ヒロインは七罪   作:羽国

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さあ、七罪編開始だー!


七罪編
七罪争奪戦開始


 僕が起こした事件から約半月。風が冷たくなり、暦はもう十二月へ変わろうとしていた。

 いろいろと忙しなかったけど、みんな落ち着いた。そろそろ始めよう。

 

 五河邸は大勢が集まるには丁度いい場所だ。みんなお行儀よく座っている。

 十香、四糸乃、耶倶矢、夕弦は仲良くソファに並んで。士道、琴里、美九は少し離れて椅子に座って。

 令音さんとお姉ちゃんは僕の両隣に座っている。自身の立場をわかりやすくするように。

 

 今日は僕が呼び掛けてみんなを集めた。僕の気持ちを伝えるために。

「今回は本当にご迷惑をおかけしました」

 みんなの前で頭を下げた。腰を九十度に曲げてゆっくりと。

「みなさんに暴言を吐いたこと、天使を振るったこと。全て心から反省しています。本当に申し訳ございません」

 

 人生をかけて禊をすると決めた。だから、ここから始めないといけないんだ。

 許されて楽になろうだなんて思っていない。でも、謝罪をしない理由にはならない。

 みんなの視線が集まっているのを感じる。みんな何を思っているんだろうか。

 

「愛、俺は今回のことを水に流すつもりはない。というより、流せない。お前はやり過ぎた」

 重々しい空気の中、士道が口を開いた。優しい士道にしては言葉が厳しい。

「DEMに色々やったのを言う気はないさ。それはお前なりの正義でやったんだろうし」

 以前なら人の命がどうとか言っていただろうに。士道もいろいろ知って強くなった。

 

「ただ、折紙や美九にやったことは許せない」

 だからこそ、その言葉は鋭く刺さる。

「はい、重々承知しています」

 頭を下げたまま言葉を受け止める。今回、反論する権利は僕にない。

 お姉ちゃんに山ほど酷いことを言った。美九に天使を向けて脅しをかけた。

 

「士道、私は気にしていない」

「折紙、今回はそういう問題じゃないのさ。犯した行為の問題だ」

 僕を庇おうとしたお姉ちゃんを令音さんが止める。二人ともそれぞれのやり方で見守ってくれている。

 

「ただ、愛が追い詰められていたのは知ってる。それに、本気で反省している奴に鞭を打つのも違うと思う」

 ゆっくりと顔を上げて士道の顔を覗く。

「俺は愛のこれからを見たい。それでみんなもどうかな?」

 士道は優しく笑っていた。他のみんなも同様に。

 

「うむ、文句はないぞ」

「はい、お友達ですから」

「いや~、よしのんは優しいウサギだからね。許してあげようじゃない」

「くっくっく、愛よ。貴様の罪、我が飲み干してやろうではないか」

「賛成。うじうじと過去に拘るのは八舞らしくありません」

「まあ、ラタトスクも悪いところがあったしね」

 みんなの顔を見渡して、空気を合わせている人がいないか確認する。……どうやら本心から言ってるみたいだ。

 僕を許す方向で一致している。全員、前の世界で僕がやったことを知っているのに。

 

「本当に、ありがとうございます」

 僕はもう一度頭を下げた。優しいみんなに心から感謝したい。

 

「あのー、愛さんを責める気は全く全然これっぽっちもないんですけどぉ。――ここに来る前、聞いたお話って本当ですかぁ?」

 さっき、ただ一人だけ発言しなかった人。美九が恐る恐る手を挙げた。

「一人一つ、愛が要望を叶える。その話かい?」

 令音さんが僕の代わりに内容を話す。僕自身がここに集まってもらう際に一緒に送ったメッセージだ。

 

「はい、そうです。お願いを聞いてもらえるなら、されたことなんてきれいさっぱり忘れてみせますぅ」

 美九は曇りない眼でそう言い切った。この人、断罪覇王(アズラエル)で士道の奴隷にされかけてたんだけど。

 

「もちろん、本当です。僕に可能な範囲でですが」

「えへへ、そうですか。なんでも一つ」

 美九はアイドルがしてはいけない顔をしている。口の端から涎が垂れている。

 なんとなく要望の中身は予想できた。というか美九がどんな要望をするか始めから予想していた。

 

「美九さん、残念ですけどもう女の子になれませんよ。僕は天使をほとんど使えないので」

「え?」

 美九がこの世の終わりみたいな顔をする。少し申し訳なく思う。

 

「僕がアインに乗っ取られるまでもうほとんど時間が残っていません。今は霊力を封印して侵食をおさえてますけど」

 残り時間はだいたい七十二時間ってところかな。丸三日も使えば僕の身体は始原の精霊として完成するだろう。

 完成したら僕という人間は消え去る。それだけは防がないといけない。

 

「ああ、それじゃあ仕方ありませんね」

 美九は本気で残念そうに引き下がった。少し補足しておくか。

 

断罪覇王(アズラエル)で身体を変えることはできませんが、七罪の贋造魔女(ハニエル)で変身することはできますよ」

「本当ですか?」

 美九は一瞬で元気になった。

 美九の目的は霊力じゃなくて美少女の見た目だ。それなら贋造魔女(ハニエル)で代用できる。

 

「だいぶ先の話になりますけど」

 七罪を攻略した後の話になるし。

「全然構いません。その間、じっくりと妄想させてもらいます」

 美九は目をキラキラと輝かせてうなずいた。

 

「美九、ここに愛の保護者がいることを忘れないでほしいな」

「あはは、令音さんたら心配症なんですからぁ」

 欲望に従順な美九に令音さんが釘をさす。笑っているが、美九の額に光る汗は見逃さなかった。

 

「他の皆さんはどうでしょうか?」

 自分から提示したものだ。遠慮なく要望を言ってほしい。

 

「愛、私は美味しいものがいーっぱい食べたいぞ!」

 十香が手を挙げて元気よく言い放った。両手を目一杯広げてとにかくたくさんだとアピールしている。

「行きつけの店でスイーツパーティなんていかがでしょう?山のようなお菓子をご用意しますよ」

「おお、それがいいぞ!」

 令音さんと一緒に歩き回ってるからいい店は知っている。その中でも十香の食欲に対応できそうな店をピックアップしよう。

 事前に念入りな準備をすれば耐えられる――多分。いざとなったら複数店渡り歩こうか。

 

「請願。耶倶矢と夕弦の勝負内容を考えてください」

 続いて夕弦が手を挙げた。勝負が好きな八舞らしい要望だ。

「あっ、ずるい。私もそれ言おうと思ってたのに」

 耶倶矢も夕弦と同じことを考えていたようだ。

 

「勝利。早い者勝ちです。今回は夕弦の方が早かったことに疑いの余地はありません」

「ぐぬぬ」

 夕弦と耶倶矢がまたじゃれ合っている。本当に仲いいな、この双子。

「勝負の内容は考えるから、耶倶矢は別のこと考えたら?勝負は二人とも頼めるでしょ?」

 なんなら早いものが負けだと思うけど。

 

「負けた方が有利なんてずるいじゃん!私は夕弦と同じだから!二倍勝負の内容考えてよ!愛!」

 完全に中二口調が崩れ去った耶倶矢は懇願してきた。

「まあ、耶倶矢がそれでいいなら。後でメールにしたためて送るね」

 僕としては全然構わない。楽になった分、いっぱい考えるか。

 

「私は、また七罪さんとお友達になりたいです」

「やっぱり七罪ちゃんがいないと物足りないのよね~」

 四糸乃とよしのんが控えめな願いを口にする。でも、本心からそれが一番の願いだと言っているように見える。

 

「任せてよ。もう一度、攻略してくるから」

 二人は七罪にとってかけがえのない友達だ。是非、もう一度友達になってもらわないと。

 

「愛、俺からの要望も言っていいか?」

「もちろんですけど……。どうしてそんな顔になってるんですか?」

 士道が神妙な顔をしている。まるで、悩みでも打ち明けるように。

 

「折紙のことなんだが、もう少しどうにかならないか?」

「ああ……」

 大体察した。この前のホテル未遂事件で本気の危機を感じたのか。

「いやまあ、口説いたりキスしたりいろいろと言い訳できない部分はあるんだけど。最近、一緒にいるとそのまま食べられそうな気がして」

 狂三とは違う意味で食べられるんだろうな~。

 

「それは貞操の危機をどうにかしたいという認識で合っていますか?」

「貞操って、いやまあ……合ってるけど」

 顔を赤くしながら肯定する士道。初心だけど貞操の意味が理解できる程度には男の子なんだよな。

 

「可能な限り誘導します。ただ、完全には無理ですよ」

 何せ相手はあのお姉ちゃんだ。感情が純粋な士道への愛で構成されている。

「本当に頼むぞ」

 士道に本気で拝み倒された。まあ、努力しよう。

 

「さて、それじゃあ最後は私かしらね?」

 まだ要望を言ってない琴里が腕を組んだ。当然、ツインテールには司令官モードの黒いリボンが結ばれている。

「どうぞ」

 琴里の息を呑む顔を見て確信する。琴里は一個人としてでなく、ラタトスクの人間として権利を行使するつもりだ。

 さて、どのような要望を口にするか?絶対に大きな一手を打ってくるはずだ。

 

「私は――七罪を攻略する権利が欲しいわ」

 覚悟を決めて琴里は言い放った。本当に大きな一手を。

「琴里、本気か⁉」

「ええ、本気も本気よ。これからラタトスクの総力を以て士道に七罪を攻略させるわ。それを邪魔しないと誓ってほしいのよ」

 士道の言葉に琴里は答える。

 

「愛、あんたは知ってるでしょう。士道の中の霊力を取り出すには、あんたを除く全ての精霊を封印しないといけないの。無論、七罪も例外じゃないわ」

 琴里が深刻な状況を語る。琴里はその無理難題をクリアするために、司令官として指揮を執っている。

「知ってるよ、そんなことは。そして、僕はその上で七罪を渡さないようにしていた」

 士道が十の霊結晶(セフィラ)を封印するのが重要であること。それを知った上で七罪を自分のものにしていた。

 

「いろいろな状況を鑑みて、仕方なく七罪のことは放置してきたわ。今まではね」

 琴里が椅子から立ち上がり僕の方へ歩み寄る。

「愛、あんたまるで七罪が自分のものみたいに言ってるけど。今の七罪ってフリーよね?誰のものでもないわ」

 そして、琴里はチュッパチャプスを取り出して僕に向けた。

 

「だったら、士道が口説いても文句は言えない。そうじゃないかしら?」

 そのままチュッパチャプスを口に咥え、大胆に笑った。

 

「困惑。それは……」

「いや、確かにそうっちゃそうなんだけど」

「どうなんでしょう?」

 夕弦、耶倶矢、四糸乃が困った顔をしている。そりゃ、前の世界のことを知っていたらそうなるよね。

 

「琴里、確認するけど攻略する権利が欲しいんだよね?七罪に手を出さないことじゃなくて、士道さんが攻略するのを邪魔しないのが条件なんだよね?」

「ええ、そうよ」

 琴里は僕の言葉にうなずいた。琴里もわかってるみたいだ。

 

「本当にバランス感覚が優れてるね。流石、司令官様」

「どういうこと?」

 お姉ちゃんが問いかける。とても心配そうな顔をしている。

 大丈夫。問題ない。

 

「士道さんと僕のどっちが七罪を落とすか勝負する。互いに妨害はなし。そういう認識で合ってるかな?」

 全員が驚きの表情に変わる。琴里の真の意図がようやく伝わったみたいだ。

「早々に意図を汲み取ってくれたみたいで助かるわ」

 七罪を攻略するなって言ったら流石に黙ってない。七罪を攻略する二度とないチャンスは逃したくない。

 だから、ギリギリのラインを攻めたってところだね。僕自身が言い出したことを利用して。

 

「勇気あるね、琴里。僕にその提案をするなんて」

 自分で言うのもどうかと思うけど、僕は七罪に異常なほど執着してる。

「言うだけならただでしょ?ダメだって言うなら別のことに変えてもいいわよ。あんたがもう一度七罪を攻略する自信がないなら」

 琴里は僕を挑発してきている。お前の気持ちはその程度なのかと。

 

「そうだね。人生の相手くらい、自分の力でつかみ取ってみようじゃないか。受けて立つよ、琴里」

 全員が僕の方に目を向けた。不安と困惑が入り混じている。

 

「それでいいのかい?」

 令音さんが子供に確認するように問いかける。

「いいんだよ。琴里もかなり考えて要望を出したんだろうし、こちらもある程度譲らないといけない」

 そもそも僕自身が言い出したことだ。ここで断ったら情けない。

 

「それに、昔取った杵柄でふんぞり返るような人間にはなりたくないな」

 前の世界の関係に頼るんじゃない。改めて、この世界の七罪の心を奪う。

「わかった。ならばこれ以上あれこれ言う必要はないだろう」

 令音さんは目を閉じてコーヒーに口をつけた。静観する構えになっている。

 

「どっちが七罪を攻略するか勝負しようか。互いの妨害は禁止。他にルールは?」

「前の世界の記憶を思い出させることも禁止よ。それをしたら勝負にならないから」

「なるほどね」

 僕が死んだら後を追ってやるとまで言われたんだ。流石にその記憶を思い出させるのはフェアじゃない。

 

「琴里とまともに勝負するのは初めてかな?」

 精霊として戦ったことはあるけど、アレはいろんな意味でノーカウントだ。

「ええそうね。あんたが舐め腐ってるラタトスクの司令官の実力、見せてあげるわよ。」

 僕と琴里の間で火花が散る。この勝負、絶対に負けるわけにはいかない。

 

「ええと、琴里。俺の意思は?」

 士道が弱弱しく琴里の後ろに立つ。攻略する人間なのに、これまで完全に蚊帳の外だった。

「士道に拒否権があるとでも思ってるの?」

「そうか、俺に拒否権はないか」

 悟ったような顔で渋々うなずく士道。どう見ても乗り気じゃない。

 

「旗頭がそれで勝負になるのかな?」

「安心しなさい。士道を動かす方法なんていくらでもあるわ」

 黒歴史とか罰ゲームで脅しをかけるんだろうな。頑張れ士道。

「それじゃあ、戦争(デート)と行こうか」

「ええ、私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 琴里との本気の勝負が開始された。

 

♦♦♦

 

 喫茶店でお茶をしながら目的の人物が通りかかるのを待つ。

 窓ガラスに映った私は今日も最高の美人。店員は自分の仕事も忘れて私の姿に見とれてるわね。

 『モデルさんかしら』とか『どうしてこんな店に』とか遠く離れた席から聞こえてくる。気分がいいわ。

 こういうさびれた店に来るのも悪くないわ。まあ、浸るのはまたにしましょう。

 

「天宮市、思ったよりも危険なところね」

 ここ一年くらいの関係ありそうな事件を調べてみたわ。五年くらい遡るつもりだったけど、その必要は感じなかった。

 過去一年だけで不審な事件が山ほど起こってる。学校での集団昏睡事件やらテーマパークでのガス爆発やら。

 絶対何かを隠蔽してるでしょ。ネットでは都市伝説ができてるし。

 

「何よ、『同じ顔をした少女の集団』とか『SFスーツを着た女子高生』とか」

 普通なら『何それ頭おかしくなった?』で終わりだけど。精霊やASTが関わってるなら、強ち否定できないわね。

 精霊なら同じ顔の少女を何人か用意できても不自然じゃないし。SFスーツもASTなら本当に着てるし。

 

「多分、私以外にも潜んでるわよね」

 少なくても三人以上。下手したら五人とか六人とか。

 空間震の頻度から考えたらそれくらいいるでしょ。元々精霊の出現が多い街だったみたいだけど、ここ一年で十回以上って。

 

「どうしようかしらね?」

 簡単に調べられることだけでもこれだけ裏が透けて見える。もう真剣にこの国から出ていかないといけないか考えるくらいに。

 でも嫌なのよね、この国から出るの。だって外国って治安悪い上、無駄に騒ぐ人種ばかりでしょ。

 だったら適度に距離置いてくれそうな日本人が一番なのよね。反応するけどあんま近づいて来ないっていうか。

 

 だから調査はもう少し続行。詳しそうな人間に直接話を聞いてみる。

 窓ガラスの向こうはあの建物から出るならほぼ必ず通る道。

 候補は三人。どいつでもいいから、通ったら声をかけましょう。

 

「来たわね」

 そう思ってたら出てきた。三人のうちの一人が。

 サイドテールを揺らしながら鼻歌交じりに歩いている。髪を結ぶためじゃなくて、『私かわいいでしょ』ってアピールするためにリボンを結んでる。

 確かにかわいいけど、なんであれで軍人やれるのかしらね?

 まあ、どうでもいいわ。さっさと声をかけましょう。

 

「おつりはいいわ」

「あ、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 レジの前に一万円札を置いてさっさと店を出る。どうせ贋造魔女(ハニエル)でいくらでも用意できるし。

 

「すみません、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」

 小走りで追いかけて声をかけるわ。スーツを着こなして、業界人のような雰囲気を漂わせながら。

 大抵の奴はこういうそれっぽい雰囲気に弱いのよ。

 

「ほぇ、私ですか?」

 少女はボケっとした顔でこっちを向いたわ。

 AST隊員の一人、岡峰美紀恵。AST隊員の中に三人いる学生の中の一人。

 警戒心薄そうだし、この街の精霊事情について調べるにはうってつけの相手ね。




というわけで七罪編は愛くんと琴里の対決から始まります。琴里と士道は勝つことができるのでしょうか?

今回の裏話は七罪が話を聞く候補に選んでた三人について。

言うまでもなく愛くん、折紙、美紀恵の三人です。三分の二で鳶一家を引く地獄のロシアンルーレット。

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