」

「四糸乃を封印する前に言ったこと覚えてる?」

「四糸乃を封印する前って……まさか。」

 七罪は僕の言いたいことが分かったようだ。四糸乃を封印する前に僕は七罪に秘密を話すと言った。今まで隠していた、この世界の真実と未来について。

 四糸乃が封印されてから、十香&四糸乃の引っ越しや七罪の真の姿のお披露目等の色々なイベントが有った。

 だから、何だかんだと先延ばしになっていた。けれど、その辺もだいぶ落ち着いてきたから、丁度良いタイミングだろう。

「そう、それじゃあ……買い物に行かないとね。」

「なんで~?」

 先ほどまでの話と全く関係のない話をされてずっこけそうになる。どうしてここで買い物の話になるのだろうか?

 今は朝ご飯を食べている最中だ。日用品も明日まで持つ位はある。どうしてそうなる?

「前色々と話してくれたわよね。精霊とかラタトスクとかDEMについて。その時どれだけ時間がかかったか覚えてる?」

「えーと……」

 七罪に言われて過去の記憶を掘り起こす。あれは確か琴里に会う少し前、七罪が本当の姿で会うようになった頃の話だ。ちょこちょこ時間を取って何回も話したはず。

「半月ぐらいだっけ?」

「そうよ、半月よ。あんた()()()()()()()()()()、話し続けたのよ。馬鹿じゃないの?」

「でも、必要な話だったし。」

 七罪は言葉を切りながら語気を強めて言う。前回の事で大変怒っていらっしゃるようだ。

 何だかんだで仲良くなってきたから、色々と自分の持っている情報を七罪に与えた。必要なことだと思ったし、それが誠意だと思ったから。

 でも、僕はミスをしたようだ。話し方という面について。

「必要な話なのは分かるわ。でも、あんたと違って長い話を聞くのは結構疲れるの。今回もそれぐらい話すのでしょ。しかもメモ無しで。」

「そうだよ。」

 メモなんてしたら、他の人に情報の渡るリスクが高まる。ただでさえ、秘密の会話を盗み聞きできる天使が有るのだ。情報漏洩の可能性は低くしたい。

「だったら準備くらいはさせなさい。休憩を挟みながらなら、何日でも付き合ってあげるから。明後日まで買い物に行かなくても良いようにするわよ。後、お菓子も。」

「了解。」

 七罪がそう言うなら、特に反対するつもりはない。別に急いでるわけではない。七罪の好きにして貰えば良いと思う。

 その後、僕たちは一通りの家事を済ませて近所のスーパーで買い物をした。夕食の調理をするのも面倒だから、総菜もいくらか買い込んだ。

 

♦♦♦

 

 テーブルに買ってきたお菓子と飲み物を並べて準備は整った。話を始めよう。話すことは沢山あるけど最初に話すことは決めている。

「僕は……転生者だ。」

 ここから始めないといけない。僕が転生者である。到底信じて貰える話ではない。

 でも、その前提を信じてくれないと、情報源を教えられない。そんな情報価値がない。

「この世界とは違う世界で生きた記憶がある。」

 ゆっくりと言葉を選びながら話す。動かなくなりかけている口を働かせ、何とか言葉を紡いだ。

「……転生者ってあれ?死んで生まれ変わりましたってやつ。」

 七罪は聞き返す。何を思っているのかは分からない。でも、とりあえず頭から否定はしないみたいだ。

「それで合ってる。この世界は前世の小説の中の世界だ。」

「……愛が転生者ねえ。なるほど、なるほど。それに小説の世界……」

 七罪は一人でうんうんと考え込んでいる。頭の中は見えないけど、しっかり理解して良そうだ。

「あんたが転生者だと仮定すると、色々と納得できそうね。それで?」

「……えっと、それだけ?」

 再び口を開いた七罪は説明の続きを求めた。感情を変化させず、何事もなかったように話を進めようとしている。

「それだけって……。それ以外に何を言えば良いの?」

「別に言う必要はないんだけど……反応が薄くない?もっと驚いたり疑ったりするもんじゃないの?」

 あまりにも薄い反応に驚いてしまう。結構覚悟して話したつもりなのに。平然としているのは想定外だ。

「ネット小説とかでよくあるやつでしょ。物語の世界に転生しちゃう話。今までのあんたの行動を考えても変だとは思えない。それに、今更疑うも何もないでしょ。あんたがこの状況で嘘や冗談を言う人間じゃないことは知っているし。」

「……七罪……」

 七罪の信頼が厚くて心強い。僕は背中を預けられていたようだ。突拍子もないことを言っても、疑われないくらいには。

「嘘だって言うなら、通販でデスソースを取り寄せることになるけど。」

「誓って嘘じゃありません。」

 この悪戯娘はデスソースをお気に入りに登録している。唐辛子の数百倍辛いと言われているアレだ。

 使ってみたいけど、使える相手が居ないから購入していないのだろう。真剣な話の最中に大嘘を吐かれたなら、それを大義名分にするつもりだ。

 やるなら士道か神無月さん辺りにしてください。神無月さんは喜んでくれると思うよ。

「話を戻すわよ。この世界は小説の世界。そして、小説では未来の事も書かれていた。だから、未来の出来事やラタトスクも知らない情報を知っていた。そういうことね?」

 流石七罪だ。話が早くて助かる。士道だったらここまで理解が早くない。琴里だったら疑われていた。

 相手が七罪だから、ここまで簡単に話が進む。七罪の優秀さと信頼のおかげだ。

「ほとんど合っている。ただ、その小説の話とこの世界で大きく違う点が有る。」

「違う点?」

「僕の知っている『デート・ア・ライブ』に、『鳶一愛』と言う人間は存在しない。」

 ここが原作とこの世界の大きな違い、というよりも唯一の違いだ。

 現状、僕が知り得る限りの情報を集めた。けれど、原作との明確な違いは見つけられなかった。

 アメリカで時崎狂三や八舞姉妹に出会ったけど、原作で語られていないだけだと言える。七罪がこの時点でラタトスクに協力しているのは、僕の影響だからノーカウント。

 他の違いは母さんが五年前の火災よりも前、僕の出産時に亡くなっていること位だ。でも、出産は元々命を懸けたもの。そう言う事が有っても不自然ではない――そう思う。

「つまり、この世界は小説『デート・ア・ライブ』にあなたと言う存在が入り込んでしまった世界ということね。」

「多分。」

 確定ではないけど十中八九そうだと思っている。これは僕と言うイレギュラーが入り込んだ『デート・ア・ライブ』だ。

「十香や四糸乃がいつどこに静粛現界するか知っていたのも、小説に書かれていたということね。」

「そういうこと。色々と原作にはないことをしてしまったから、ちゃんと同じに展開になるか不安だったけどね。」

 この世界が『デート・ア・ライブ』の世界だからって、それと全く同じように進行をするかは分からない。

 実際に、崇宮真那は原作とは違って既に天宮市に来ている。これからもどんな違いが有るか分からない。

 崇宮真那が早くこの街に来たことは、左程大きな問題ではない。けれど、原作と違う出来事は想定外を引き起こしかねない。

 DEMか始原の精霊の望みが成就する。そんなことになったら目も当てられない。

「何で隠していたの?」

「理由はいくつかあるけど、下手に情報が洩れると状況が詰みかねないから。」

「私は信用なかったかしら?」

 七罪は僕を試すように少し低い声で聞いている。七罪はあれだけ背中を預けているのに、信用されていないならいい気分はしない。

「七罪の事は信用している。ただDEM、いやアイザック・ウェストコットは人を人とも思わない人間だ。息をするように拷問をする。爪を剥ぐ、人体に電流を流すくらいは平然とやる。」

「……本当に酷い人間ね。親の顔が見てみたい。」

 アイザック・ウェストコットは人格破綻者だ。生まれつきの邪悪な存在。

 それに冷静な思考力と行動力を伴っていることが恐ろしい。そんな化け物が将来的には絶対敵として現れる。十分に警戒してもまだ足りないくらいだ。

「それだけじゃない。原作では囁告篇帙(ラジエル)の反転体、神蝕篇帙(ベルゼバブ)をアイザック・ウェストコットは手に入れている。僕が七罪に会話した内容を覗き見られる可能性も有るんだ。」

「全知の天使だったかしら?そんなものが敵の親玉に渡るなんて……。確かにそれなら頑なに隠していたのにも納得できたわ。」

 囁告篇帙(ラジエル)神蝕篇帙(ベルゼバブ)はこの世界の全ての情報を知ることができる。例外は頭の中と未来のみだ。だから、曖昧な記憶をメモも残さずにここまで秘密にしてきた。

「現在、囁告篇帙(ラジエル)の持ち主の本条二亜はDEMに捕らえられている。反転していないから、力を奪われていない。けど、いつ奪われてもおかしくない。」

「最悪の状況ってことね。」

 DEMはいつ全知の力を手に入れてもおかしくない。既に小型の顕現装置(リアライザ)を頭に埋め込んで、記憶を自由に操れる状態だ。条件さえ満たせばいつでも拷問の記憶を開放するだろう。

「それに、この情報がばれてはいけない相手がもう一人いる。」

「もう一人?」

「始原の精霊、崇宮澪だ。」

 『デート・ア・ライブ』においてアイザック・ウェストコットと並んで、ラスボスの候補に挙がったもう一人の存在。原初にして最強。全ての始まりである精霊だ。

「ちょっと待ちなさい。始原の精霊は一番初めに現界した精霊ってことでしょ。それはまあ良いわ。でも、今崇宮って言った?あの崇宮真那と同じ崇宮?」

「その崇宮だ。丁度良いから始原の精霊の話をしよう。」

 原作の話か始原の精霊の話かどっちを先にするか迷っていた。話題に出たからこれが好機だ。先に話してしまおう。

「今から三十年前。DEMの創設メンバーのアイザック・ウェストコット、エリオット・ボールドウィン・ウッドマン、エレン・メイザース、カレン・メイザースの四人が魔術を使って始原の精霊を生み出した。そのときの余波がユーラシア大空災だ。」

「ウッドマンって円卓会議の議長よね?あの人が?」

「そこは色々有って離反したんだよ。話が逸れるからその話はいったん後で。」

 あの人は精霊を利用しようとしていた。焼き払われた魔術師の里の復讐を果たすため。

 それが精霊に出会って恋をして変わった。精霊を利用することを葛藤し続け、DEMを離反するに至った。

 その後、精霊を救うことを決断してラタトスクを設立した。この話だけで何時間もかかってしまう。

「始原の精霊は誕生した暫く後に逃げ出して、日本に向かった。そこでとある兄妹に出会う。その妹が崇宮真那だ。」

「三十年前って……。どう見ても崇宮真那は中学生くらいじゃない。どうして三十年前に生きているのよ。」

「崇宮真那はDEMに捕まっていた。恐らく魔力処理と一緒に何かされたんだろう。」

「そんな……。」

 DEMなら意識のない少女を三十年間見た目を変えずに保管しておく技術があってもおかしくない。顕現装置(リアライザ)で外見年齢を若く保っている実例も有る。

「そして、兄の名前が崇宮真士。彼は名前の無かった始原の精霊に崇宮澪という名前を与えた。そして、兄妹と崇宮澪は三人で一緒に過ごした。やがて、崇宮真士と崇宮澪は互いに惹かれ合い、恋人になる。」

「まるで、どこかの物語みたいな話ね。」

「ここまではね。」

 ここまでなら綺麗なお話だ。でも、そんな綺麗な結末で終わらせてくれるほど、DEMは優しい組織じゃない。

「ある日DEMに見つかって襲われてしまう。崇宮真士は凶弾に撃たれて死んだ。その時に崇宮真那もDEMに捕らえられてしまう。」

 七罪は何も言わず、目の前のお菓子も取らずに下を見ている。気持ちの良い話ではない。

「崇宮澪は悲しんだ。そして、もう一度恋人と一緒に生きることを望んだ。彼女は崇宮真士の亡骸を取り込んで生みなおした。それが……」

「士道ってことね。」

 七罪が言葉を先取りする。ここまで話してしまえば、推測することは難しくない。

「その通り。五河士道は崇宮真士の生まれ変わりだ。崇宮澪に精霊の力を取り込む力を与えられ、生みなおされた。」

「でも、どうして士道を放置しているの?士道は生きている。だったら好きなところで、一緒に生きたら良いじゃない。」

 七罪の疑問は最もだ。最愛の恋人の生まれ変わりは、既に崇宮真士と同程度の年齢になっている。

 彼女なら高校生一人誘拐するなんて容易いことだ。何故それをしないのか?それは条件が整っていないからだ。

「崇宮真士は撃たれて死んだ。それはただの人間だったからだ。崇宮澪は二度と同じことが起こらないように、崇宮真士に精霊の力を与えようとしている。銃弾程度で死ぬことがないように。老いて死ぬことがないように。」

「だったら、与えれば良いじゃない。生まれ変わらせる――そんなことしたなら、その時に。」

「できないんだよ。ただの人間に精霊の力なんて与えたら()()()耐えられない。だから、精霊の力を取り込む力だけ与えた。ゆっくり士道に精霊の力を集めさせるために。」

 崇宮澪は自分の力を十の霊結晶(セフィラ)に分けた。それでさえ、取り込めるかどうかは一か八かの賭けだ。

 確実に特定の人物に精霊の力を与えたいなら、それ相応の準備が必要になる。リスクを極限まで落とす準備が。

「崇宮澪は人間を精霊にする危険性を知っていた。だから、精霊の力を取り込む危険を、士道以外の人間に背負わせた。それが世界に何体もいる精霊だ。崇宮澪ともう一人の例外を除いて、精霊は崇宮澪の力を与えられた元人間の少女だよ。」

「そん……な。」

 七罪は茫然としている。精霊の存在そのものをひっくり返すような話だ。無理はない。

「崇宮澪は適性がありそうな少女に霊結晶(セフィラ)を与え続けた。取り込んで精霊になるまで何度も何度も。無数の少女の人生を奪い、屍を積み上げながら。」

「……崇宮澪には悪いけど、そんなことのためにこれだけの事をするのね。」

 七罪は複雑な顔をしている。七罪の意見は正しい。

 やっていることと得られる成果が全く釣り合っていない。これだけやって、得られるのは絶対に死ななくなった恋人ただ一人だ。それを崇宮澪本人すら自覚しているだろう。

「ああ、そんなことだ。そんなことの為に彼女はなんだってする。何千万人の命を奪うことも、何人の少女の人生を狂わせることも。」

 彼女の願いは大層なものではない。人間ならば誰しもが思う、死んだ大事な人に会いたいという感情。それを三十年間抱き続け、行動している。

「……心が壊れているの?何か思う所はないの?」

「彼女は命が尊いものだと知っている。奪ってきた命に罪の意識を持っている。自身のことを悪だと思っている。犠牲にしてきた少女たちに敬意すら払っている。その上で躊躇わない。恋人ともう一度生きるために彼女は何でもする。」

「そんな……」

 崇宮澪は悲恋の少女だ。恋人が死んだ世界で生きることができなかった。精霊である彼女は恋人の後を追うことができなかった。

 だから、今も僅かな可能性に縋って生きている。だからこそ、恐ろしい。

 誰も彼女を説得なんてできないから。彼女に言葉は響かないから。

「それと、大事なことがもう一つ。崇宮澪は五河士道を放置していない。」

「まさか近くに……」

「これがこの話を話さなかった理由の大きな要因。村雨令音は崇宮澪の分体だ。」

「令音が……」

 一番厄介なのは、最大の敵が既に味方の中枢に潜り込んでいること。令音さんは琴里と神無月さんに次ぐ重要ポジションだ。当然、ラタトスクの情報は彼女にも入る。

 ラタトスクに流す情報を制限してるのは、令音さんに情報を渡さないためでもある。士道に余計な情報を渡して、原作から大きく逸れて欲しくないというのもあるけど。

「この世界は既に詰みかけている。一歩間違えば精霊は全員死ぬ。僕と七罪が出会った時点で既にレールが敷いてある。」

「……本当に最悪ね。正直、聞きたくなかったわ。」

 デート・ア・ライブはふんわりした絵柄に似合わず、過酷で救いがほぼない世界だ。本編のエンディングも奇跡的なバランスの上、辛うじてつかみ取ったものに過ぎない。

「束の間の幸せを楽しんで、長生きを諦める選択肢もなくはないぞ。」

「冗談きついわね。私はまだまだやりたいことが沢山あるのよ。愛と仲良くなった。四糸乃っていう友達もできた。絶対に諦めてやらない。」

 七罪は力強く否定する。疲れはあっても、諦めの意思はない。その瞳は未来を見ている。

「物語だって言うならハッピーエンドになったんでしょ。」

「そうだね。全員幸せになることができなかった。でも、精霊と士道は幸せな未来を迎えている。」

「だったら掴み取ってやろうじゃない。精霊全員が幸せになれる未来を。」

 七罪は静かに立ち上がり、贋造魔女(ハニエル)を両の手に抱え込むように持つ。大切なものを守るように。

 贋造魔女(ハニエル)を小さく掲げて目を閉じる。祈りと誓いを誰かに届けるように。

 その姿は神秘的だ。溢れ出した霊力が、蛍のように周囲を漂ってい、七罪の全身を優しく包み込む。

 

「私は誓う。贋造魔女(ハニエル)とただ一人の相棒に。

 十香を、四糸乃を、これから救う精霊たちを――

 誰一人欠けることなく、未来に導く。」

 

 祝詞のような言葉は静かな空間に染み渡る。その言葉は何よりも強く僕を奮い立たせる。

 

「DEMを打倒し、崇宮澪を超えて、輝かしい未来を掴み取る。」

 

 漂っていた光が小さく弾ける。七罪の輪郭をふわりと照らすように。

 目を開いた七罪は別人のように強い意志を持っていた。その瞳はどんな宝石よりも美しい。

 本当に七罪は強くなった。前を見て進む人間になった。

 

「僕も――誓う。」

 

 七罪の覚悟に触発され、僕自身の決意を新たにする。

 

「七罪を助け、守り、幸せな未来に連れて行くと。」

 

 僕の役目は彼女を未来に連れて行く補助をすることだ。その為なら、この命は惜しくない。

 

♦♦♦

 

「最後にどうしても話しておきたいことある。」

「何よ。」

 七罪はちょっと不機嫌だ。今までの話でお腹いっぱいなのだろう。ヘビーな内容を長い間話していたから仕方がない。

 でも、これだけは初日に終わらせておきたい。最悪の開放を。

「崇宮澪が人間の少女に精霊の力を与えたって話をしたよな。」

「そうね。」

「つまり、七罪も元人間だ。忘れているだけで、普通の女の子だった。」

 反応が鈍い。七罪にしては察しが悪い。

 無意識下で避けているんだろう。トラウマに触れないよう。

 七罪は心の奥底ではうすうす気づいてるかもしれない。でも、認めたくなくて深く考えないようにしている。だからこそ、今心が溢れかけている。

 でも、この話をした以上避けては通れない。いつ爆発するか分からない爆弾は、処理しなくてはならない。

「七罪はどうして学校に行ったことが無いのに、学校の事を毛嫌いしているんだ?どうして自分の事を醜いって誤解していたんだ?」

「えっと、それは……」

 七罪に根拠を話すことはできない。だって、その理由を忘れているから。

「精霊なのにどうして異常なほど痩せていたと思う?何故、自分にいじめられっ子というイメージを持っている?」

「いや……そんなこと……」

 幼い子供のように声がでなくなる。普段の聡明さが今の七罪からは感じられない。

「お前の本名は鏡野(きょうの)七罪(なつみ)だよ。」 

「きょう……の?」

 掠れた声は静かな部屋に響く。七罪の手は震えている。

「なんで?知らない……知らない筈なのに。」

 七罪は両手で頭を抱える。長い髪を乱暴につかむ。

「あ……ああ……ああああ。」

 ダムが崩壊した。そんな幻が見えた。

「うっ、んん。おぇ~。」

 用意していたビニール袋を口元に押し付ける。七罪は胃からこみ上げてきたものを吐き出す。

 記憶が戻ったのだろう。精霊になる前の記憶が。

「……全部……思い出したわよ。お母さんに酷いことをされていたことも。学校の子に虐められていたことも。全部。」

「……そうか。」

 七罪はお世辞にも良いとは言えない酷い顔をしている。絶不調だろう。

 七罪のトラウマには積極的に触れたくなかった。でも、触れざるを得なかった。

 七罪は母親に虐待されながら育った。風呂に入っていなかったから、同級生にも虐められていた。

 そんな環境で遂に母親に殺されかけた。死の淵で崇宮澪に霊結晶(セフィラ)を与えられて精霊になった。

 そのトラウマを受け入れられないから、記憶に蓋をした。触れたくないものとして奥に沈めた。

 でも、純粋な自分が精霊でないと知った以上いずれ七罪は気づく。だったらここで蓋は開けてしまうべきだ。

 独善であることは分かっている。本題と七罪のトラウマに直接的な因果関係はない。放置することもできた。

 でも、必要な通過儀礼だと思う。七罪が自分と向き合う為に。

「今日は最悪を更新し続ける日ね。」

「大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょ。最悪の気分よ。でも、愛が必要だと判断したのでしょ。ならこれも必要なことだったと思っておいてあげるわ。」

 七罪は口元を拭いながらそう言う。あれだけ疑い深い人間がここまで人を信じるなんて。しかも、自分の体調が悪い中で僕のことまで気遣って。

「ごめん、七罪。」

「別に良いわ。でも、酷い姿を見せてしまったわね。責任取ってくれない。」

「それはどういう意味で……」

 僕の言葉に七罪は返事をしなかった。ただ肉食獣のような視線で僕の事を見ている。

 七罪の目が言っている。『あんたはそんなに察しが悪い人間じゃないでしょ』って。僕は苦笑いを続けた。




と言う訳で四糸乃編終了です。この話、四糸乃関係ないな。まあ、良しとしよう。これで番外編四話とかいう謎状況を回避できたし。

崇宮澪は個人的に好きです。彼女はただ純粋に恋人と生きたいって願っているだけですから。悪人ではないのにラスボスになる流れは味があるので結構好きです。それはそれとしてラスボスだから対処しなければなりませんが。

次回から番外編です。今回の番外編は三話。設定公開みたいな話と今後の為に必要な話と単純にやりたい話です。どれから書くのか全く決めていません。気分次第です。

それでは皆さん、良いお年を。

今回も最後に裏話をしましょう。今回は原作とこの作品の違いについて。

明確に断言しておきますが、鳶一愛以外のオリジナルキャラクターは今後も登場しません。(微妙な奴はいますが) そして、原作キャラが愛君に影響されずに原作と違う行動をとることも有りません。

原作と違う点は、すべて愛君の影響が関わっています。
もし「あれ?」と思う部分があっても、それは直接的・間接的に愛君が何かしら作用した結果です。

原作で明言されていない部分については、ある程度個人的な解釈を入れることもありますが、この方針は変わりません。

この前提を頭に入れて読んでいただけると幸いです。

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